ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【WHITE ALBUM2 -introductory chapter-】感想

【男性向け18禁】



なんとなくLeafのノベルゲーム作品を最初からプレイしたくなったので購入part29。



2010年03月26日発売
Leaf』※リンク先公式HP(18禁)
WHITE ALBUM2 -introductory chapter-】(PC)(18禁) ※リンク先wiki
以下ネタバレ含めての感想です。








10作に一個は名作と呼ばれている作品を挟んでプレイしないと心が死ぬと学びました。
というわけで、この感想がいつ投稿されるかは分かりませんが、2021年の60作目は「WHITE ALBUM2」の序章にあたる「introductory chapter」に。
…と言っても、60本目を「WHITE ALBUM2 -closing chapter-」予定なので実質59作目。


プレイ時間は約8時間15分くらい。
システム面は7でもインストール起動可能。
ディスクレス起動は一応可ですが、最初に認証が必要なのと、一定時間を過ぎるとディスク確認が必要になるのでディスクを入れてプレイ推奨。
選択肢無し。


さて、ようやくここまで来ました。
2021年4月現在Leafの最終作である「WHITE ALBUM2」。
どこに行っても名作と名高く、現在のLeaf(というかAQUAPLUS)は今作と「うたわれシリーズ」で食っていってるようなものだと。
他作のDL販売が無くなっても本作だけ残っている所に収入源の風格を感じます。


どこを見ても名作と言われている「WHITE ALBUM2」ですが、まぁ、序章の時点で凄かった。
一応、今作が序章で「closing chapter」が終章、そして「closing chapter」から続いている「coda」が最終章という前情報と今作はシナリオライターの丸戸さんの持ち込み企画であるという事だけはwikiの上部、概要部分で拝見してました。
そして、プレイして丸戸さんが「WHITE ALBUM」が好きであの作品に魅了された一人のプレイヤーだったというのが痛いほど伝わって来ました。
Leafのノベルゲームを連続で追ってきたのでハッキリと言えるのですが間違いなく「WHITE ALBUM」を愛し、「WHITE ALBUM」のフォロワーでないと生み出せなかったと思います。
(ネタ要素ですが、「ここがあの女のハウスね…」とか「WHITE ALBUM」のフラッシュネタや当時のLeaf全盛期ネタに触れていないと出てこない単語だと思うので。)
WHITE ALBUM」の世界観の繋がりだけでなく、楽曲方面、人物方面でも「WHITE ALBUM」をプレイしていたので没入度が高く。
「未プレイでも楽しめる、けれど前作プレイ済みだと更に楽しめる」という、「続編では無く世界観だけが繋がっている「2」」というジャンルの美味しい所取りのような作風。
「これぞ続編ではない「2」の描き方だ!!」というのを見せ付けてくれました。
本作の後にリメイクとして「WHITE ALBUM -綴られる冬の想い出-」が発売されたのも納得です。
今作をプレイしたら「WHITE ALBUM」をプレイしたくなる&オリジナル版のプレイの困難さを考えるとリメイクという手法を取るのはとても商売上手だと思います。


