ひっそりと群生

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【積層のAestivum】感想

【群像劇全年齢】



2017年08月31日配信
keeha』様 ※リンク先公式HP
積層のAestivum】(PC) ※ふりーむ!
積層のAestivum】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








クリスマス、彼と彼女の願いは届くのか。
どこまでもどこまでも綺麗で儚い世界と儚い人物達。
孤独だった彼らの線は交わり、次第に人との繋がりを見出していく…



『ある夜、冬の森の中で目を覚ました少年、里柊(りしゅう)。

 目覚めたのち、初めに見たのは、雪の上にのこる人の足跡だった。

 それをたどっていくと、ある女性が倒れているのにでくわす。

 目が覚めた女性、愛夏(あいか)と打ち解け、彼らは同じ目的地の森の出口を目指す。

 ――彼らが目の当たりにするのは、凍り付くような冷たい事実。

 そして。

 雪の世界、様々な舞台で繰り広げられる、切なくも悲しい想いの交差。
 クリスマスの冬、ある少年と少女たちの最も長い一夜。
 これは、たった一人の願いが繋がり、紡がれたほんの小さな奇跡の物語。』
(公式より引用)



選択肢は無し、前半に若干の探索パート有り。


とにかく雰囲気が良く世界観が美しかったです。
真っ白な雪が降り積もる世界、自分達以外誰も居ない世界、自分達以外の音がしない世界で静かに育まれる里柊と愛夏の絆、そして里柊の記憶が紐解かれるにつれて明かされていく過去。
どこまでも残酷で辛く、でもどうにか一筋の光だけ存在する過去に虚無感と絶望感、湧き上がる怒りと共に唯一の温もりを感じました。


最後は辛い中でもどこまでも優しい彼と彼女が印象的で…
一夜で様々な事が巻き起こる奇跡、辛い事も、悲しい事も確かにあったけれど、彼と彼女のどこまでも「優しい世界」に浸る事が出来ました。
奇跡の一夜を有難うございました。





『システム、演出』
ティラノ製。
音調整に文字表示速度と必要なシステムは揃っていたと思います。
マウスロールで履歴を呼び出すと履歴からはクリックで戻れずbuckボタンを押さないと戻れなかった所は若干使い辛かったですがそのくらいです。
ただ、一つ言わせて頂くなら、探索パートは前半のみであまり印象に残らず残念でした。
探索を沢山して謎を解いていくタイプではないので、全部文章でも良かったとも思いました。


『音楽』
選曲素晴らしいです。
不思議な事が巻き起こる雪の世界を見事に彩っていました。


『絵』
イラストオリジナル、背景もおそらくオリジナルイラスト。
イラストの可愛らしさと淡い色彩、そして必要な時に必要な背景が世界観に見事にマッチしていました。
里柊の家にある写真や、ビルなど細かい違いはオリジナルじゃないと出せないので凄く良かったです。


『物語』
文章は読みやすく分かりやすいです。
小難しい言い回しも無く、キャラの心情がストレートに伝わって来ます。
かならず皆どこかしらに後悔の念を持っていて、それが痛いほどに伝わりました。


『好みのポイント』
とにかく過去の二人が可愛らしく健気で、そして切なかったです。
ネタバレになるので深くは語れませんが、二人の構築されていく関係がとても丁寧で。
だからこそラストは湧き上がる感情を抑えられませんでした。





以下ネタバレ含めての感想です





探索パート、詰まる事は無いとは思いますが、一番見つけにくいのはお地蔵様だと思います。
木の根元を調べて下さい。





新樹町と友代村の過去、里柊の記憶、かつてあった出来事、その出来事があまりにも辛く苦しく。
身勝手な大人達に何度怒りを感じ、呆れ、村の滅びを願った事か。
昔の風習に見えて、ある意味では現代のそしてこれからの縮図のような村にも感じ震えました。
隣は豊かで、でも隣は大人の為に子供が犠牲になっている…そんな世界が存在するのですよね。
これから老人がますます増え子供が減る事実と作中世界が日本である事に余計他人事には思えませんでした。


里柊の一筋の光の椿がとにかく可愛くて可愛くて…
二人の絆が深まる度に胸がドキドキしました。
里柊の「自分がやれば良い」はそんな事じゃなく、自分が出来なくなった際にその負担を請け負う人も居るという社会の縮図のような状況で。
その先で二人の絆が深まるにつれて、「自分を心配する人間も居る」に変わっていく姿がとてもリアルでした。
最初は村の末端だった二人が互いに助け合って信頼していく流れが本当に美しく。
里柊が椿を唯一の存在と感じていく姿、二人手を取り合って生きていく姿がとても儚かったです。


だからこそ彼女の両親が許せず、彼女の「私が信じなかったから」には切ない気持ちになりました。
椿は「私が信じなかったから」と結論付けて救いの扉を開きましたが、拗れた最初の原因は「椿の両親が癇癪を起こし椿に暴力を奮ったから」じゃないですか。
子供が拒絶や我儘を言うのは当たり前なんですよ…余裕が無いのは分かりますがそれでもどんな事があっても子供をないがしろにしてはいけないと思っていて。
子供を一人どう考えても碌でもない場所に放って置いて自分達はそれなりに安全な場所に行くなんて親のする事じゃないです。
例え子供が拒絶してでも危険な所からは離すのが親だと思っています。
椿の両親は確かに迎えに来る覚悟をするのが遅すぎました。
もう迎えに行っても椿は…
そういう意味では因果応報にも感じます。
ラストで村がしでかした事で椿の両親に対して二度と許されない…という結論になってますが、村だけでなく椿の両親自身も許されないと思うので正直一生背負って生きて頂きたいです。
そんな親に加担し外野から「不器用なだけだった」と言って親の方も庇護した愛夏にはどうしても納得しかねる部分があります。
個人的な価値観の問題で「親が圧倒的に悪かった事、マイナス方面で行った事を周りが正当化する」「親だから家族だからで許される」という展開がどうしても苦手なので…その部分はどうしても受け入れ難かったです。
「私が信じなかったから」という部分は椿本人が思った事なので否定は出来ませんが子供には「自分の責任」と思ってほしくないです。
子供で良い子だからこそ自分を責める結論に行く姿が辛くて辛くて…
健気な分余計に…椿、貴女は何も悪くなかった…
だからこそ、椿は救いを求めていた上で自分なりの結論を出し救われたのだと信じたいです。


3人がすれ違っていきますが、途中で愛夏が感じた「大事な人を失っても、今の私が生きる中に大事な人も含まれている」という結論はとても好きでした。
物も思い出も、生きている自分の中にきっと有り続ける。


とても辛い境遇であっても許しの部分や人に向ける感情がどこまでも優しい世界だったと思います。
ここまで「優しい」を貫ける作品も珍しいと思います。
選曲も良く、文章も読みやすく、文、絵、音楽、世界観、どこまでも良い子達の優しさが溢れていました。
腹がたった大人達にも最後は村が滅び、町の人たちからずっと後ろ指を刺され続けないといけないという、それなりに納得出来る結末もありました。
クリスマスの物語、一夜限りの奇跡、どこまでも暖かな世界を有難うございました!