ひっそりと群生

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【そしてパンになる】感想

【男性向け15禁】



2021年04月24日配信
『カビ布団』様
そしてパンになる】(PC&ブラウザ)(15禁) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








右を見てもパン!左を見てもパン!
このパン狂いの世界の中で全てはパンに帰結して行く。



『「10年前に交わした約束を、彼女はまだ覚えているだろうか」

 パン作りの天才である波良嶋亮(はらしまりょう)は、近所の八紘学園に入学し、ごく普通の学園生活を送ろうと思っていた。
 入学式の際に、壇上に上がって喋っていた学生の帆那甜瓜(はんなてんか)に異様な既視感を覚える

 入学後、波良嶋は幼馴染み兼パン仲間の八千代心音(やちよここね)に声をかけられ、一緒にパン作りの部活『ベーカリー研究同好会』を作る事になる。

 同好会を作ろうとメンバーを集めることになった最中、帆那甜瓜と偶然廊下で会い、ベーカリー研究同好会に入ってもらえることとなった。

 ベーカリー研究同好会としての活動を機に、波良嶋の学園生活は普通とは呼びがたいものとなっていく。』
(公式より引用)



プレイ時間は約7時間45分くらい。
分岐有り、攻略は『公式』(※リンク先公式)に有り。


パンにより栄えた八紘町、町行く所にパンの店があり、パンの祭りがある。
そんな町の中で、パン関係の仕事に着く母と超大手パン会社を立ち上げた祖父を持つ主人公。
幼馴染に誘われ学校でもパンを作る同好会を立ち上げ、同じようにパンに関わる両親を持つ少女達と共にパンを作って行く事に。


パン、パン、パン、気が狂いそうなほどパンが中心になった世界。
そんなパンばかりの世界の中で当たり前に展開するギャルゲストーリー。
登場する少女達の関係が親密になり、話が進むにつれて明かされていく町の成り立ち、様々な関係、18年前の出来事…
物語はパンを軸にして思わぬ方向に進んで行きます。
これは「世界で一番おいしいパン」に囚われた人々の物語。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
ただ、人物の切り替えシーンでもたつきがあったり、スキップが若干遅めの為、プレイ時間の長さを考えると不便に感じる所はありました。
BAD数も多いのですが、EDリストなども無く、更にはメインEDに到達してもクリア後にEDが流れない為、正しいEDに進んだか不安になった箇所有り。
3人のメインEDクリア後におまけルート(というか実施トゥルーED)が出る為、メインEDクリア後にはスタッフロールは欲しかったです。
プレイは攻略を見ながらを推奨します。


『音楽』
ギャルゲーに似合う良い選曲でした。
フリー素材なのですが、「ギャルゲーで良く選択されるBGM」がしっかりと使われていて。
だからこそ、このパンばかりの異様な世界観で「普通にギャルゲーをやってます!!」みたいな空気が形成され、独自の世界観を築き上げていました。


『絵』
立ち絵は部員の4人の少女達にのみあり。
心音の見事なフィクション縦ロールと泣きそうな顔が好きです。
制服と私服があってそれぞれのキャラクター毎に服のセンスが見れるのが良かったですが、ポーズは一つのみなので、もう少しパターンがあったら嬉しかったです。
背景はまたギャルゲー関係ではよく選択されるフリー素材の背景。
曲と同じく普通のフリー素材を使う事で独自の世界観を築き上げながら「これは普通の学園恋愛物です!!」という顔をして来るのでなんとなく笑ってしまいました。
パンの店が多く出てくる為、喫茶店やキッチンなどの背景が多い所もまた印象的でした。


