ひっそりと群生

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【手は口ほどに物を言う】感想

【乙女全年齢】



2020年09月01日配信
『木製3秒間』様
手は口ほどに物を言う】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








手による、手だけの、手しか映らない手フェチ歓喜究極形乙女ゲーム



『高校2年生の主人公は、放課後活動を避けていたが、昨年の学校紹介ムービーに映りこんでしまったことから
 有志映像委員会、通称ユビ委員会に入ることにする。
 謎のイケメン転校生、寡黙な幼馴染、仲良しの捻くれた先輩。
 ――指先が想いを伝えるまで。手のひら二つ分、等身大の恋のお話。』
(公式より引用)


プレイ時間は約3時間15分くらい。
分岐有り、EDは6つ。


「手しか映らない現代乙女ADV」のジャンル通り、本当に「手」しか映らず。
キャラの顔グラなどは一切無し。
しかし、人間の手には無限の可能性がある。
手しか映らない中ででも手の動きはコミカルで喜怒哀楽、好き嫌い、そして愛、様々な表情を手から感じ取る事が出来ます。
手の形から、手の動きから、全く顔が映らない登場人物達の姿形や表情が読み取れました。


転校生のイケメン同級生で白手袋の中宮 央司(なかみや おうじ)。
動画編集が得意で上級生、オタク気質の薬師寺 環(やくしじ たまき)。
サッカー部兼任の同級生で幼馴染の差野 示佑(さしの しめすけ)。
3人共手しか見えないのにしっかりと人柄が感じ取れて。
ネタゲーに見える中で話はそれぞれ三者三様に面白く。
しっかりとキャラに合った過去や物語、そして手だけだからこそのイベントが用意されていて。


「手」だけで感じる笑い有り、ロマンス有りでした。
3人共引けを取らず、どのお話も手の動きだけでドキドキして楽しく新たな表現を見る事が出来ました。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
登場するグラフィックが嘘偽り無く手だけなので、キャラを見失いそうになりますが、手の形だけでなく至る所に配慮があり。
手はメインキャラしか登場しない事や、各キャラクターにはメインカラーが決まっていて。
メッセージウィンドウの名前の部分にその色が振り分けられていたり、手グラが表示される枠組みも色分けされていたりとプレイヤーが見やすい工夫が施されており、手だけではありますがキャラを見失う事は無かったです。


『音楽』
日常時の明るい曲と、ロマンティックな時の柔らかい曲の切り替えなどが良かったです。
良い選曲でした。


『絵』
これこそ本作の見どころ。
本当に、冗談抜きで、「手」しか出てきません。
主人公、攻略キャラ3人の手のみ。
それでも主人公の手は小さく白く動きが活発で。
イケメン同級生の中宮の手は白手袋で動きがスマート。
オタク先輩の薬師寺の手は細めだけど長く大きく、動きが飄々としていて。
幼馴染同級生の示佑の手は無骨で太く、握る動作が多く挙動が少ない。
などなど、全員の姿まで見えて来そうな手の表現の巧みさに驚くばかりでした。
手で相手の感情は読み取れるし、感情は表現出来る。
そういう事を聞いた事がありますが、出来る事を実証したような作品でした。


『物語』
3人の物語が王道ながらもキャラに合った過去や性格形成を持ち。
どの話も良く、「この話が駄目…」とは一人もなりませんでした。
全員のお話が均等に面白くバランスが凄かったです。
話は丁寧な中ででも手でしか表現出来ない表現も多く。
話は面白く、でも趣旨は守り通すという徹底っぷりを随所から感じ。
最初はネタゲーの印象でしたが、ただのネタゲーになっていない所にセンスを感じました。


『好みのポイント』
有志映像制作委員会(ゆうしムービーいいんかい)通称ユビ委員会。
キャラクターの名前が指の名称からの引用。
沢山の「手」や「指」の知識を得る事が出来ました。
ちょっとした所に手ネタが仕込まれていて、細かさを所々から感じとても好きでした。






以下ネタバレ含めての感想です





「手だけが映る」と公式文に書いてあり「どう来るか…?」と思っていましたが、予想以上に乙女ゲーとしての出来が良く終わった頃には全キャラ好きになっていました。
指しか写っていないのに、いつの間にかキャラクターの全体像が想像出来てしまっているという凄さ。
よっぽどの手フェチの方が作られたのかな?と思っていましたが、「おまけ」の「あとがき」にて「作者が絵描き経験ゼロ、でも乙女ゲームを作るなら絵が欲しい、なら一点突破で画力を育成しキャラ絵のあるゲームを作ろう」となったとあり、「え!?手とか骨格とか描く時にめちゃくちゃ難しそうな分野なのに!!?」と驚かされ同時に笑ってしまい。
ふ、普通に顔グラだけ描いた方が楽そう…手とかめっちゃ難しい分野に見えるのに、そこを一点集中で画力を上げたのか…と、「流石「手」のグラフィックだけで乙女ゲーを作ろうとした方の発想は違うなぁ」と妙に関心しました。
勿論手から溢れる乙女チックなイベントから手フェチを持っていらっしゃるとは間違いなく思いますが、「手フェチだから作りました!」とは決して言わない所に逆に溢れ出るフェチズムを感じました。
「あとがき」の中に「色っぽいイベントの最大が手を繋ぐなので、とても健全」ともあり、「確かに…」と思いましたが、各イベントで手からも色っぽさや愛おしさ、どことなく溢れるイヤラシさもあり、「健全は逆に最もエロい」というのを体現していて表現の奥深さも感じました。



