ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【クリアレイン】感想

【男性主人公全年齢】



2011年08月15日発売
』様 ※リンク先公式HP
【クリアレイン】(PC)
以下感想です。








出会いがあるから、別れがある。
これは、空想でも壊れてもいない、ただの透明な物語。



『今日から五月――春の暖かさは花粉と共に蔓延しているはずなのに、
 それを吹き飛ばしてしまいそうな存在がそこにはいる。
 体の芯から冷えるような雰囲気は、
 紛れもなく彼女が生み出しているのだろう。
 一人暮らしを始めるときに少し奮発して買った居心地の良いベットも、
 既にその効力は無に還った。
 枕から、約五メートル。

 石像のように部屋の隅に座る幽霊少女は、
 僕に一人暮らしの充実感を喪失させていた。

 「きみはだれ?」

 と僕は訪ねて。

 『かすみ』

 と、声ではなく文字でそう答えた。

 そんな幽霊少女と初めてのコンタクトをとったその日、五月の始まりに。
 「透明」な物語は、僕達の帰る家「苑馬荘」を中心にして動き出した――。

 "しとしと"と、"ぽつぽつ"と、"ざあざあ"と。
 僕の中でクリアレインは悲しく降り注ぐ。』
(公式より引用)



ルクルさん三作目!
Minstrel-壊レタ人ギョウ-』(※リンク先前回感想)、『空想彼岸』(※リンク先前回感想)ここまで来ると、何となくルクルさんの文章の流れが分かったような気がします!!
(文章の違いを分かるのが苦手な人なので、気がするだけかもですが(笑))
『Minstrel』、『空想彼岸』と同様、グイグイと突き進む文章は健在。


その中で、前2作にあった、
「一度読み手を納得させてから、実はあった穴を突いて価値観を反転させる」
という構図は今作にはあまりなく、すんなりと受け入れられる世界が広がっていました。
(勿論、ここぞ!という時にはありましたが)
反転も好きですが、今作は「友情」に重きを置いていると思うので、ストンと章毎に「良い話だった…」と終わった後に物語を噛み締めながら目をつむり、空を眺められるような…そんな素直な気持ちを味わえて良かったです。
奇をてらうのも良いけれど、「友情」を描くなら某少年漫画を描くような、「努力」「勝利」と続きそうな素直さも良いよね!!みたいな気持ち。


主人公の内情的には『空想彼岸』に近いイメージ。
自分のポリシーを貫いて、「友人(仲間)」を救っていくお話。
そして演出は『Minstrel』。
両方がかけ合わさってとても良かったと思います。
話も話数刻みでとても読みやすかったです。
『Minstrel』、『空想彼岸』とまた違い、現代のすこしふしぎ物だったので、導入などもストンと入れた気がします。


そして何より、苑馬荘の住人が面白い!
私はアパートや◯◯荘といった一つの家の中で、奇人変人隣人がワイワイするお話大好きなので、とても好みでした!!
その上で、主人公の凪の「友人は見捨てない」という信念から、友情物でもあって…
最高ですね…ありきたりかもですが、自分、仲間とか友情物大好きなんですよ…
『Minstrel』はロマとリーベ、『空想彼岸』は巧士の物語だったのに対し、クリアレインは凪…だけではなく、苑馬荘の一人一人が一話ずつメインでキャラクターの掘り下げが充実していました。
サブキャラの掘り下げ大好きなので、この構成は最高で、本当に一話一話楽しかったです!
現実とはまた違う世界に生きる「幽霊」や「怪異」に出会い、「友情」を、様々な「絆」を描きながら、苑馬荘の住人が一人一人の道を見つけて進み。
そして凪は自分の虚、「クリアレイン」を見つめていく、そんな物語。



