ひっそりと群生

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【ドブ川に散りぬ初恋の】感想

【乙女18禁】



2020年05月02日発売
サキュレント』様 ※リンク先公式HP(18禁)
ドブ川に散りぬ初恋の】(PC)(18禁) ※リンク先DLsite.com(18禁)
以下感想です。








自分の汚さや人間味を棚に上げ、相手の穢れの無さと神聖さを中途半端に信じ、エゴとエゴがぶつかり合ってしまい起こった悲劇。



『子供の頃から凄惨ないじめに遭っていた少女・風早秋奈。
 年月を経て大人に成長した彼女は、
 傷ついた心を抱えて初恋の少年・榊春一彦へ会いに行く。
 寂しい者同士で寄り添っていた二人は、再会してまた心を開き距離を縮める。
 「ずっと好きだった」
 ふたりの気持ちはようやく通じ合う。

 しかし秋奈が別の男性と交際していたことを知り、春一彦は感情の濁流に呑まれていった。』
(公式より引用)



プレイ時間は約1時間45分くらい。
選択肢無し、一本道。


サキュレント様の作品は3作目プレイになります。
相も変わらず文章からダイレクトに感じる生き辛さと息苦しさが凄まじく、同時にクセになります。
読み進めている時や、読んだ後にうわーーーーーっとなりました!うわーーーーーっ!!!


起こった出来事はあらすじでほぼ説明されているのですが、そのいじめの内容や過程、そしていじめにより二人がどうなったのか。
二人が再会し何が起こるのか…
話の流れ自体はあらすじで察せられるのですが、因果と結果が事細かに文章で説明される上に、それに挟まる秋奈の心理や秋奈から察する事が出来る春一彦の心理や間が本当に絶妙で。
読んでいて常に過呼吸になりそうなほどに自分の身の回りだけ空気が薄くなるように感じる一作でした。


「処女じゃないなら――死んでくれ」
本作はこのパワーなワードがキーメッセージなのですが、このメッセージから内容が全く逸れていないのが本当に素晴らしく。
純潔とは何か、自分が醜い人間なのを自覚し相手に神聖を求めると何が起こるのか。
お互いに相手を盲信してしまっていた二人がお互いの人間性に気付き、神聖が崩れていく姿が見ていて辛く、同時にとても我儘で傲慢で…
相手の神聖をお互いに盲信しながらもどこまでも人間味に溢れた二人のお話でした。



『システム、演出』
NScripter製。
NScripter様々、読むために必要な全ての機能が揃っていました。
文字表示速度fast設定で0秒で全文瞬間表示されるゲームが久しぶりだったので読んでいて非常にサクサクと読めました。


『音楽』
BGMは5曲。
どれもしっとりとした曲で話を邪魔する事なくBGMとして大変良かったです。
「相哀れむ」が好き。
声は全員お上手で。
今谷さんはもう…流石でございます。
同じシナリオライター様の「パコられ」「ニルハナ」でお聞きしていましたが、慟哭が…慟哭が本当に良くて。
いじめシーンでの慟哭は聞くだけでヒエッとなりました。
幼少期春一彦のそらまめ。さんの最初の叫びもウオッとなり、最初から凄さがあって。
少年…だけれど明るいタイプではなく思慮深過ぎて色々と大変そうな少年声を非常に上手に演じられていらっしゃいました。
胸板鉄板ミートさんも、中学生から大人までで声の低音は変わりながらも話し方は変わらず少年らしさがあり。
変わる事が出来なかった感じが非常に春一彦らしさがありました。
中学生あたりから急に声が変わるのが良いですね…声変わりする少年の演出、好きです。


『絵』
本編で絵は無く背景のみ。
背景の加工が好きでした。
写真の白黒にならない程度に色彩を限界まで抜いてギリギリで何が写ってるか分かるくらいの加工が二人の住んでいる場所への良い意味での愛着の無さを感じ。
川だけがいくつも角度を変えて表現がある所がタイトルにもあるように特別な場所を意識させられました。


『物語』
文書は短く簡潔で、けれど確実に心を穿つような言葉が選び抜かれていて。
サキュレントさんの文章は読んでいて呼吸が苦しくなります。
二人がせめて一旦分かたれた後も交流があったら変わったのかなーと思いつつ。
いや、交流があっても二人はあの場所からあのまま動けなかったんじゃ…という気持ちにもなりつつ。
一旦分かたれたからこそ二人は先に進めたんじゃないかな?と思います、良い方向で進んだとは決して言えませんが。
でも停滞しているよりかはマシ…なのかな?
うぅん、どうなんだろう…信仰は知らない方がマシな事で溢れかえっていますね。


『好みのポイント』
秋奈も春一彦も、自分を棚上げしながら相手に美しさを押し付けている所が人間らしいなと思います。
本当はどちらにも聖性は無いよ、みたいな所が非常に好きです。