折角「WHITE ALBUM」をオリジナル、リメイク版とプレイしたので「WHITE ALBUM」を出して語ろうかなと。
まずは完全ノベルゲームにしたのは大成功です。
オリジナル版の移動システムと会話システムはシステムで発生するキャラとの交流は楽しかったのですが、お目当てのイベントに全く行けない事も多く、ストレスが半端なかったので。
物語は良いけれど、システムがダメという理由で全部好きとは言えない作品になっていた中、完全な読み物に特化したのは2010年の時代では正しい判断です。
あのシステムを今やると付いて来れなくなる人が絶対に居ます。
そして、選択肢が無く一本道…おそらく序章は所々の文体から回想という手法を取っているので「もう絶対に変えられない過去」として位置していたのが効果的だったなと。
過去の学生時代、起承転結の「起」、出会い、そこで起こった出来事。
WHITE ALBUM」を語る上で欠かせない事なのですが、「WHITE ALBUM」のコンセプトは「浮気」です。
その「浮気」、「付き合っている子が居る上で他の子を好きになり関係を持つ」という流れをもう絶対の不可逆、覆せないものとして描いていたのがとてもコンセプトに合っていて良かったです。
WHITE ALBUM」の方では「浮気」がコンセプトでありながらも「由綺ルート」が存在する事により浮気しないままEDを迎える事が可能な構成になっていて。
このルートがある事で主人公の誠実さが描かれながらもコンセプトからは外れるという作りにはなっていました。
複数の未来があるのはゲームとして好きなので、それはそれで好きなのですが、コンセプト的にはうぅんという気持ちで。
しかし「WHITE ALBUM2」では選択肢の無い序章がある事で浮気が絶対条件になっていて、コンセプトを貫き通すという作りに。
良いですね、意地でもコンセプトを守る姿勢、好きです。
しかも主人公とダブルヒロインが出会う所、付き合う前の段階から描かれる事でダブルヒロインへプレイヤーが抱く思いの重さが段違いに変わるという。
WHITE ALBUM」ではダブルヒロインの片割れ、由綺とは既に付き合っている状況から始まっていて、由綺との馴れ初めは序盤で少し語られるくらいで回想など無く、由綺に対する「付き合う前の学生時代の思い入れ」というのは殆ど無く。
なので、出会い、そして構築されていく関係をしっかりと描ききったのはとても良かったです。
ダブルヒロインの片割れである理奈との交流も、重要イベントはありますが基本はシステムでの移動と会話選択肢によって淡々と進むので、好きになっていく過程は分かりますが、さほど理奈を重要視したいみたいな気持ちにもならず。
ダブルヒロインの片割れではありますが、他ヒロインと並んでも重要度はそんなに変わらないという立ち位置になっていて。
その辺りが完全ノベルゲームになると段違いだなと思いました。
序章で他ヒロインを出さずダブルヒロインとの交流だけを描く、これだけで他ヒロインが終章で登場しても、ダブルヒロインだけはプレイヤーの中での重要度は別格になるので。


そして肝心の物語の描き方なのですが、これが上手い。
丸戸さんの作品は昔「この青空に約束を―」のPS2移植版に触れてる途中で諸事情あり途中で止めてるので、しっかりと触れるのは今回が初なのですが、文章、流れ、心情、どこを取っても一流でした。
文章は自分は文章はあまり読めて無く展開派なので、文章の良し悪しについて深くは語れないのですが、そんな自分でも読んでいてサクサク入ったので上手い方なのだと。
一行一行が読みやすく、サラッと読んでスッと入る文体は文章が上手い人じゃないと出来ない技術。
メッセージウィンドウに入る分の文章で表示される都度、言いたい事がしっかりと伝えられていて、匠の技を感じました。
数行でキャラクターの考えている複雑な心情を表現されていて、なるほど、これは確かに凄い、と。
流れもテンポが良く、10~20分でアイキャッチが入るのがとても良い。
どんなに良い話でもアイキャッチの区切りがあるのと無いのとでは読みやすさが大きく変わります。
人間ある程度の節目は必要なので、小休止がこまめにはいるのが有り難かったです。
更には物語で表現されるどこを取ってもサビ、サビ、サビ。
自分がフリゲや同人ゲーム畑の人間だからか商業作品では「ここ必要?」と助長に感じる箇所を結構見かけて、そこで結構ダレがちなのですが、「WHITE ALBUM2」は全くそんな所が無く。
必要な物を必要な時に必要な量でお出ししてきて、恐れ慄きました。
要らない所は無い、かといって説明不足になる箇所も無い。
展開やテンポのお手本のような作りにただ圧倒されるばかり、こんなの、読み始めたら黙々進んでしまいます。
アイキャッチの小休止もあるので自分のペースで切り止める事も出来て、随所からストレスフリーを感じ。
全体的に「プロの技で纏められた」という言葉が似合う作りでした。


音楽の合わせ方も素晴らしく。
他が凄いのはとりあえず差し引いて、音楽と合わせた演出だけでも確実にSランク物。
元々Leafは音楽に関しては妥協無く、どの作品も良い中で、音楽を演出に組み込むのはあまり無かったのですが、「WHITE ALBUM2」で一気に本気を出しましたね。
今まで温存していたのか?というくらいに本気でした。
途中オートモードになるのですが、その時の楽器やボーカルとのセッション演出、台詞を流すタイミングなどが完璧で。
序盤からメッセージウィンドウに無い台詞が入る事があり、「おっ、今回はこういう演出で来るのか?」と思いましたが期待を見事に上回りました。
音楽と絡まった演出だけで鳥肌が立ちます。
それに「WHITE ALBUM」の曲も関わって来るので、今まで作品を追ってきた者としては鳥肌を通り越して鳥が羽ばたくほど。
文化祭のステージは見入ってしまいました。
アニメ版「WHITE ALBUM」のOP「深愛」も挿入歌で聞けるとは思わず。
アニメが同時期に放送していたから出来たコラボですね。
水樹さんの曲をエロゲで聞けるのは凄く豪華です。
ボイスに関しても全員上手い、文句無し、満点。
PC版では非公開ですが移植版では……(以下略)で皆さんベテランなのがよく分かります。
細かい所の台詞回しが良すぎました。


