ひっそりと群生

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【深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to】感想

【男性主人公全年齢】



2020年08月29日配信
『Plastic Tekkamaki』様
深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








大事な事は、一番最後に。



『根暗な兄妹がどうでもいい世間話に興じながら深夜の町を散歩するだけのお話。
 選択肢なし。
 Lofi Hip Hop付きの短編デジタルノベルです。』
(公式より引用)



プレイ時間は約1時間15分くらい。
分岐無し。


実家でオカルトライターをしている佐倉坂新の元へ妹の佐倉坂括弧が一日実家帰りしてくる。
久し振りの再会。
再会した昼に括弧が借りたレンタルDVDを一緒に返す為、二人は話しながら深夜の地元を一緒に歩く事に。


兄妹の再会とタイトル通り深夜の徘徊劇。
主人公の新が中学の時に両親が亡くなっている事もあり、二人は兄妹らしくあろうとしながらもお互いに迷惑はかけまいとする独特な距離が築かれていて。
ただ淡々と世間話や今の自分の近況、そしてそのつど目に入る物で会話を繋げ、とりとめのない事を話していきます。
括弧は新が心の中で語るように独特な感性を持っていて様々な事に対する感想や話の飛躍の仕方がとても個性的なのですが、どんな話題でも呆れながらも必ず付いて行ける新。
そして本人もまた独特な感性を持つ部分もある新と、その感性に必ず付いて来れる括弧。
兄妹のお互いに独特な所がありながらも長年の関係から"分かってる"感があり。
それにより構築される空気と深夜の地元の徘徊というシチュエーションが、夜のヒヤリとした空気を感じながらも心地よかったです。



『システム、演出』
ティラノ製。
オートモード以外の基本性能は有り。
履歴から右クリックで戻れない所だけは不便でした。
文字や背景の出し方やキャラ(登場キャラは括弧のみですが)の出し方などがレトロゲームを感じさせ、「故郷の町に帰ってきた妹」という部分も重なり、どこかノスタルジックを感じました。


『音楽』
Lofi Hip Hop、音楽のジャンルには詳しくないので、本作で初めてジャンルとして知りました。
「古いジャズやソウルからサンプリングされた上ネタに、レイドバック感のある“ヨレた”ドラムで構成されたヒップホップを指す(ことが多い)」
調べて出てきた説明と、本作の音楽でなんとなく理解。
お洒落だけれどどこかヨレている…ポワワンとした感じが耳に残る曲が全体を締めて、昼間では味わえない深夜の町に出かける時の不思議な高揚感にとても合っていたと思います。


『絵』
背景もキャラもどこかレトロで描かれていて。
若干暗い緑がかった色彩でのみ配色され、ちょっとした暗さと静けさがありました。


『物語』
文章は読みやすく。
けれどどこかこの兄妹が少し周りから浮いているのだろうなという事を感じ取れるような二人の独特な感性が描かれ。
この世界の中でお互いだけが理解している。
けれど、同時に他人よりも遠い…
そんな絶妙な距離感が会話の隅々から感じました。



『好みのポイント』
両親を早くに失ったという背景もあり兄妹の本作で描かれる距離感が絶妙にリアルに感じると同時に、「いつもとは違うぎこちなさ」がどこかに漂っていたのは凄かったです。
この兄妹は本作でしか登場せず自分も本作で初めて見た兄妹だったのですが、「いつもの佐倉坂兄妹」を知らなくても、この深夜徘徊時この兄妹に「いつもとは違う空気」が流れているのを感じて。
彼らの会話の隅々から「この話題はいつも話している話題なんだろうな」とか「この話題はあまり話さず、今珍しく話しているのだろうな」など…そういう「いつもの事」と「いつもとは違う事」というのがなんとなく察せられる会話作りや空気作りが非常に上手かったです。
そして途中、主人公の職業もあり町で過去にあった殺人事件の話やホラー系の話題やホラーな場所の外観撮影などもするのですが兄妹の間から発せられるどこかダウナーで気だるい空気の方が勝り、深夜に心霊スポットに行くのに全くホラーを感じなかったのが凄いと思いました。





以下ネタバレ含めての感想です





あらすじ通り兄妹の深夜の徘徊の物語、どんでん返し!なども無いのでネタバレも何も無いのですが。
この兄妹が両親を早くに失い、お互い兄妹らしくあろうとしながらも迷惑はかけないように一定の距離を保ってきた…というのがお互いの結婚の話題が出た時に顕著になって好きでした。
兄の結婚も離婚も知らなかった妹と、妹の結婚も恋愛観も知らなかった兄。
お互いそれぞれに事情がありそうですが近親者にたとえ式を挙げていなくても自分の婚姻関係を全く話していない所が「この兄妹の距離感」なんだな、と思えて。
この距離感がとても二重に感じ取れて。
「普通の兄妹よりも気にしながらあえて離れた距離に居る」か「遠そうに見えて実は普通の兄妹よりも気にし過ぎな距離に居る」…少なくとも一般の兄妹より意識しまくりな兄妹だとは思うんですよね。
恋愛の話になった時の気まずさは別れた恋人のような空気も感じたり…自分の気のせいでしょうか?
それとも一般の兄妹で恋愛の話題が出るとこんな空気になるのでしょうか。
父親の心配のような元カレの心配のような、けれどどこか他人の心配のような…どこ目線の心配かが絶妙に分からない所が兄の複雑な心境を物語ってたような気がします。


「恋愛の話題」も普段はここまで踏み込んで語らないというのが会話の節々から感じ。
「括弧は大事な事を後回しにする」と兄が理解している通りに「大事な事」…同性との結婚を最後の最後で打ち明ける姿が兄の妹に対する"分かり"を感じました。
自分も離婚していた事を隠していたし…と言いますが、納得しながらも若干動揺している姿が兄らしいです。
そして相手が同性である事よりも「妹が結婚する」という事実の方に動揺しているのが、主人公が本当の意味で理解ある兄なんだなと感じ、良い距離感の兄妹だなと更に思いました。


括弧は結婚を告げ、再び大学に戻り、また日常が戻ってきて…
その静けさはまるで台風一過のようで。
プレイ時間では1時間くらいで、たった一日の当たり前のような妹との再会が描かれていましたが、深夜の徘徊というシチュエーションもあり独特な空気感でとてもドラマチックな再会と会話が描かれていました。
自分も、自分の会話の空気を分かってくれる気心の知れた人と深夜の町を話しながら歩き回りたいと思える話でした。