ひっそりと群生

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【うみをはむ】感想

【乙女全年齢】



2020年07月10日配信
背泳』様 ※リンク先公式HP
うみをはむ】(PC) ※リンク先ふりーむ!
以下感想です。








いつかまたこの海で――。



『ディネイ国は大陸から離れた小さな島国。
 主人公は、ディネイ国に古くからある信仰、“ファダム”の守り手として国から寺院の管理を任されている。
 そんな大層な名目とはかけ離れた泥臭く平凡な日々の中、寺院で働く従業員の『健康指導』も管理者の責務の一つであるとして、指示がやって来たが……。』
(公式より引用)



プレイ時間は約4時間くらい。
分岐有り、EDはBAD含めて4つ。


ジャンルが乙女ゲーで公式サイトにヨウ、トルグ、ジンリャという男性が紹介されていたのでキャラクター分岐型の乙女ゲーかと思いましたが、攻略対象がヨウのみで驚きました。
まさかの主人公、ファメイとヨウの固定カプゲーで、固定カプ大好きな自分としては良い意味で予想外のルート分岐でした。


ディネイ国、アジアの様々な文化が入り混じったような島国、強国メズベの友好国という名の属国。
ファダム、ディネイ国の信仰、神はおらず精霊を信仰している。
メズベ国、大陸一の強国、戦争を繰り返し強国になった、メラ教という宗教を国教としている。
などなど、オリジナルの国や宗教、民族や歴史が中心となっており。
そのオリジナルの文化が根底にある上で寺院の管理をしている少女、ファメイと従者(用心棒と管理者の補助の雇われ)であるヨウが自身の宗教観や考え、死生観をお互いに語り合いながらお互いの生き方を知っていったり歩み寄っていったりするお話になります。
「再び戦争が!」や「平穏な日々に亀裂が!」などは一切訪れず、二人が穏やかな島国でゆっくりとお互いの職務をこなしながらディネイやメズベ、そして自分の民族の事を語り進む。
本当にそういうお話でした。


一見すると劇的な事は何も無く、説明だけでは単なるオリジナルの国と宗教語りのように見えますが、お互いが自分の境遇を語り徐々に心理的に近付いて行く姿が非常に繊細に描かれており。
世界観のオリジナルの設定がとてつもなく細やかに作られていてどの話を聞いても全く飽きがありませんでした。
当たり前の日々を当たり前に送る二人、その姿と会話の内容が非常に興味深く。
島の雰囲気も大変良く、劇的な事をわざわざ仕込まなくてもこんなに面白いお話になるのか!!?と正直驚きました。


ゆったりと流れる時間が緩やかに感じる島の空気を感じながら、ディネイやメズベの宗教やそれが下地にあるからこその二人の思想を知り。
自分とは全く違う宗派や価値観を持つ存在の考えを聞き、更には男女も違うという上でお互いの事を深く知り。
時には共感し、時には反発し、時には妥協しながら、それでも相手を深く受け入れていく。
まさに親愛と呼べるべき二人の想いが直に感じ取れて本当に素晴らしかったです。



『システム、演出』
NScripter製。
欲しい機能は全部有り、スキップは既読のみ。
コンフィグ画面は無く、メッセージスピードはツールバーで変更可能。
コンフィグ画面が無くツールバーで変更する所に昔のフリゲを思い出しました。


『音楽』
選曲が大変良く。
どれも牧歌的、素朴で、けれど聞いていて落ち着く曲ばかりでした。
音楽も素晴らしいですが、何よりも波音のSEが良くて。
波音が聞こえる事が多いのですが、それが島国の空気や作中で語られる「海」というものを引き立てていたと思います。


『絵』
とても綺麗でした、表情が豊富。
キラキラした塗りが良いなと思いました。
所々で挿入されるCGが全画面でなく、背景はそのままで中央にだけ絵画のように表示されるのが、今この場でこの行動が起こっているというのを引き立てていて好きでした。
ファメイ視点の時はファメイが左下に表示され、一部のヨウ視点の時には無人なのも視点変更の差分化がしっかりとされていて見やすかったです。


『物語』
オリジナルの文化の設定が凄いなと。
どの要素も妥協が無く。
基本、ファメイもヨウも「信者!!」と言えるほど強い思想を持っている人物ではなく。
ファメイもヨウも自分の今の職や生きるために必要だからその宗教に居るというような人達で。
けれど、そんな彼らでも無意識の内や深層心理では宗教から離れられない部分があり。
まさに「生活や文化は宗教や信仰と綿密に関わっている」というのを体現していました。
別に精霊もそんなに信じて居ない、別に神もそんなに信じて居ない。
でも、絶対に逃れられない価値観の中に信仰が入り混じっている。
…いやぁ、上手いなぁと。
無宗教の中の宗教というのの描き方が凄まじく上手く、登場人物達の自由な中でも垣間見える文化的思想に常に驚かされました。


『好みのポイント』
ヨウとファメイ、二人の関係が良いなーと本当に思います。
二人の間に流れる空気が良い。
BAD以外はお互いゆったりと仕事をしながらずっと一緒に居そうな空気があり。
どちらもお互いの思想を否定せず、たまに自分との違いに驚きながらも一生懸命歩み寄り受け入れていく姿が好きでした。
でも、二人共そういう風に許容するのは世界の全員に対してではなく、ファメイとヨウだからこそここまで共に受け入れているのも分かり、そこに人間らしさも感じて。
信仰、文化、思想、人格、全ての面から人間らしさを感じ、とても二人が好きでした。