『物語』
文章は読みにくくはないのですが、序盤から中盤まで、物語の本来の姿が顔を出して来るまでは起伏がほぼ無いゆったりした日常が続いた為ダレると感じた所があります。
作者様のコメントにあったように甜瓜→心音→恵美の順で進んだのですが、甜瓜ルート前半くらいまでは若干のダレがありました。
ただ、物語が本来の姿を見せてくるのは心音ルート辺りからになります。
「高校生がパンを作り文化祭に向かうパン制作+恋愛物」…と思っていたら思わぬ方向に進みました。
焼き◯て!!ジャ◯んみたいにパン作りを中心にした作品だと思っていたのですが、後半まさかの「なんやて!?」的展開に。
いや、作ります、作るんですが…そう来るとは…
こういうまさかの流れに持っていけるのもフリーや同人の強みだと思います。
それでもこれだけの流れにしながらも「世界で一番おいしいパン」を貫き続けた所は本当に凄かったです。


『好みのポイント』
世界観のぶっ飛びっぷりがとにかく最高。
「パンで町おこしがされている」までは「パンが栄えている町なのかなー」くらいなのですが、進むにつれて「全員パン関係者&パン職人」「月刊パン」「パンの髪飾り」「常に食べている物はパン」「ごはんの希少さ」などなど。
パン、パン、パン、どこを向いてもパンで笑ってしまいました。
今作で何度「パン」という言葉が出たか…数えたらキリが無いと思います。
食事シーンも常にパン、帰りの買い食いもパン、放課後にもパン制作をしてパンを食べる。
そしてパンに飽きない住人達…パン狂いの世界がナチュラルに表現されていました。
その世界観に圧倒されながらもあまりにもパンの主張が激しい為、耐えられずプレイ中に実際にパンを買って食べながらプレイしてしまいました。
現実世界に影響を及ぼされたらもう負けです、私もまたパンになる事が出来ました。





以下ネタバレ含めての感想です





体はパンで出来ている。
血潮は小麦で、心はEスト菌。
…「そしてパンになる」とはそういう物語。


いや、冗談抜きでそういう物語。
最初は「学生の部活動モノ+恋愛」でしょー、大会に出て優勝とかしちゃうんでしょー。
くらいに思ってたんですよ、思ってたんですけどね。
実際に大会に出るルートはありますが、「パンを作る」に関して「作る気持ち」の熱量はありながらも「作る描写」はさほどだった為、「創作物としてはそんなになー」と正直思ってました。
甜瓜ルートでは「メロンパンしか上手く作れず、そのメロンパンを販売する事でなんとか生計を立てている父との和解」だった為、どちらかと言うと「親子和解物」として見ていて、他のルートでもそういう「パンを作る事で何らかの関係が変わっていく物語」として進むのかなーと思っていたのですが…心音ルートで一気に物語の真の姿が明らかになって来てから印象が変わりました。


