ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【蜥蜴の尻尾切り~切れないしっぽ~】感想

【男性向け18禁】



2016年01月29日発売
CYCLET』※リンク先公式HP(18禁)
蜥蜴の尻尾切り~切れないしっぽ~】(PC)(18禁) ※リンク先wiki
以下ネタバレ含めての感想です。








10作に一個は名作と呼ばれている作品を挟んでプレイしないと心が死ぬと2019年は学びました。
というわけで、この感想がいつ投稿されるかは分かりませんが、2020年の80作目は「蜥蜴の尻尾切り~切れないしっぽ~」に。
CYCLETの「蜥蜴の尻尾切り~切れないしっぽ~」のパッケージが欲しく「CYCLET5周年記念No.2 血どろパック」を購入。
ようやくお目当ての作品まで辿り着きました!
プレイ時間は約1時間くらい。


いやぁ良かった、とても良かった。
蜥蜴の尻尾切り』(※リンク先感想)プレイ済みで「蜥蜴の尻尾切り」に対して少しでも面白さを感じたプレイヤーからしたらこれぞTHE顧客が必要としていたものでした。
1時間くらいのプレイ時間の中で欲しい物が殆ど詰まっていました。
「蜥蜴の尻尾切り」で自ら命を断った幼馴染の荊が主人公の秀によって引き戻され最期まで生きる道を選んだら…というif、もしものお話。
「蜥蜴の尻尾切り」で荊を失った事により狂っていった秀を見ていたからこそ見たかった物語で、今作単体では存在しても意味を成さず、ifだからこそ成り立つ素晴らしいアナザーストーリーでした。


話自体は凄くオーソドックス。
余命半年の幼馴染の少女と共に生きて、粘膜感染系の病の中でしっかりと肉体関係を結び、自分も同じ病を抱え死ぬ道を選んだ少年のお話。
これ、全年齢作品だったら感染るからという理由で肉体関係は結ばずに最後は少女の死を看取る…という、言ってしまえばありふれた物語になっていたと思うんですよ。
そこでエロゲという媒体になった事で同じように主人公も感染し、同時に濃厚なエロシーンを何度も描写したのがとてもエロゲらしく、同時にエロゲでしか表現出来なかったなと感じました。
更に、病によって醜く朽ちていく肉体は、本編「蜥蜴の尻尾切り」やCYCLETお得意の肉体欠損系とはまた違った方向でのエグさがあり。
病でボロボロにまるで腐り落ちて行くような肉体を文章や絵で表現し、そんな肉体になりながらもお互いを求め合う…そういう描写は「こういう作風」を持たない他メーカーでは中々に出来る描写では無く、「こういう作風」を持つCYCLETだからこそ出来たメーカー特有色を生かした素晴らしい描写だったと思います。


本編では荊の為に、そして同時に荊のせいで正気を失った秀。
そんな秀が狂う事は無いままに荊を愛し続ける姿が本編があったからこそ美しく。
二人のすれ違ったりした幼い日の思い出から二人が想いを伝え合う姿、そして病があってもなお荊の手を離さない道を選んだ姿まで、最高に見たかった「二人の過去」と「もしも」が見れました。
本編ではどんな人物かも分からなかった荊ですが、今作でそんな荊の視点で進むのもGODD。
「自己犠牲」によって秀に諦めをつかせたりする優しい少女の沢山の健気な姿を彼女の視点で見る事が出来ました。


…そう、「自己犠牲」なんですよね荊も。
本編で叶も「自己犠牲」でしたが、荊の「自己犠牲」とは全く違う方向だったのだなとつくづく思いました。
荊は「自己犠牲」によって秀に新しい道を進んで欲しく、自分と切り離す道を選んだ。
叶は「自己犠牲」によって秀が叶に犯した罪で縛り付け、自分と離れない道を選んだ。
二人共「自己犠牲」ではあるのですが、「自己犠牲」によって「秀にどうして欲しいか、どうあって欲しいか」は全く別ベクトルになります。
その違いこそが叶が永遠に荊には成れないし、荊の変わりには成れない証明だなと思いました。
勿論、誰も誰かの変わりには成れないのですが、この決定的な違いが本編と今作のヒロインを分けたもので、叶が秀にとって絶対に良い結果をもたらさないヒロインであると決定付けてるなと。
叶は絶対に荊には成れず、秀を「正気」にする事は絶対に出来ず、だからこそ対になるかのように「狂い」が中心にある「本編のヒロイン」なのでしょう。
今作は今作のみではシンプルな一本道のお話ですが、本編…特に叶と荊の何が違ったのか?を比較して考えるとヒロインの立ち位置が殆どが真逆なので、対になる物語としてとても出来が良いなと思います。


だからこそ、荊の救済の物語…でも確かにありますが、同時に本編では救われなかった秀の救済の物語でもあると思います。
本編の3人のヒロインは全員が最終的に「自分の根底にある狂った欲望」を満たす事を目的にしていて、ある意味では誰一人秀の事を見てなかったように思ってて(叶は「自分の内側に入った人が離れるのが嫌」というタイプですし他2名のヒロインは最終的に「秀に対して恋や愛じゃ無かったわ…」みたいな独白があるので顕著かと)。
でも荊は違う、秀を「自分の欲望を満たす存在」ではなく秀を秀として見ている。
その圧倒的差によって、秀は今作でようやく心を壊す事無く救われます。
なので、今作は荊の救済と同時に秀の救済の物語でもあった…と思っています。


このifではきっと本編の3人のヒロインは秀という存在によって自分の心の奥底にある狂った欲望の扉が開かれる事は無く、「普通」に暮らして「普通」に人生の幕を閉じるのでしょう。
自分の欲望に気付く事は無く、それはそれで幸せかもしれません。
ただきっと、彼女達は何も解放はされず、欲望に対しての救済は無く、無自覚に息苦しい世界の中で生きて行くのだろうなと…でも、それが正常な世界なんだとも思います。
そういう意味でも「誰も狂わない世界」であり本編と対になった最高のif作品でした。
まぁ本編のような狂いに狂ったスプラッターも一つの作品としては良いのですが、誰かの人生として考えるなら、例え病があって死ぬ結末が約束されていても平穏で、二人にとっては幸せで、穏やかに死を迎える本作がやっぱり好きです。


ただ一点、ワガママを言うなら、もっと秀と荊の二人の過去が見たかったなーと…
沢山のイベント事を細かく見たかったなーと…
ifであり、1~2時間の作品なのでこれが必要な物を必要なだけ詰め込んだベストな長さで、これくらいが丁度良いのはわかりますが、やっぱり「二人の世界」をもっと見たいなーと思ってしまうのがカプ厨の運命(さだめ)。
最高だったが故にもっと「二人の世界」を堪能したかったです。


どちらにしても両方あるからこそ映えるというのがこの「蜥蜴の尻尾切り」という作品なんだと思います。
3人のヒロインが構成として面白かった本編「蜥蜴の尻尾切り」。
その本編があるからこそ対になっていて最高のifである「蜥蜴の尻尾切り~切れないしっぽ~」。
両方合わせて4~5時間くらいで終わるお話でしたが、かなり濃密なお話を読めて楽しかったです。