ひっそりと群生

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【夏に溺れる】感想

【男性主人公全年齢】



2018年07月28日配信
『辰砂 / 鳥。』様
夏に溺れる】(PC) ※リンク先ふりーむ!
以下感想です。






田舎、照りつける日差し、蝉の鳴き声、盆灯籠。
どこまでも続く幼少時代の青春の中、夏に溺れていく。





『2018年8月13日。
 主人公の神木思紋は祖母の居る広島の糸咲にある田舎へ一人向かう。
 夏の田舎を舞台に、穏やかな中で描かれる少しだけひんやりとする物語。』



プレイ時間は10分程。
短めの中で背景、音、雰囲気、とにかく「田舎の夏」がここぞとばかりに描写されていました。


主人公が小学生なのもあり、ノスタルジーというか…
「夏の田舎」というだけでも既にノスタルジーなのですが、歳の近い方言訛りの強い田舎の子供に引っ張られて行き大自然で遊んだり、子供時代の青春も感じられ、凝縮されたノスタルジーを楽しめました。



『システム、演出』
吉里吉里製。
縦書き文章。
縦書きなのが世界観によく合っています。
履歴は横書きで、それはそれで読みやすかったです。
人物には必ず読み仮名があるので読み方を忘れる事無く、有り難い配慮でした。


『音楽』
音楽も良いのですが、一番心を奪われたのはSE。
電車や駅のホームの音で都会を感じ、徐々に街の音が無くなり自然音だけになり田舎を感じていく。
蝉の鳴き声、風鈴の音、カラスの鳴き声。
無音の中に響き渡り、田舎の夏を音で感じました。


『絵』
立ち絵など人物描写は無し。
けれども、背景が素晴らしい。
上手いというよりも雰囲気に合っていて、「子供が田舎の祖母の家に行く」というコンセプト通りの背景でした。
幼少時代に感じた田舎の雰囲気をこれでもかというくらいに感じます。


『物語』
若干「~する思紋」「~した静紀」など、人名で〆る文の終わりが多いのが気になりますが、三人称で描かれた丁寧な物語でした。
お話は、起承転結しっかりしていると思います。


『好みのポイント』
「盆灯籠」
この物語の中でかなり印象に残る物ですが、どんな物かを全く知らず。
wikiで調べた所、「お盆の時期に墓に供える燈籠型の飾り。盆燈籠を墓に供える習俗は特に安芸地方(広島県西部)でみられる。」とあり、画像では色とりどりの盆灯籠がお墓に供えられ、華やかな墓場になっていました。
墓場が華やかって面白いですね。
でもその華やか過ぎる色合いが少しだけ「墓場が色とりどりの物で溢れる」であるという自分の常識を覆し、別の意味での恐ろしさを生み出し。
…恐ろしくも美しいの言葉通りを行く風景に目を奪われました。
新しい世界、文化を知れて楽しかったです。
途中のLINEのシーンも作中では画像で表示ですが、履歴でもLINEの会話やスタンプの描写が記載され、「画像だから読み飛ばした後、履歴で見ても分からない」という事も無く、作り込みが丁寧だなと思いました。





以下ネタバレ含めての感想です





田舎でほのぼのと過ごす話…かと思いきや結構鬱でビックリ。
途中で川に行く辺りで「おや…?」と思い始めましたが…こう来たか…
「夏に溺れる」夏の雰囲気に溺れるという意味かと思っていましたが、そのままタイトル通りだったのがまさかで。
途中の選択肢で話が分岐します。


「芦谷の手を握った」
から選択。
死亡ルート。
盆に田舎にお参りに行き、自分が参られる側に回るという。
三人称故にコロコロと場所が切り替わる中でも違和感が無く、残された祖母と父の親族側と霊になった思紋と芦谷側のどうしようもない諦めと切なさが夏の灯篭流しと一緒に溢れていました。
このルートで残った子供達が作った盆灯籠を祖母にあげるシーンが、子供の純真さと同時に残酷さが際立って凄かったです。
自分達が巻き込んでて亡くなった上で次の日には死を象徴する盆灯籠を作って親族に渡せるとか…子供の純真さや切り替えの速さが無いと出来ない事だなと。
お盆の夏の夜、灯篭流しと共に二つの命が静かに消えていく情景が切なさと涼しさを感じさせ、胸を締め付けられました。


「佑の手を握った」
を次に選択。
生存ルート。
少しは予想していた所が無いわけでは無かったのですが、芦谷君が子供にしか見えない…幽霊だったというお話。
彼だけ名字で妙に大人っぽかったので…もしかしたら…とは思っていたのですが本当にとは。
主人公以外には覚えられていない「芦谷君」。
ひと夏、子供の前にだけ表れる少年。
このルートを見ると、溺れたフリをしたようにも見える芦谷君がある意味で仲間(幽霊)を求めたようにも見えて。
けれども「こんなつもりや無かった」と言ったり、芦谷君だけは最初に「川は危ない」と言っていた所に芦谷君の人間では無い独特さを感じました。
彼が何者かは分からないままだったけれど、主人公は来年も芦谷君の事を思い出すのだろうと思います。


死亡ルートは最後の絵がおそらく主人公の精霊馬、生存ルートはおそらく芦谷君の灯籠なのだろうと思うとやるせなさがあります。
10分で夏を体感出来るとても良い作品でした。