ひっそりと群生

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【WHITE ALBUM2 -closing chapter-】感想

【男性向け18禁】



なんとなくLeafのノベルゲーム作品を最初からプレイしたくなったので購入part30。



2011年12月22日発売
Leaf』※リンク先公式HP(18禁)
WHITE ALBUM2 -closing chapter-】(PC)(18禁) ※リンク先wiki
以下ネタバレ含めての感想です。








10作に一個は名作と呼ばれている作品を挟んでプレイしないと心が死ぬと学びました。
というわけで、この感想がいつ投稿されるかは分かりませんが、2021年の60作目は「WHITE ALBUM2」の終章にあたる「closing chapter」に。
introductory chapter』(※リンク先感想)からの続きでこれが本当の60作目。


プレイ時間は約37時間45分くらい。
システム面は7でもインストール起動可能。
ディスクレス起動は「introductory chapter」とは異なり認証無し、ディスクレス起動が可能に、有り難い。
「introductory chapter」を持っている場合、「closing chapter」で「introductory chapter」を起動した方がディスクレス起動が可能だと後から知りました。
(今では「EXTENDED EDITION」が出てるのでディスクレスでの問題は無いと思います。)


とにかく読むのに体力を使う作品でした。
別に文章が読みにくいとかつまらないとかでは無いのにこんなに読むのに時間がかかったのが久しぶりで。
文章の読みやすさは素晴らしい上に全部のシーンがサビで面白くない部分は無く、ノベルゲームとしては完成され尽くされており、「introductory chapter」の方でも書きましたが「予定調和」という言葉がここまで似合う作品も無いと思います。
が、しかし、進まない。
1ルート平均プレイ時間は4時間ほど、普通のエロゲと同じくらいの長さなのに12日かかり、1日1時間くらいで毎回力尽き、起動しては休憩、起動しては休憩を繰り返していました。
体力が100回復して「さぁやるぞ!」と意気込んでプレイしても1時間くらい終わった頃には20くらいになってて、80くらい削られている不思議。


物語としては完璧です。
「introductory chapter」の感想でも書きましたが今作は「オメガバース文脈」で作られており、かずさは「運命」、雪菜は「偶然」を背負っていると自分は思っています。
「introductory chapter」で主人公の春希は「運命の女性」かずさと「偶然の女性」雪菜に出会い、雪菜と付き合うが、初恋であり本当は一番であったかずさの存在を捨てられず関係を持ってしまう。
しかし、かずさは海外に経ち、春希と雪菜の関係は停滞。
それから3年後、「closing chapter」で再び時は動き出し、今度は「春希の過去」である小春、「雪菜の過去」である千晶、「かずさの過去」である麻理、それぞれ3人の「過去」、そして同時にどこか別の人物も内包する女性に出会ってしまい、「過去」の暖かく楽しかった頃の自分達が春希を癒そうとする。
「過去」と「現在」が交差し、春希の心は揺れ動き、「過去」の癒やしに縋るとそれぞれのヒロインのEDへ。
暖かな「過去」を跳ね除け、それでも雪菜を選び続けると「closing chapter」での雪菜とのEDを迎える。
でも、物語はそこでは終わりでは無かった。
雪菜を選ぶと今度は3年前と同じように、かずさが、「運命」が再び舞い戻るのだった。


……正直作りが完璧過ぎます。
ハッキリ言うと「introductory chapter」だけでも完成されており、これだけでも他作品なら十分に一作として世に出ていたと思います。
TVアニメ版では「introductory chapter」のみがアニメ化されたらしいのですが、それも凄く納得で。
尺の長さという大人の事情もあるとは思いますが、「introductory chapter」だけでも一つの作品として完成されているので、十分満足度は得られるかと。
しかし、本作は更に「closing chapter」が存在します。
彼らの暖かだった頃の「過去」が寄り添って来る。
凄い、この構成だけでも凄い、そして「introductory chapter」と同じく「closing chapter」も「closing chapter」で完結で十分通用する作品でした。
「過去」を模したヒロインのEDがあって、そしてそれを跳ね除けて雪菜と結ばれるEDがあって、それだけで終わっても良かった。
良かったはずなのに、終章では決して終わらず、最終章「coda」が待ち構えていた。
「運命」が「彼女」が帰ってきて、再び3年前の続きが動き出す…
…なんなんでしょうね、あらすじだけでもこの物語が完成されているのが伝わります。
「introductory chapter」で終わっても良かったのに、「closing chapter」で終わっても良かったのに。
どこまでもどこまでも完璧を追い求めた結果、「coda」が存在しました。
当時、「closing chapter」が終章として発売され、最終章「coda」がひたすらに秘匿されていた意味が分かります。
今でこそwikiなどで詳細を知る事が出来ますが、当時「closing chapter」が終わって両手を掲げたプレイヤーはまさかのラスボスの二段階変化に再びコントローラーを握ったような心境だった事でしょう。
今作はそういう本来ノベルゲームでは味わえないような状況を生み出していました。
だからこの作りの構成は褒める事しか出来ません、完璧だったと。


しかし、物語としては完璧なのにどうしてここまで疲れるのか。
なんとなく思った事ですが、その理由はこの物語の登場人物達が「他人に興味が有り過ぎる」からだと感じました。
別にフィクションとして、物語として、キャラクターは他の何らかの事柄か他のキャラクターに興味が無いと話は回りません。
だからキャラクターが何かに興味がある事は普通になります。
けれど、「WHITE ALBUM2」のキャラクター達の「他人への興味」はあまりにも現実の人間が他人に向ける興味過ぎました。
創作物の人物達の他の物事や他人への興味というのは、話を回す事が前提に有り「ある程度の理解」がある上で興味が向けられます。
「間」「時の運」「思いやり」「お約束」そういう創作上でストレスを感じさせない為の、読み手を不快にさせない為の最初から有る「ある程度の理解」。
しかし「WHITE ALBUM2」のキャラクター達にはそれがありません、「間」「時の運」「思いやり」「お約束」そういう物が何もかも無く、ただひたすらに自分の「生き方」の為だけに動きます。
言ってしまえば「WHITE ALBUM2」のキャラクター達は全員が全員卑怯です。
全員が無意識に「自分の生き方の為に最善だと思っている道」を突き進んだ結果、全ての悪い歯車が噛み合い最悪の状況に進みます。
でも、それでも信じているのです、「これが最善だった」と。
そして自分の「生き方」が狂わなかった事にどこかで安堵している。
その「生き方」が皆、あまりにも現実の人間の生き様過ぎました。
犯罪を犯すほどの「悪人」では無い、でも決して自分の「基準」や「生き方」を砕いて全力で人に尽くすほどの完全な「善人」でも無い、どこにでも居る自分の為を生きる一人の人間達でした。
「人間は意外と善性に溢れているので大いなる悪意のみで事を進めてきた事例は殆どなく、大抵(というかほぼ全て)は善意で破滅へ突き進む」という言葉をネット上でお見かけしましたが、まさにそれを体現した話。
だからこそ見ていて疲れます。
フィクションに人間の完全な善性を見たいと思っている気持ちや、人間の大きな悪性を見たいと思っている気持ちがどちらにも振り切れず、ただひたすらに現実の人間達を見せ付けられて。
そこそこに三次元の役者の演じるドラマも見た事がありますが、ドラマもまだ「フィクション文脈」があった上で関係性を築いているというのに、ここまで徹底して現実の文脈だけで関係性を作り上げる作品はドラマでも中々に見かけませんでした、最早称賛に値します。
人間の性格、そして地の文で語られる心理描写、全てが揃う事で三次元の人間が演じるドラマをも凌駕する部分を持つ現実がそこにありました。
そして同時に感じてしまいます、「自分が見たい物は、現実の人間の恋愛なのか?」と。
恋愛物、エロゲに触れている以上嫌いではないです。
けれど、自分が見たいのは「信頼から始まる関係」だったり「絶対に揺るがない想い」だったり、そういう「フィクション文脈」での恋愛であり、本作とは好みが完全に真逆の位置で「フィクション文脈」を多く含んでいるものが好きです。
本作を読み進める内に、「こんなん、友人でもなんでもない現実の人間のモダモダする恋愛をただひたすらに見せ付けられてるだけじゃないか?」という気持ちの方が勝り、後半ではキャラクターの結末や幸福などはどうでも良く、非常にシラけた気持ちになってしまっていた部分がありました。
キャラクターの性格形成などは興味深く好ましく見続ける事が出来たのですが、恋愛の流れへの興味はどんどんシラけていくという不思議な気持ち。
フィクションの恋愛はフィクションの関係性に興味があるから気になって触れるのであって、現実の赤の他人の恋愛には全く興味がありません、芸能人のゴシップとか正直どうでも良く。
なので、そういう人間からしたら非常に読むのにストレスを感じる所があり、通常の倍のプレイ時間がかかりました。


