ひっそりと群生

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【パーソナル・スペース】感想

【一人称全年齢】



2020年08月08日配信
『春根利馬』様
パーソナル・スペース】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








いつか、宇宙で、また会おう!



『2140年、生命の滅んだ惑星──。
 主人公の調査員は、その惑星内で古びた宇宙船を発見する。
 船内にいたのは、意思疎通が不可能な状態になっている一人の少女だった。
 彼女は特別な技術で作られたコピー人間で、その余命は風前の灯火だった。
 主人公は時系列が散らばった彼女の120年分の記録データを確認していき、彼女が今日まで生きた足跡を確かめることにする。』
(公式より引用)



プレイ時間は約2時間30分くらい。
一本道。
一部チャプターを回避し進む事が可能ですが、全部見た方が良いと思います。
全35チャプター、3つのチャプターはクリア後に閲覧可能。


初恋は年齢天秤の中で』(※リンク先感想)を制作された春根利馬様の2作目。
主人公が惑星の調査中に見つけた少女と、少女の宇宙船で見つけた35個のバラバラになったデータ。
バラバラのデータを一つづつ見て行く事で、彼女は何者なのか、ここはどこなのか、そして、この宇宙で何が起こったのかを知っていく事になります。


彼女の約束と願い、そしてその結末。
彼女の歩んだ120年間はとても平穏と言えるものでは無いのですが、それでも、彼女の生きた120年には意味があり、35個のチャプターとして点が存在する。
35個…120年にしては少なそうには見えますが「点は線で結ばれる」「星と星と結び人はその間の線で物語を作る」ように35個の星をいくつもの線で繋ぎ、プレイヤーがその空白に沢山の物語を思い描けるような。
「この世で最も広いモノは想像力」
35個の話を紐解きながら、その空白をも各々で補い楽しむ事も出来る、そんな物語でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本は揃っていますが、オートモードのみ無し。
チャプターはかなり細切りで切られ、1チャプター3分~5分ほどなので非常に読みやすかったです。


『音楽』
BGMではOPのピアノ曲が印象に残っていますが、音としては無音の中に流れるノイズや機械風音などが印象に残っています。
宇宙の中では無音とは言いますが、宇宙に行った事のない自分としては機械的な音がある事で逆に宇宙を感じる事が出来、とても良い効果音でした。


『絵』
欲しい絵は揃っていました。
全ての登場人物に立ち絵があり、見た目が綺麗に反映されています。
途中の宇宙の背景も…フリー素材なのか有料素材なのかは不明ですが、「宇宙を漂う宇宙飛行士」の背景とか格好良いな…と見惚れてしまいました。
様々な表情をみせるようになる少女ですが、少女の生い立ちから個人的に少女の泣き顔が印象に残っています。


『物語』
文章は読みやすかったです。
ただ、一部の漢字が日本では見かけない書体をしていたような…普通に読めましたが少し気になりました。
35個のチャプターの時系列はバラバラで提示されるという流れに時系列で頭が混乱しそうに見えますが、所々で主人公が話の整理をしてくれるので非常に分かりやすい物になっています。
クリア後には全チャプターを一覧で見る事が出来るので、時系列を正しく組み直す事が出来、痒い所に手が届く仕様でした。


『好みのポイント』
公式に名前が出て無いので伏せますが、少女と共にずっと居たとあるキャラクターが凄く好みでした。
性格や言動も好みなのですが、なによりもそのキャラクターが放つ言葉がかなり物語の的を射ていて。
純粋だからこそ真理に触れられる、触れた事を言えるというその行動そのものが「宇宙」だなとなんとなく思いました。
「宇宙とは案外簡単なものかもしれない」…本当にその通りで、純粋であればあるほど近付けるモノなのかもしれないです。





以下ネタバレ含めての感想です





ネタバレになるので上記では書けなかったのですが、ラズリ、とても好きです!
彼女の「宇宙こそが、あたしたちが最後に帰る場所だからじゃねえの?」というセリフが本質を突いていたり、最後に「――宇宙の中で、また会おうぜ!」と〆ていたり、とても美味しい役どころだと思います。
主人公はシロエで「私」はプレイヤーに近い視点だと思いますが、ラズリは語り部みたいな立ち位置だなと。


「パーソナル・スペース」というタイトル、本当に素敵だなと思います。
シロエの機能の「パーソナルデータ」とおそらくその記憶領域に踏み込ませるスペースという意味もあり。
その記憶領域に踏み込めるのはラズリとクロハの遺伝子のみであり。
そして、ファンビル人が踏み込んでしまった人類の領域でもあり。
おそらくスーパーセルは物理的に人間のパーソナルスペースに入らないとコピーを作れない存在で。
「他人に踏み込まれたら気持ち悪い領域」「親しい人にしか許せない領域」であるパーソナルスペース。
本作はそのパーソナルスペースが沢山の存在の「領域」にかかっていて、非常に印象深くタイトルと紐付いていました。


私達には個々のパーソナルスペースが存在する。
個は個体でしか存在出来ない、例え同じようにコピーを作っても同じモノにはなれない。
けれど、個々は線と線で繋げる事が出来、その線は空想では…「想像力」ではいくらでも間の関係を考える事が出来る。
個でしか存在出来ないし、その存在は小さく限界があるけれど、線で繋げて「想像」する事で無限の宇宙と同じになれる…そんな気持ちになりました。
広く見ると壮大な生命讃歌だったような…
「そんな壮大…か…?」と言われそうですが、これは私の「想像力」の結果なので、これもまた一つの「宇宙」だと思って下さい(笑)


彼女と彼の物語は、35チャプターのうちで語られるように、シロエとクロハは出会えず、クロハの子孫と出会うというものですが、クロハの死体が出ていない以上、もしかしたらクロハが生きている可能性も0%では無くどこかにあって。
クロハ自身がなんらかの形で生きていたり、もしかしたらクロハはスーパーセルに取り込まれてて、もしかしたらコピーが出来てて、もしかしたらどこかでそのコピーが生きてるかもしれない…とそんな「線」での可能性も考えたりしました。
「線」が「点」として描かれない以上、「想像」はきっと自由だと思うので…どこかでシロエと再会出来たら良いなと想像では思います。
でも、出会って欲しいと願いつつも、決して出会えないという所にもロマンがあるとも思うので…中々に難しいですね…
シロエが生き抜くのか死ぬのか、クロハが本当に死んでいるのか生きているのか。
今後出会っても出会えなくても…それでも「また会おう!」。
広大な宇宙の中での彼女、彼のお話はとても素敵だと思います。


うん、ロマン、まさにロマン。
宇宙を題材にし、分かたれた恋があり、数々の近未来的技術があり、そして作中では出会えたなかったけれど、彼女は彼の子孫と会う事が出来た。
宇宙、冒険、探求、恋、全てがロマンに溢れ、心を擽るような作品でした。