以下ネタバレ含めての感想です





宗教とは「楽に生きる」為のものでもあるけれど、「死」とも切り離せないもの。
これの描き方が非常に上手かったです。
本当に、信仰は「生きる」為のものですが、葬式などとも綿密に関わり「死」も共にある。
果たして人間は「生きよう」としているのか「死」に向かっているのか…
凄く悩ましい部分ですが、どちらも両立しているものだとも思っていて。
「生きている」からこそ「死」に向かっているんですよね。
人間必ず「死」が最後にあり、それは逃れられない。
そういう当たり前の感覚を作中の死生観からビシビシと伝わり。
宗教的な話も合わさり、穏やかに会話するお話でありながらも、どこか「必ず訪れる当たり前の死」というものをひたすらに感じていました。
緩やかな時間が流れる穏やかな島国、だからこそそういう側面が見えた時、どこか恐ろしさもあり。
でも、それは仕方のないもので、だから人は「死後」を求めて居るんだなぁと。


ファメイの祖母の「死後海に向かう」信仰を尊重しているように見えて、「死後も同じ場所に行けないのは辛い」と祖母の形見の海への導きになる人魚の鱗の宝石を壊す事をお願いした祖父。
ヨウの民族の「自分の死後、血縁の無い伴侶には自分の小指を食べてもらい、死後の世界でまた会える為の導きにする」という信仰。
そのどれもが死後もなお、愛する人と共に居たいという気持ちで作られていて。
そういう「どうしても必ず訪れる死」を理解しながらもそれを納得する為にある信仰が、まさに人間が作ったものなんだなぁと。
昔から変わらずにある想いをヒシヒシと感じました。
信仰や宗教、日本では怪訝な顔をされる事が多いのですが、歴史やちゃんと信念のある信仰や宗教はやっぱり美しいです。
美しい文化、けれど時と場合によっては厳しい姿を見せる文化。
そういう部分も「人が作った完璧じゃないもの」のように見えて。
不完全な美というのも感じました。


オリジナルの宗教や文化も素晴らしいのですが、乙女ゲーとしてもファメイとヨウの二人が良すぎました。
ヨウは「自分が求められているからここに居る」と言っていて、実際そういう所が大きいのでしょうが、最初からファメイを気に入っている事は見え見えで。
というか、ヨウのような男、「求められているから」と勤めても、上司が気に入らないと速攻で辞めてると思うんですよ!
少しでも「あ、面倒」「嫌だ」と思ったら絶対速攻で辞めてると思うんですよ!
民族の気質的にも本人の気質的にも!!
でも一年続いている、どう考えてもファメイに対して好意を持ってないと続いてないでしょうこの男…
そういう部分を感じる事もあり、AルートやCルートでファメイを離さない気満々なラストには「ですよね~」でした。
Dルートでも、唯一徴兵されそうになりますが、鱗の宝石を渡し回避した事でヨウはファメイに対して怒りや憤りを感じますが、もうね、こういう事された上で、AやCルートを知っていると…この男余計絶対にファメイから離れないでしょう!!
「私なんかのために大事な物を渡すな」とは言いますが、もう渡しちゃった後ですもん。
どんなに自分に価値が無いと思っていてもファメイは祖母の遺品よりもヨウを大事だと思っている事には変わりなくて。
もうある意味後の祭り、ファメイと一生添い遂げるしか道は無いですしファメイを誰にも渡す気無いと思います。
…というか独占欲は強そう、ファメイに男が言い寄ってきたら目で殺しそうだな、と、どのルートでも思いました。


ファメイもファメイで本当に良い子で。
自分の行いが基本「自分の為」にあって、どんなに誰かに何かをしても絶対に「自分を守る為」という根底からは抜け出せないという事を自覚しているのがとても良かった。
誰かに怒ったり、指摘しても「これは私を守る為だ…」と自覚してどこか引け目を感じているのが非常に良く。
大陸語は知らないですが、基本、根本的に人間として聡い子で。
自分の信仰や祖母の教えを大事にしているけれど、相手の信仰を疎かにしない、相手と自分の距離をしっかりと測れる子。
若いながらに自己と他者の境界を理解していて、非常に好感が持てました。
家が良い家で地味にお嬢様なのをどこか無自覚な所は若いなーと思いましたが、それでもこの世界観で「食事に困らない」「女でも教養を受けられこの職に付けている」という部分を当たり前の事とせず、「自分は恵まれている」と受け取っているのは偉いというか。
そういうちゃんと自分を俯瞰出来、一歩引いた所があるのが良いなーと思いました。
こういう所にもヨウは惹かれたのだろうなぁ…


正直最初の見た目では、トルグが好みで「なんで攻略キャラじゃないんだ!!」と思いましたが、全クリすると…ヨウのみが攻略対象で良かったと思います。
これはヨウの民族を知り、信仰を知り、人を知り、寄り添う話なんだなーと。
トルグはイーレンと良さげな関係で、個人的にちょっと安心しました。


亡くなった人の指を食べる、死後広い場所、海に向かう、数々の文化。
海に向かい人魚になり、人魚になった娘をきっと食べたのだろう娘を想っていた男性、人の愛。
食べる事と、生きる事。
文化、愛、食どれも人間が生きる上で欠かせない物だなと強く感じました。
うみをはむ…海を食む。
穏やかな島国で穏やかに一生を過ごし、死後、無事に海で再び出会って欲しい…
そんな風に感じるオリジナルの国と宗教を舞台にした二人の物語でした。