ひっそりと群生

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【雨音と自動人形 結(むすび)】感想

【男性主人公全年齢】



2021年08月28日配信
『datchi』様
雨音と自動人形 結(むすび)】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








役目を捨てて、自分の道を歩き出す。



廃線となったバスの待合所で盲目のアンドロイドは今日も待ち続けている。
 疫病の蔓延により人類が減少し、文明は衰退、人々はアンドロイドの支えにより辛うじて秩序を保っていた。
 盲目のアンドロイドのアヤと封じ屋の男が出会ったことから始まる閉じた世界の物語。』
(公式より引用)



プレイ時間は約50分くらい。
分岐無し。


雨音鳴り響く待合所に居続けるアンドロイドの少女、アヤに青年、雪村がとある目的を持って話しかけます。
雪村の目的はアヤにとっては喜ばしいものではなく、第一印象はマイナスになってしまった二人。
それでもめげずにアヤと交流を続ける中、アヤと仲の良い少女と出会ったり。
様々な交流を重ねていく中でお互いの関係も回復していき、青年は徐々に受け入れられていきます。
二人の関係が良好になり、青年の目的が達成する時に明かされる真実…
雨の中、とても静かな交流の心地良さと、最後に描かれる「人間とアンドロイドの関係」にしんみりとしながらも深い納得があり。
「閉じた世界の物語」ではあり、衰退している世界ではありますが、疫病の世界でどこか希望が一つ輝いているようなそんな作品でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
OP、ED、どちらのムービーも本当に素晴らしく、引き込まれました。
曲のテンポに合わせた動きが見ていて気持ち良かったです。
「ムービーの音楽はコンフィグでは操作出来ない」などの注意書きもされていたり、クリア後の起動で初回起動画面とクリア後起動画面を選べたり、とても親切でした。


『音楽』
クリア前から音楽鑑賞モードがあります、有り難い。
曲は素材曲、ピアノ曲が多く雨音のSEとの融合性が高くどの曲も場面に合っていました。
その中でも個人的にはOPに使用されている「Ctrl+Z」が好きです。
アンドロイド物と合わせて考えると「Ctrl+Z」の曲のタイトルはセンスが良いなと思いました。
声はアヤと美月に有り。
アヤの清楚だけれど芯が強いお声も、美月の無邪気だけれど過去から色々と気を使うようなお声も素晴らしかったです。
一昔前はフリゲや同人の声付きは演技や収録状況で厳しさを感じる事が多かったのですが最近は本当に上手な方が多く収録環境も発達していて、聞いているだけで耳が幸せになるのでネット声優の良い時代の流れを感じます。
ただ、演技と声質が本当に素晴らしく、もう一度聴きたい!となった所が多々あったのですが、履歴ではボイスリピートが無かった所は残念でした。
とても言い演技と声だったのでボイスリピートがあればもっと嬉しかったです。


『絵』
アヤ、雪村、美月、立ち絵のある登場キャラは3名ですが、3人共絵が綺麗なのもですが表情がとても良かったです。
特にアヤの耳の部分のパーツがピコピコ動く所がとても可愛かったり、「目が見えない」という部分が重要になるのですが、絵でも目の表現がしっかりとされていたので設定と絵が合わないという事が全く無かったです。
主人公の雪村にも立ち絵があり常にウィンドウメッセージ部分に表示されていた所は主人公の容姿を見たい派としては大変有り難かったです。
一人称視点の主人公は容姿が無かったりする事が多いので。
クリア後にCG鑑賞モードに加えてムービー鑑賞モードもあるというのも痒い所に手が届く仕様でした。
上記でも書きましたがOPのセンスが本当に良くて良くて。
音ハメでの動かし方や歌詞の出し方、文字の出し方などがとても格好良く、クリア後にエンドレスでムービーを再生していました。
本当に大好きです。


『物語』
一箇所で青年とアンドロイドが語り合うという「閉鎖空間物」ではありますが、世界全体を見るとかなり大変な事になっていたり。
そして最後には「このまま疫病が更に蔓延する?」「いや、でも、もしかしたら救われるのでは?」という少しの不安と希望が同時にあったり。
彼と彼女の物語は今作で確かに終わるのですが、色々と予想が出来る余韻がありとても良い終わり方でした。
「人とアンドロイドの生き方」を描いた作品としてかなり好きな「生き方」が描かれていて、後半の雪村とアヤの会話とアヤが出した結論にグッと来ました。