中宮END」
中指。
王子、マジ王子。
途中の夢でファンタジックな夢を見てそれで夢に引きずられ異世界の王子様と勘違いする流れには笑いましたが、自分も主人公の見た夢が事実だと思ってしまったので、中宮が笑いながら真実を語った時には主人公と同じような羞恥を感じました。
本人の見た目といい、弟の衣装といい、雑誌名といい、ファンタジーと結び付く箇所が多すぎる。
モデル業に専念し、どんな田舎でも名を轟かせていく所に彼の努力と才能を感じます。
こんだけイケメンでスマートなのに女子と付き合った事が無いという。
こういうギャップ持ち大好きなので中宮、かなり好きです。
中指らしく王道というか、主人公が寄せていく想いと中宮が寄せていく想いの度合いが同じな所が王道に感じたり。
他のキャラとは違い主人公との接点がゼロでスタートなので関係性を築くという意味では見応えがありました。


薬師寺ED」
薬指。
オタクっぽくありながらのまさかの元彼女持ち。
でも、その元彼女も前回のユビ委員会時にユビマジックと呼ばれる吊り橋効果でお互い好きになり3ヶ月で別れるという苦い思いを経験していて。
ユビ委員会の過去の出来事が垣間見えたり、そういう別れを経験したからこそ恋愛に対しては予防線を張っていたりと一度人と付き合った事があってそれが幸福では無かったからこその拗れ方をしてる人で。
このルートでは主人公から好きになって行くので見ていてハラハラしました。
結局は元彼女にしていてウザがられた「毎日連絡を取る」「毎日一緒に帰る」「デートを頻繁にする」という行為はユビ委員会に入ってから付き合っていない主人公に行われる行為で、無自覚に彼女にしたい事を全て主人公に行い「あれ…」となった薬師寺の反応がべらぼうに面白かったです。
他ルートでゲーム開始時に出会った中宮以外の2人が地味に嫉妬するシーンがあるのですが、薬師寺も主人公が他の男性と居る所を見てモヤッとしていて、ここでもまた拗れている所が如実に現れており。
無自覚でコレだから、自覚したらヤバそう。
というか実際にヤバく、「おまけ」での後日談で志望校を近場に変えるくらいの熱愛っぷりに笑いました。
「おまけ」にある作者様のノーマルED後で結ばれた場合のコメントの「大学進学後、涙を零す主人公を見て、「俺以外に見せたくないという思ってうっかり抱きしめ、恋心の自覚の前に「家族になりたいんだ」と閃いて、後々己の男としての欲に気づいて葛藤してほしい」という一文に、めっちゃ分かる!と頷いてしまいました。
ノーマルEDで進むとめちゃくちゃに主人公との友人としての距離感バグりそうなんですよね、彼。
他ルートでもモヤモヤしてたり、全キャラの中で一番自分の感情に気付くのニブチンだけど、持ってる感情は激重そうな所が良い。
あと、彼女持ちだったけど途中の無自覚下ネタ質問時の反応から魔法使いではありそうな所もまた付き合ったのは3ヶ月に見合っていたと思います。
ラスト徐々に隣に座った主人公の手に手を重ねていく絵が大変好きです。


「示佑ED」
人差し指。
幼馴染ー!主人公に元から恋心を寄せる幼馴染ー!!!
話の流れが王道なのが中宮なら、話のコンセプトが王道なのは示佑かなーと思ってます。
主人公がユビ委員会に入るきっかけになった動画を撮った張本人。
理由は去年委員会で何か動画を撮って来いと言われてレンズ越しにどうしても撮ってしまったのが主人公という純粋さ。
中学で疎遠になったけれど、実は小学生の時から主人公が好きで主人公の事しか見て来なかったという筋金入り。
途中の手をキツネにして「キツネの相談室」を称し、お互いの本音を語り合うという幼少期のおまじないのような行動を今現在行い本音を打ち明け合うというのは幼い日の思い出があって幼馴染でしか出来ない流れで見ててキュンキュンしました。
コンセプトである「手」と幼馴染の要素が最大に生かされていて、本当に、ズルい、最高。
ノーマルED後も卒業式に告白するらしいですし、本当に主人公の事大好きなんだな示佑。
どのキャラも好きですが、主人公への蓄積された想いを考えると示佑がちょっと一歩リードする感じがしました。



全ルート手しか映らない超健全作なのにニヤニヤが止まらず色っぽいという素晴らしさ。
タイトル、コンセプトに違わず、手だけで想いを、恋を、青春を感じ取る事が出来て素晴らしかったです。