フィクションでの「男2、女1」のトリオや、「女2、男1」のトリオの友情関係に心を揺さぶられる事が多いのですが、春希と雪菜とかずさ、3人の付属時代の友情には全く心を揺さぶられなかったのも多分そこだと思います。
文化祭の成功を収めたから美しい記憶になっているけれど、3人の関係はどうしても本当の中身に触れてない馴れ合いにしか見えず。
結局は「本当の友達だよね?」と何度も確認する事で関係を保つようなそういう馴れ合い。
ただ楽しいから隣に居て、気が向いた時に話す、そんな心地良さの全く無い息が詰まりそうな関係。
別に、そういう友情の形も確かにあってそれも一つの友情なのだろうとは思いますが、フィクションの中で描かれると非常に歪に見えて。
「自分がフィクションに求めている友情ではない」と恋愛だけでなく友情方面でも創作物で見たい物から外れるという。
進めば進むほど、創作物としての「WHITE ALBUM2」という作品が分からなくなって行った所があります。
WHITE ALBUM2」は自分のような人間には決して縁がないどこか知らない場所の知らない人間達の恋愛の話なのでは無いのか?と。
もし、「WHITE ALBUM2」の世界に自分が居ても、彼らとは全く関わらなかった名前すら出ない存在だったと思います。
というか確実に春希とは人生で接点を持たなかったでしょう。


そう、北原春希。
今作を語る上で外せない主人公であり、他でも散々言われていますが、彼は相当にクズな男です。
クズという言葉が可愛く見える程にクズ。
「自分は最低だ」と言っておきながら無自覚の本心ではきっと「自覚してるからまだ最低じゃない」と思っていそう。
クズで最低な自分を自覚したなら変わって行けばいいのにそれをしないので結局「口ばっかりじゃん…」とプレイヤーをシラけさせる。
彼が何度も語る「誠意」。
「誠意」を辞書で引くと「私欲を離れて正直にまじめに物事に対する気持。まごころ。」と出ます。
彼のどこにその言葉があったのか…
まぁ百歩譲って「まごころ」の「偽りや飾りのない心。真剣につくす心。」は本物でしょう。
彼が何らかの大きなアクションを起こす時、他人に対しては嘘八百でしたが自分に対しての嘘は無かったので。
性欲に対してもも驚くくらいに嘘を吐かず、その場その場の欲求を見事に消化しましたし。
自分に対しての嘘は無かった、それは同時にその時その時で一番やりたい事、「欲望」には忠実だったという事で。
「私欲を離れて正直にまじめに物事に対する気持。」に関しては完全にアウトになります。
「introductory chapter」でも書きましたが、春希は「自分の基準」「自分の生き方」を絶対に曲げる事が出来ません。
どなたがが仰っていたのですが、「浮気相手にはお金を出させて暴力を振るうけど本命には尽くす人がいたとして、浮気相手から見たら不誠実だけど本命から見たら誠実(浮気さえバレなければ)で、誠実は本人の資質と同じかそれ以上に相手への感情や力のバランスで変化する」という言葉をお見かけして、それが非常に腑に落ちました。
春希は雪菜にも雪菜以外にも平等に愛する、それ自体はどちらの立場から見ても誠実なのですが、浮気をするならするで隠さなければいけないのに(浮気さえバレなければ)の部分をも貫けない。
誠実であり続ける為にはバレてはいけないのに、自分の「生き方」故に関係を持った後に耐えられず自ら周りにバラす方向性に行く。
そここそが彼が誠実には成り得ない所だと思いました。
雪菜との一件もそう。
雪菜の受け止め方も歪だった、けれど、彼が「誠意」を貫くのなら、雪菜の行動を肯定しなければいけなかった。
彼の求める「怒って欲しい」「責めて欲しい」という気持ちは、彼の方が罪を犯している場合、自己満にしかなりません。
殺人を犯した人が許して欲しいと願い続けるのと同じ、ただ、「自分の基準」の罰が欲しいだけ。
自分の「基準」の罰が無いから雪菜の行動に苛立ち憤りを感じ距離を置く、それって本当に反省しているのか?と。
その上で本当の裁きが下ろうとすると体調を悪くするから尚酷い。
彼の罪の方が圧倒的で彼が心から反省しているのなら自分の「基準」を折り曲げ、雪菜の行動を認め、雪菜の方に非があった事を受け止めた上で謝り続けるしか無かったと思います。
それは心が折れるような関係です、けれど、その関係を作ったのも自分なら、そうなった関係ごと受け止めるしかない。
それに耐えられないなら逃げるのではなく完全完璧に雪菜との関係を絶つしか無かった。
そのどちらにも徹せないから周囲を巻き込み様々な歪な関係を構築し始めます。
結局は自分の「基準」、自分の「生き方」であり自分の「欲望」の為にしか行動出来ない春希は瞬間瞬間で最も心地の良い方向に流されて行きます。
様々な屁理屈を心の中で捏ね、その作中で言われているように屁理屈があまりにも上手なので(またの言い方を心理描写が上手いとも言う)、一瞬は読者を納得させますが、ふと一拍間を置き立ち止まると「いや、待って、何も解決しない、清算してない、流されてる」と納得されかけながらも彼の行動のおかしさに頭を捻る事になります。
普段言っている事と、行っている行動、そして考えている思想がいざと言う時、本当に真剣に判断をしなければならない時に限って全く機能していない。
「ここでこの壁を超えると大変な事になる」というストッパーが機能しない。
単なる友情での「おせっかい」ならその後に響かないけれど、恋愛ではそういう訳にはいかず。
けれど、それを理解していても「生き方」を変えられないから友情での「おせっかい」と恋愛での「おせっかい」を同じように行い破滅し、恋愛に関しては全くのポンコツになる。
北原春希は恋愛に関しては全く才能が無い人間なんだという事に行き当たります。
逆にここまで拗れさせるのはソッチの才能が有る人間なのか…とりあえず「浮気をしない」というものが才能なら、彼にはその才能がありません。


でもきっと、気付いている人間は気付いていて。
そういう人は「WHITE ALBUM2」で春希に一切関わらなかったのではないかなと。
春希が人間である以上、全ての人間と接するのは不可能で、そういう接さなかった人間こそが春希の本質を知っていて避けている人物で。
彼はこと恋愛に関しては地雷男です、そしてそれを彼の恋愛に直接関わらない人間は知らない。
恋愛以外の部分が完璧であるが故に、皆彼を称賛してしまう。
類友じゃないですが、春希の周りに集まる女性は春希と同じくらいに地雷な女性が多く、そして友人は春希の本質に気付かない人間しか居らず。
気付かない人間しか彼の側に居ないから、彼は怒られる事を知りません。
本作の一番の問題点は春希のダメさもですが、彼を真剣に怒ってくれる人が居なかった事なのでは?とは思っています。
「人間本気で怒られる内が華」とはよく言ったもので、本当にそう思います。
作中で他人が彼を怒るとしても一瞬叱るだけ、そしてすぐに彼を包み込む。
そうじゃなく、真剣に向き合って、本気で殴り合うレベルで叱ってくれる人が居れば良かった。
でも、それは誰もしない。
皆人間関係が崩れるのが嫌だからしない人ばかり。
雪菜を筆頭にそういう人間だらけで。
雪菜の「自分を責める」という部分、「自分が春希とかずさを引き裂いた」とは言っていますが、それ以上に「春希を責める事が春希との決別にもなる可能性を秘めている」からこそ、彼女は春希を責められません。
けれど、彼女は知らない、「被害者が自分を責め続ける事が加害者にとっての苦痛」にも成り得る可能性がある事を。
いや、知っててあえて消せない傷を残す事で自分の存在を刻みつけているのか。
そこが全て両立していそうなのが雪菜という女性の怖さなのですが、それでも彼女の「自責の念」こそが春希を傷付けます。
本作はそういう、「本人の何気ないちょっとした一言が相手を絶望的に苦しめる」「相手の為だと信じて疑わない良かれと思って行った行動が全く逆の成果を伴う」という事象が多すぎて。
「他人に関わる事」で必ず発生する何らかのリスクを考えず、踏み込むけれど踏み込む距離感を間違い続ける。
「悪意のない攻撃」がそこかしこから放たれて、本当に、「フィクション文脈」で生きてる人間が居ない事を痛感します。


どこまでもどこまでも現実を描き続け、そしてどこまでも自分とは縁のない現実が描かれ過ぎて、「幸福な結末を見届けたい」や「何らかの物語としての節目を見届けたい」という気持ちがどんどん離れて行くという稀有な経験をしました。
あるのはただ「彼らの事はどうでも良いから、ゲームとしてなんとかこの作品を終わらせたい」という気持ちだけ。
文章力、演出、全てが素晴らしく、物語としては完璧で圧倒的な完成度を誇り、作品としてのストレスは全く無いのに、完璧だからこそ見せ付けられたのは「現実の恋愛」で、進めば進むほどに興味を失っていくというあまり自分が味わった事が無い体験でした。
フィクションに「フィクションとしての強い人間関係の繋がりを求めている」ほど、「現実の恋愛」に興味が無いタイプほど、完成度の高さ故に彼らの関係にシラけて行ってしまうという、それだけ凄い作品だったと思います。
「凄い作品、しかし、キャラクター達を善での好きとは言えず楽しかったとは言えない」、今作が語り継がれている事に納得しかありませんでした。


