ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【さよなら、うつつ。】感想

【男性主人公18禁】



2015年11月19日配信
羊おじさん倶楽部』様 ※リンク先公式HP(18禁)
さよなら、うつつ。】(PC)(18禁) ※リンク先エロゲと饗(18禁)
さよなら、うつつ。(全年齢版)】(PC) ※リンク先夢現
以下感想です。








少女に誘われ、辿り着くは救うべき世界。ゆめとうつつを救済する果てにあるのは…
救世主よ、貴方自身は救われましたか?



『――あなたには、世界を救ってほしい。これは、私でなく世界そのものの願い――

 そう言って転校生の水夜が夏月に差し出したのは注射器
 夏月はその薬物を使って現実と似た異世界『ムンドゥス』へと赴き
 現実世界を腐らせる存在たる『モルタリス』を殺し、救世主として戦う
 それは彼を捕らえ続けていた『役割』と『日常』の破壊
 彼は夢中になって秘密のヒーローとして世界を救い始める

 そんな”薬物が魅せるような”リアルの物語』
(公式より引用)



選択肢無し。
プレイ時間は約4時間くらい。
18禁版をプレイ。


羊おじさん倶楽部様作品は、『等間隔の黒い透明』『彼女は時のねじを逆向きに回した』『ムートン・ノワール』(※リンク先感想)に続いてプレイ4作目になります。
何気ない日常から始まり、日常の中で自分の不必要さに苦しみ、自分を特別視する少女と出会い、確実な決定打で世界に絶望し、少女の手を取り薬によって世界から決別をする。
通常の何気ない日常描写もですが、主人公の抱えている生き苦しさや、薬を打った後の新世界の到来など、様々な描写がとてもお上手で、全ての場面が暗く黒い靄に包まれているかのような陰鬱さがあり…どう足掻いても絶望、や、現実の無い絶対的幻覚でした。
薬によって手に入れる救世主劇。
「薬物ヒーローADV」の看板に偽り無しでした。


今回は今まで触れていなかった羊おじさん倶楽部様の処女作なのですが、サークル様の原点に触れる事が出来て良かったです。
どことなく漂う胃から何かが這い上がって来るような気持ち悪さ…流石でございました。
とても上質な鬱を堪能する事が出来ました、有難うございます。



『システム、演出』
吉里吉里製。
タイトル画面でどの項目が何の機能なのかが分かりにくいのが気になりますが、世界観には合っていました。
「等間隔の黒い透明」もこんな感じだったなぁと。
システム自体は完璧の上でキャラクターがテンポよくコロコロと動き回ります。
動きの演出がとても好きでした。


『音楽』
安定のジムノペディ
ジムノペディや有名クラシックの安定した音楽だけでは無く、数々の音楽が不安定に世界を彩ります。
基本どの曲も暗かったり安定感が無かったり…不安を後押しする音楽が凄く世界に合っていました。


『絵』
人物は…フリゲや同人の範囲内。
表情パターンが多かったのは良かったです。
ですが、正直人間よりも人外が凄まじく…
モルタリスの造形は異形で…見てて大変気持ち悪かったです(褒め言葉)。
そして何よりも羊おじさんが異彩を放っていました…
見た目の異様さもですが、某夏によくあるオムニバスホラードラマのストーリテラーを思い出すような…
物語を先導する人ならざる存在の空気が羊おじさんから溢れていて、悪夢を象徴するような造形と雰囲気のキャラクターでした。


『物語』
文章、読みやすいというかなんかこう…グイグイと引き込まれて行きました。
自分の側ずっと居る幼馴染というまるでギャルゲーのような展開から始まり…しかし徐々に世界が崩壊し…
異世界、ムンドゥスでの描写は加速度が凄くて…
正気と狂気の境目の描写や、その境目が無くなっていく描写がとてつもなく上手かったです。
エロシーンは確かにエロいですが、それ以上にシーンも相まって狂気という感じでした。


『好みのポイント』
狂っていく世界や狂っていく精神が好きなのでたまらなく好みの作風でした。
そして、ヒロインの水夜も魅力的ではありますが…何よりも個人的には幼馴染の沙希の価値観が響きました。
主人公から見たらとてつもなく嫌な女で、客観的に見ても思わせぶりで嫌な女だけど…でも…沙希の気持ちも全否定は出来ないというか…
女心の難しさと面倒臭さを凝縮したようなキャラで…良かったと思います。





