ひっそりと群生

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【ファーストキス】感想

【百合15禁】



2021年08月27日発売
Clear Color』様 ※リンク先公式HP
ファーストキス】(PC)(15禁) ※リンク先DLsite.com(18禁)
以下感想です。








貴女が綺麗なままで居られるなら、なんでもします。



『中学三年生の冬。私「豊沢ユイ」は、公園で見知らぬ男に襲われる。

 その日から、私の中で“何か”が壊れてしまう。

 人間不信に陥った私が、唯一心を許せる相手……それが、親友の「花岡ひな」だった。

 次第に、彼女に対して友情とは違う感情を抱くようになる。
 私は戸惑いつつも、彼女のそばにいるために、友人であり続けることを選ぶ。

 親友として彼女のそばにいられれば、それだけで充分。
 そう自分に言い聞かせる日々だった。

 そんなある日。ひなは私に対して相談をもちかける。
 「男に告白されたが付き合うべきか」というものだった。

 彼女の幸せを願うのなら、そっと背中を押すべきだ。
 頭ではそう分かっているのに……。

 それから、私はよりいっそう“壊れて”いく……。』
(公式より引用)



プレイ時間は約1時間くらい。
分岐有り、ED2つ、一周目ルート固定。


過去の出来事から壊れ、人を信じられなくなった少女。
そんな少女がひょんな事から明るく元気で気さくな…まるで天使のような少女と出会い唯一の信頼を寄せていく。
けれどその信頼は執着であり信仰でもあって。
汚れなき存在を汚れないままで保つため、全てを投げ売ってでも潔浄を守ろうとする一人の少女の葛藤の物語。



『システム、演出』
Light.vn製。
基本性能有り。
Light.vn製はスキップ解除が若干難しいツールなのですが、本作は一周目固定EDで、二周目は選択肢から選べたのでとても使いやすかったです。
目パチ完備で所々でアニメーション有り。
手を伸ばすアニメーションや髪が揺れるアニメーションがシーン毎に印象深い効果を発揮していました。


『音楽』
タイトル曲でオリジナル曲らしい「その心に触れて」が本当に良い曲で。
一言で言うなら「切ない」その言葉通りの曲でした。
ひなの純粋さとユイの苦悩、そして百合の美しさを一纏めにしたような「切ない」曲で。
他の使用曲もピアノ曲で統一されていて物語の繊細さや儚さを見事に表現していました。


『絵』
立ち絵や一枚絵はユイとひなという二人の少女のみ。
他にも一応登場人物は居ますが「絵は二人だけ」という部分に「二人の世界」が出ていて好きでした。
そして何より表情がとても良く。
ちょっとした会話でコロコロと変化する表情や、重要なシーンでの一枚絵で一瞬一瞬で変化する表情に目を奪われます。
「どうしようもない」「苦しい」「怖い」「切ない」、そういう感情の時の表情がたまらなく上手く。
表情を見ているだけでゲームをプレイしている側も胸を掻きむしりたくなる衝動にかられました。


『物語』
ユイからひなへの依存とか執着とかそういう感情がダイレクトに伝わり繊細さと苦しさで溢れていました。
友情を超えた感情からユイが巻き起こす行動はまさに「逆NTRヤンデレ百合ノベル」のジャンルに相応しく。
美しくも恐ろしいユイの感情に冷や汗とニヤニヤが止まらなかったです。
ひなもまたユイほど分かりやすくは無いですが、一般とは違った「壊れ」をどことなく抱えていて。
傷を舐め合うような、開いた穴を埋めるような二人の関係が「ヤンデレ」の「病み」を感じながらも「この二人はこれで良いんだ」という納得感がありました。


『好みのポイント』
初回で辿り着くBADの陰鬱な流れと最後のユイの氷点下さらに下に行くような台詞に全ての汗が凍り付き邪悪さを感じたのと、二周目到達できるトゥルーEDの最後の流れに今までとは違った「切なさ」を感じつつも、「逃れられない運命論」のようなものが好きな自分としては「好きだな」という感情に包まれました。
ユイとひなが出会った事、そしてこのトゥルーに辿り着いた事、そのどれもがあの日止まっていたユイの人間を信じる気持ちを動かす為にあったと、そして、二人の愛は永遠だと、そう信じています。





以下ネタバレ含めての感想です





「逆NTRヤンデレ百合ノベル」のジャンル通り、まさに「逆NTR」。
親友で想い人のひなに男が告白する度にその男の本心をユイが探り、そしてひなの純潔を守る為に男に抱かれていきます。
あらすじでもある通り、ユイは過去に男に強姦され決して誰にも言えず、男は捕まりましたがそれでもユイの傷が癒える事は無くユイは壊れます。
序盤、「ひなを守る為」と同時に過去の強姦を忘れられずそれが性癖になってしまっていて「男に犯される事」をも楽しむ姿にユイの「壊れ」が見えて傷の深さを黒く見せつけられプレイしながら心が暗くなりました。
それでもラスト、ひなと結ばれるとその後は決して男に抱かれる事は無く。
そういう行為そのものも「"本当はひなと結ばれない"と思っている諦めから来ていた行為」であった事が分かり、何もかもが全て「ひなの為」であった所にユイがひなへ向けている感情の重さを感じました、まさに激重感情、百合物として最高です。