創作物としての出来は驚くくらいに高いので、その辺りを各分野で感想を書いていきます。
まず、音楽、「introductory chapter」から続き最高。
「届かない恋」もですが、雪菜の歌唱やかずさのピアノクラシックが盛り上げに盛り上げます。
BGMも場を非常に盛り上げ、単品だけだと個人的な好みではないのですが「言葉にできない想い」「氷の刃」「Answer」辺りは作中のキツイシーンでよく流れる為、聞くと唸りを上げそうです。
今作は音楽が綿密に物語に関わるので、音楽単体としての好みはそんなに自分に合わなくても、話と合わさる事で印象に残った曲が多いです。
音楽単品では「届かない恋」よりも「幸せな記憶」が好きなのですが、今作の一番の曲は「届かない恋」の方ではあると強く言えます。
ボイスに関しても素晴らしい。
Leafは主人公にボイスがあるのに加えてエロシーンでもボイスがフェードアウトしないのがとても好きです。
「introductory chapter」に続き非公開ですが皆様流石お上手。
PS3版のキャスト名を見ても納得です。
全員お上手ですが、春希役の方と雪菜役の方と千晶役の方が個人的MVPかなーと思っています。
春希は主人公なので当然のようにセリフ量が多く、「………」なども声が入る今作でとても負担量が多かったと思います。
おそらく多分ですが「夏音 -Ring-」でも主人公のお声をされていて。
その際に「夏音 -Ring-」が特殊な作品で地の文もフルボイスという驚愕(一種の声優イジメ)の作品だったのですが、その時も全文を華麗に読み上げられていて、とても喉が強靭な方だと思っていました。
本作ではその強靭さに加えて演技力も格段にアップされていらっしゃったので、月日を感じると共に演技力の成長も見えて聞いてて大変楽しかったです。
ナヨナヨしいイケボという印象ですが、ナヨく正論ウザさがありクズを正当化するという部分に声質がとても合っていたと思います。
春希だからけっこう貶し褒めっぽく書いていますが、某国擬人化アニメでもお聞きした事があり、その時もホワホワへにゃっとしたキャラが合っていたので、そういうキャラにお声が合うなぁと思っています。
…で、オールクリア後のキャストコメントに春希の役の方のコメントが無いのはバグなのでは?
ヒロインでは無いので仕方ないとはいえ、一番コメントを聞きたい方だったので無かった事でテンションだだ下がりでした。
雪菜役の方は、この「雪菜」という「フィクション文脈」が殆ど無い「リアルな女の面倒さの体現」と言うべきキャラをここまで正確に演じられた事に驚きました。
PS3版キャスト基準で語りますが「大図書館の羊飼い」でも純粋だけど純粋故に何を考えてるか分からない所があり恐ろしいようなメインヒロインを演じられていて。
まぁ「大図書館の羊飼い」は原作会社が会社なのでそれは深読みだとは思っているのですが、そういう「見た目は真っ白に見えて中身は白黒を使い分ける灰色の部分がしっかりとある」みたいなヒロインを演じられるのが凄まじく上手い。
逆を言うとこの方が「真っ白なヒロイン」を演じられるとどこかに含みを感じてしまうような、そういう演技をされるので、とてつもなく雪菜に合っていて、配役勝ちという気がしました。
ちょっとしか見てませんが某軽音楽アニメの妹も「良い子だけどしっかりと考えてもいて掴むべき所は掴む」みたいな演技をされていたので、そういうキャラの演技がお上手なんだなーと思います。
千晶役の方は多分おそらく「こいとれ」と「時間封鎖」で聞いてる可能性があり。
こいとれ」の際も確か姉妹を両方演じられて一人二役されていて感想で演じ分けが凄かったと書いてたはずなんですよ。
今作で「役者」のキャラを演じられ、所々で誰かの言葉遣いを演じられますがそれが本当にお上手で。
ラストの舞台で一人二役で自分の解釈した雪菜とかずさを演じますが、最後の雪菜役の一人語りはもう凄くて。
決してこの方が演じた雪菜では無く、「千晶が解釈をした雪菜の演技」というのを台詞の隅々から感じ、ちゃんと「演技の演技」として言葉を綴られていました、上手い人じゃないと出来ない演技でシーンの良さもあり聞いててゾクゾクしました。
他の方もお上手ですし、かずさも間違いなくお上手な方ですが、かずさはやっぱり「フィクションの女性」で「フィクション文脈」が強い女性キャラなので、シンプルな「ツンデレ」系統を強く感じる演技で。
その演技がかずさを演じる上で大正解の演技だとは思うのですが、だからこそインパクトは少なかったです。
癖が強い女性を癖が強く演じられるのが好きなので、聴き応えがあったのは雪菜と千晶でした。
春希はセリフ量とあのダメさを引き出した事でのインパクトがありました。


絵関係はどれも綺麗。
まず背景は朝、昼、夕、夜と時間によった差分があり、プレイ中に一日の時間経過など視覚面でも気になるタイプなので、ちゃんと違いがあって違和感無くストレスはありませんでした。
背景のキャラとメイン立ち絵のキャラの絵柄が違うのはどのゲームもなのでまぁ仕方無い事だと思っていますが、背景がどれも丁寧だった為、逆に気になったと言えば気になりました。
CGも「introductory chapter」のパッチを当てる前のような違和感のあるCGは無し。
「introductory chapter」の卒業式でかずさを探す際の途中の謎アニメーションも廃止されていたのも良し、あれは本当に要らなかった(にしても、アニメーションを「合わないから」と丸々削除する判断も凄いなと思います、かかったコストの事を考えると震える)。
「closing chapter」でのヒロイン攻略後に「introductory chapter」をプレイすると文化祭で千晶関係のイベントが追加なので、「closing chapter」インストール時に「introductory chapter」のパッチを当て、「introductory chapter」の3周目も軽く見ましたが、CGで違和感があった部分はしっかりと違和感無く修正されていたり、かずさの蹴りの立ち絵が修正されていたので、絵の方面でのモヤモヤはほぼ解消されていました。
武也だけは変わっておらず細いままでしたが、まぁヒロインでは無いので多少は良いか、という気持ち。
立ち絵枚数も商業にしては破格の多さなので、「この立ち絵が無い、ここの立ち絵がシーンと合ってない」となる事は無かったです。
かずさがカレーを被るシーンですら立ち絵があったのには驚きました、商業であそこまで細かい立ち絵は中々に見ないので見応えがあります。
あえて違和感を上げるとするなら武也が年を重ねる毎に細くなっていってるなと思った所と「closing chapter」での依緒の腕の長さ、「coda」でのかずさの胸のバランス、くらいかな。
他の出来が良い故に自分が少しだけ感じた違和感なので、支障は全く無いです。


今までのLeaf作品のタイトルや曲など様々な小ネタもあり。
WHITE ALBUM」は当然の上でまさかのフラッシュネタ「ここがあの女のハウスね…」から。
千晶の付属時代の学園祭の演目は話も音楽も「痕」、大学のラジオのBGMが「ToHeart」。
武也と依緒が雪菜にと誘ってくれる映画は「天使のいない12月」、雪菜がライブハウスで結成しているバンド名が「Routes」。
至る所にLeaf過去作が溢れていて今まで連続で追ってきた身としてはどの要素もテンションが上がりました。
あと見たかったのは長瀬一族くらいですね。
世界観から外れると言えば外れるので仕方ないですが、「WHITE ALBUM」の時に喫茶店「エコーズ」に居た長瀬さんも今作では登場しなかった「エコーズ」で店長してると良いなと思います。
物語を筆頭に、音楽、絵、ファンサービスの部分で全くマイナスになる部分はない出来でした。


そういえば上記で春希は地雷男でヒロインも見事に地雷女が揃っていると書きましたが、それはヒロインの男性経験にも如実に現れていると言うか。
男性向けのエロゲとして処女が好まれるので、ヒロイン全員が処女なのは一種の納得感がありますが、彼女達が男性経験が無い事も春希に惹かれた要因だと思っています。
ある程度の正常な方での男性経験がある人間が男女関係として深く春希と関わってから彼を見るときっと春希って明らかに地雷なのが分かるというか…「見た目とか行動は良い人だけど恋愛では相手にしたく無いタイプ」というのを察する事が出来るというか。
作中で春希が普通の男性経験豊富な女性からは恋愛感情を向けられる描写が無いのってそういう事だと思っています(異性関係でトラブルの多い人からは目を付けられますが)。
良い人なのでお礼はされるけど、それ以上にはならない。
基本的に「女性が怖い」と言いながらも辛い時には女性に逃げますし、女性を舐めてる節があるので、その辺りを察する女性は察する。
男性向けエロゲとしての処女信仰の文脈は押さえつつ、そういう部分にもリアリティを出していて隙が無いなと唸りました。
こういう「お約束」を押さえながらも、そこに現実を割り込ませてくるの大好きです。



プレイ順は
「雪が解け、そして雪が降るまで」
「歌を忘れた偶像(アイドル)」
「closing chapter」
ノーマル→小春→千晶→麻理→雪菜
「coda」
雪菜ノーマル→かずさノーマル→かずさトゥルー→雪菜トゥルー
の順で攻略
「雪が解け、そして雪が降るまで」は「introductory chapter」の方で感想を記載しているので省略。



