ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【鉛の心臓(R18ルート追加版)】感想

【乙女18禁】



2018年12月01日配信
JACK IN THE [ BOX ]』様 ※リンク先公式HP
鉛の心臓(R18ルート追加版)】(PC&ブラウザ)(18禁) ※リンク先ノベルゲームコレクション(現在閉鎖)
鉛の心臓(全年齢版)】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション(現在公開停止中)
以下感想です。








幸福の王子に寄り添うツバメは冬が来る前に自分の居場所を知る事が出来るのか、それとも冬はもう訪れてしまっていたのか。
天才の兄、数年ぶりに再会した幼馴染の少年、部活の仲間、友人、そして、天才の兄と比較し兄妹を捨てた自分勝手な両親。
小さく細やかに、少しずつ変化していく当たり前の日常の中で、あまりにも脆く狭い自分の居場所を必死に模索していく物語。



『幼馴染と再会を果たしたのは、引越して二度目の初夏だった。

 語るべきことは幾らでもあった。別れてからの時間、互いの変化、同じ場所へ至るまでの道のり。けれど、何故だかそれら全てを喉の奥に留めて、空白の年月をまるでなかったもののように並んで歩き出す。意味を含まない、ただ触れ合うようなやりとりは、守り合っていたのか、探り合っていたのか。
 相変わらずだね――そう言って笑った、その一瞬の間を縫うようにしての、一言。
 「そっちは、どうなんだよ。……綾乃は」
 兄の名前に、動じることはなかった。
 「こっちも、相変わらずだよ」
 逃げるようにやってきた土地で、しかし変化らしい変化もなくただ過ごしてきた日々。新しいはずの環境に、過去を纏う人物が介入してきた。

 かつて神童と謳われた兄と、そのつまらない妹の話。』
(公式より引用)



ピアノの天才と呼ばれていた兄と、兄と比較され居場所を奪われ続けてきた主人公の少女。
兄の中退で兄妹ともども親から見捨てられ、叔父の家に引っ越した先、2年越しに幼馴染の少年と出会う所から物語はスタートします。
幼馴染と出会う事で止まっていた時間が動き出し、動き出した時の中で必死に自分の居場所を探そうとする主人公。
居場所も親も、何もかも兄中心の生活で生まれた主人公の価値観の表現が繊細で、あまりにも自分の存在を軽んじる姿に、兄の為に心を砕く姿に重く苦しくなりました。
鉛の心臓、元は幸福の王子の童話からですが、呼んでいて心臓が、心が鉛になりそうでタイトルに間違いない作品でした。


全年齢版とR18版が有りますが、違いは全年齢版には兄ルートが無くEDが4つまでみたいです。
兄ルートで東屋さんと綿貫君ルートに行けるので、18歳以上でしたらR18版が良いと思います、オマケもR18版のみ有り。
あと「鉛の心臓」のタイトル回収がされるのは兄ルートです。
現在どちらも配信停止中…みたいですね。
なんらかの形で再公開予定らしいので、再公開される日を願ってます。



『システム、演出』
ティラノ製。
立ち絵無し、背景と文章のみ。
文章が素晴らしいのでイラスト無しでも気にはなりませんでした。
ただ、分岐の構成上、スキップ機能は全スキップではなく、未読か既読かの判定が欲しかったです。
あと、下のシステム部分にまで文字がかかる箇所があったので、その辺りは読みにくかったです。


『音楽』
「ピアノの天才と言われた兄がいる」という設定もあり、ピアノ曲が多かったです。
兄が関わるシーンはピアノ曲がかかるのですが、兄の影響力に合わせてピアノ曲が変わり、かなり音楽が効果的に使われていました。


『絵』
無し。
文章表現が凄いので、無くて良かったとも思います。
文章は全画面表示で、その枠組みは美しく、背景も文章の邪魔をしない程度にヒッソリとあります。
「文章をとにかく読ませる!!」という気持ちを感じ、見せたい文章をしっかりと見せ、雑音が無く良かったです。


『物語』
とにかく文章が凄いです。
殆どが主人公の心境変化の物語で物理的に大きな物事、大々的なイベントは特に何も起こらず…
基本、自分が「キャラの大きな行動や物理的な物事が起こった時」に「物語が動いた!!」と感じる派なのですが、そんな自分でもジワジワと心が侵食されて行きました。
文字を書いた事があると分かるのですが、作品上の一分一秒の経過はサクッと書いてしまいがちな中、この物語はとにかく心情を掘り下げて下げて下げて底まで付けて来ます。
一分一秒の経過がある意味では長く、ある意味ではこれでもかという位に細やかで丁寧で…
例え自分が文章を書いたとしても、とても真似出来ない表現だと思いました。
時間経過と心理描写が繊細で、ゆっくりジワジワと侵食されるようにダメージを負っていきたい方に是非オススメです。


『好みのポイント』
上記でも書きましたが文章の巧みさ、繊細さが本当に美しかったです。
少しずつ少しずつ、折り合いを付けていったり、諦めていったり、その中で自分の居場所を見つけて行く、見失って行く姿がとても印象深かったです。
その中でも、幼馴染の航平から貰ったミサンガを切るシーン、幸福の王子を読んで鶏肉を食べたくなり鶏肉ブームが来るシーン、ハムスターへの残酷な思いとアダルトコーナーで思った事を振り返り自分の残虐さに苦しむ所が特に印象に残っています。
…なんか全部重いシーンばっか印象に残ってます……
あと東屋さんと綿貫君が好きです。





