ひっそりと群生

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【幸福の塔】感想

【全年齢】



2018年02月11日配信
稲海』様 ※リンク先公式HP
幸福の塔】(PC) ※リンク先ふりーむ!
以下感想です。








主よ、人の望みの………



『歪みの果てに、幸福はあるか。

 昔々、そのまた昔、救世主は悪い悪いドラゴンを倒しました。
 人々に讃えられ、崇められた救世主は言います。
 「穢れを知らぬ子供たちの手で、空を越えた遥か彼方、
 『神の国』まで届く塔を建てねばならぬ。
 そこには苦しみも悲しみも、ありはしないのだ」
 国中から集まった子供たちは、まだ見ぬ『神の国』を目指し
 一心不乱に塔をつくります。

 それが一体、何であるかも知らないままに。』
(公式より引用)



美しさも醜さも、きっと人が勝手に決めたもの…なのかもしれない。


EDは全部で5つ。
プレイ時間は一周10分くらいで最終ルートだけ25分くらい。
全ルート回収で1時間くらいでした。
塔を建てる為に「力仕事」「工房」「調理場」を周り、その場所の人との親交を深めたり深めなかったりします。


稲海様の作品は『Diva&Gunshot -ウタヒメ ト ジュウセイ-』(※リンク先感想)以来で2作目になりますが、本当に雰囲気や流れがとても良く。
「Diva&Gunshot -ウタヒメ ト ジュウセイ-」とは全く違う作風でビックリしました。
中世的な雰囲気とどこか哀愁漂うイラスト、そして客観的に見るととても歪な世界に身を置きながらも登場人物達は自らが幸せである事を疑わない、疑えば殺されてしまうような世界の中で生きている姿がとても恐ろしく…
EDはどのEDも後味が悪くもこの世界では納得のいくEDで、短いながらもとても重苦しく。
美しい世界観と美しい塔、そして醜い人々の醜い生き様を感じ取れる一作でした。



『システム、演出』
Ren'Py製。
こちらのツールに触れるのは3作目だと思います。
基本機能は全部完備。
このツールの特徴として履歴が履歴ではなくシーンごと巻き戻りますが、今作は短作だった為、そんなに気になりませんでした。
ただ、一部バグなのかエンディングリストで右クリックをするとゲームが落ちるので、そこだけは注意です。


『音楽』
「主よ、人の望みの喜びよ」を中心に、クラッシックやピアノ曲で世界が彩られていました。
どれも音楽に品があり、世界観にとても合っていたと思います。


『絵』
こちらもどこか宗教画というか…絵画のような雰囲気の絵で。
中世のような背景と合わさり世界観に綺麗にマッチしていました。
名前の無いキャラクターにもそれぞれに一枚づつ絵が用意されていて、名前の無いキャラも印象深かったです。


『物語』
文章は読みやすく、基本他の人の会話で進みます。
主人公が話す事は殆どありません。
でも、その中で時折入る地の文はとても淡々としていて…
言葉を聞く事しか出来ず、話す事は出来ず…主人公の異端性がとても良く現れていました。


『好みのポイント』
全体的に見るとオールバッドエンドのような物語なのですが…とても美しい物語だったと思います。
美しさも、醜さも、きっと各々のプレイヤーの中にあるのかもしれないと、そう感じました。





以下ネタバレ含めての感想です





チネは狂信者、イキは異端者、ユクは信仰者…という感じ。
誰も良いEDを迎えない中でそれぞれの物語で語られる救世主様がプレイヤー側からしたら「大層にヤバい人」というのを感じ…
同じ場所に通い詰める3つのED、バラバラな箇所を周り辿り着く1つのED、そしておそらく4つのEDを見るとオールEDに辿り着くのだと思いますが、オールEDで語られる過去がとても醜く。
予想はしていましたが「皆が語る救世主とはたったこれっぽっちの存在だったのか…」と呆れ返りました。


主人公の正体は…正直ある程度の予想はしていたのですが、主人公が何を考えているかは分からず。
それぞれの悲劇的なEDや救世主のエゴにより死んでいく子供達に何を思っていたのだろう…とずっと思っていました。
でも、いざ、正体が分かると…あぁ、本当に何も思ってはいなかったのだと…強く痛感しました。
主人公は人ではなく、人が測れるものでもなく、ただ本当にほんの気まぐれで外界に降りてきただけで。
最後に圧倒的な力を魅せ、人が長年かけて作り上げた塔を一瞬で破壊し去っていくその姿はまさに人智を越えた存在。
恐ろしくも力強く、そして格好良くも美しかったです。


神の国には、幸福だけがある?」
「まさか。思い違いも甚だしい。」
「生きとし生けるものの住まう、命という枷に縛られたこの息苦しい世界こそが、」
「まさに神の国なのだから。」
…人は自らが勝手に作った神という枷のある世界で生きているのかもしれない…そんな風に思ったり。
「誰かがそれを見て「醜く歪で汚らしい」と喚いた。」
「誰かがそれを見て「何物にも代えがたい美しさだ」を涙を流した。」
「どちらも間違いであるはずがない。」
「歪さも、美しさも、等しく人の心に芽吹くのだから。」
…人は自らが勝手に尺度を決めた醜さと美しさのある世界で生きているのかもしれない…そんな風に思ったり。


醜さを極めた人は、きっと、神のような存在が気まぐれで目を向ける程に美しかったのかもしれない…
そんな風に思うくらいに全体的に醜い人が居ながらも、それでも尚も美しい世界観で。
1時間と短い時間ではありましたが、とても充実感に溢れる物語を読む事が出来ました。