『歌を忘れた偶像(アイドル)』
紙媒体は「closing chapter」初回特典。
プレイ時間は約1時間30分くらい。
ボイスは無し。
三人称視点で雪菜を主人公として描かれる、「introductory chapter」後、大学入学から「closing chapter」までの期間が描かれた話。
雪菜のどこまでも春希しか見つめていない2年近く。
その姿は一途を通り越していて。
しかし、狂気と呼ぶにはあまりにも純粋で。
春希とかずさは「運命」だった、春希と雪菜は「偶然」だった、それでも、雪菜の中では紛れもない「運命」で彼女には春希しか居ない。
彼女が「introductory chapter」最後に春希を断罪せず、自分の罪だと自分を追い詰めた姿は春希を逆に追い詰め、「決して自分は雪菜と結ばれてはいけない相手」だという事を決意させていて。
その決意が逆に雪菜を追い詰めるという、なんという堂々巡り。
あの時、雪菜が「自分のせい」とは言わずに怒っていれば、断罪していれば、春希との関係を修正出来たかもしれないのに。
罪に罰を与えなかったから「優等生」の彼は苦しむという。
「罪に罰を与えない」というのは春希の中では「法を破った人間に法の裁きを下さない」事と同義で、それは「優等生」の春希には耐え難い事で。
彼が苦しむのは「雪菜の罪に耐えられない」というよりは自分の「生き方」、「基準」が狂ってしまった事での苦しみだと思うんですよね。
わりと雪菜は二の次というか、「雪菜と結ばれてはいけない」という枷は自分を納得させるための行為になる。
だから雪菜よりも友近の崖っぷちの家庭環境を優先する。
崖っぷちの家庭環境の友近を今助けないと彼は大学を辞め、自分の周りで不幸が発生し「おせっかい」の生き方を貫けないから。
そして助けた上で雪菜に告白した事を咎め、絶交を言い渡す。
いやぁ酷い男ですね、自分の元には決して置かないのに所有権だけは主張する。
しかも自分の元に置かないのは雪菜への贖罪が建前にありつつもそれよりも自分の「生き方」を守る為だからとんでもねぇ。
春希のムーブは女性向け作品で「俺は他の女を抱くし他の女と付き合うけど、お前は俺のもんだからなムーブ」で最後の友近の話を聞いてる時に変な笑いが漏れました。
これ女性向けでも最近嫌われてる俺様系男子じゃん。
でも、雪菜は春希しか見えてないのでそれだけでウキウキという。
雪菜、モロに俺様系男子に引っかかるヒロインで見ててハラハラするんですよね、乙女ゲーのヒロインだったら絶対そんな男のルートにか行かせないからなと意気込むのですが、これは男性向け作品なのでどうしようもない。
話の順序立てや関係性、性格形成があまりにも細かく、外堀を綺麗に埋めた上で表現されるので、雪菜の春希への想いに作品的には納得しますが、俯瞰して彼女の恋愛観を見ると全く理解も納得も出来ないというか。
自分だったら一度でも自分を裏切った相手は恋人だろうが友人だろうが即縁を切り相手の人生に関わらないようにするので、「自分の事を受け入れもしないくせに自分の所有権だけは主張する人間」をここまで妄信的に追い続けている雪菜は現実に居たら異星人のような女性だなと思います、少なくとも同じ学校で同じクラスでも殆ど関わらないタイプ。
所々の無自覚に計算高い(ように見える)所はキャラクターとしては非常に見応えのある娘さんではありますが。
あと、本編からなんとなく察してはいましたが、さり気に彼女の家庭環境は「一般的な普通の家庭」ではありますが、両親…主に父親が「自分の家は普通の家庭だ」と信じて疑わない所にまた別の恐ろしさがある家だとは思いました。
「普通」を「自分の価値観」を決して疑わないから、過保護や子供に干渉し過ぎ、それを疑問にも思わない。
「普通の円満な家庭」「子供の事を考えている」と信じているのに娘の変化には全く気付かず、気付いた時には子供の心境はどうしようもない所まで行っている。
こういう家庭は良い方向にも作用しそうですが、悪い方向にも作用しそうで。
春希の母やかずさの母が分かりやすいダメ親なら、雪菜の親、特に父親も過干渉的ダメ親の気があるというか。
家庭の事は普通にこなしているから自分も周りも分からないだけで実は地味におかしいタイプ。
そして、雪菜もそれを普通と信じているから若干のおかしさに気付けない、気付かない内に親の重さを背負っているという。
彼女の「良い子」の性格形成もそういう家だから作られたんだなぁと。
春希の家も、かずさの家も、雪菜の家も、それぞれで「嫌だ、この家の子供になりたくない」と思わされる要素満載で。
改めて「WHITE ALBUM2」は家庭環境の描き方が絶妙だなと思いました。
春希の歪んだ愛(?)束縛(?)を知りウッキウキの雪菜さん。
傍から見れば「乙女ゲーだと地雷系の攻略キャラだぞ、やめておけ」としか思えないムーブですが、雪菜の中では喜ばしい事なのでなんとも言えないのがミソな終わり方を迎えたこのお話。
果たして本編の「closing chapter」はどんな物語を刻むのか、少なくともこんなムーブかましておきながらもヒロインが3人追加される辺りで色々とお察しなのですが、「WHITE ALBUM」は「浮気」のゲーム。
春希がどんな形で他ヒロインと関係を結び、そしてその関係をどんな匠な文章で物語として納得させて行くのか、期待しています。



<closing chapter>
それぞれの過去が優しく包み込もうとして来る「closing chapter」。
過去を跳ね除け雪菜に進むと物語は「coda」へ。
「closing chapter」で面白いなと思ったのは、雪菜以外の各ヒロインのEDに向かってもその後にかずさが現れたらまた一波乱起きそうだと思った所です。
春希が編集者に就職する以上、かずさへの取材は起こり得る未来で。
その時、他のヒロイン達はかずさとどんな顔で「運命」の女性に出会うのか。
本編では描かれない各ヒロインルート後のかずさの取材での一幕。
絶対に見る時に苦しむ事は理解していても、それを見たいとも思いました。


『ノーマル ルート』
雪菜とヨリを戻さないEND。
自分の中で雪菜を選ぶ事を一応は決めた春希が雪菜に拒まれる。
かずさを完全に切り捨てたら切り捨てたで「3人が良いの、あの頃の私達は何だったの」と言われ、かずさを意識すれば意識したで「やっぱりかずさが忘れられないんだ」と言われ、春希からすれば「どうすりゃ良いの?」状態。
あの3人の文化祭での出来事や関係は何度も「3人」を「友情」を言葉で確認している時点で違和感が拭えず傍から見ると最早単なる「馴れ合い」にしか見えないのに、文化祭で盛大に成功してしまったから「オレ達ノ関係ハ崇高、オレ達ハ永遠、オレ達ベストフレンド」みたいなヒップホップ的栄光として3人の心の中に残ってしまっているからタチが悪い。
雪菜も、あの日々しか「本当の友達(だと思っている)」が居た過去が無いので、あの日々が美しいと思っちゃっており、あの日々を捨てると自分の惨めさしか残らず切り離せない。
春希は春希で雪菜を選ぶならかずさを完全に心のどこにも残さずに切り捨てれば良いのに、初恋だからか「運命」だからか、決してかずさを心から引き離す事が出来ず曖昧に笑い、それを雪菜は察して決して関係を修復出来ないという。
その癖、雪菜の件で傷付いたら自分を気にしてくれる女性が居る場所に向かう選択がある所が春希、マジ春希。
このルートだと好感度なのかフラグなのか、とにかくなんらかの要素がゲーム的な制約で立っておらず、選択肢が潰されていて選択自体は出来なかったのですが、選択肢としてそれぞれのヒロインが居るだろう場所が表示された時、思わず笑ってしまいました。
ここで「女が嫌」だとか「女の要素が辛い」とか言ってて武也や他の男性の居る場所に行くならまだ分かるのですが、明らかに自分と深く接してくれる女性が居る場所を候補に上げる所が…春希、そういう所だぞ。
結局、雪菜とかずさ、どちらも強く切り捨てられず受け入れる事も引き寄せる事も出来ない春希と、春希が離れる事も全てを理解した上で離れるのを受け入れる事も出来ない雪菜が付かず離れずのまま一定の距離を保ち居続けるENDでした。