立ち絵としては登場しないながらも多く出てくるそれぞれのキャラクターの家族、そこから明らかになる複雑な家族関係、18年前の町の失踪事件、過去に存在していた「ベーカリー研究同好会」で作られた菌、そして心音ルートでのまさかのED。
え、えぇーーーーー!!ヒロインがパンに!!パンに!!?
「そしてパンになる」ってガチでパンになる(物理)だったんですか!!?
いや、なんとなく「菌」って単語が出た瞬間に嫌な予感はしてたんですが、まさかの展開過ぎて。
これ、「パン作りゲー」に見せかけた「SF」でしたね…菌によって変貌する人々とかパンデミック物(まさかこれも「パン」に掛けてるのか…?)とかSF物ですよ。
恋愛物として見ても心音はどう足掻いても絶対にパンになるEDしか無いですし、甜瓜ルートでもBADの方で何故か死亡した流れがあって、「なんでヒロイン死ぬの??」と思っていましたが、おまけルート(というか実質完全にトゥルーED)(ただしGOODでは無い)で「ヒロインは遺伝感染により全員パンになる菌(Eスト菌)に感染している」事実が判明し、「あ、これ、どのルートでもヒロイン最後には死ぬやつ…」だと分かり、自分の中でジャンル恋愛物というよりもSF物にシフトしました。
別に「生き残らないと恋愛とは言わない」というタイプでは無いですが、この物語はヒロインと共に「世界で一番おいしいパン」を目指しつつ、その目指した先で過去にEスト菌を振りまいた教頭と対峙し、Eスト菌の特効薬を見つけ、この町の人々を救う話だと認識し。
その過程でヒロインは特効薬には時間が間に合わず必ず死ぬので、未知の菌から町を救済>ヒロインの救済の構図に自分の中でなった為、個人的に感じたジャンルはSFでした。
決してどのルートでも…おまけですらヒロインは助からないんですよね、特効薬にはどのヒロインも間に合わない。
最初は甜瓜と恵美はGOODっぽいEDなのに心音だけパンになる(死亡)EDしか無い為、心音ェ…と思ってましたが、おまけルートに行くとどのEDでもヒロインは死亡確定ですし、そもそも主人公には部員誰一人残らず孤独に生き残るEDしか存在しないという鬼仕様。
救えるのは本当に「特効薬が出来てからのEスト菌感染者のみ」なので、SF物として見ると「パンデミック系ではある」と受け入れられますが、ギャルゲー&恋愛物として見るとかなりハードだと思います。
なので自分の中ではSF物で認識しようかなと、というか認識させて下さい…恋愛物だと「過去、両親達が犯した過ちを子供達が無意識に引き継いで命で精算する物語」であまりにも悲恋過ぎて辛いです。


最終的に主人公はヒロインとの交流で「世界で一番おいしいパン」を目指し続けますが、事の発端になった教頭にお咎めがあるようなシーンも無いですし、なんなら両親達にも無いですし。
「人をパンにする」とか字面では可愛い事になってますが、やった事はぶっちゃけ殺人なのでなんかこう…ある程度のお咎めシーンは欲しかった所はあります。
完全に主人公と4人の少女達が被害者で終わった所は正直モヤッとしています。
ただ、そういうモヤりも「人がパンになる菌」という所も、物語としてはかなり突拍子も無い展開ではあるのですが、序盤からかなりパン狂いの狂気の世界が提示されてるので何が来ても違和感や唐突さは無いんですよね。
狂気の世界の中、狂気のまま、狂気の設定が開示されて行くので「なんで???」よりも「な、なんだってー!!!(M◯R)」の感覚が強かったです。
怪奇現象雑誌で新しい怪奇現象が発見されるような、そんな感覚。
そういう世界観の為、過去のEスト菌の関係者達へのお咎めが無い部分もモヤりがありつつも、「そういう事もあるよね!」と納得出来てしまう不思議。
そういう「突拍子も無い現象」が数々巻き起こるのにその場その場で人を納得させてしまうほどの世界観が今作には詰まっていました。



以下、ルート毎の感想


『帆那 甜瓜ルート』
作者様曰く最初に攻略した方が良いルート。
実際パンになる事も菌の事も何一つ明かされないまま父と娘の話として進むので最序盤が正解でした。
全体を通すと過去に主人公と一度会い約束していたり、父に認められる為に主人公と一緒に創作(パン作り)をしたり、一番オーソドックスな恋愛物をしていたと思います。
…が、全編通すとおそらくGOOD後に彼女は死ぬんですよね。
BADで死ぬ描写があって「なんで唐突に?」と思ってましたが、全クリ後世界設定を知ってると、Eスト菌にも辿り着いて無いので、まぁ死にますよね…と。
このルートでは何一つ情報が無いまま他の部員もおそらく近いうちに死ぬので、主人公の心境を考えると一番悲惨だなと思いました。