『好みのポイント』
物語としてはアヤの結論や生き方が大好きで、絵としては途中でアヤが青年から煙草を貰うシーンがあるのですが、煙草を咥えたアヤの立ち絵に胸を撃ち抜かれました。
黒髪清楚な見た目10代くらいのメイドさんが煙草を咥えるとか最高じゃないですか?
見た目と煙草のギャップが最高で最高で。
煙草を咥えながら少しだけ口を開き茫洋とした目で会話するアヤの立ち絵が至高過ぎました。





以下ネタバレ含めての感想です





アヤを生み出した博士の記憶を受け取ってほしい青年と、博士が死んだ事を受け入れられず記憶を受け取りたくないアヤという関係から始まる会話劇。
「記憶を受け取るまでの物語」なので青年が記憶を渡せるほどに関係性が築かれた時には「もうおしまいか~」と思っていたのですが…青年もまたアンドロイドとは思ってなかったです。
予測を付けようと思えば出来る範囲ですが、結構サクサクと青年×少女(アンドロイド)物として読んでいたのでちょっとビックリしました。
最後にちゃんと仕掛けが作ってあり、作りがとても丁寧だと思いました。


後半、博士の話が入りますが、博士の話の中で中々に好きだったのは「最初は人の為に生きて研究していた人間が寿命が近付くにつれて自分の生を伸ばす為にアンドロイドを開発し研究をしだした」所です。
なんというか…とても人間らしいというか、人間のある種の醜さを凝縮していてニヤニヤしました。
こういう善と悪の灰色の部分で生きている人間らしさや邪悪さ、好きです。
今まで人の為にアンドロイドを作ってきて、アヤには沢山の幸福をあたえてきた博士が、間際の時に新しく作り出した雪村には自分の人格に書き換え雪村の人格を消し去ろうとする。
全然対応が違う所が人間臭いです、好き。
雪村はそんな博士の行動は間違っていると思ったのと消えたくなかったので逃げ出しますが、まぁ当然の行動だと思います。
ただ、博士の最後の善意は雪村の感情データを消さなかった所、そこには善性を感じます。
消そうと思えばきっと消せて、消した方が楽に人格移動出来ただろうに、そういう所もまた人間の善悪の灰色の部分が見えました。
雪村もまた博士を恨んでも良いのに、しっかりと博士からアヤへの最後の言葉を伝えようとしている所になんだかんだ性格データの善性を感じる為、博士という存在は完全に善人とは言えないけれど、根底は善の人間というのを感じるので人間の衰えによる考え方の変化は怖いなと。


博士からの最後の言葉を聞いたアヤが博士の人格を他者に植え付ける発案に対しビンタを食らわせたのは最高でした。
「人格を乗っ取るわけじゃないよ、後でなんとか出来るよ!」というのが嘘というのを見抜けたアヤ。
生みの親ですらしっかりと「間違っている事は間違っている」と主張出来るアヤが本当に逞しく。
雪村も自身の肉体を使ってからの博士の伝言だったのでアヤからのビンタはとばっちりだなと思いつつ、彼も「俺は誰かの代わりになりたくない」を貫き、「誰も誰かの代わりになる事は出来ない」を主張し。
アンドロイド側がハッキリと人間よりも「正しく」描かれて居たのが印象深かったです。
疫病が蔓延し人間が衰退し、人間が精神に限界を迎えると人間が作り出したものの方が正しい選択が出来る…「閉じた世界の物語」ではありつつも、小さな世界でしっかりとSFをしていて好きでした。


最後には雪村は稼働限界を迎え、アヤに今まで預かって来た記憶を託し、アヤが雪村が「封じ屋」として預かって来た記憶を返しに行く。
記憶を預かった美月に記憶を返すシーンで終わり、終わり方の美しさに拍手でした。
雪村が最後にアヤを姉と呼ぶ所はロボットの製造順で姉弟みたいに呼び合うのが大好きなので後半でツボを突かれ。
更にクリア後のタイトル画面でメイド服を脱ぎラフな格好で煙草を吸うアヤの一枚絵から弟である雪村の意思を引き継ぎ、更に「メイド」という役目を背負って作られた自分の役割を脱ぎ捨てたようにも見えて。
「アンドロイド」としてのアヤを脱ぎ捨てたような姿で最高に胸に響きました。


物語、絵、ムービー、選曲、どれもとても上質な作品で、ミクロの世界の話でありながらもSFとして非常に出来た作品だったと思います。
男女の会話劇も大好きなので、自分の好みにも刺さりました。
疫病の件はしっかりと明かされておらずその部分はきっと読者に委ねられていると思いますが、不安な部分もありつつも美月が無事に20歳を迎え結婚を控えており父親と居る所とアヤが居て各地を周っている、その部分に希望を見出しています。
いつか、人間に生まれ変わった雪村とアヤが少しでも上向きになった世界で出会える事を信じています。