『杉浦小春 ルート』
過去の春希の姿、そして家庭環境は雪菜。
だからこそまるで鏡写しのようにお互いが分かってしまうし、春希に近付けば近付くほどに彼女の未来も進み今の春希になってしまう。
春希の過去の一件を聞いた小春が春希の方を断罪せずに雪菜の方に怒りを向けたという事は、それこそが春希の深層心理なんだろうなと思っています。
自分でも気付かない、気付きたくない深層心理では春希は自分を責めながらも雪菜の「怒りもせず、責めもせず、ただ自分が悪いと嘆いている」という行動に対して怒りを持っているという。
話だけ聞けば断罪されるだろう春希の過去の行動に対し、雪菜への怒りを見せてくれて全てを知った上で本当に味方してくれる小春に惹かれるという。
けれど、彼女との出会いは「小春の友人をキツくフッた男の真意を知る」という所から始まっている為に、彼女と関係を持つという事は彼女は友人を裏切る事になるという構図にも繋がり、そしてその構図こそが過去の春希に重なるという。
性格も春希なら人生すらも春希と同じ道を辿る事になるという、まるで人生の双子のような子。
友人も自分の恋しか見ていない子で決して小春を信用しない中、更には友人が小春と春希が二人きりで話す所を目撃するという間の悪さで友人と拗れ、春希の過去を知った事により春希の秘密も背負い、他の友人にも春希の複雑な事情を説明するわけにはいかず、疲弊に疲弊を重ねた所で春希に救われて行き、とうとう二人の想いは繋がってしまう。
そして、二人がキスをしている所を他の友人に見られ、小春は学校での居場所を失い、春希に縋るしか無く。
学校での唯一の味方の孝宏も、雪菜の弟だから本当に頼るわけにはいかず、余計に罪悪感にかられるという。
春希は雪菜との関係を清算しないから、小春は友人とちゃんと話し合わないから、そして雪菜は自分を責め続け、友人も相手の話を聞かず、それぞれが自己完結してしまっているから、何一つ解決しないままで春希と小春の恋だけが加速していくという。
それでも、二人は同じ人間で、「世間での常識(と自分が思っている事)」を、自分の「生き方」を変える事が出来ないから「全ての常識を捨てて二人だけの世界」で納得する事も出来ない。
そして、そういう「自分を貫く事」の気持ちの強さが強かったのは小春の方で。
「正しくない(と思っている)関係を貫く」という事に理由を付けて引き伸ばしたり、延々と悩み続ける事に春希よりも気性が合わず。
春希と同じ道を辿りながらも春希が雪菜との関係で悩み続けた3年間を簡単に越え、自分なりに結論を出し春希から離れ雪菜に返す道を選ぼうとする。
でも、その決断は春希の決断とも重なって…
春希は雪菜と別れる道を選び、雪菜に春希を返す事も出来なくなり、小春と話した雪菜はやっぱり春希同様に小春を責める事も無く自分を責め、小春の決断は後悔となって伸し掛かる。
この、春希が背負っている「決して春希を責めない雪菜の自責の念」が小春にも同じく牙を剥いて来る構図が上手すぎて。
小春も今後「決して小春を責めない雪菜の自責の念」を背負い続けるのだと思うと、そういう所まで含めて春希と同じ人生で震え上がりました。
流石、ダブルヒロインでありダブルボスの片割れの雪菜さん、春希と同じ気性を持つ存在を決して逃しはしませんでしたね。
雪菜との関係をどう清算するのか、果たして有耶無耶にして終わるのか、と危惧していましたが、「過去の春希の姿の少女に、春希と完全に同じ雪菜の罪を負わせる」という事でラストを彩るとは思っていませんでした。
有耶無耶になんかならなかった、ならなかったけどここまで「同じ人生」を描かれるとぐぅの音も出ないという程に描かれるとは思わなかった。
春希は雪菜の件で、小春は春希の件で、沢山の人を巻き込みましたが、一番大きく巻き込んだ雪菜とは一応は関係を清算したので、今後はエピローグのように少しずつ各方面で修復して行くのでしょう。
「春希の過去」である少女に「春希の人生」を完全に追体験させる構図、本当に見事でした。
「closing chapter」追加3ヒロインの中では一番、話の構成、作りが上手く好きです。


『和泉千晶 ルート』
過去の雪菜の姿、そして才能はかずさのような天才。
いや、正確には「過去の雪菜、そこから女の要素だけを取り除き演じていた姿」かな。
実は同じ高校で、同じ文化祭のステージに演劇で立ち、3人のステージを見て3人に惚れ込み、3人の物語を演劇で完成させる為に春希に近付いていた女性。
春希個人ではなく、「3人で居た姿」に惚れ込んでいたという意味では雪菜に通じるものがあります。
最初は演技の為に近付いたけれど、どんどん本気になっていくというのは王道ではありますが、とても好みなので、話の流れは超絶に好きでした。
そういう「別の目的があって春希に近付いた」という点は雪菜も同じで、彼女も「3人からあぶれるのは嫌」という理由で春希に近付いた子ではありますが、雪菜と圧倒的に違うのはそういう点を自覚しており「自分の悪性」を正確に理解していた所というか。
雪菜も「3人からあぶれるのは嫌」という理由で春希と付き合った事を「introductory chapter」ラストで告白し、「自分の悪性」を暴露しますが、雪菜の悪性って本人が自覚している悪性と大分齟齬があるように見えるんですよね。
本人が思っている悪性と客観的に見て感じる悪性に埋められ無い差があるように見える。
本当はもしかしたら差はなくて見えるだけかもしれない、でも、そこで正確に理解しているように見える事と正確には理解出来ていないように見える事って、客観視の観点から行くと大きく変わってしまい。
「ある人の優しさは優しさに感じるけど、ある人の優しさは弱さに感じる」みたいなそういうの。
本人は純粋に「悪い」と思っているけれど、傍から見るとそれすらも癪に障るとか、そういうの。
完全に受け取り手の解釈が違ったり、本人の持ち前の人間性やキャラクター性で感じる事で、本人が悪性を自覚しているならそれ以上でもそれ以下でも無いのに、人によって同じものでも受け取り方が大きく変わってしまう。
受け取る側の歪んだ心のせいではあるのですが、雪菜はそういう部分がとても大きい子で。
「introductory chapter」では「無自覚に計算している(ように見える)」と書きましたが、それは受け取り手が「無自覚に計算している、ように見える」というだけで、本心は全く計算していないかもしれないんですよね。
ただそういうキャラクター性なだけ、ただそういう雰囲気を持つだけ。
でも、そういう空気感こそが自分達が日常で生きる時に言語化されない部分で判断している事の強い判断材料になるわけで。
そういう意味では雪菜は非常に「持って生まれたり今までの人生で培った性質が人に誤解を招く子」ではあると思っています。
(そうは言いつつも「無条件に許すことが一番の罰」という事を理解しているので、誤解と一言で言えない子でもある所もあるのですが…)
こういうのは本当に厄介、「この人になら言ってもいい」みたいな一種の舐められと同じなので。
その点で言うなら千晶の「悪性」というのは非常に分かりやすい。
この千晶の気性で「演技だし」と言われても「だろうな」と納得してしまう。
そういうのも「持って生まれたり人生で培った気性」だと思うので、千晶本人の中身は空っぽだと言われていても、そういう「分かりやすい悪性」という「分かりやすい空気」を持っている点では千晶は「分かりやすい人間」だと思います。
だからこそ、千晶は雪菜には成れない。
「分かりにくい気性」と「分かりやすい気性」そういう性格や人格の面では決してどうにも出来ない、本人の持っている今までの人生で出来上がっている空気が相反するから、決して千晶は雪菜には成れない。
千晶が必死に雪菜の「本当の姿」を追い求める流れは、千晶ルートでありながらも「雪菜という人間がどういう生き物なのか」を追い求めるルートで、春希と千晶の浮気のルートなのに二人が蚊帳の外に感じた所が非常に面白かったです。
それでも、千晶は一応は舞台の上で「諦めない雪菜」という答え出しながらも、それは雪菜の演技で最後の最後まで雪菜を知る事は出来なかった。
二人で最後に会話をするシーンで、雪菜の演技に騙されてしまいその姿を受け入れ負けてしまう。
千晶は確かに嘘偽りなく春希が好きで、でも自分の「生き方」の中心には演劇があって、演劇を基準に考える「生き方」を変える事が出来ない。
その部分は春希に似通っていて、彼の真面目な優等生の「生き方」を変えられない所と同じで…
でも、その「生き方」である演劇の部分ですらも雪菜の演技には敵わなかった、雪菜を演じようとしても決して届かなかった。
演劇の天才である女性ですらも打ち負かす姿、本当に雪菜は恐ろしい娘さんです。
そんな雪菜でも、春希に「裏切るより裏切られた方が楽」と言われ、恋愛では負けてしまうから恐ろしいけれど可愛そうで。。
いや、春希との別れ話は千晶との会話で演技を貫いた後での出来事なので、春希が千晶を選ぶ事も雪菜の予定の内だったのか。
そこが分からない所がもう、それこそが雪菜の「持って生まれた気性」としか言えません。
演技では雪菜を何も掴めずに負けて、でも恋愛では春希を手に入れて勝って。
「試合に負けて勝負に勝つ」まさにそんな姿。
舞台上で春希に気を取られ、女としての切り札が使えなくなって心を揺さぶられ演技に支障が出るくらいに、いつの間にか演技よりも春希の方が大切になっていた辺り、演技で雪菜に勝つ、雪菜を知る事は不可能だったのだなぁと。
一番では無くなった演技で雪菜を知る事は不可能なんですよね、きっと。
最後には春希と同棲していて、演劇の方面でもオーディションに合格したり華々しく活動しているみたいですが、彼女は雪菜の演技は演技と気付かないままで、春希を手に入れた事も雪菜の演技があった上での流れだった事も気付かないままで、一生居続けるのだろうなと、そんな風に思いました。
「closing chapter」追加3ヒロインの中では一番、春希への扱いが好きです、裏切ってた男が裏切られるのが因果応報で好き。
千晶のEDだけ2つありますが、千晶が去っていくEDが好きだったりします。
しかし…最初の選択肢で「苦手」に感じ、千晶の歪さに気付くと結ばれるEDに進むのが千晶らしいというか。
役者である彼女の本質を掴めないと千晶とは結ばれない、見初められないんだなぁと感じました。