CGは…実はパッチを当てずにプレイしました。
CGが修正されると聞き、折角なら無修正で見ようと。
確かに、一部バランスなどでアレなCGがありました。
ちゃんと修正されたのは偉いと思います。
「introductory chapter」と「closing chapter」を個別で買った上で「EXTENDED EDITION」も購入しているので、「EXTENDED EDITION」起動時にまた今度は修正されたCGを見たいと思います。
立ち絵は枚数や表情が豊かで見応えがありました、ただ、なかむらさんの絵柄なので仕方ないですが、所々細過ぎて心配になる所が。
武也の斜めの立ち絵は何か不安になります、立ち絵も修正されているかもなので、そちらも期待。
背景はLeafなので問題無し、2000年辺りから既に美しいです。
話はアレでしたが「星の王子くん」でも「お菓子を広げる」などのシーンがあると居間の机の上にお菓子が広げられたり、文章と背景の連動が細かったのですが、今作は更に背景での表現が増え。
「三編みの女の子のシーン」などは文章と背景の作りの連動力の高さにただ脱帽。
必要な箇所に一箇所しか出ないような絵が用意される事は商業では少ないので絵の多さに大喜びでした。


さて、肝心の物語について。
本作「introductory chapter」は話全体で見ると非常にシンプルです。
・主人公の春希は文化祭で軽音楽部での演奏をしたいが人が足りない
・いつもギターを流している時にセッションしてくるピアノと過去のヒット曲を奏でていたら歌声が重なりその歌声の主がヒロインの一人、雪菜だった
・彼女をボーカルに加える為に奔走する
・雪菜をボーカルに加えたがどうしても演奏者が足りない
・セッションしてくるピアノを引き込もうといつも姿が見えないピアノ奏者を探し出す、すると奏者は春希が何度も素行を気にかけている隣の席の人物、ヒロインの一人のかずさだった
・なんとかかずさをメンバーに入れようと奔走する
・全員メンバーになったが日数が足りないために必死で練習
・どうにか間に合わせ文化祭へ
・大成功を収めた日、春希は雪菜に告白される
・かずさへの気持ちが煮え切らなかったが、雪菜も好きだった為告白を受け、二人が付き合う
・春希と雪菜が付き合うがかずさも一緒に居て微妙な空気がありながらも3人は変わらず交流を続ける
・付属高校の為、春希と雪菜はそのまま大学に進むが、かずさは海外に留学する事を知る
・かずさが離れる事で完璧に自分の気持ちに気付いた春希は想いを伝えてしまう
・かずさも同じ気持ちで実は両思いだった事を知る二人
・雪菜を傷付けない為にかずさは逃げ惑うが卒業式の日に二人は一線を越えてしまう
・しかしかずさの海外行きは変わらず、見送りの飛行場へ向かうバスの中で春希は雪菜に全てを打ち明ける
・雪菜は怒る事も無く、全てを受け入れ、かずさは海外に旅立ち、そして冒頭のシーンへ
かなり端折って展開だけを書きましたが、この流れに心理描写が挟まる事で本当に全ての流れに途切れが無く綺麗で。
1が来たら2が来るように、Aの次はBのように。
まるで予定調和のように物語が進んで行きます。
「浮気」がコンセプトであるのでどちらかと付き合いどちらかと肉体関係を持つとは思っていましたが、ここまで丁寧に描かれるとぐうの音も出ません。
序盤の文化祭まではスポ根物のように文化祭での演奏に向けての熱い練習が行われ、後半では今まで3人が築いてきた関係とその裏に隠された本心が曝け出され3人の関係は破綻を迎えます。
丁寧に構築された関係を丁寧に崩壊させていく流れが見事なんですよ、綺麗に積んだジェンガを1ピース1ピース丁寧に粉砕して行きました。