『システム、演出』
吉里吉里製。
コンフィグは吉里吉里のデフォルト。
ここまで来ると、
「宴はよぉ!物語に全力注ぎ込むから!凝ったデザイン?関係ねぇぜ!!押忍!!」
みたいな所を感じて好きです…
そして、『Minstrel』同様、吹き出しシステムが物語を彩ります。
何もかも最高だったのですが、一つ気になったのが、吹き出しがメッセージウィンドウで隠れてしまう所。
メッセージスピードを基本ノーウェイトにするので、凄く隠れて、履歴で読み返してました。
ノーウェイトから普通に変えても隠れたので、もう仕方ない事だなと履歴で読んでた所があります。
なるべく吹き出しは一気に出るのではなく、一個ずつ出てクリックで一個ずつ読めるようにして欲しかったです。
どうしても吹き出しに気を取られ、メッセージウィンドウの方の文章を読み忘れてしまいがちになってしまい、履歴で何度も確認しました。
でも、吹き出しの枠に各キャラのメインカラー(だと思われる)色が付いてたので、『Minstrel』よりも誰の吹き出しかは分かりやすかったので、そこは「お!改善されてる!」と嬉しかったです。


『音楽』
今回はタイトルがクリアレインとあるように、「雨」の演出が効果的でした。
主人公、凪の心が曇る度に雨が振り、雨のSEが流れ、凪の世界との境界線を感じました。


『絵』
CGは全11枚。
一話につき一枚くらい。
こちらも相も変わらず、必要な時に必要な分という感じでした。
イラストは毎回好みです。
ただ、やっぱり立ち絵で若干表情が少なく…
動きが欲しいなとも思いました。
背景は写真背景で、統一感がありました。


『物語』
話の区切りも前作同様、話数で区切られていたので読みやすい構成でした。
今回は一話一話が「苑馬荘」の住人一人一人を中心に描かれていて、主人公とヒロインだけの世界にならず、全員に見せ場がある構成になっていました。
なので、ラストの展開などでとにかく一人一人が輝き熱い。
捨てキャラが一人も居らず、最高に纏まったお話でした、、


『好みのポイント』
「苑馬荘」の住人皆が好きです!!
「苑馬荘」だけではなく、二話の寂しがりのあの子も!
三話のブラコンのあの子も!
四話のおばあちゃんも!
五話のお姉さんも!
そしてラストのあの人も!
みんなみんな大好きです!!
出会いがあるから、別れがある。
けれども、出会っている間はとにかく助け合う姿に、全員の優しさと繋がりを感じました。
最高の物語を有難う御座います!!





以下ネタバレ含めての感想です





以下感想はリアルタイムで章が終わる毎に書いた物です。
最後に手のひらクルクルーとかするのでご了承下さい。



『第一話 人魚姫の呪い』
言葉を話せない幽霊少女と主人公、凪の出会い。
一話なのである種の登場人物紹介でしたが、皆個性的で楽しい楽しい。
打ち解けられる友人も居れば、騒がしい先輩も居て、宿敵の同級生も居れば、可愛い後輩(男性だけど…)も居る、そして謎多きロリ管理人。
既にスタートからリア充してて、ワイワイと楽しく…こんな場所に住んでみたかった!!と素直に思えるようなキャラクター達でした。


凪の、
「一度自分が受け入れた人、友人だと認めた人を絶対に見捨てない」
というポリシーも描かれて、親しくない人には薄情だけど、決まった人には人情溢れる主人公で、中々に面白い主人公だと思いました。
なんというか…八方美人なキャラもキャラ的に好きですが、こういう自分の領域の内側と外側を割り切ってるキャラ好きなので、個人的に好印象でした。
自分の日常があまりにも日常的だからこそ、霞の為に行動する事を忘れていく姿もまた人間的で。
そうだよね…そんなに簡単に幽霊の為に行動なんて出来ないよね、普通の少年なんだもん、楽しい他の事があればそっちに靡くよね…と納得してしまい。
「人は何か変わった事が起こらないかと言いながらも、本当は変わらない普遍的な日常を願う」
という言葉をどこかで聞きましたが、その通りで。
変化という物は恐ろしい物だから、凪を責める事も出来ませんでした。