『八千代 心音ルート』
名前はコロネから?
縦ロールの髪型や最後にチョココロネになる所からずっとコロネちゃんと呼んでました。
一番Eスト菌に近づくルート。
ヒロインの中で最初にパン化を見届けると思います。
パンになった瞬間は悲惨なシーンだと分かっていましたが、なんかこう、謎の笑いも漏れてしまいました、申し訳無い。
このルートによってこのタイトルが「そしてパンになる(物理)」だと気付かされ、町の過去に何があったかを知っていく話だと確信しました。
ルートとしては「主人公の夢を一緒に叶えたい」という幼馴染の王道を行きつつ、でも死んでしまうという泣きゲー的要素を担っていました。
所々で失礼な事を言っちゃう子でしたが、アホの子の側面が多くなんとなく許せてしまうのがいいキャラしてるなーと。
立ち絵の泣きそうな顔がまさにヤラレキャラっぽく、余計イジメたくなる顔をしていて好きです。


『粕田 恵美ルート』
作者様曰く最後に攻略した方が良いルート。
実際、町の過去にかなり触れるのはこのルートになります。
ただ、かなりの情報に触れるのですが、「人がパンになる」現象だけは華麗にスルーされるので、全ての確信には触れませんでした。
個人的に作中で一番熱かったルート。
自分よりも才能のある存在との気まずくなる関係、パン作り大会への出場、父と同じ大会に出て戦う。
スポ根物の流れを強く組んでいました。
…ですが、真相を知る限り彼女もまた死ぬ(パンになる)んですよね。
大団円!で終わったように見せかけて潜んでいる背景の魔物(Eスト菌)が怖いなと思いました。


『おまけルート(小頭 芽衣ルート)』
3人クリア後のおまけルート…というか実質芽衣ルート。
4人部員が居るのに一人だけルートが無いので何故?いくら眼鏡キャラといえども(失礼)ルートが無いのは可愛そうでは?と思ってましたが、「全ての元凶である教頭の孫」なので最終ルートなんですね。
教頭を改心させてEスト菌の解明を進める為には芽衣の存在が必要不可欠だと、なるほど。
正直上3人のルートだけだと町の真相も教頭の真相も分からないままなので、このルートを「おまけ」と名付けず「トゥルー」と名付けた方が良い気もします。
芽衣と親密になりながら教頭の過去や陰謀、想いを知っていくルート。
Eスト菌の特効薬の話が出るので、「お!ようやく真にヒロインが救われるED来るか?」「でもなー、芽衣だけ救われるのはズルい気もするなー」と思っていたら見事に芽衣のリミットには間に合わず…
まぁ、一人だけ救われるルートが来ても贔屓感が出るので個人的には良かったのですが、誰一人ヒロインの命は救わせる気が無い所に作者様の意地悪さを感じました。
このルートクリア後にEスト菌特効薬が出来て各ヒロイン救うようなルートも特に無いっぽいですし。
やっぱりこの作品は町の救済>ヒロインの救済の色が強いなと感じました。



トンデモ世界観から始まり、当たり前のギャルゲー的流れで進み、トンデモ設定を出し、ヒロインの死で締める。
泣きゲーとカオス世界ゲーが融合した珍しい作品でした。
しかし、世界観そのものやキャラクター達からパンに対する情熱、本気は間違いなく感じ取れる本作。
熱量は間違い無く、独自の世界観にあてられ不思議な笑いが漏れながらも彼らの真剣な姿を応援せざるには居られないという、常に不思議な感情に包まれていました。
「そしてパンになる」タイトルは「パンになる(物理)」でありながらも、「「世界で一番おいしいパン」を作りたい想い、ヒロインへの想いが主人公が作るパンになる」という意味にもなっているのではないでしょうか?
主人公の孤独は辛いものを感じながらも、間違いなくその辛さを含めて全ての感情が彼のパンになって行くことでしょう。
上記でも書いていますがあまりのパンへの熱意にプレイ中どうしてもパンが食べたくなり食べながらプレイしたので、現実に影響を及ぼされた時点でもう"負け"です。
本作をプレイしながらのパン、大変美味でした。