とにかく主人公、春希とヒロインのかずさと雪菜が驚くほどに人間をしていて。
三者三様、魅力的だと思う部分もあれば同時にその魅力が鼻に付くと思う要素にもなっている、その力加減が上手く。。
良い所が同時に悪い所になっています。
各キャラクターの所感は下記に個別で書きますが、全員が皆の顔色を伺いながら、同時に自分の願いを一番に叶えようとしている。
相手を見ているようでその実、自分の事しか見ていない。
3人が3人共本当にそういう人で、そしてそういう性格形成になった家庭環境までもしっかりと掘り下げるという。
3人の家庭環境を描き、家族を登場させる事で「こういう環境だからこうなった」を徹底していました。
そういう土台まで作り込まれた人格を見せられたら3人が自分本位な所があるのが分かる、分かってしまう。
誰かの為を言い訳にして自分の倫理や基準を守る為に欲望を叶える道に進むのが分かってしまう。
他者と深く接さずにそれぞれがある程度の壁を作ってきた人間達だから、壁が取り払われた後の人間関係の距離感が下手くそ過ぎるのが分かってしまう。
春希が「平等」を失うとストッパーが外れ一気に自分本位の尺度が通常の人が持つ自分本位の尺度よりも上回り狂い過ぎるのも。
雪菜が過去の経験から自分の内側に入ってきた人間を絶対に逃したくない、「仲間で居たい、3人で居たい」という想いが最早執着なのも。
かずさが自分の内側に勝手に入ってきた春希に対し、「最初に壁を取り払ったのはお前なのに、手が届かない所に…」と嘆くのも。
「春希の方から壁を取り払った事」で雪菜とかずさ、お互いが感じる憤りも。
一度でも何らかの壁を作った事のある人間はどうしても察せてしまう。
春希は優等生として全てを平等に扱うという壁を、かずさは自己からの拒絶で壁を、雪菜は他者からの拒絶で壁を、それぞれでそれぞれの人生があり壁を作って来たから、壁が取り払われた後の人との接し方や行動が分からず、だから本当は自分の願いが一番で。
普通の人が普通に出来てる「自分の願いの為の行動」と「誰かの為の行動」の間を取るという折り合いが分からなくて。
本当に全力での「他の誰かの為」には決してなっていなくて。
「他の誰かの為」と言って、心では思っておきながらも行動は自分を優先し、自分の幸せを勝ち取ろうとしている所がある。
自分の願いや幸福の為に行動する、それは確かに良い事だけれど、結果最終的に不幸になっていたら意味が無い訳で。
3人は「無自覚の悪」「無自覚のズルさ」はあっても「自分で自主的に作り出す悪」の部分は作ってるのが見え見えなほどに下手くそだから「悪人になった上で自分の為に行動する」を徹底する事も出来ず。
3人共他人にも自分にも不器用で、だからこそ「自分の為」に行動しても「他人の為」に行動しても、どんな理由を付けても上手く進む事は無く。
ただひたすらに地獄に堕ちて行くしか無い。
そういう「自分の悪い部分」だと本人が思っている「悪」と、「無自覚の悪」というか一種の「ズルさ」というか「癪に障る部分」というか、世では「空気」と呼ばれる物をここぞという時に掴めない間の悪さというか、そういう自覚と無自覚の乖離、均衡が本当に上手かったなと。


3人の関係もまた絶妙で。
おそらく「かずさ寄り」と「雪菜寄り」で大きく二分化されると思われますが、どっちの言い分も分かるような作りになっていて。
かずさ寄りからしたら「春希がかずさが好きだったのを知ってたんだから割って入るな」ですし。
雪菜寄りからしたら「雪菜は正当な手順で付き合っていたのだから割って入るな」になります。
言ってしまえば「運命のかずさ」と「偶然の雪菜」なんですよねこの話。
かずさは運命です。
春希からの一目惚れも、ピアノとのセッションも、かずさが本当は春希に惹かれていた所も、かずさの孤独な境遇と春希の片親の境遇が被る所も、二人の後半の流れも何もかもが運命的。
ただ一点運命的じゃないのは雪菜が居なければ二人は出会わなかったかもしれないという所。
だから運命論者や「運命の二人」が好きな人はかずさ寄りになるかと。
一方で雪菜は偶然です。
雪菜は雪菜のポジションが雪菜で無かったとしても「歌がそれなりに上手くセッションの間で歌った人」が居たらその人がボーカルになったと思います。
雪菜から告白をしたから春希は付き合ったけれど、雪菜が告白しなければ雪菜と春希は付き合わなかったでしょう。
後半の展開も神に見放されたかのように春希ははかずさと関係を持ちます。
それでも雪菜は春希を責めず離れない道を選ぶ。