人魚姫の王子様も、人魚姫側の気持ちを知っているから嫌な人に見えるけど、王子様の視点だと彼は何も知らず、人魚姫がある意味では勝手に物語を進めていたのだから責める事は出来ないんですよね。
きっとそれと一緒で…
でも、凪は「友人と決めた人は見捨てない」という自分のポリシーを貫いて、霞ちゃんの声を取り戻してあげました。
屋上からプールへ落ちる、一度ある意味で王子様として死ぬ。
そんな姿が…格好良かったんですよ、友人の為にここまで出来るの凄いなぁって。
登場人物が多く、情報量の多い一話ですが、凪のスタンスとポリシー、そして漢気がしっかりと描かれていて、とても好きな一話でした。



『第二話 トイレの口裂けメリーさん』
江渡君は素直だなぁ。
誰もが皆、いつもではないけれど、どこかで人を見下して生きている所はあると思う。
直ぐにでも関係を切る事が出来ると思って生きている時だってある。
けれど、それが全てではなく、大切にしたい気持ちも本物で。
『空想彼岸』の時も思ったけれども、人の思いは一つ、一方通行ではないという事。
そんな自分の醜い面を誰かに語って、自己嫌悪している時点で、江渡君は良い子だなと思う。
凪の言う通り、人はそういう一面を隠して、上手く調整して生きていると思うから。


凪は友人を少なく、細かく、自分のキャパシティの中で選んで交流してますが、人間、皆そういう所はあって。
皆、自分に合った人を自分が受け入れられる範囲で受け入れていると思います。
というか自分が結構、友人の作り方が凪に近かったので、彼の友達の作り方には親近感を覚えました。
自分の手が届く範囲で良いんだよね…そして、一度受け入れたら芯から大切にしたいと思う…結構その価値観分かるな…
だからこそ、こう…巨大なサークルで50人とか100人とかで「友達!イエーイ!!」をしている人とは合わないというか。
そういう部分も分かるなぁ…でした。
彼らには彼らの友情があるとは思いますが、多分アチラとは相容れないんですよね、居ても楽しくないというか。
そんな中に居たら浮いてしまう…辛い…クリアレインが降る…
私の中でクリアレインが降る事はないけれども、なんとなくその感覚だけは分かりました。
凪と違うのは私は一人で居てクリアレインが降るというような感覚は無い為、その辺りは辛そうだなと。
誰かと一緒に居ないとクリアレインが降る、でも、その誰かは誰でもいいわけでは無く、自分が受け入れた友人でないといけない。
いつも、いつでも決まった友人と居れるという訳ではないと思うので、凪のクリアレインは精神的に重くのしかかりそうな状態ですね。


「友達を得たらいつか必ず失う時が来る」
「人は出会ったら必ず別れなければいけない」
そんな恐怖を誰だって抱えてきっと生きてる。


二話で面白いと感じたのはそんな別れの恐怖を持つ凪が、アイちゃんと最後に友達になって、けれど、一瞬で別れなければならなかった所。
欲してた「大事な人と友人になる事」と恐怖してた「親しい人との別れ」を一瞬にして体感した所。
少ない友人のキャパシティの中にアイちゃんが入ったのに、それを一瞬で失う恐怖。
潜在的に友達が欲しかった凪に、潜在的に友達が欲しかったアイちゃんが取り憑いた」
彼の弱さと、けれどもアイちゃんの事を知り、他人事だと割り切れなくなったからこそ自分の内側に受け入れた彼の情が感じ取れて、凄く好きでした。


最終的にアイちゃんは消えず、残った辺りもまたルクルさんらしい。
意地でもハッピーエンド、嫌いじゃないです。
だって、「注文の多い料理店」の化け猫達は人間を食べる事が出来ず、人間は生き延びたのだから。
ハッピーエンドで良いのでしょう。