というかそもそも、自分は「片方の女性に愛の無い男性経験が大量にあって、片方の女性の純潔を守る為に男に身を捧げる&男を惑わしていく系の百合」がとてもとても大好きなので、この物語の流れはそれはもう好きで好きで好きで。
ユイが男を惑わしていく姿に心が痛みつつも、「ユイ、もっとやれ!!!」と雄叫びを上げていた所はあります。
善と悪は表裏一体、苦しくなりつつも喜ぶのが人間心理なので仕方ない。


数々の男がクソ野郎ばかりで、でもその中で唯一の善良な男性と付き合う事になったひな。
そんなひなを見ていられず距離が離れていき。
途中ユイが「ひなに会いに行くか?」と悩み続けるシーンで選択肢が出そうで全く出ず、会わない道を選び「おや?」となりましたが…本作は一周目は固定BADみたいで、見事にBADに進みました。
ユイと分かたれたひな。
ひなはその後、大学で酔った隙を奪われ酔ったまま純潔を奪われ、天使は地に堕とされます。
その後はもう破滅の一歩で、更に悪い男の悪意に気付かずに付き合い最悪な形で振られ。
自暴自棄になり天使は地上に叩きつけられました。
死ぬつもりで登ったビル、でも最後に過ぎったのはユイの顔。
最後の最後で死にたくないと思いつつも、そう思った時には落ちるのを止められず、でも最後に神のイタズラで落ちたひなの近くに同じ様に自堕落になったユイが居て、ひなはボロボロの死体の姿でユイと再会します。
しかし、その堕ちた天使のひなを、ボロボロの死体のひなを見てもユイはひなだと気付かずに最後に「汚い」と死体に吐き捨てるというのがBAD END。
このEDを見た時に邪悪さとか闇とかが溢れ出ていて素で「ヒエッ」と声が漏れました。
ボロボロになったひなは、純潔を失ったひなは、地に堕とされた天使はユイには受け入れて貰えないのだと。
人間心理として正しいのですが「ひなは美しくないと受け入れて貰えない」というような流れに感じたので、恐ろしさが凄かったです。
ですがそれは当たり前で、「ユイとひながちゃんと向き合い、ユイの中の"ケガレ"の概念を浄化出来ていないと、穢されたひなはユイにとっては"汚いもの"になる」というのは当然な流れなんですよね。
だから、二人が分かたれて大学に行ってからではもう修正不可能なのか…という事が分かりました。


そして二周目からようやくひなとの別離の喧嘩後に出てくる「ひなに会いに行くか?」という選択肢。
唯一の光明で、唯一の分岐点。
ここでちゃんとひなと向き合うとユイは自分の恋をひなに伝え、そしてひなもまたユイへの気持ちを自覚し、二人は結ばれます。
ユイが過去を話し"ケガレ"はひなによって祓われ、ひなの持つ自主性の無い「壊れ」の部分もユイに明かされ、二人はもう隠すものは無く二人の間を遮るものは何も無くなります。
作中唯一の善人男子の加賀君には悪いですがその後幸せな二人が描かれハッピーエンド…だと思ってたんです、思ってたんですが…
まさかのひなの事故死EDでビックリ。
なんというか、上げて落とした所がありますね…
なんで死亡EDに…と思いつつ、でも、これ、ひなが亡くなる時っておそらくBADでの滑落死の日にちと一緒だと思うんですよ。
ひながBADで自暴自棄になった時に歩いた交差点でトゥルーでは事故ると思うので。
BADのやるせなさと同時に、BADでもトゥルーでも同じ日に亡くなる、そういう「運命軸」のような物を感じて、そういう「二つのルートを辿る事でプレイヤーだけか見える運命」のような構造が好きなので苦しさと同時に好きが押し寄せました。
今作はそういう「辛い、苦しい、切ない、でも好き」というような作りが非常に巧みだと思います。


最後はひなは死んでしまったけれど、でもひなが居たからこそユイの「壊れ」が修正され、"ケガレ"が祓われ。
普通に人間を信じる事が出来るようになったのは「唯一の残された光」だと思っています。


色々と好みの要素が詰まった百合物でしたが、ただ一つ、若干の苦手な要素として、加賀君以外の男性が本当にどうしようもなくゴミクズ野郎ばかりでちょっと男性を下げ過ぎな所だけはあまり好みでは無く…
BLでもですが、「同性愛を強く見せる為に異性を下げるような描写を多く入れる」というのがあまり好きではないので、もう少しゴミクズ男キャラが少なくても良かったのでは?とも思いました。
本作世界の男性があまりにもあまりなので…その点だけは自分に合わなかったです。


それ以外はとても好みの「逆NTR」の「ヤンデレ」の「百合ノベル」でした。
本当に、本当に、「好きな女の子の純潔を守る為に言い寄って来る男を誘う相手の女キャラ」を見れただけで大満足でございました!
最後はひなの死による虚無感がありましたが、それでもユイが「一度"壊れ"ひなによって"修正"された世界で前を向いて生きようとする」そんな姿が眩く、「ヤンデレ」ものではありますが最後は精神が癒やされ光に向かう終わり方で良かったです。