運命と偶然のヒロインの構図を持つ今作は非常に「オメガバース文脈」で作られた作品だなと個人的に思いました。
オメガバース」、これはBLの界隈での設定なのですが、「オメガバース」の設定では「アルファ」「ベータ」「オメガ」という3種類の性別が男女性別とは別にあり、「オメガ」は強いフェロモンを放ち「アルファ」や「ベータ」を惹き付けます。
「アルファ」と「ベータ」は「オメガ」に惹かれますが、「オメガ」には「運命の番」という存在が「アルファ」の中に居て、どんなに「ベータ」と結ばれても「運命の番」の「アルファ」が現れるとその「アルファ」と結ばれてしまう、というもの。
事細かい設定に関しては『ピクシブ百科事典』などで掲載されていますが、簡単に説明するとこんな感じです。
この設定を生かし、「運命の番」の「アルファ」と「オメガ」による恋愛劇や「運命の番」から「オメガ」を引き離す「ベータ」の恋愛劇など様々な創作が行われています。


WHITE ALBUM2」をプレイ後にどうしても「オメガバース」を思い出して。
つまり、かずさが「アルファ」、雪菜が「ベータ」、春希が「オメガ」で、「運命の番」であるかずさと春希の間に雪菜が必死に入り込もうとしている作品になっているなと。
「運命の番」であるかずさと春希は設定上強すぎる本能の繋がりがあって、でも、雪菜は「ベータ」でも必死に春希(「オメガ」)を求めて。
「運命の相手と運命的に添い遂げる」展開にも、「運命ではない相手だけど自分の熱い想いで春希(「オメガ」)を手に入れる」展開にも、「introductory chapter」の段階ではどちらの可能性も秘めているわけですよ。
こんなん、オタク好きに決まってるじゃないですか。
BLでの設定を持ち出しましたけど、「絶対的運命」と「運命を捻じ曲げる情熱」この両方ってオタクである以上皆好きな要素だと思うんですよね(暴論)。
片方だけでも美味しいのに、両方の可能性を秘めてるとか、三角関係ではありますが同時に胸アツだなと思いました。
オメガバース文脈」だと思った瞬間に、今作のヒロインは春希なのでは?と思ってしまった部分もあります。
主人公が選ぶのも確かにありますが、それと同時にヒロインの「運命」とヒロインの「情熱」に今後どう心を揺さぶられるかだとも思っています。


しかし、「オメガバース」が定着し出したのが海外で2010年頃なので、日本でこの設定が広がったのは更に数年が経過し、2013年頃に某イラストサイトの女性向けカテゴリで見かけるようになりました。
この概念、文脈を既に2010年の時点で取り入れているのが流石というか先人的というか。
ツンデレNTRなどのオタクが好む属性、ジャンルに名称が付く前にその要素を取り入れている作品は名作になる事が多いように思う中で、今作も例に漏れず。
時代を見るとそういう意味での最先端も突っ走っていたのでは?と感じました。


まだ「introductory chapter」、序章の為、今後どのような展開が待っているかは分かりませんが、かずさと雪菜が大きなヒロインである事は確かなんだなと。
「closing chapter」でヒロインが増える事でどのような物語になって行くのか。
序章の読みやすさと上手さから期待が高いです。