『第三話 ステルスメイト』
格好良い存在に見えていたけれども、弱さも持ち合わせていたアリス。
誰かに弱さを見せるのは確かに怖いし、人の心を感じられるのはとても恐ろしいけれども、その人の心の奥を知っても一緒に居たいと思える存在はきっと貴重で。
凪の心の中は見えなくて、クリアレインが降っていて…本当に何も無い透明だったのかもしれないけれども、そんな凪だからこそ楽しいと、一緒に居たいと思える存在だったからアリスは一緒に居たのだろうなと思うと、彼らの友情を感じます。
何も見えない、透明な心だから一緒に居る、良いじゃないですか、本来は人の気持ちが見えないのが普通の中で、アリスの中で異端ではあるけれども同時に唯一の普通だったんじゃないかな、凪は。


そして、「アリス」の座を奪い合うアリスとテレス。
アリスとテレスの構図は、A◯Rを何となく思い出しました。
ずっと、「そりゃあテレスも「アリス」の座を手に入れたいけど、テレスという存在を抹消されてしまったら辛いよな…」と思ってました。
同時に母親が嫌な人だとも。
でも、真相が明らかになった時、素直に驚きました。
なるほど!でした。
そういえば、アイちゃんも「憑かれてる」と言ってました…そういう事か…と。
そうです、この世界では幽霊は関係者には見えるんですよね…幽霊という存在が居る。
完全に盲点でした…
「死んで、成仏を許されずに尚、「アリス」という存在を演じなければならない」
そりゃあ怨霊にもなります、誰かの代わりを生きないといけないのは、そんなの生きてても辛い。
人は、誰かの代りになんて成れない。


そして、妹への懺悔と地縛を解く為にチェスで勝負するアリスと、そんなアリスを見守る凪。
最後は家族を繋ぎ留めていたチェスで勝負しながら、当たり前のような、でも、今まで得られなかった兄妹喧嘩をする所が凄く良くて…
ようやく彼らは兄妹になれたんだと思いました。
引き分けになれば永遠に一緒に居られると、ステイルメイトを続けるアリス。


私はチェスのルールは全くもって分からないのですが、チェスの試合自体が描かれる事が無いのに、これだけチェスの描写で盛り上がれるのは凄いと思いました。
チェスの内容ではなく、アリスとテレスの今までの蓄積された感情だけで動いてたので。
言い合いながら、喧嘩しながらも、それでも本音は大事な兄と妹で。
ステルスメイトという自分達だけの暗号のような言葉で繋がり合う本当は似た者同士の兄妹。
どこまでも「真っ直ぐな言葉」に弱い「真っ直ぐな」兄妹だったのだと思いました。



『第四話 自己投影幻視体』
繰り返す13日。
夢は一瞬で、でも綺麗で、花火の様で、消えてしまう。
これは奈良原先輩の幸せな夢のお話なんだ…


何かに辛い事を押し付けられたらどんなに楽か…
そう願う気持ちは誰にでもきっとあって…でも、案外それは難しい事で。
奈良原先輩はそんな難しい事をやっていたんだなと。
結構現実って強いから、何かに逃げても、全てを見えなくする、感じなくする事は大変なのに。
それだけ、奈良原先輩の実家が酷かったという事なんだろうなぁ…


某作品に近いと聞きましたが、なるほどでした。
アニメを1期チラリと見たくらいなのですが、確かに一話に通じる物がある。
何かに押し付けた自分の弱さを返してもらう話。
あと、寝そべって一緒に星空を見る所。
「あれがデネブアルタイルベガ」や「今夜、星を見に行こう」など、影響受けてるのかなぁ…?