『風岡麻理 ルート』
過去のかずさの姿、そして他人への接し方は春希。
飾らない言葉遣いに親交を深めた後のかずさのような気性を持つ女性、皆に厳しく平等に接しながらも受け入れた人だけは少し特別扱いをして接する。
彼女の物語はまるでかずさとの関係をなぞるかのように進みます。
クリスマス、雪菜に拒絶され逃げ込んだ職場で彼女の優しさに触れ。
接していく内にかずさを感じる。
クールで自信家で強く生きていて、けれどふとした時に可愛らしさを見せ、一度壁を取り払うと自分の内側に入れた人間の事しか考えられなくなる。
築き上げた関係や性格などを抜きにした場合の根本的な春希の女性の好み、性癖はこういうタイプなのだと言うことが凄く伝わります。
雪菜の拒絶で深く傷心した後、麻理の優しさに漬け込む形で関係を持ってしまう。
始まりは麻理の立場からすれば間違いなく代用品だった、けれど、「introductory chapter」の出来事を知っていると、かずさ側の立場の方が春希にとっては本命だから始末が悪い。
春希の過去を知らないままに春希に翻弄される麻理は大変可愛いのですが、春希と雪菜の事を考えると全く微笑ましくないという。
この、「知らない人間だけが浮かれて、実は他では全く浮かれきれない状況が巻き怒っている」というのは見ていて苦しい、「知らない、分からない人間が損をする」ような状態を苦しく感じるタイプなので麻理が可愛くなればなるほどにプレイヤーとして苦しい気持ちを味わっていました。
でも、そんな浮かれている麻理にも春希には語っていない事実があり、彼女はクリスマス前から海外への転勤が決まっていて。
春希からすれば、春希の元から離れると分かっていたのに春希を受け入れる事は「自分はそれだけの人間だ」と突き付けられる事であり、耐えられず。
それが見事にかずさの件と重なるから「過去のかずさの姿」は伊達じゃない。
春希にとっては好きな人が海外に行くというのは「好きな人と両想いになれたのに引き裂かれた事」でありトラウマで。
それが再び彼に襲いかかる。
過去の出来事を綺麗に追体験する構図は上手いといか言えませんでした。
それでも、麻理は海外へ行く。
仕事を中心に生きるのが彼女の「生き方」で変えられないものだから。
だから、今度こそ春希は自分も海外へ行く所がかずさとは違う所で。
大学生だったのもありますが、そこが「運命」のかずさと「過去」の麻理との違いだと思っています。
かずさとの道は「運命」により困難が立ちはだかるけれど、麻理はそこまでの「運命」は持ち合わせていない為、春希が選択さえすれば簡単に道は開けるんだなぁと。
これがかずさだったらこの海外の空港での再開ですらも出来なかったと思うので。
ラスト、ちゃんと出会えてグダグダにならず、良かったです。
雪菜との関係の清算も。
「代用品でも良い」と言った雪菜は決して代用品には出来ず、かずさの気性を持つ麻理を過去のかずさを追うかのように抱いてしまい。
麻理はかずさのように去っていく所で雪菜はまた代用品を申し出るけれど、それは出来ず。
結局、雪菜は「代用品」でなら春希を受け入れられるけれど、「本気」になったらかずさをキッパリと忘れないと受け入れられない所が非常に厄介な女性で。
でも、春希は「代用品」では決して雪菜を抱けない。
雪菜に更に罪を重ねる事は出来ないから、他の女性は千晶の「慰め」でも麻理の「代用品」でもなんとかなるけど、雪菜だけには出来ないという。
そんな割り切れない状態を形成してしまっているから、麻理を選ぶのなら雪菜ともう別れるしかない。
他の女性キャラとは雪菜とのキャットファイトがある中で麻理とは無い所が「過去のかずさ」らしいというか。
雪菜は決してかずさには勝てない事を知っているから、雪菜から麻理には干渉せず、自分から別れを宣告し諦めの道を選ぶ所が雪菜のかずさへのトラウマを同時に感じました。
他の女性には自らグイグイ向かって行った雪菜さんですが、「過去のかずさ」にだけは触れたくない、触れられない、触れるのが無理だったのだなーと。
「closing chapter」追加3ヒロインの中では一番麻理のキャラクターが好きです、クール可愛い年上キャラ最高。


『小木曽雪菜 ルート』
「過去」に縋らずに本当の彼女と向き合う。
誰にも縋らず(言ってしまえばフラグを立てず)雪菜だけを追い求めるルート。
物語としては完全に正史。
春希は覚悟を決め、しっかりと向き合う道を選ぶ。
しかし、雪菜がそれを拒む。
いや、拒んだ訳ではない、逃げていた彼女は立ち止まった、しかし、立ち止まっただけで決して春希に近寄っては来なかった。
春希は自分から雪菜に近付ける領域までは辿り着いたのに、残りの雪菜から近付かないと埋められない距離は埋まらないまま。
それでも二人はその距離感で良いと、このまま後は時がその隙間を埋めてくれると信じ、この距離で満足してしまう。
その距離のままで春希はギターを再び始め、出会った頃を思い出すかのように雪菜は喜ぶけれど、ギターを弾く事は同時にかずさも思い出す事に繋がって。
でも今はかずさは側に居ないから、ギターを弾く事は文化祭の曲を弾かない限りは二人の出会いを繋いだ物になり、距離は縮まらなくても二人を癒やし始める。
そんな中で文化祭の軽音楽同好会を崩壊させたサークルクラッシャーの柳原の策略により、春希と雪菜は再び舞台の上に上がる事に。
紆余曲折がありながらも雪菜は歌を再び取り戻し、舞台を大成功させた二人は結ばれ、社会人になり、距離はありながらも順風満帆の二人で居るはずだった。
春希の取材対象がかずさになる時までは…
二人が「埋まらなくても良い」と納得した距離が、無理矢理にでも埋めなかった距離が、二人が出会ったギターと歌、それが心を癒やす限り同時に決して忘れられない存在が、春希の「運命」が再び動き出す。
WHITE ALBUM2」は三部作だという事を知っていました、「coda」がある事を知っていました。
それでも、「closing chapter」が終わった後に、「もう良いだろ、もう終わりだろ」と思ってしまいました。
それでも、「WHITE ALBUM2」はここで終わる事を許してはくれませんでした。
春希と雪菜とかずさ、3人の物語を意地でも完結させようとします。
「coda」こそが「introductory chapter」の時間の続きだと言わんばかりに。
凄まじい導入でした、お見事としか言えませんでした。
だから、覚悟を決めました。
「ここで終わりではない、3人の結末を見届けよう」と。
「過去」で終わってはいけない、「過去の彼ら」ではなく「今の彼ら」、「3人」の結末を知らなければならない、そんな覚悟を決めさせる導入でした。



<coda>
「coda」このルートで面白かったのは「closing chapter」を得た後の雪菜の成長と、「closing chapter」に居なかったかずさの停滞の対比部分でした。
「closing chapter」を得て、雪菜は「私が悪いの」と言い続ける道から決別し、「頑張れ私」と自らを鼓舞する程の強さを手に入れます。
しかし、「closing chapter」の時、海外に居たかずさは決して成長する事は無かった。
音楽的に成長しても、それは音楽を逃げに使っていただけ。
「introductory chapter」の感想で、自分は「雪菜は現実の女性」「かずさはフィクションの女性」と書きました。
そこも顕著に現れていて。
雪菜は「現実の女性」だから変わる事が出来る、かずさは「フィクションの女性」だから決して変わる事は無い。
「introductory chapter」の時点では雪菜の「現実の女性」部分がマイナスに見えるポイントであり、二次元女性として見ている側からしたら嫌われる要素になっており。
かずさは「フィクションの女性」部分がプラスに見えるポイントであり、二次元女性として見ている側から好まれている要素になっていたと思っています。
けれど、それが「closing chapter」を得て、彼女達の成長と停滞があり、見事に感じる印象が逆転してしまう。
雪菜は「変わって強い女性」になった所が一部では好まれ、かずさは「変わらず弱い女性」の部分が一部では忌避される。
「introductory chapter」「closing chapter」「coda」で人間の思考をどこまでも「フィクション文脈」を交えずに綴った本作はいつの間にか現実と同じ軸を行く作品になっていました。
「introductory chapter」では春希とかずさの「運命」を引き裂き計算高く見える「現実の女性」として忌避された雪菜が、「coda」では自分を鼓舞し自らの足で立ち上がる「現実の女性」で「強い女性」になり、好感を上げる。
「introductory chapter」では孤高であり「運命」を引き裂かれ孤独な女性で「フィクションの女性」として好まれたかずさが「coda」では春希に縋る事でしか自分を保てず3年前から「フィクションの女性」で「変わらない女性」になり好感を下げる。
この対比が見事で。
「introductory chapter」「closing chapter」「coda」、それぞれで数々の感情を顕にした雪菜に残ったのは「ひたすらに強い女性」の部分。
「introductory chapter」「空白の3年」「coda」、春希と雪菜の元から去ったかずさに残ったのは「ただの運命の女性」である部分。
ずっと成長して行く姿が見えていたからか、それとも「強い女性」になったからか、それはプレイヤーの好みに委ねられますが、「introductory chapter」で雪菜を忌避していた人の何人かは確実に「coda」で強い雪菜を見て好きになった事でしょう。。
けれど、最初に好きになったのはかずさで、初恋はかずさで、そして引き合う「運命」を強く持っている相手はかずさで、そういう原初、はじまり、「運命」の力、そして「ヒロインの孤独な弱さ」、をフィクションに求めている人からすればかずさの方が好きで。
「introductory chapter」で雪菜寄りだった人がかずさ寄りに、かずさ寄りだった人が雪菜寄りに、そして決してブレずに片方のヒロイン寄りだった人も絶対に居て。
ヒロインの好みが変わった人、変わらなかった人、どちらの意見も納得出来てしまうので、時の経過による成長の魅力と決して変わらない停滞の魅力描き方が凄まじくお上手だなと感じました。


