ひっそりと群生

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【殺イコ・キネ死ス】感想

【百合全年齢】



2020年10月20日配信
羊おじさん倶楽部』様 ※リンク先公式HP(18禁)
殺イコ・キネ死ス】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








二人だけの世界で。
生きて行きたかった。



『百合デス○ートセカイ系サスペンス(イヤホン推奨)

 世界に失望する薬物ヒーローADV『さよなら、うつつ。』無料配布中な『羊おじさん倶楽部』が新たに提出する
 ティラノスクリプト習作 第二作目』
(公式より引用)


プレイ時間は約30分くらい。
選択肢無し。


羊おじさん倶楽部様の作品は8作目プレイ。
紹介文に「デ◯ノートセカイ系」とありますが、デス◯ートを手に入れて人を殺す力を得た主人公の頭脳戦では無く、デ◯ノートの力そのものを手に入れた少女の物語でした。
世界とそして自分に対する憎しみの爆発。


デス◯ートは主人公は正義の為に人を裁いていき頭脳戦を見せる中で正義の歯車が狂っていく物語でしたが、今作は「正義」というのが全く発生せず。
「私は、この世界を、憎んでいる」という純粋な憎しみによって力を使い、人々を自分の基準で淘汰していく姿がまさにサークル様の作品らしく。
「正義の為」「より良い世界の為」などという建前は一切無く、ただひたすらに人間の持つ「何気ない不快感と腹立たしさ」を描き続け。
一人の人間の理不尽な怒りにより人が死んでいく姿が身勝手でありつつも、力を持った人間としての純粋な殺意を見せ付けてくれました。


百合とあるように主人公の千秋とその幼馴染の楓の二人の会話のみでほぼ綴られる物語。
楓は千秋に好意を寄せ、千秋は自分の自信の無さからその好意を受け取っては居なかった中で、千秋に「力」がある事が分かり。
「力」を得た事で初めて楓の好意を受け止め二人は結ばれ。
周りで沢山の人が死につつも、二人が両想いになる姿は読んでいて美しさを感じました。


世界は嫌いな物で溢れている。
だから沢山、殺し尽くそう。
百合でセカイ系で、そしてサークル様のダーク色が溢れながら、人間のどす黒い本能を真っ向から肯定してくれる一作でした。



『システム、演出』
「彼女は時のねじを逆向きに回した」と同じくティラノ製。
セーブロードは有りますが速度変更とオートモードは無し。
ですがプレイ時間的に不便には感じませんでした。
ただ、履歴は若干詰まっていて読みにくかったです。



『音楽』
過去作品の音楽が使用されていたと思われます。
不安定な曲は今作にもとても合っていました。
ジムノペディが流れた時には「来た来た!」と思いました。


『絵』
立ち絵など人物関係は無く背景のみ。
背景も過去作で見た背景が多く、同一世界を感じました。
ふとした時に魔法使いや羊おじさんが出てきそうです。
千秋と楓が夕暮れのマンションの屋上で語らう際の屋上の夕日が場面も相まって恐ろしい程に綺麗でした。


『物語』
文章は読みやすく。
展開も非常に分かりやすく。
そして、どの作品でもですが心の汚い部分を丁寧に丁寧に掬い上げて来るような文章でいつも読みながら苦しく。
けれど掬い上げた先でその汚さを肯定してくれるので読んでいてどこか楽しくもなります。
中途半端に綺麗事で上書きしないので読んでいて色んな意味で爽快な気持ちになります。


『好みのポイント』
千秋と楓の結ばれたけれども歪んだ関係が好きです。
結ばれたけれども決して同じにはなれず。
最後の最後まですれ違ったままの百合が好きな人には非常に刺さるかと思われます。





以下ネタバレ含めての感想です





紹介文にデ◯ノートという表記がありましたが読み進めると「願って人を殺せる」という能力だった為に「リ◯グ?」とはなりました。
途中でリン◯の話題も出てきて良かったです。
デス◯ートと言うと頭脳戦だとも感じたので違和感はありましたが、流石に◯ングは時代的に厳しいので、デ◯ノートを出したのは間違いでは無いとは思います。