でも、クリアレインでは先輩が押し付けたのは自分自身だという所。
返してもらって、懺悔するのではなく、返してもらってまた一つに戻り、今度こそ本当の奈良原空として幸せになる所。
そういう意味では某ドラマの方が近くて、凄く思い出してました(ネタバレになるからタイトル出せないけど…)。


凪の「友人は大切にするけど、人を好きにはなれない」という所が結構気になってて…
今後語られるのが楽しみです…怖くもありますが。


そういえば空さんの実家の獣道は、加工の仕方が違うだけで『空想彼岸』でも使われた背景かな?
獣道と、途中の神社らしき所はおそらく『空想彼岸』でもあったので、なんとなく嬉しかったです。



『第五話 眠りの森の姫君』
正直、ずっと怖かったんです、紫さんが。
嫌いなものは嫌い、それは分かる。
でも、嫌いなら関わらないなら良いじゃないですか…無視すれば良いじゃないですか…
でも、彼女はそれをしない。
凪の言葉には答える、答えるというよりも怒る、凪の言動全てに怒る。
その部分に、彼女は身勝手だなと思ってました。
誰もが皆、自分の思う通りに行動する訳はない、自分のより良い空間を作るためなら自分が変わらないといけない事もある。
倫理的にあまりにも相手が間違っていたら怒る事も必要だけれど、凪の場合はそうじゃない。
ただ、紫さんの理念に反しているだけ。
誰かを傷付けてる訳でも、法を犯している訳でもない。
そこで無視せず怒るのはお門違いというか、紫さん自身が無視をするしか方法は無いのに、凪の(紫さんの理念にとっての)非をいつも突き付ける。
「人はより良く努力し、行きないといけない」
私はそんな事無いと思ってて、法に触れたり人を傷付けたり、あまりにも人道に反しなければ基本何をして生きても良いと思います。
不快に思ったら離れればいい。
紫さんのお姉さんの件も、人はお金が無いから働くのであって、お金がある人は別に働かなくても良いと思ってるので、見てて凄く?でした。
私が努力してるから周りも努力をするべき、私が辛い思いをしてるから周りも辛くなるべき、という考え方はちょっと…あまりにも負の連鎖過ぎませんか…と。
正直、第三者から見てると、周りに変われ変われと言ってる紫さんがとても不快で。
そして、ここまで凪を誰かを嫌う体力に凄いなぁと思ってました。
負の感情は体力を使う。


だからこそ、紅(獏)さんが「大人になれ」と言った時にはスッキリというか、そのとおりだと思いました。
そう、理想と外れると許せない所も、負の感情を常に抱ける体力も、「子供」なんですよね、凄い納得しました。


過去話が語られますが、本当に、紫さんは勝手に一目惚れして、勝手に期待して、凪のギャップに勝手に傷付いただけなんですよ…
確かに、人が一生懸命作った物を小馬鹿にした凪は悪いです、そこだけは間違いないです。
面白いか面白くないか、好きか嫌いかは個人の自由ですが、相手が好きな物の価値、好きな物に対する姿勢を下らないとするのは愚行だと思います。
その作った物を小馬鹿にされた事に怒る事は間違いではないですが、自分の理想と違った事で怒るのは甚だお門違いです。
好きだった気持ちを踏みにじられた…と言うなら、むしろ振られた上でギャップも見せ付けられた上条さんの方が被害に合ってる気がします。
紫さんはとにかく自分の世界で完結しすぎで…
だって、もしかしたら、入院中に何かあったのでは?本当は頭もぶつけていて、何か後遺症があったのでは?
と好きならそちらの心配もしそうなものなのに、そういう事はしない。
だからこそ、紫さんの価値観がとにかく歪でした。
紫さんのようなタイプとは現実に居たら大分、一緒に居たくないとも思いました。
同時にそれだけ嫌われてるのに無視もしない、気にしない凪もまた異常で。
歪な二人だからこそ、無視もしない、ただ一方的に嫌い、嫌われる関係だったのでしょう。


ただ、自分が嫌う事を恐れるというのはなんとなく分かるなぁと。
嫌われる方が楽だと思う時はあります。
やっぱり、嫌いになるのって、負の感情は体力を使うので、なるべくしたくないです…
若干紫さんの嫌いになる怖さとは違いますが…
それなら離れる道を選ぶので、自分は凪寄りだなとも感じたり。