以下、ルートは一本道ですが色々と申したいのでメインキャラ3人についてつらつらと。



『北原春希』
優等生。
「優等生」で「誠実」でありたいと思い、それを言葉にしながらも恋愛に関しての行動はその真逆を行くからとても鼻に付く所がある。
ネットとかだと美しい事ばかり言ってるような、そういう界隈に居そうなタイプ、キツい。
見てくれは綺麗で正しいように見える事を言いながらも「誠意」も「愛情」も裏切るので彼と実際の関わりはなく彼を俯瞰して見てる人(主にプレイヤー)からは「言ってる本人が一番真逆の事してるじゃん」と鼻で笑われるという。
まだ「人間は自己主義で我儘で自分本意な生き物である」という事を理解して開き直り、自分の悪性を受け入れ自覚したクズに振り切った方が見てる方も清々しいのにそれは「優等生」のプライドがあるので出来ない人。
結果、「結局は自分の為」にしかならないという。
自覚的ですが本当にその通りだなと思います。
突き詰めて行けば自分の善性や生き方を守る為に人を救う、「おせっかい」をしているだけ。
頭は良いけれど物事を知らず、「人に関わる」「人と何らかの関係を持つ」という事のリスクをあまりにも知ら無さ過ぎて雪菜やかずさなどの特殊な壁を築いている人間に関わると人生そのものに関わらなければならなくなるという事を知らないくらいには浅慮。
物語的な要素や「運命の二人」が好きな自分としてはかずさへの熱い気持ちは好ましいと思う。
でも、情や個人的な倫理、価値観の点では決して彼の行動は納得したくないです。
正当な手順を踏んで告白してきた相手、自分が選択した恋人、「自分を好きで居てくれる人」を自分の気持ちを優先させて裏切るから。
これで開き直ってるならまだただの「愛着のある無自覚クズ」や「悪人」で済むのですが、彼はそれに自己嫌悪をしていて、プレイヤーが責め立てて来る言葉、語彙力を分かったかのように、全ての言葉で自分自信を責め立てます。
そんな風に先手を打たれたらプレイヤーは彼を責め立てる言葉を失い、彼を「悪人」にする事すら許されなくなる。
「転ばぬ先の春希」、春希の先手を打つ力は伊達じゃないんですよ、プレイヤーに対しても先手を打ってくる。
そこが本当にズルい。
彼の素質は物語の要素としては好きだけど、自分の倫理的感情では嫌いという。
確かにクズ野郎、クソ行動だけど、「好きという気持ち」や「運命」を持ち出されると何も言えない。
でも、やっぱり、人の好意を無下にして自分の欲望を優先するのはどうしても許せなくて。
「結局は自分の為」、本人は自覚的に言ってますが、本当は本人が思っているよりも自己中だと思います。
そして、自己中なんだけど「善人」や「誠実」ではありたいから完璧な自己中にもなれない。
そういう中途半端さがさ、人間やってるなーと。
いや、自分の価値観では情を重んじたいので絶対に同じにはなりたくないですが。
彼の一番の基準はなんだかんだ「優等生」で、でも、かずさとの件で「誠実」を失ってアイデンティティを失って。
今後そのアイデンティティ、自己を形成する土台がどのように満たされるのか、果ては彼自身に牙を剥いてくるのか、凄く見どころだと思っています。


『小木曽雪菜』
おそらく「森川由綺」のポジション。
「偶然の女性」であり「現実の女性」。
過去のトラウマから一度親しくなった人に離れられるのを恐れる。
3人で練習を重ねライブを乗り越えた事で3人で居る事に固着し。
最後に明かされますが春希に告白したのも「告白しなければいつか、春希はかずさと付き合い自分から離れていく」という恐ろしさが最初にあり。
かずさが分かりやすく壁があるのに対し、彼女もまた壁を持っていて。
一度内側に入れた人間に執着します。
彼女がかずさに「友達」を何度も確認する姿は女性の「私達友達だよね?」を聞いてる時のような違和感があり。
依緒には全く言わない「そんな確認しなくても普通に居れば良い事」を確認する姿がかずさに対して最初から牽制しているのが見え見えで、結構早い段階から「これは本当の友情なのか?」という空気を生み出していたのは絶妙でした。
明るく無邪気に見えて、でも常に無意識で計算し行動しているように見える姿はまさに「女」の要素が強くあり。
現実に居たら女性から嫌われると思われるタイプなので、過去に彼女から友達が離れたのも、彼女の美貌で恋愛でのゴタゴタがあった事が前提だけれどなんとなく納得出来てしまうという。
家族にも恵まれ、美貌にも恵まれ、そして裕福故の無理解と余裕を持ち合わせている。
恵まれてない環境の人間からしたらとても妬みを向けられる人物ですが、彼女が魅力的なヒロインなのは「裏切られる側」のヒロインだから。
そういう負に感じる要素がありながらも「裏切られる」「可愛そう」な要素が加わる事で一気に「悲劇のヒロイン」になるという。
負に感じる要素も「実は良い子なんじゃ…」や「付き合った理由が自分の為でもちゃんと話すのが偉い」という要素に変わるという。
「裏切られるヒロイン」と「無自覚に計算高い(ように見える)」という要素が合わさる事で均衡が保たれているという。
逆を言えば、純粋な良い子で「悲劇のヒロイン」要素だけではかずさにヘイトが向かい「かずさ寄り」が居なくなりダブルヒロインの均衡が崩れた中で、負の要素を抱える事で「かずさ寄り」を生み出しているとも言えます。
単純なキャラの好みではかずさですが、「可愛そう」と感じるのは雪菜なので、つまり、そういう事なんだなぁと。
そういうバランスの取り方が上手く、キャラ造形に唸るばかりです。
彼女は最後に春希を決して責めず、自分の責任にし、「かずさの代わりでも良い」と言います。
そうやって春希の罪に罰を与える事もなく、ただぬるま湯に浸からせる。
これが本心からの言葉なのか。
それとも、それこそが春希が一番苦しむ事で、断罪しない事で雪菜の側から離れられなくなると心の底では思っているのか。
それとも、そのどちらも平等に内包しているのか。
この「私が悪い」って、相手がまず攻めて攻撃出来ないようにする予防線も張れますし、相手がもし「お前のせいだ」と言った場合も「やっぱり私が悪いんだ」と変に言い訳しなかった分プライドが傷付かず自分に非がある事を簡単に納得も出来ますし、一種のズルさがあって凄く計算的な行為なんですよね。
まさに無意識で計算高く見えビビリ散らかしました。
そういう部分がまさに「現実の女性」で、クセが強い女好きとしては雪菜の魅力も伝わります。
雪菜は春希が離れていく、自分一人になる事が最も嫌で、きっと今後も春希の側に居続けたいのでしょう。
邪悪な意見ですが、3年後の関係が楽しみです。