最後のどんでん返しは予想の範疇では確かにありました。
千秋ではなく楓なのでは?と思っていた所もあり、そこは当たりました。
ただ、「力」を得たと思ってもなお、どん底のように低い千秋の自己肯定感は非常に現実的で。
デス◯ートではライトさんはデ◯ノートを得た事でバリバリに自己肯定感が上がっていき(まぁ元々彼は高い方でしたが)、最終的には化け物のような自己肯定感と自意識過剰さと「正義」を手に入れあの結末に至ります。
しかし千秋は決してそんな事は無く、「力」を手に入れても化け物になれず。
「自己肯定感がどん底のように低い人間はどんな優位な何かを手に入れても決して自己肯定感が持ち上がる事は無い」という、フィクションでありながらも現実的に居る自己肯定感の低い人間として描かれていて驚きました。
フィクションだったらもっと千秋の内面がライトさんのように化け物化するなどで大きく物語を盛り上げる事が出来たはず。
けれど、それをせずにどこまでも「ただの自信の無い人間」として描き続け。
そして、結局は「力」を得た事も重なり耐えられず自ら命を絶つという。
このタイプの人間が「力」を得たらどうなるかを真正面から描ききっており、本当に驚きました。
千秋が楓を拒んでいた理由も分かれば、「力」を得たからこそ楓を受け入れられるようになったのも分かって、そして最後には耐えられなくなるのも分かってしまい。
羊おじさん倶楽部さんはこういう「鬱屈とした気持ちを常に持ち続けるどうしようもない人間」を描くのが本当にお上手で毎作冷や汗が出ます。


千秋もどうしようもなさを持っていれば、楓もまたどうしようもなさを持っていて。
本当は楓の方が「力」を持っていたのに、それを色々な理由を付けて千秋の方が持っている事にするという狡賢さ、「力」の責任転嫁。
「千秋の為」と言いつつ本当は全部自分の為になっている所が非常に人間悪的で。
最終的には「千秋に世界中の人間を憎み二人だけの世界を作って欲しかった」という。
まぁ分かりますよ、自分の好きな人だからこそ、「二人以外の人間全てが消えて、二人だけの世界になって」と願って欲しいと思う気持ちも分かる。
自分は既にそういう世界を望んでいるのだから、好きな相手にも同じように願って欲しいという自分勝手な願い、非常に分かる。
分かるけれど、分かるからこそ「その願いはクソだなぁ」と思いますし、それを実際に実行してしまう楓は本当に自分の事しか見ていない悪い人間というか。
なので、最終的には千秋がどこまでも自己肯定感が低く、人の死を背負えるほどの精神を持っていない普通の少女だったからこそ自死の道に向かった結末は、楓の悪い人間の部分と、同時にあまりにも千秋に全てを背負わせ全権を委ねさせ過ぎたが故の結果でもあるので、とても自業自得感がありました。
楓は千秋を好きだったとは思いますが、千秋に背負わせ押し潰した時点で自分の方が大好きだったんだろうなぁと。
千秋はきっと、自分の次に好きだったのかもしれないと思いました。


百合であり、途中で結ばれはしますが、決してお互いの気持ちが同一になる事は無く、同じ軸に立つ事も無く。
楓は背負わせ続け、千秋は背負い続け、最後には千秋が壊れてしまうというとても悲惨なお話でした。
作中で楓が千秋に告白し、楓が千秋に好意をガンガンぶつけているようには見えますが、楓は千秋よりもきっと深層心理では自分の方が大事で。
そして千秋は楓が好きと言うよりも楓の事が大事で。
「楓は社交的でこんな自分では決して自分の物にはならない」という事が分かるから、自分の物にならない楓に対していつか好きよりも憎しみで溢れた時に殺してしまうから、そうなる前に…と自分から死を選んだ千秋。
表に出している好きと内面で思っている好きの想いの量が反比例する、そんな百合はとても好みなので二人の関係は見ていて歪ではありますが心に突き刺さり。
痛々しいラストではありますが、因果応報な結末だとも思いました。


人間の醜さとどうしようもなさを丹念に丹念抉り出して来る作風、本当に好きです。
毎回どの作品でも真実の鏡で見せ付けて来るような鬱を体感出来、落ち込みながらも目が離せません。
次回作もまたこの心地よい鬱で抉られますように。
楽しみにしています。