最後の最後まで紫さん「好きだから理想を押し付ける」の部分、彼女が最後まで変わらない、変われない部分には若干理解できませんでしたが、彼女が嫌いな相手でも「どうなっても構わない」とは思わない人間な所は凄いなと素直に思いました。
あと、ある意味では決して折れない所。
私には、負の感情を向ける相手の安否まで心配する余裕は無いから。
…色々と考える凪寄りの部分が多い気がして、地味に凹みました。



『最終話 死神隠し』
最後の要となる神作乃々香の登場により、物語の全ての謎が解けました。
紅さんと乃々香さんの関係。
アイちゃんの真相。
そして霞ちゃんの真実。
全てが一つに繋がっていく…何もかもが美しく、しかし複雑に悲しく絡み合いながら繋がる姿は本当に素晴らしかった。
凪が何故友情を重んじるのか、何故恋愛に対してはあぁいうスタンスだったのか、クリアレインは何故降るのか、全てが明らかになりました。


霞が表ヒロインならば、乃々香さんは裏ヒロインとも言える存在で。
最初は「ラストにポッと出の女性がそんなに重要になんて…」とか「テンション高すぎる性格結構キツイわ…」とか思ってました。
土下座して謝らせて下さい、乃々香さん、貴女は間違いなく裏ヒロインだった!!
その独特の価値観、生き様、性格、そして未練はない姿。
軽やかに割り切りながらも人情は捨てていないその美しいほどの姿に、どんどん惹かれて行きました。
この辺りは『空想彼岸』における現実世界の「少女」を思い出します。
最後に出てくるけれども、主人公の性格形成に大きく関わってくる存在。
しかし、『空想彼岸』よりも洗練され、確実に影が薄い存在などでは決して無く、裏ヒロインの貫禄を見せ付けてくれました。
主人公の物語開始からの性格に大きく関わる人物。


物語開始の凪は、入院前でもあり、同時に乃々香さんの性格も色濃く引き継いで居たんですね…
入院前の凪と乃々香さんを足して2で割ったというか…一人称が俺→僕になっていたのも乃々香さんの影響でしょう。
そしてそんな乃々香さんだからこそ判明する真実。
彼女が未練があって留まっている訳ではない、そういう性格の女性ではないから明かされる真実。


いやぁもう、凄かった。
一話の、約束を叶えられず自分を変えるのを放棄する姿。
二話の、友人を作るのを恐れる姿。
三話の、大切な人の死を受け入れられない姿。
四話の、自分の過去を忘れている姿。
五話の、自分の理想を信じ現実を受け入れられない姿。
各話で友人が背負っていた姿、その姿が全て本当は自分の姿だったと気付く所。
ただ、圧巻です。
自分が凪に近いと思っていた分、凪と同じくらいのダメージを受け、そのダメージが半端なかった。
「飲み会のノリについていけない」のを分かると思っていました。
「死んでいるのに生を押し付けられるのは辛い」と思っていました。
「過去を忘れて別の自分に押し付けている奈良原先輩を」少し弱いと思っていました。
「理想しか信じない紫さんを理解できない」と思っていました。
……あぁ、何だ、全て凪の…そして、凪に近いと感じていた私の事でもあったんじゃないか…と。
凪と私の過去は違うから、勿論全てではないけれども、凪に感情移入していた分、自分の悪い部分に向き合うダメージ量が大きくて大きくて…
リアルに頭を抱えてしまいました……


そして、現実を受け止めたまま崩れていく凪。
乃々香さんの時は忘れる道を選んだのに、霞の時には忘れられない。
あまりにも大きすぎる悲しみは逆に壊れる事が出来ない事、なんとなくだけど分かります。
現実見たまま狂ったフリをするしかない。
霞を傷付けたまま、彼女への贖罪も、謝罪も、霞が居ない今、全てがもう自己満足になってしまいどうしようもない。


苦しんで堕ちていく中で、出た答え。
「今まで凪に救われてきた友人達が、今度は凪を救い返す」
もうね、神かと、神です、この展開は。
「救ってくれた人を救い返す」展開に死ぬほど弱い私はもうココでダメでした。
「今までの負の事は実は全て自分の事でもあった」「救われた友人達が救い返してくれる」
この展開を神と言わずして何と言いましょう。
一人で背負わなくても良い、辛い時には「助けて」と声を上げれば良い。
霞の事は皆好きだったのだから皆でなんとかしよう!!
最高の友情物です、少年漫画も目じゃありません!!!