以下ネタバレ含めての感想です





まず秋奈、非常に心理が分かりつつも、「嫌な女だなー」とは思います。
良く言えば繊細、悪く言えば女の情念に溢れたキャラ。
「自分は醜いと思っていて、だから相手には美しくあってほしい」。
この気持は凄く分かる。
自分に触れた物が醜く感じる…みたいな、そういう。
だから、春一彦には自分に触れてほしく無くて綺麗なままで居て欲しい。
でもそれって、春一彦からすればたまったもんじゃなく。
作中でもあるけど春一彦の男の部分を尽く否定して手折ってるようなもんで。
その上で春一彦から離れたら別の男を作る事が出来て…というかむしろ春一彦ではない男なら身体も繋げられる。
「自分は人間で醜いから、綺麗じゃない春一彦以外の他の男に抱かれても良いし、付き合う事で「普通」になれる気がする」
…なんだかんだ自分の醜さや人間性を棚上げして、醜い醜いと言いながらそれを楯に生きてる感じが非常に浅ましく人間らしい。
秋奈は「春一彦は綺麗なままで居て欲しい」と思っていて勝手に聖性を押し付けて離れて大人になってもなお支配していたのもまた…こう…「女」だなぁと。
春一彦は別に美しくあろうなんて思って無くて、むしろ自分も醜いと思っていて。
春一彦の望みはきっと「自分こそが秋奈を「普通」にしてあげられる存在になりたい」…まぁ要するに初めて抱く男になりたいと思っていただろうから、お互いがお互いに押し付ける聖性がすれ違い過ぎててとにかく悲惨。
互いが互いに神を押し付けていて人間らしい男女の関係から外れているのが非常に悲惨。
確かに秋奈のいじめによって女子に膣に指を挿れられた出来事は女性性を傷付けるものだったと思う。
でも、春一彦の再介後、あの険悪な流れの中で昔の出来事を楯にして「あの時はこういう風に傷付いていたのよ!」とかいう行為は本っ当に「女のズルさ」を感じて「あばばばば」となりました。
確かにあの出来事はトラウマで汚されたと感じた一件だろうけど、どうして起こった時すぐに言わなかったのか。
中学生だし言えなかったのも分かる、でもそれを後になってからあの状況で言うのはズルい…ズルいよ…そりゃ春一彦も言葉に詰まるわ。
もう少し相手を信頼してあの時に起こった事をちゃんと春一彦に言っていたら…もう少しは人間らしい二人の関係になっていたのではないかな…と。
神には懺悔をするという行為があるのに、秋奈は春一彦という神には懺悔すら出来なかったのですね…とても中途半端な信仰で何もかもが中途半端な聖性の押し付けだと思います。


春一彦についてですが、彼もまた信仰し過ぎて秋奈の事を人としては見ていなかったなとは思います。
自分が信仰していた相手が穢れていると知ったら即切り捨てる。
まぁ、ね、分からなくも無いです、それは辛い。
自分は秋奈に「普通」を与えられなかったのに、見ず知らずの男は与えられたのかという絶望。
だから信仰を放り捨てた。
現代の面倒臭い処女厨を体現したような人ですが、過去が綿密に描かれてる故に説得力がある。
彼もまた面倒な男の具現化みたいな存在。
幼い頃から綺麗だと思っていて美しさを貫いていて欲しかった、神聖視していたものが汚れていたら…まぁ憎くもなる。
でも、もう少し秋奈の事を人間として見ていて、自分の欲をぶつけても嫌わないで居てくれると信じていたら…秋奈はいじめでのあの一件を春一彦に話したのではないかな?と思ってもしまいます。
「どんな私でも受け入れてほしかった」みたいな秋奈の言葉こそが本当に秋奈が求めていたものそのもので、それが出来ない春一彦も彼女を人としては見てない事を如実に表していて。
彼もまた「男の汚い部分を見せたら秋奈に嫌われるだろうし、汚してはいけない」と思っていた部分が強いのを思うと、そりゃあ秋奈を汚せないし、汚す覚悟は春一彦には無いよな…とも思い。
秋奈だけは他の人間とは違うと人と切り離し聖性を信仰し一歩引いていた彼は、秋奈を人間扱いした顔も知らない秋奈の彼氏には人間の部分で勝てなかったよな…と。
良くも悪くも少年から成長出来ず、男になりきれてなかったなと感じる所が大きいです。
だって性行為って男が汚すとか女が汚すとかそういうものではなく、人間がお互いに汚し合ってある意味自分の今の生を捨て新しい命を産む行為なんだから、自然界なら性行為で死ぬ動物も居るくらいですし。


本当に、この話の悲劇はお互いを人間扱いしてなかった事に限ります。
もう少しお互いを人間として見ていたら変わっていただろうなーと思うのと同時に、お互いに自分は醜いと思いながら相手を神聖視していたから二人のあの美しい世界はあったのだと思うと…難しいですね。
それこそ春一彦が言うように「過去の男を言わなければ良かった」とは思いますが、それはそれで秋奈の人間としての罪悪感が許せなかったと思いますし。
もう少し相手の人間の部分を信頼して中学のいじめでの秋奈のあの女子からの一件を春一彦に話せていたら…とはやっぱり思います。
あそこがターニングポイントで…二人の関係がもしかしたら変れたかもしれない場所だと思うので。


最後に、R18作品として個人的な性癖で言うなら童貞×非処女の組み合わせは好きなので最高に滾りました。
春一彦が上手く出来ず唸って、秋奈が騎乗位でリードするシーン大変好きです、痛々しいシーンですが。


あと、キャストコメントの今谷さんの最初の素の雄叫びから「逆を言うなら童貞は生きろ!という事」「処女も死ねー、童貞も死ねー、非処女も死ねー、非童貞も死ねー」「信仰心が足りてないんじゃないの?」「処女も生きろ!童貞も生きろ!非処女も生きろ!非童貞も生きろ!」の流れが最高に面白過ぎて爆笑させて頂きました。
しんみりとしていた中、気持ち的に下がった心をグイッと持ち上げさせて頂ました、とても素晴らしい清涼剤でした、有り難うございました。