『冬馬かずさ』
おそらく「緒方理奈」のポジション。
「運命の女性」であり「フィクションの女性」。
孤高、分かりやすい壁、分かりやすい面倒くささ、どんどん懐いていく、運命的な出会い。
オタク的には好みの要素が散りばめられているので初見での好みはかずさの方が高そうな印象。
そういう意味で現実寄りの雪菜とは対を成す「フィクションの女性」。
自分も最初の印象や運命論的な意味ではかずさが好きです。
ただ、春希に対しての想いを決して言わず、態度にも示さないのに、後半でそれを言うのは如何なものなのかと。
まぁね、プレイヤーから見ればかずさが春希を好きなのは一目瞭然なんですよ。
数々のフィクションに触れてきたと思われるオタクからすればこういうタイプは主人公が好きだというのが目に見えて分かる。
しかも、所々で主人公視点以外も入り、彼女個人の行動も見れる為、それを見たら「めっちゃ春希の事気にしてるやん!」になります。
…が、悲しいかな、春希はフィクション世界の住人。
彼は彼の目で見た事しか分からないし、オタク特有の理解が自分の現実世界で発揮されるとは思っていません。
当然ですね、強いオタク的要素を持っているからと一人の女性に現実世界で「ツンデレだから俺の事好き」みたいな認識をしたら大層イタイ人になるので。
だから、春希はかずさの想いを知りません、「もしかして…」と思う部分はあってもかずさの行動はいつも通りなので直ぐに考えを改めます。
けれど、本当は、プレイヤーが予想した通り、春希の事が好きで。
もう取り返しの付かない状態になってからようやく想いをぶちまけます。
「なんで今になって…」、春希の心情は最もで、春希は雪菜と付き合って、かずさは海外に行く段階になってようやく想いを吐露する。
「わかるだろ、察しろよ」なニュアンスで吐露する姿や気にしてない風を装って実はめちゃくちゃ気にしていた内面は雪菜とはまた別の「女」の面倒くささがあり。
「言わなくても分かってよ」論法は心を読めない限り通用しないと思っているので、ここでかずさに対してリアルに「うわぁ…」な気持ちを抱きました。
そして、春希と関係を持つ雪菜への裏切り。
「運命の二人」とか好きなので二人の想いは好きです、好きですが、友人を裏切って関係を持つという行動は現実の自分の倫理観では非常に受け入れられるものでは無く。
雪菜が「悲劇のヒロイン」と「無意識に計算高い(ように見える)」で均衡を保っていたならば、かずさは「フィクションでの好まれる要素」と「裏切り」によって均衡を保っていると思いました。
色々とフィクションでのツボを突く要素が多く揃っている、けれど「裏切り」により一気にヘイトが向かうようになっている。
運命的な要素としてかずさが好ましくあった人も「裏切り」により自分の倫理に耐えられなくて雪菜寄りになった人が居るのではないかな?と。
こちらの造形もまたお見事、正と負のバランスが上手いです。
かずさはラスト海外に行き、次回の予告では登場しませんでしたが、二周目で分かる春希のファーストキスを奪っていた事実や春希の初体験を浮気で奪うなど、恋愛における重要な部分で様々な影響を残して行きます。
終章、そして最終章と「運命の相手」である彼女がどんな存在として春希の前に姿を表すのか、見ものです。