「失恋はどうすれば受け入れられるのか」
という問いに、アリスは良いとしても、奈良原先輩と紫さんに聞くのは若干反則です。
知らぬは本人ばかり。


最後にはルクルさん節が綺麗に炸裂。
↑で一度
「乃々香さんの性格だからこそ未練で成仏出来ない訳じゃない」
と一旦理論を固めて納得させてからの、他の、凪を好きだった女性達だからこそ分かる、
「実は乃々香さんは誰よりも凪を想っていた」
と反転させる、この構図。
3作目ともなると沢山味わって来ましたが、ここまで来るとスカッとします!騙された!!!


最後に乃々香さんの人生を語る事で語られていく、見えていなかった本当の乃々香さん像。
嫌われ者の人生の中で、いつも雨が降っていた人生の中で、出逢えた少ないけれども光を感じた人達。
お互い引き合い惹かれ合い、前に進めなくなった二人の。
恋をしたから失恋してしまった物語。


二人を繋ぐ、クリアレイン。
広い視点で見ると、大きな恋物語のようにも感じました。


星空が曇った事で始まった恋物語が、星空が瞬き出した事で終わる。
恋の始まりと終わりが美しい。
もう、凪には星空が見えて、乃々香さんよりも星空が輝き出すのだなと。
そして、最後には、やっと、本当の涙を流す事が出来る…


最後の最後で霞が生き返った(というより今まで植物状態だった)辺りで、
「やっぱルクルさんはこうでないと!!」
と思いました、意地でもハッピーエンドの姿勢、好き。
確かに一族のお墓には行ったし、医療ミスはしたけれど「死んだ」とは明言されて無かったはず。
やられました…


クリア前の予想で「凪が生霊?」と思ってましたが、霞の方だったとは…
これだからへっぽこ迷探偵は…ダメダメ…


「幕引きが微妙な物語は総じて駄作だぜ」
ってのは…若干『Minstrel』気にしてます?そうでもない??




何もかも最高でした、最高しか言えない語彙力が悲しい…
某所で10万に跳ね上がってるの分かります(ちょっと法外過ぎますが…)
『Minstrel』同様、こちらもDL販売すれば良いのに…もっと沢山の人に触れて欲しいなと本気で思いました。



空虚な自分を真正面から見つめ、自分に気付き、最高の友情を築き、一つの恋を終わらせる。


一話一話にテーマがあるのが良いですよね。
一話は「人を知る事」
二話は「人と関わる事」
三話は「人と向き合う事」
四話は「自分と向き合う事」
五話は「自分を貫く事」
最終話は「自分を知る事」
一、二、三話が他人、そして折り返して四、五、六で自分になってる気がして、構成が良いなと思いました。


ただ一つ、ちょっと残念なのは、乃々香さんが裏ヒロインとして輝き過ぎて、霞が少しヒロインとして霞んでしまった事(ギャグじゃないよ!!)。
その一点くらい、霞好きだったけれども、彼女は友情なんですね…
勿論、霞が居て、霞の成仏があったからこそ、乃々香さんを成仏させないといけないという信念には繋がったのですが…
霞はあくまでも良い友達…誰よりも大切な親友なんですね。
でも、そういう関係、好きです。
しっかりと恋人とも明言されてないけど、大切な男女の関係って良いですよね、好きです。



あとはとにかくもう、お酒が美味しそう!!
大学生なのもあり、物語の中でお酒が効果的に使われますが、美味しそうで美味しそうで…
自分はあまりお酒が得意な方じゃないのですが、少しだけお酒を嗜みながら読めば良かったなと思える、それくらいお酒に合うゲーム。


パッケージ絵とか見ると、『空想彼岸』を意識してたりするのかな?とちょっと思ったり。
こう…連続でプレイすると、宴作品の集大成のようにも感じました!!



