ひっそりと群生

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【義妹ホールと妹ホールド】感想

【男性向け18禁】



2012年08月11日発売
夜のひつじ』様 ※リンク先公式HP(18禁)
義妹ホールと妹ホールド】(PC)(18禁) ※リンク先DLsite.com(18禁)
以下感想です。








自分の居場所を保ち続けるのは、難しい。
人は誰かの居場所を奪いながら生きているのかもしれない。



『新しく妹ができた。
 金髪がトレードマーク、噂の不良少女。

 離れていた妹も帰ってきた。
 変わらない笑顔、懐かしい距離感。

 だけどさっそく対立し始める?二人の妹。微妙な空気。
 千穂と真夜――あなたはいったいどっちをとる?

 妹と妹に挟まれて、お兄ちゃんの懊悩煩悩ADV!』
(公式より引用)



孤独に効く百合』『親友が美少女になって帰ってきた。』『恋妻くずし』(※リンク先感想)から続き夜のひつじさん作品プレイ。
こちらは久々に夜のひつじさん作品初プレイになります。


プレイ時間は3時間くらい。
EDは2つ。
千穂ルートと真夜ルートに分岐。
どちらも「自分の居場所」という物がとても重要視され、それぞれが抱えている「居場所」や「立ち位置」の悩みが丁寧に描かれていました。
小さい世界で、けれども彼らにとっては世界の全てで。
三者三様、奪って奪われ、譲歩して諦めて生きていくのだなと…そんな風に思いました。



『システム、演出』
吉里吉里製。
システムでは本編中不便に思う所は無し。
音声とSEの音量が分かれていたのもGOOD。
ただ、数箇所メッセージウィンドウから文字が溢れた箇所があり、履歴で確認は取れましたが少し残念でした。


『音楽』
夜のひつじさんでいつもお聞きするmadetakeさんのピアノ曲は本当に夜のひつじさんの世界に文章にマッチしていて美しいです。
繊細な心を持ったキャラクター達に寄り添うように音楽が奏でられていました。
ボイスは千穂役の涼風さんは単純に声質が好みです。
真夜役の涼貴さんは若干作った声なのが気になりましたが真夜らしさはあるのと演技はお上手で、真夜が所々で「全てを諦めている」かのような声色になる時の演技は流石でした。


『絵』
鼻が無い所など若干クセがある絵柄をしているかも。
でも欲しい時に欲しいCGはあったのと、立ち絵も豊富で見ていて飽きる事はありませんでした。


『物語』
読みやすい上に心情が分かりやすかったり繊細でちょっと面倒な人達の描写がたまらなくお上手で。
「いつもの夜のひつじ節」という感じでした。
そういえば夜のひつじさんで初めての「妹物」は今作だったみたいで。
今までこちらは辿って来なかったので夜のひつじさんの思い描く「妹」に触れられて良かったです。


『好みのポイント』
どちらのルートも表現が良いのですが、千穂ルートのラストの河原のシーンは凄く好きです。
父親の「子供」という「居場所」に対して「嫌いになってはいけない物を嫌う」という流れが…
離婚も再婚も親の勝手で、振り回される子供という物の描き方が凄く丁寧で。
決して鬱でも冷めている世界では無いのですが、辛さの描き方が素晴らしかったです。





以下ネタバレ含めての感想です





全体を通すと千穂は「主人公と真夜の歪な兄妹関係に巻き込まれるけれども居場所を一つ得る話」で真夜は「千穂を巻き込んで行くけれども居場所を一つ失う話」だったように感じました。
千穂ルートだと千穂が他人の家族に割り込む事になり新しい家で自分の居場所が分からなくなる部分や、ラストの方で実の父親にはもう再婚相手との子供が居て実の父に対しての「子供」という居場所で悩むという「居場所」に関してはかなりの王道物としてストーリーが進んだりEDを迎えたりするのですが。
真夜ルートだとかなり異端…というかもう既にアレコレ関係を持っている兄妹の間に千穂が入ってくる物語になって。
日常の行動や千穂ルートのエピローグの「私だけはじめて」で察したのですが、主人公と真夜は既に兄妹を越えた関係で。
そんな二人の間に千穂が入ってくる。


