ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【高梨結愛ともう一度】感想

【男性主人公全年齢】



2018年08月10日発売
『のいじーまいのりてぃ』様
高梨結愛ともう一度】(PC) ※リンク先DLsite.com
以下感想です。








彼の選択が「正しかった」かは分からない。
けれど、あの選択は彼自信の揺るぎない決意で、そしてきっと彼が人生の中で唯一妹に「幸福」を渡せた選択だったのだろう…



『長い夢が終わるとき

 心臓病を患った少女は
 幼き日から病院にいた。

 彼女はやがて死ぬだろう。
 病院で過ごした時間ばかりを
 想い出として。

 残された最後の時間。
 兄は彼女の"夢"を
 叶えようとする。

 だが、一つの願いが叶うとき、
 それは同時に夢の終わりを
 意味していた。』
(公式より引用)



選択肢無しの一本道。


主人公の礼と心臓に病を抱えている妹の結愛。
仕事一辺倒の親から顧みられなかった二人はどんな時も側にいて二人だけのかけがえのない兄妹として育った。
二人三脚、寸歩不離、一心同体…そんな兄妹に降りかかる絶望とそして選択の物語。


描写が一つ一つ細やかで、幼少期から現代までが丁寧に描かれて二人の世界で生きる兄妹がとにかく美しかったです。
そして、とにかく主人公の結愛に対する愛が凄まじかった。
殆ど二人だけで育った境遇と、そして幼少期に自分が結愛に対して犯してしまったと悔いている罪から、何よりもどんな時でも結愛を優先し、己を顧みない姿がある種の狂気を感じ。
同時にそれでも兄として、一人の男性として結愛だけの為に生きる姿が格好良かったです。


物語自体はとても分かりやすいのですが、全体の雰囲気と演出、そして妹を思う兄の気持ちが読みやすい文章からダイレクトに伝わり、2時間ほどでしたがとても濃厚な時間を楽しめました。



『システム、演出』
ティラノ製。
私はC94版をプレイしたのですが、テキストスピードはデフォルトに必ず戻ってしまうのは辛かったです。
一部のセミが鳴くシーンで一向に画面が表示されなかった時は正直焦りました。
ですが、現在販売されているDL販売版はシステムが改良されてるとの事だったので、おそらく改良されていると思います。
未確認なのが申し訳ないですが…
演出自体はとても良く、OPの映画のように最初にスタッフの名前が出てくる表示方法や、学校へ行くシーン、そして制服を着た時に黒い画面に文字が浮かび上がるシーンなど、そのどれもが物語をとても良く引き立てていました。
制服を着たシーンで電話がずっと鳴っている所、そして黒い画面に文字が浮かぶ所は特に明確な状況を説明はしていなくても、それがどういう状況なのかを察し、辛かったです…


『音楽』
おそらく素材曲。
どの選曲も良かったです。
特に歌唱曲が入るシーンは…ズルいです、オートモードになるのですが、その場に合った適切で場を盛り上げる為に必要なオートモードは最高です。
あぁ、あの時がきっとあの兄妹にとって楽園のような夢のような時間だったのだと思います。


『絵』
立ち絵とCG1枚で妹の結愛のみなのですが、それが良かった。
結愛の幼少期と、そして現代の姿の立ち絵の差が成長を感じとても良かったです。
これは、この物語は兄と妹、二人だけの物語なのだから、結愛だけで良いのです。


『物語』
とにかく妹。
それ以上でもそれ以下でも無いです。
彼と彼女の物語、ある意味で「二人の世界」です。
礼の妹を想う気持ちと結愛の兄を想う気持ち、それだけで構成された話でした、それが最高で最高で…
私は「二人の世界」系が大好きなので大変に満足でした。
文章も読みやすく。
「高梨結愛と過ごすことが、僕の願いで、生きる理由だ。」
「「だってお兄ちゃんは……私のお兄ちゃんだもん……っ!!」」
「僕は高梨結愛の兄として、正々堂々と闘い、その力を示さなければならないのだ。」
この文章がとても心に残ってます。


『好みのポイント』
礼が最高の兄で最高の男でどこまでも主人公でした。
私は「誰かの為に」にとても弱いので主人公の考えや行動には始終熱い気持ちを感じました。
幼少期から丁寧に丁寧に結愛との関係が描かれ、本当に大事な妹で大事な人だという事が伝わって、彼ら兄妹が喜べばとても幸福感で満たされ、苦しめば胸を締め付けられる思いでした。
ただニ点、これは好みの部分なのですが、両親とお医者様の承諾に「い、良いのかなぁ…」と思う所があり。
これは自分の医者に対する倫理観の問題なので、架空の物語にあまり思うべきじゃないというもの自覚しています(笑)
あとは、ラスト、クレジット後の演出ですが、ちょっと長かったなぁとも感じたり。
自分の中の盛り上がりが薬で眠った所がピークだったので、その後に続くエピローグにしては長さを感じました。
ですが、あの部分こそがタイトル「高梨結愛ともう一度」の部分なのだとも思っているので、完全に自分の中の感情の盛り上がりの問題だなと思っています。
完全に個人的な好みの部分です、物語の中心となる礼の結愛を思う気持ちは本当に最高でした!!