『小木曽雪菜ノーマル ルート』
かずさを拒み、雪菜を選び、「closing chapter」後のまま真っ当に進むED。
同時にかずさを拒んだ事でかずさとの確執は永遠に消える事は無く、彼女とは二度と出会い和解する事も叶わず。
かずさへの中途半端な介入と亀裂により春希も心の中でかずさを永遠に忘れられなくなり。
無意識下の性欲と欲に溺れた際に思い描くのはかずさで。
雪菜を抱くけれど、今後絶対にかずさの事もチラつくという。
肉体では雪菜と結ばれ婚姻を果たすが心の奥では決してかずさをわすれられない、まさに「心の浮気」ED。
それでもかずさとの肉体関係を今度は拒んだので必死に肉体の誠実は守っていたと思います。
今際の時、春希は誰を想うのでしょうね…


『冬馬かずさノーマル ルート』
かずさと中途半端に関係を結ぶルート。
別名「浮気ルート」なのかな?
「introductory chapter」「closing chapter」「coda」で築いた友人関係、仕事関係はもう、雪菜を中心に回っていて。
雪菜との関係を壊す事は他の全ての関係を失くす事で。
それは同時に今まで行ってきた春希の「生き方」を捨てさせる行為。
しかし、かずさと関係を続ける事はそうしなければ続ける事は不可能で。
でも、あくまでも「浮気」という関係で繋がった以上、本気を許されない春希は「生き方」を捨てる程の決意は出来ない。
それを続けた結果、春希は「生き方」を捨てるのではなく「生き方」が徐々に失われ自我崩壊を始める。
「自分では好きな人を幸せに出来ない」と悟ったかずさは、春希との関係を諦め、春希が「生き方」を取り戻し本当に癒やされる為、雪菜の元へ帰す。
「嘘は墓場まで持っていけば真実になる」しかし、春希は自分の「生き方」を貫く限り、嘘を吐き続ける事は出来ず。
雪菜の元へ帰り「生き方」を取り戻した春希はかずさのコンサートでかずさとの関係を打ち明けてしまう。
コンサートではかずさが圧倒的才能で春希と生きる世界の違いを見せ付け、客席では春希は耐えられず雪菜に別れを告げ、一人取り残される。
ここまでは「お、自業自得ED」か?と思いました、やった事がやった事なので。
しかし、そこは雪菜嬢、そんな春希でも捨てる事が出来ず、春希と別れても尚、寄り添い続けるという。
まぁね、他のヒロインも居ない、かずさにも二度と追いつけない、そんな状況下で再び受け入れたら春希にはもう雪菜しか居ないでしょう。
あんだけ一度肉欲や人肌で堕とされた春希は今後もう、雪菜の暖かな懐でしか生きていけないでしょう。
かずさは誰かが側に居ないと生きていけない春希を作り上げた上で雪菜の元へ帰す辺りが酷いというか。
けれど、それを含めて、春希が今度はもう自分の側でしか生きていけない事を悟って二度目の浮気なのに許し受け止める雪菜もまたしたたかというか。
雪菜嬢、エピローグで今度は「私が悪かった」とか言わないんですよね。
「自分が悪い」と思ってる部分はあっても、「closing chapter」の時のように過度に自分を責める事は無く。
適度に「私が悪い」と言いつつ、それを超えるポジティブさで春希を受け止めるから本当に強くなったお人です。
途中で「最後に私の隣に居てくれればそれでいい」とかラオウ様のような事を仰っしゃりますし、強い。
かずさの浮気ルートでありながらも、雪菜の強さを見せ付けられたルートであり。
そして、かずさはかずさの、春希は春希の、それぞれのアイデンティティ、「生き方」がある限り、二人は決して結ばれる事が出来ず、お互いを傷付け合う事しか出来ない事を突き付けられたルートでした。
WHITE ALBUM」のコンセプトの「浮気」の部分ではとてもコンセプトに合っていたルートで、エロも濃く、EDで春希のダメな男のやるせなさを感じ、個人的には好きなEDでした。


『冬馬かずさトゥルー ルート』
上記の「浮気」ルートとは違い、本気でかずさを選んだルート。
上記で語った通り、5年間により仕事も友人も、そして雪菜にプロポーズした以上相手の家族も既に雪菜を中心として巻き込んでいる春希がかずさを選ぶ為には他の全てを捨てなくてはいけない。
かずさは「オメガバース文脈」で言うなら「アルファ」であり、「運命」の女性で何度も出会い何度も惹かれる女性ですが、彼女の「運命」は決して必ず結ばれるという運命ではなくロミジュリ的な、言ってしまえば悲恋方面の「運命」で。
「coda」のEDは4つありますが、このルートでのみしかかずさと最終的に結ばれるEDが無いのはそういう事だと思っています。
「運命」を背負い、美貌と才能と親の栄光しか持ち得ないかずさは決して普通の人生は歩めず、彼女と共に歩むには普通を捨てなければいけない。
春希が今まで貫いてきた「生き方」を全て捨てないと結ばれない、かずさはそんな女性でまさに「運命」で「運命」とは過酷な物であるという物を体現したルートでした。
かずさは今までの自分の行動の責任では確かにありますが、その本来の気性から側に居る友も無く、仕事仲間も無く、そして親すらも病に奪われます。
友人にも親にも恵まれ、「偶然」であり「普通」であるからこそ世界からも愛される雪菜とは対象的に、友人も居らず親も失いそうになり、「運命」であり「才人」であるからこそかずさは過酷な人生を強いられます。
そして、かずさには本当に春希しか居なくなる。
雪菜との人生は「closing chapter」「coda」の流れから見ると圧倒的に正しい道で、もしも「closing chapter」「coda」がアニメ化した際に一本の未来しか描けない場合、確実に雪菜ルートが描かれるでしょう。
かずさとの未来は外れた道であり、「普通」の未来では無いでしょう。
でも、だからこそ、彼女や彼女との道も惹かれてしまう。
「世界にたった一人」の孤独な女性を救いたいと思ってしまう。
今居る世界から逃げて「二人の世界」で生きて行きたいと思ってしまう。
そして、かずさは学生時代のあの日々から「停滞」し続けているから、かずさと向き合うという事はあの学生時代を振り返る、かずさを目で追い恋していた「青春に戻る」という事。
「運命」とは過酷で、けれどロマンス、ロマンティックだから、「フィクションの女性」であり「フィクション文脈」で語られるかずさのルートに惹かれ、「運命論」が大好きなタイプの人間は彼女のルートに惹かれる。
フィクションの要素が好きな人ほど彼女のルートが好きな人が多いのではないでしょうか?
その姿はまさに「運命」の女性で、そして「ファム・ファタール」。
男にとっての「運命の女」で「男を破滅させる魔性の女」。
春希にとって、間違いなくかずさは「運命」の女性でした。
雪菜も3人にこだわるけれど、日本も親も捨てられるかずさと、仕事も友人も捨てる覚悟を決め、親は元から捨てても構わないと思っている春希との間には大きな溝があるのも普通と異端の壁を感じました、
雪菜は自分が家族に恵まれていると思っているから決して小木曽家を捨てる事は出来ない、世界を捨てる決断は出来ない人なんですよね…だから日本を捨てる決断をした二人とは決して3人にはなれないし、捨てられない物があるから壊れる事も出来ず、越えられない辛い壁だなと。
個人的には「浮気」ルートでエロシーンが大量に描かれ、この「トゥルー」では一切エロを描かなかったのも上手いなと思いました。
あくまでもプレイヤーが見える範囲ではかずさと結ばれるルートではプラトニックに見せる。
プラトニックさがある事で「運命」の力を見せ付けられる形になっていたと思います。


『小木曽雪菜トゥルー ルート』
雪菜は「3人」から溢れるのが嫌で怯えていた、かずさは雪菜が春希を奪っていくのに苦悩していた。
そんな感情が入り混じり学生時代には歪に感じていた「3人」が今度こそ正しく「3人」の関係を結ぶルート。
「浮気」ルートでラオウのような強さを見せ、この5年間で純粋さだけでなく本当の強さを手に入れた雪菜がかずさの卑屈や妬み、そして春希のかずさへの未練や母親との確執、全てのしがらみを解いていくという。
このルートでの雪菜とかずさのビンタの応酬は「WHITE ALBUM」の由綺と理奈のビンタの応酬を思い出し、これぞ「WHITE ALBUM」!という気持ちに。
雪菜の「良い家庭」が良い方向に作用し、ここぞという時に行動を起こすのがまさかの雪菜で驚いたルートでした。
「最も物語を動かす時に行動を起こした人物が主人公」だとするならこのルートでは完全に雪菜が主人公というか。
雪菜ルートでありながら雪菜を攻略するというより雪菜に攻略されるルートであり、そしてこのEDがある事と「introductory chapter」「closing chapter」「coda」の流れがある事で本作は「現実の女性」である雪菜が成長し強さを手に入れる話になっていました。