音楽との融合が凄まじく、まるでドラマや映画を見ているようでした。
(とは言いつつノベルゲームとして途中のアニメーションは必要だったかな?と思ったり、所々の表現で微妙な比喩が入ったと思う所もあったり、春希が出会った最初からかずさにここまで惹かれるのが春希側から見たらとてつもない恩人などの理由が無い為「外見での一目惚れ」や「運命」以外で説明が付かないのが個人的になんだかなぁだったり、気になった箇所は数ヵ所ありますが。)
既に序章である「introductory chapter」で物語として満足度の高い一作になっていて、通常なら今作だけでも十分完結するというのに「closing chapter」そして「coda」が残っているから驚きですね。
これは超大作なのも納得です。
「closing chapter」で一気にプレイ時間が跳ね上がるらしいので覚悟を決めますが、続きだからと気を抜かずむしろパワーアップしているらしいのを何となく感じているので、腰を据えてプレイしようと思います。



※追記
個人的にあまりゲーム媒体以外や本編以外の追加要素などは好きでは無いのですが、ゲーム内で起動できる物には触れようと思い「closing chapter」にノベルゲームとして付属されている「雪が解け、そして雪が降るまで」を読了。
「introductory chapter」では初回版に紙小説として付属されているのでこちらに感想を書きます。


『雪が解け、そして雪が降るまで』
プレイ時間は約1時間30分くらい。
ボイスは無し。
三人称視点でかずさを主人公として描かれる、かずさの母との確執と峰城大付属の音楽科に入るまでの流れと、普通科に行き春希と出会ってから文化祭までの期間が描かれた話。
三人称視点でも文章が驚くほどお上手なのを見て丸戸さんが現在表舞台で「冴えカノ」で人気を博しているのに納得しました。
ここぞとばかりに春希とかずさの本編前に積み重ねた関係の構築が描かれます。
本編内でも少しだけ描かれた部分があり、その部分だけでも二人の関係が徐々に築かれたものだというのを感じましたが、この話の中で春希とかずさ、二人の積み重ねた時間自体は少なくも濃度はあまりにも濃厚で。
言葉にするならまさに「ロマンティック」、「ロマン」の塊のような時間の積み重ねでした。
プレイヤーとしてはわりと初期からかずさが春希に好意を持っている事は察していましたが、この話を読んで察していた好意を100倍以上突き抜けるくらいの想いを抱いていた事が判明。
「忠犬」という表現や犬のぬいぐるみにかずさが重なる部分など、まさに「ご主人さまワンワン」状態。
春希が知らない部分で春希を意識し行動する描写があまりにも多すぎます。
本編だと春希と雪菜が付き合った後、「クールに振る舞ってるけど春希の事好きだから辛くて本当は言わなくても察して欲しいんだろうな…」くらいにかずさの内面を思っていましたが、こんな過去を見せられたらかずさの内面は「ご主人様(春希)、どうして他の人の所に行っちゃうの?自分の方から私を気にかけて拾ったのに!ご主人様が居なければ私は一人のまま、野良で居られたのに、もう一人じゃ居られないのに、どうして?どうしてその子なの?気付いてよご主人様!私の気持ちに気付いてよ!ねぇねぇねぇ!」状態じゃないですか。
そういう気持ちを「雪菜を傷付けたくない」という気持ちや「この気持を言う事で春希から直接自分の気持ちを拒絶されたくない」という気持ちから押し隠していたのだから本当に忠犬ワンワン過ぎます。
ご主人様に迷惑をかけないようにツンとすまして興味なさげにするドーベルマン的仕草が似合い過ぎる。
思っていた以上に春希に対して心の中で「どうして?」を連呼して居た事に気付きニヤけと同時に苦味を味わう事態に。
WHITE ALBUM2」はこの話や最後に雪菜が語った春希を好きになった理由など、後から判明する事柄で実は予想以上に重かったキャラクターの心情が判明する事が多く打ち震えます。
後から判明する真相…「本当の事柄」や「誰にも言っていなかった本当の心情」で今までの全ての物事が反転する展開が好きな自分にとってはこういう表現は好みで好みで。
初回版を持っているので小説媒体としても持ってはいますが、音楽が入ったノベルゲームとしてプレイできて良かったです、
これでもかと言うくらいに春希とかずさの「運命」の力の高さを見せ付けたお話でした。
さぁて、この物語がお出しされた事で、おそらく「closing chapter」の小説「歌を忘れた偶像(アイドル)」は雪菜の話になるとは思いますが、雪菜の話ではどんな「運命」に立ち向かうお話を見せてくれるのか、それとも「運命」に屈するお話になるのか。
前書きによると「closing chapter」プレイ前にオススメされいるので、もう一つの小説も「closing chapter」前にノベルゲーム媒体の方で読みたいと思います。