好きな世界観で好きな要素で本当に、最高に楽しめました!!
ずっとこの苑馬荘での物語が続けばいいのに…!!と願う程。
でも、それこそ「出会いがあれば別れもある」なんですよね…
彼らとの出会いは同時に別れでもあるので、もっと見たいと願いつつ、けれども、終わりを迎える事を拒んではいけないと強く思いました。
拒んだら成仏は出来ないので。

(と言いつつ、エンマさんの外伝小説があるみたいなので、細々とご拝読失礼しようと思います)





以下、外伝「いと恋し、ひと恋し」を読んだので、その感想です



エンマさん、あぁ切ないよ、エンマさん…


『クリアレイン』、エンマさんの過去話。
とても面白かったです、39Pの中にエンマさんの冷静さと残酷さ、そして、暖かさと孤独が詰まっていました。



『恋色学生と死神一人』
「死ぬ運命を背負った少年の元に、一人の死神少女が…」これだけ書くと、凄く…よく見ます…な、お話に見えますが、ありきたりにさせない所がルクルさんらしい。
『Minstrel』、『空想彼岸』、『クリアレイン』と見てきましたが、一番残酷な物語ではないでしょうか…
エンマさんが死神をやっている以上、仕方がない事ですし、「彼」も自業自得ですが、それでも辛かったです。
成仏は手伝っても、死を回避させる事は出来ないし、しないというエンマさん強い信念というか…生き様を感じました。



『冬空散華と死神一人』
最高の兄妹物語ではないですか?
巧士&英里遊里やアリス&テレス兄妹、といい、ルクルさんの描かれる兄妹良いですね…
そういえば『Minstrel』のロマとリーベも製作者的に見れば…ある意味では姉弟
ルクルさん兄弟好きなのかなぁ??
歳を重ねても、例え会っていなくても、花火で繋がり合う、想い合う兄妹。
最後に想いを伝え合うわけでもなく、ただ、別れを告げる。
この辺りに、人としての年輪を感じました。


どちらの物語も、エンマさんは羨ましいと思っています。
きっと、「死神」としては、らしくない感情なんだろうなぁ…


「いつか、そんなお伽噺のような死神の居場所が見つかったのなら。」


『クリアレイン』にて、彼女は苑馬荘の管理人をしています。
役割や管理者ではあり、死神枠からは逃れられて居ないのを感じて切なかったのですが、居場所は見つけられたんじゃないかと思っています。
…そう思いたいです。
【いと恋し、ひと恋し】とあるように、エンマさんは沢山の「人」に囲まれる道を選んだのですね…


エンマさんの洋服と麦わら帽子の理由が物語と共に描かれ、どちらの最後も反転させるルクル節が炸裂し、とても最高で大満足でした。
短編集良いですね…『クリアレイン』はまだ色々と見たい気持ちが強いです。
苑馬荘、206号室に住む「佐東洋子」さんとか、フラグが無かったので物語には殆ど出てきませんでしたが、彼女も苑馬荘に居る以上、絶対に何かある人でしょう…気になる。


『クリアレイン』が終わってからも『クリアレイン』に、そしてエンマさんに引き込まれる素敵なお話でした!






(そして、気がついたら『Minstrel』よりも感想書いてて、うわぁ…となりました(笑))



いつか、ルクルさんの商業作品にも触れてみたいです!!





余談ですが、これまでの全「宴」作品、開始すると風の音と神社の鈴を鳴らすような音に、心の中で静かにノルカ◯ルカを思い出していました…他サークル様で申し訳ない!
風の音と神社の鈴のような…賽を転がすような音は郷愁花屋様信者には仕方無いです…一瞬思い浮かべます…