以下ネタバレ含めての感想です





「一分一秒を繊細に描く」という部分にどうしても物語の物理的な進展が合う自分には合う合わないがあったので、読むスピードは遅くなってしまいましたが、それでも進める度にその繊細さに圧倒され、ため息を吐いてしまいました。
繊細で細やか故に一分一秒がとても重く感じ…
一行読む毎に比較され続けてきた主人公の心の傷が丁寧に描かれダメージの負荷がハンパないのでゆっくりになった所はあるなぁと思いました。


主人公の人生に常に居た天才と呼ばれていた兄が深く関わってきますが…なんというか個人的に兄に全く良い印象を持てませんでした…
兄個人が絡むと心情面でも現実面でもあまりロクな事が無く、主人公が「兄は特別だ」と思い込もうとしている姿がとても苦しく、悲しくなってしまいました…


以下、各EDについて。


『ED1.祈りではなく愛をください』
メインEDらしいですが、このEDでも分かる通り、この兄妹、離れるか第三者が居ないと二人にしたらダメだ…と心底思ったり…


『ED2.からっぽになった眼窩で眠る』
幼馴染が居たとしても、依存していく姿を見ると、「過去」が関わるとダメになる時はとことんダメになったり。


『ED3.この身の限り魚をあげよう』
「主人公の事を見張るけど、自由にしていいんだよ、俺は見守ってるだけ」
「神様」のように思っていて、全ての中心に居て価値観の根源になってる兄にそんな事を言われても自由になど成れるはずが無く。
兄の恐怖に背筋が凍るEDでした。


『ED4.午前六時、スフィンクスの鼻先にて』
兄と幼馴染さえ居れば世界は回る事に気付いてしまった主人公の姿は本当に辛く。
個人的に一番ダメージを受けたEDです。


『ED5.地上に作る楽園』
『ED6.天国の夢をみていた』
R18版からのED。
このルートにはR18シーンは無いのですが、東屋さんと綿貫君が本当に好きです。
正直、兄から完全に離れるこの2つのEDが一番心穏やかになりました。
「絵」という兄とある種近い芸術面での没頭できる物を見つけた主人公。
そして剣道部ではあるけれども今まで交流のあった人達とは全く違う人物と交流を持つ主人公。
この2つのEDは「今までの日常から離れる」というのが一種のトリガーになってる気がします。
オマケで分かりますが主人公も、
「心の底に溜まった淀を形に出すと、それは非凡な物が出来上がる」
「誰かの心を即座に察する事が出来、誰かを助けている」
そんな誰もが持ち得ない才能を持っていて…その事をちゃんと見てくれてる人も居て。
それをちゃんと受け止めてくれる人と、新しい場所で新しい人間関係で、新しい居場所を見つける、そんな姿にホッとしました。
ED5からタイトル回収がされるのですが、「幸福の王子」と「王子と燕」の比較が凄く好きでした。


『ED7.血と肉に宿る』
一番狂ったED。
R18版の本領発揮。
R18シーンで間違いは無いのですが、エロより心情が孤独で辛く悲しく精神的に突き刺さるシーンでした…
エロシーンなのに全くイコールで快楽と繋がらない、凄い。
文章から与えられるダメージが大きいので間違いなくR18です。
二人の世界に囚われた兄妹は進む事は出来ないんだろうなと感じました。


ジャンル(?)では兄妹ゲー(だと思われる)なのにこれだけ兄にあまり良い印象を抱けないのも珍しいなと。
兄がとにかく鈍感で、妹の本当の心情を察せずに居た所が腹立たしいと感じました。
それだけ妹が心情を隠すのが上手いのか、それともその鈍感さは天才故なのか。
本人は「20を越えた辺りから天才ではない」と言っていますが、ネット上でも音楽で関係を築ける相手が居たりする時点で既に「天才」ではあると凡人の私は思います。
本人は「自分は天才ではない」と思ってる、打ちひしがれている部分があるように見えますが…貴方が思っている以上に妹は貴方を神格化していて、そしてその才に振り回されて価値観を歪められて、人生を握られているんだぞ、と。
兄の苦悩も理解は出来ずとも納得は出来なくもないですが、私は凡人側で更に地の文が彼女なので、どうしても主人公の妹に肩入れしたくなりました。
何度も兄に「ここで、ちゃんと自分の気持ち伝えとけよ!!」と思いました。
兄は何も言わないシーンが多すぎて…


主人公にも「ここで言えてれば…」と思うシーンはありましたが、彼女の人生を振り返ると「それは無理だなぁ」とも思ったので、彼女の価値観含めてかなり彼女に肩入れしていますね…
それだけ、兄本人が居ない場面でも主人公の内面、心理描写から常に兄が存在感を発揮しているので、兄の描き方が凄いなぁと思いました。
「天才」「神様の子供」「美しい」語彙力の限りを尽くし、ありとあらゆる賛辞の言葉で主人公から語られる兄。
作品紹介では「ドブラコン」とありますが、そういうレベルではもう無く…これはもう「信仰」の領域です。
一言で言うと、主人公から見た兄が、怖いです…


だからこそ、上記で書いた通り、二人は二人のままではいけないのだと思います。
「信仰」は自分が楽になるために、居場所を得る為にする行為であり、居場所を無くす為にする行為ではないのだから。


ちなみに、超個人的には主人公の兄には関わりたくはありませんw
なので、EDは5と6が好きです、主人公は東屋さんか綿貫君と幸せになるべき…