思ったのですが、夜のひつじさんは作中ハッキリと家庭環境など背景を描かれませんが、今作の背景には「離婚と再婚」という物が存在していて。
それってかなり親の勝手で子供を振り回す行為で…
そう考えると主人公側の両親も千穂側の両親も決して良い親とは言えず。
そう思った時にハッキリと描かれていないし暗くも描かれないけど、この家の家庭環境はかなりガタガタなのではないか?と思いました。
作中でも主人公は真夜しか隣に居なかったような事を語りますし…
そう思ってくると主人公と真夜がこの家の中で信頼出来るのはお互いしか居ない…というような考えに行き着くのも納得できて。
兄妹であるのに愛してしまい肉体関係を持ってしまった。
でも主人公も真夜も「してはいけないこと」というのを理解した上で関係を持っていて…
だから例え歪でも「兄妹は肉体関係を持つもの」として納得している所があり。
でもこの二人は肉体関係を持っているしそれを納得しながら続けているけれども、それを"正しい"とは思っていないように見えて。
最初は真夜がしきりに千穂と主人公に肉体関係を結ばせようとする理由が分からなかったのですが、ひょっとして真夜は正しく主人公と兄妹であろうとした為に肉体関係の方を千穂に明け渡し、「妹」として在ろうとしているのかな?と思いました。
もしくは千穂が来た事で今まで兄を「肉体(恋人)関係」でも「妹」としても独占してきたけれども、その片方を必ず捨てなければならないと思った真夜はせめて「妹」の立ち位置を守り通す為に千穂を引きずり込んで行ったのかな?とも思いました。


そう考えるとこの物語はどちらのルートに行くかによって「恋人」と「妹」をそれぞれに振り分ける物語にも見えて。
千穂ルートに行くという事は千穂を構い続ける事で主人公は千穂の境遇を知り受け止め恋愛感情として結ばれ、真夜は「妹」のまま、千穂は主人公の「恋人」という立ち位置を得て。
真夜との「恋人関係」は失いますが、主人公と真夜が持つ「肉体(恋人)関係」と「妹」を両立した歪な兄妹関係は解消され正しい型に嵌りEDを迎える。
そして真夜ルートに行くという事はどんなに真夜が千穂を引きずり込もうとしても主人公は真夜を構い続け、どう足掻いても真夜に対する恋愛面での大切さを捨てる事が出来ず、真夜を恋人のまま、千穂を「妹」として扱う事になり…
千穂は主人公の「妹」の立ち位置を得て、真夜は「妹」は失いますが「恋人関係」を得る事になる。
…けれど、真夜は肉体方面ではどう足掻いても主人公の妹から逃れられない為、千穂に自らの「妹」の立ち位置を明け渡しこの兄妹間での「肉体関係を持つ兄妹」の立ち位置に千穂を持ってくる事で主人公と千穂は兄妹に…千穂は「肉穴妹」なり、真夜は「恋人妹」になるのだと思っています。


千穂の方でEDが流れるので、こちらが(実の兄妹じゃない分様々な世間のイザコザも発生せず)正史だとは思いますが…
「恋人妹」を真夜に「肉穴妹」を千穂にするNormalEDもキャッチフレーズやタイトル的には正しいような気がしました。
EDが流れる方が王道物語としての正史だとは思うのですが、NormalEDの方が夜のひつじさん的には言いたかった事なんだろうなーとも思い。
こういうのが本当にニクいです。


決して鬱ゲーでは無いのですが、主人公と真夜が結ばれるのはこの世界観では中々に難しそうで…
キャラクター的にはツンツンデレの千穂が好きですし、EDや物語的にも「新しくやってきた千穂と関係を築く話」として千穂が正史でオーソドックスな物語だとは思いますが、既に関係が出来上がっている真夜も…
明るくキャピキャピに見えても絶対に無理な物はわきまえてて、時々見せる全てを諦めたような声色や言葉がたまらなく良いな…と思ってしまいました。
「勝てない勝負はしない」ってそういう事なのかなと。
真夜は要領は良いし人当たりは良く生きやすそうに見えるけれども、世界や物語から愛されているのは千穂なんだな…と思う部分があり。
おまけの「-418日」を見ても真夜と幸せな今後を迎えるビジョンはあまり見えず…
実の妹は実の妹のままなのだな…と凄く思いました。
実の妹でも別に良いじゃんと思う派なのですが、この作品の作風では一緒になるのが難しそうにも感じるので、そういう「この世界観では難しい」みたいな見せ方が本当に上手いなと。


結局、究極的に千穂は今まで持っていなかった「恋人」か「妹」を得る事が出来て、真夜は今まで独占出来ていた「恋人」か「妹」を失うんですよね…
「居場所を得る」「居場所を失う」とはこういう事なのかな…と凄く思います。
ひとつ分の陽だまりにふたつはちょっと入れないんですね…BU◯Pの歌詞のようだ…
あと、今後の作品でも出てくる事なのですが、夜のひつじさんは「人に迷惑をかける」という事に対して強い気持ちがあって一家言ある人だなと。


既に関係が出来上がっている兄妹や「妹」という立ち位置、そして「自分の居場所」という物を丁寧に繊細に描いた夜のひつじさんらしい作品だったと思います。
読んでいてスッと入ってくる文章は本当に素晴らしかったです。
次回は既プレイですが「幼馴染と十年、夏」に触れたいと思います。