ひっそりと群生

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【ムートン・ノワール】感想

【男性主人公全年齢】



2019年05月02日配信
羊おじさん倶楽部』様 ※リンク先公式HP(18禁)
ムートン・ノワール】(PC) ※リンク先ふりーむ!
以下感想です。








神に愛されたたった一人の人間を探すための猟奇物語。



『どうしてあなたたちではなく彼らが死ぬのか。その理由を300字以内で述べよ
 喜ぶといい、君たちは選ばれたのだから

 学園長のシェーファーは百余名の誘拐されてきた子どもたちにそう言祝ぎました

 彼らがこれから数ヶ月も軟禁される場所は地図にも載っていない山奥の廃校舎

 子どもたちが逆らわないよう逃げないよう、周囲を囲うのは巨体のマネキンたち

 最初に死んだのはマルテです。彼は首に縄を掛けたままギャラリーから突き落とされました

 そんな中。アドルフは祈るように、自分に言い聞かせていました。

 この世界に神様なんていない。この世界に物語なんて存在しない

 山奥の寮学校に軟禁された百余名の男の子たちが
 淡々とひたすらに殺される日常を描いたスプラッターホラーです』
(公式より引用)



選択肢無し。


最初から最後まで嫌な予感しかしない、そんな作品。
ねっとりと纏わり付く様な嫌な空気はなるほど、羊おじさん倶楽部さん特有の空気だと思います。
施設に拉致監禁される所から始まるストーリー。
施設の中で徹底して行われる教育と、逆らった者への死。
拉致されたのは子供だけ、大人は皆施設に関係する存在ばかり。
圧倒的な力の差と抑圧された環境の中、主人公、アドルフは一人無機質に特異な存在としてただ黙々と生活を続けて行きます。
最初は逆らったものだけに与えられていた死が、どんどん理不尽に意味もなく訪れていく、そんな中でもアドルフは変わらずに生き続けます。
何故この施設があるのか、子供達は何故集められたのか、常軌を逸した状況の中でも平坦でそして同時に異端な思考を持つ少年、アドルフを主人公に繰り広げられるサスペンススプラッタホラーでした。



『システム、演出』
Ren'Py製。
初めて触れた気がします、海外では良く使われているツールだとか。
初回起動が遅かったのが焦りましたがそれ以外は基本良好でした。
ただ、マウスロールで戻る履歴が履歴ではなくシーンバックだったのには驚きました。
たまに見かけますが、このタイプはいきなり来ると焦ります。


『音楽』
羊おじさん倶楽部さんの作品は「等間隔の黒い透明」「彼女は時のねじを逆向きに回した」とプレイしてきましたが…ジムノペディ本当にお好きですね!!
というよりも仕様音源がほぼ前作と一緒な気がしました。
こだわった結果なのか、こだわりが無いのかは分かりませんが、「羊おじさん倶楽部!!」という感じがして好きでした。


『絵』
立ち絵、CG無し。
背景のみで進んでいきます。
施設と表記されますが、おそらくどこかの学校が背景なのかと。
他に連絡手段の無い隔離された学校で行われる非道な殺人劇、王道ですが舞台が「学校」というだけで怖いなとも思いました。


『物語』
理不尽な世界と闇と暗さがこのサークル様らしいです。
特にあらすじで言われているのでおそらくこの作品の売りでもあるスプラッタホラーの部分…殺人の部分なんかの描写は綿密過ぎて焦りました。
グロ耐性ありますが、かなり丁寧に痛々しく表現されており始終痛い気持ちを味わいました。
自分の背骨も軋みそうでした…
そして、拉致監禁を認めてしまう社会の治安の悪さにこの作品の世界の根底の酷さを感じたりもしました。


『好みのポイント』
マネキンさんなどはかなり???な設定ではありますが、スプラッタホラー…に見えて……なラストが結構好きです。
この手のタイプはいくつかプレイした事はありますし、その中ではラストにいきなり持ってきた感は否めませんが、やっぱり好きだなと思いました。





以下ネタバレ含めての感想です





神に愛されたアドルフ。
私達はゲームのあらすじやHPの紹介などでアドルフが主人公である事と、この作品がスプラッタホラーという事を分かってプレイする人が殆どなんですよね…まぁ中には何にも触れずプレイする方もいらっしゃるかとは思いますが。
スプラッタホラーの時点で残酷な事が起こるのが分かり、序盤で当然のように拉致監禁された設定が出て当然のように人が死ぬので序盤から情報無しでプレイしていてもこの物語の方向性にはなんとなく気付くと思います。
ダメな人はここでゲームを切って実験を永遠に無き物にしますし、大丈夫な人はそのまま進めると思います。
そしてアドルフが主人公と分かった時点で「彼は何があってもきっと死なないだろう、死ぬとしてもギリギリのラストだろう」とある程度の物語の予想を立てます。
まさに神(の視点)に愛されるアドルフ。
たまに主人公が死ぬスプラッタホラーもありますが、それでも彼が主人公とされた時点で彼を中心に話が進み、彼の感情が中心となって物語が描かれプレイヤーに伝わります。
そして見事に実験は成功し神を降臨させた…こんなクソ野郎に降臨されるのは癪に障りますが、そういう事なんでしょう。
残酷でクソ野郎だなと思いますが彼の言う「だってそのほうが面白いだろう?」に全てが集約されるとも思います。
心のどこかで面白いと思ったから、心のどこかで続きが気になると思ったから、苦しさよりも楽しさの方が勝ったからこのEDまで辿り着いた。
耐えられない…となったのならこの台詞まで到達していないはずなので…プレイヤーの残酷さも見透かして見せつけてくるようで癪に障りますが、えぇそうです。
作中何度もアドルフに対してこの状況に対しての恐怖心が無く人形のように感じたり人智を超えた恐ろしさを感じていましたが、アドルフが他人事だったのはそれはプレイヤーが当然のように他人事だったからで…きっとプレイヤーの自分も残酷な人間として物語を見ていたのだなと…
こういう風に自分を抉られる系のお話は向き不向きは大きいと思いますが自分は好きです。
エンドロールの「あなた」とか意地悪だと思います。


この物語のその後が描かれないのは神に愛される存在を見つけた上でプレイヤーが実験の真相を知り「もうこの物語に用は無い」と見切りを付けたのか「こんなクソ国家(?)に神として力を貸してやるものか」と見切りを付けたのか。
どちらにせよ、その後が描かれない時点でこの実験は大失敗で、ひょっとしてED後にアドルフには死が待っているのかもしれないと思うと…羊おじさん倶楽部さんの残酷さが出てるなぁと。
物語としてはカフカ少年がとても好きでした…この実験やこの設定で行くと、選択肢があって「どちらを主人公に見るか」などの分岐があっても良かったなとは思います。


タイトルのムートン・ノワール…黒い羊皮(?)はアドルフの事だったのかそれとも犠牲になった他の子供達か、はたまた他の何かか…その黒は果たして何が黒くなったものなのか…
どこか息苦しい黒い霧に包まれながら淀んだ泥の沼の中をゆっくり歩いて行くような感覚に陥る羊おじさん倶楽部さんの作品。
今回もその沼の中を歩き、なんとかEDに辿り着く事が出来ました。
2、3時間で終わる物語ですが、エグエグしいスプラッタ表現やまさかのSFエンドを味わう事が出来楽しかったです。
「さよなら、うつつ。」「音無き世界その代わり」が未プレイなのでいつか触れたいと思いました。