以下ネタバレ含めての感想です





とにかく幸と不幸の緩急の付け方がお上手でした。
兄妹が小さな幸福を手に入れた…と思ったら地の底に叩きつけて来る不幸が訪れる流れにはひたすら辛く…
禍福は糾える縄の如し。
いや、そんなもんじゃない…彼らが求めたのは人並みの幸福でその代償があの地獄ならあまりにもあんまり過ぎます。
彼らは人並みの幸福すらも得る事が出来なかった兄妹なのだと、礼と結愛の関係が細やかに描写されればされるほどひたすらに心が塞ぎました。
親との関係も最後の最後ギリギリまで空気以下のような存在で…
正直、毒親だと思ってました…嫌だなぁ、嫌いだなぁと。
ですが最後の最後で礼が自分の選択を吐露した際に、毒だと、駄目な親とは言えないな…と思いました。
特にお金の話にはかなり説得力があり。
そうですよね、大病患ってずっと入院して、そのお金はどこから出るのか?という。
「お金よりも病気の子供と寄り添うべき!」なんて綺麗事言えないです。
お金もないと病気を治す事も出来ないのだから…
両親のあの言葉を聞いた時に「良い親」とは言えなかったかもしれないけれど「悪い親」では無かったなと思いました。


最後の選択は…正直かなり賛否両論だと思います。
物語の好み的な意味でも倫理的な意味でも。
まずハッピーエンド至上主義の方はあのEDそのものが受け付けないでしょう。
ご都合主義でも良い、この兄妹の幸福なEDを見たかった…という方には壮絶なダメージと負の感情が芽生えると思います。
そしてもう一つは倫理方面。
これに関しては…かなり自分の人生で培われてきた価値観の影響があると思うので、難しいですね…合わない人には合わない、ただその一点だと思います。
ですが私は、倫理方面ではあの選択は肯定派なので難しい題材の中あの選択を見れたのが良かった事と、そして物語の好みの部分でも、好きな方なので大変満足でした。
ある意味で最高の自己満ですよね…
でも周りを説得させたなら有りだと思います。
あの「自分の死の自己選択」に関しては唯一、人間が本当の意味で自由を行使できる物だと思っているので。
礼はずっと今まで自分が起こした行動で結愛が傷付いたり病状を悪化させたと思ってきました。
正直周りはそんな事思っていませんし、私も思いません、ただ時と場合と運が悪かった、それだけ。
それでも礼は苦悩に苛まれてきました、自分が結愛を不幸にしてきたと。
そんな礼が唯一、人生の中でたった一つ結愛に幸福を渡せると思ったのがあの選択だったのだと。
だからきっと、礼はようやく罪悪感から開放されたのだろなと思います。


ただ結愛は礼から受け取った心臓を無碍にする事は出来ず。受け入れながらも許せない所もあるでしょう…そして、きっともう永遠に礼以上の存在には出逢う事は無いでしょう…
無理ですよ…妹としても女としても、きっと無理。
生きる幸福と同時に人生で死ぬよりも辛い苦しみも背負う事になる…
それでも生きる道しか残されていない、礼の心臓と共に、礼を忘れる事は絶対出来ずに。
文字通り一心同体となって。
あぁ…なんて罪な男なんでしょうね、礼は。
もう結愛は礼から離れられないです。
兄としてではなく男性として好きだった妹と、妹としてではなく女性として好きだった兄。
「好きな人の為に命をかける」「好きな人に自分の命を渡す」
恋愛物としてもある種の究極形で…そして同時にある種の最高の兄妹物だったなと思います。
この恋愛物と兄妹物が混ざり、決して言葉では形容出来ない…ただ、「言語化出来ない想い合っている二人の物語」が最高に好きでした。


本当に、始終目頭が熱くなり視界がボヤケました。
個人的にR18で性愛が絡むよりも全年齢でお互いを想い合うシスコンブラコンが出てくる兄妹物の方が好みなので、読んでて凄く好みでした。
「兄と妹」のくくりも抜け出して「異性として…たった一人の人間として好き」という部分に行き着くのもとても良きです。
こんなに近くに居たら、兄妹だろうがなんだろうが唯一無二の大切な人になってもおかしくはないです。
言語化出来ない関係…大好きです。


自分の理想の、読みたかった兄妹物の一つだなーと凄く思いました。
自分はifの可能性を妄想空想する…いわゆる二次創作脳なので、「もし、結愛にドナーの心臓が見つかっていたら」「もし、他のドナーの心臓で健康になり礼と結愛が結ばれていたら(R18)」…etc.etc…と考えたりもしてしまいます。
そういう風に頭の中で二次創作妄想をしてしまうくらいに、この物語は、礼と結愛は魅力的でした。
願わくば、妄想の中、頭の中では幸せな二人を想ってあげたいと思います。
本当に、この物語を読めて良かったです、有難うございます!