いや、本当に「オメガバース文脈」での「ベータ」で「偶然」の女性でありながら、「アルファ」の持つ「運命」に打ち勝ち、神では無く自分の作り上げた「運命」を作り上げる姿は完全に主人公。
オメガバース文脈」の「オメガ」の要素を持つ春希はやっぱりヒロイン枠だったなと雪菜の強さを見て痛感しました。
音楽室でのキスが雪菜のメールで遮られる所もかずさの持つ「運命」を自ら切り開いていたり、かずさのコンサートで雪菜を求めて大阪に来た春希をしっかりと拒み、肉体関係での癒やしや許しを与えずに春希をしっかりと言葉で説得したり。
春希の雪菜に嘘を吐かないように行動をするという行為がそのまま雪菜の強さに変わって行き雪菜の逞しさになっていく姿はとても強さを感じました。
どのルートでもですが春希は肉欲で癒やされたら本当にダメな方にしか行かないので、彼を拒むというのが凄く重要なのが伝わります。
本当にダメ男だな、春希。
何よりも強くなった雪菜は「3人」を一番大切にしながらもそれ以外にも世界は広がっていて他の人達とも既に繋がっている事を知り、そしてその繋がりをかずさに教え春希と母親しか居ないかずさの世界からかずさを引っ張り出す。
孤独だったかずさにピアノの才能を開花させ、母親との確執を取り払い、でも同時に人の甘さを教えてしまい自分無しでは生きられなくするのが春希なら、その執着を解き放ちかずさに広い世界を見せるのは雪菜なんですね。
一種の百合文脈も感じます、「WHITE ALBUM2」好きな界隈の中にかずさと雪菜に百合文脈を感じている人が居るをお見かけしていましたが、このルートの後半を見て凄く納得しました。
誰よりも強くなった雪菜はかずさも、そして春希も救い、かずさと春希の関係をも清算させ、皆が望んだ結末を自らの力で掴み取りました。
このED、春希が掴んだのではなく、雪菜が掴んだという所が格好良いなぁと思います、ラオウ様のような事を言ってた女の子は伊達じゃ無かった。
かずさと雪菜は物語の構成上、常に対で居ないといけないから。
かずさが「停滞」で過去に向かうなら雪菜は対比として「成長」し未来に進むしかない。
そんな強い彼女だからこそラストのメールのシーンは弱さも見えてバランスがとても良く。
本当に危ういバランスの上に居たけれど、彼女が自分を鼓舞する強さの方を取ったから春希がかずさの一件を任せたというのがなんとも…
結局、「3人」全員がネガティブになれば「3人」堕ちて行くしか無く、誰か一人はポジティブで居なければいけない。
それが春希では無く雪菜だったと。
いや、本当に、強くなった雪菜の方が主人公…というかヒーローの素質があると思いました。
だからこそヒーローの彼女は皆が笑っている結末を迎える、その資格がある。
恋愛も友人も家族も、そして春希の母親すらも、全てのしがらみが無くなり、「沢山の人が居る世界」で生きていく。
「偶然」だからこそ「普通」であり、そしてその道を辿るのが難しく。
難しいけれどその先には皆が笑っているEDがあり、大団円という言葉が似合うEDでした。
(でも、雪菜ルートは大団円!ハッピーエンド!でアニメ化されるなら雪菜ルートなんだろうなと正史に見える部分がありながらも、タイトル画面の背景画像は日本では無いんですよね。こういう「果たして、どちらだ?」とあえて言わないけれど察するような采配が凄く好きです。)



さぁ、終わりました「WHITE ALBUM2」。
久しぶりに全クリ後に感想ではなく、1ルートクリア後に毎回感想を書いていました。
ルート毎に色んな事を考えてしまい感想を書くしかなく、こういう手法を取ったのは久しぶりです。
2021年の5月現在、Leafでは最終作で最高傑作と呼ばれている本作ですが、こんだけ壮大で完璧に近い作りを持つ作品を世に出したら作る気力を失うのもなんとなく分かります。
個人制作だったらサークルとか畳んでるレベル。
AQUAPLUSの方でPRG系にだけ力を注ぐのも分かると言うか。
Leafの冬ゲーが好きで18禁の方でもまた新しい冬ゲーをプレイしたいという気持ちがありつつ、でも、こんな大作をプレイしたら気軽に作って欲しいとも言えず。
WHITE ALBUM2」で18禁は綺麗に撤退でも文句は言えないなと思いました、それだけの出来が今作にはありました。


何よりも異端だったのは春希というクズ主人公をここまで正当化して描ける文章力と、雪菜という「フィクション文脈」が決して無い女性を生み出した事かと。
春希に関しては上記で書いてるので省略しますが、ここまでダメでクズな男を不快感…はありながらも正当性を持ってるように描けるのは今後ほぼ不可能に近いかと。
何度彼の行動に対し、「丸戸さんが生み出したキャラだけど丸戸さんの文章力で心情を表現されて無かったら許されてへんぞお前」と思ったか。
そして、「現実の女性」で純粋に見えて計算高そうに見える一面があり、面倒で、でも本当に強くなったら救う存在になれる。
そのどれもが両立できなさそうで、けれどそんな色んな要素を併せ持つヒロインの雪菜を世に生み出した事に称賛を送りたいです。
白と黒、ハッキリと分かれている訳ではなく、人間は灰色である。
そんな現実では当たり前で、でもフィクションで描くのは非常に難しいバランスを持つ雪菜。
彼女の複雑さが物語の最初を引っ掻き回し、彼女のルートではその複雑さで物語を収束させた部分は凄いとしか言いようがありません。
雪菜はかずさのように「ツンデレ」や「忠犬」などで記号化出来ず、かずさは類似キャラが出るかもしれませんが、雪菜は間違いなく丸戸さんしか描けないヒロインであり、今後類似のヒロインと出会うのが難しいと感じました。
面倒くさい女性キャラ大好き党としては非常に刺さった所があります。
それぞれのルートも、かずさのルートは「運命的な二人が二人の世界を築き結ばれる」、雪菜ルートは「強く逞しくなった雪菜が自ら道を拓き皆を幸せにする」、それぞれで好きだと思う部分があり。
同時に、かずさルートは「結局何も解決しないまま周りを不幸にし二人は逃げていく」、雪菜ルートは「かずさよりも圧倒的に皆から世界から祝福され優遇され過ぎている」、それぞれの点で苦手な部分もあるという。
「どちらも好きだけど、どちらにも癪に障る部分がある」という構造をしていて、完全に片方に振り切れない所もまた三角関係物としての作りが上手かったです。
君望」の再来と言われた本作。
一応PS2版の「君望」をプレイ済みですが、「WHITE ALBUM2」が現れた事により「君望」が今まで持っていた「三角関係物の頂点」の称号を見事に二分化したと思っています。
君望」が「運が悪く三角関係に陥ってしまった男の物語」なら「WHITE ALBUM2」は「自業自得で三角関係に陥ってしまった男の物語」。
今後「三角関係物」でこのツートップを超える作品は現れにくいでしょう。
君望」「WHITE ALBUM2」は「三角関係物」の頂点に君臨し続けるだろうと思います。


…で、どの要素も出来が良く、3万文字近い感想を書いたのですが、「じゃあ、楽しめた?」と聞かれたら静かに首を振るというか。
「出来が良い」「感情を揺さぶられる」「色々と考える」「楽しい」「好き」「得意」それぞれは別の物である。
理解はしていましたが、ここまでそれを突き付けて来た作品も珍しいです。
「出来が良い、感情を揺さぶられた、色々と考えた、面倒な女やややこしい性格スキー党としては好きと言える」でも「フィクション文脈での善を好きでいたい自分としてはキャラが好きと言えず、恋愛物として楽しいとは言えなかった…というかこの人間関係を楽しいで受け止めると自分の中の何かが終わる気がする」という位置に最終的に落ち着くという。
(「得意」に関しては三角関係物は嫌いではないですが性癖にドヒットするジャンルでは無いので「普通」くらい。)
実際の浮気に関しては「自分を好きな相手が「この行動を自分が起こせば悲しむ」と考えれば分かる行動を起こし相手の気持ちを尊重しない」という時点でアウトですし一度でもされたら自分の場合は絶対に一回でも許す事は無いでしょう。
浮気をされて許したら今後「コイツなら大丈夫」という舐められが発生するぞ、許すな、目を抉れ。


ですが、とにかく凄まじい作品で、本作が世で称賛されているのも納得でした。
「凄い、でも、楽しくは無かった」。
自分も今作のキャラクター達のように曖昧で灰色の気持ちを抱えて今作を見続けようと思いました。
ちなみに、キャラ的に好きなのは朋と春希に惚れなかった時の千晶です。
自分の目的の為に周りを悪意で巻き込む女好きなので。
単純に「ギャルゲーの主人公」として恋愛を見たいと素直に思ったのは孝宏でした。
小春の友人の亜子とめっちゃ初々しい恋愛しそう。
あと、メタい話ですが、春希と雪菜とかずさ、前作…数年前の「WHITE ALBUM」の時の冬弥、由綺、理奈よりもヒッドイ状況になるのにはどうしてもメタとして笑ってしまうというか。
「春希、冬弥よりヒッデェ状況やぞ…」と本編中何度も思いました。


Leaf作品は今回で終わりですが、一応「EXTENDED EDITION」は購入済みなので「ミニアフターストーリー」と「EXTENDED EDITION」に付属しているノベルゲーム系にはまた触れていこうと思います。
ドラマCDも沢山入ってるっぽいのですが、ドラマCDは聞いてると眠気が勝ってしまうので…多分無理かな。
一応ノベルゲームとして出ている部分にはまた別ゲーを挟んだ後に触れて行こうと思います。
今作により非常に心に重荷を背負ったので、自分の好みのタイプのエロゲで心を癒やさなければ。


ですが、まだ、「EXTENDED EDITION」に触れるまでは彼らの物語は終わらない。
心してかかろうと思います。



※ゲームの攻略で検索される方がいらっしゃるみたいなので参考にさせて頂いた攻略サイト様を失礼します。
 参考攻略サイト様:妄想天国 様
http://adusa-ciel.my.coocan.jp/index.html
 WHITE ALBUM 2 ページ
http://adusa-ciel.my.coocan.jp/WA2/white_album2.htm