以下ネタバレ含めての感想です





結局、水夜は何者だったのか…?
…というのはきっと考えるのはナンセンスなのでしょうね。
彼女の事が羊おじさんからほんの少し語られますが、それが全てではきっと無いでしょうし。
フッと現れてフッと消える…そんな彼女はきっと幻覚への誘い手なのでしょうから…


個人的には水夜よりも沙希の考え方や行動の方が共感と同時に苛立ちを覚えたというか。
主人公から見た沙希は自分の気持ちを受け取ってはくれないのに離れる事は無く側に居て、どこまでも幼馴染の関係を崩す事は無く、「幼馴染」だけを押し付けて…その癖に、まるで主人公に恋しているかのように振る舞う…とんでもなく自分勝手な女の子なんですよね。
想いを受け取る気が無いなら離れてほしいし、受け取らないなら思わせぶりな行動はしないで欲しい…「役割」という物に関して苦しんでいる主人公の背を押すのに一役も二役もかっていて…
沙希の行動が薬を打つ最大のきっかけになったのも分かりますし、最後の方で沙希が警察に主人公の事を何か伝えているシーンでは「誰のせいでこんな事に!!」と凄く苛立ちを覚えました(ただ、最後の方はどこまでが本当かは分かりませんが…)


そういう受け取る気が無いのに思わせぶりな態度をする事に凄まじく苛立ちを覚える中で、同時に、「関係が壊れるのが怖い」というのは分かってしまって…「今のままで居たい」と今の居心地の良さを知ってしまってるからそこから抜け出したくない気持ちもまぁ分かってしまうので、ムカつきと同時に共感もしてしまうという不思議な幼馴染ではありました。
ただ…昔の告白で先生や他の人に言いふらすのは根性がねじ曲がってるとは思いますが…そこに関しては本当にクソだなと思います、誰かの真摯な想いを人に言いふらすのはクソだ。主人公のトラウマになるのも分かる…
だからこそ最後の方で沙希が幼馴染の役割すら無くなったシーンには正直スカッとしました(笑)
主人公、良く言った!みたいな。
…でも、薬を打ってまで主人公を連れ戻そうとした姿や心配する姿は本物で…なんなんでしょうね主人公と沙希の関係は…
もっと別の関係があった気もするけれど…でも、それ以上にもそれ以下にもなれず、この結末しか無かったのかな?と唸る事しか出来ない関係でした。


沙希の事ばかり語りましたが、今作の肝である薬によってラリる描写が本当に凄くて…
文章を読みながらこの狂いっぷりは決して真似できるものではない…とその凄まじさに頭を抱えました。
難しい解説とかが挟まりますがそれでもサクサクと読めてしまって…凄かったです。
ムンドゥスと現実が繋がっている事…というかまぁ薬でラリっても現実は現実であるという部分は最初から勘づく所であり、イコールになっている以上、人を殺めた主人公に待ち受けるのは…現実的な法の裁きであり…
約束された未来ではありますが、最後に学校爆破は凄まじかったです(新聞にも載っていたし、あれは本当のはず)。
牢獄の中で最後まで現実に戻る事はなく死を迎える姿は予定調和の流れで、考えていた未来が確実にやってきて凄く安心しました。
あの薬は本物では無かったらしいですが…ビタミン剤が暗示で凄い薬に変わる事があるように、主人公にとって水夜は幻覚という名の暗示をかける存在で、薬は何気ない普通のビタミン剤だったのだろうなと思います。


語る事は少なくなってしまいますが、勝俣も谷口も…男キャラも妙に濃くて良かったです。
というか谷口は悲惨過ぎる…結論から言えば主人公にも探偵にも成れず、その他のまま死ぬというのがなんとも…


時間をかなり忘れるほど現実と幻覚を楽しむ事が出来ました。
次は「さよなら、うつつ。 ~金で買える程度のハッピーデッドエンド追加版~」を予定。
公式サイトでヒロインの項目が沙希になっていますが…
主人公と沙希の「それ以上にもそれ以下にもなれなかった関係」以外の関係が描かれるのか…凄く楽しみです。