ひっそりと群生

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【BRADLEY(ブラッドリー)】感想

【男性主人公15禁】



2019年09月01日配信
『柘榴雨』様
BRADLEY(ブラッドリー)】(PC&ブラウザ)(15禁) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








ORANGE、オレンジ、橙。
その色を、味を起点に罪は重ねられ続ける。



『とある米国の刑務所にて
 幼い女の子を襲った罪で服役中の、模範囚である『彼女』が本日自由の身となる。
 精神科医ブラッドリーは『彼女』が正常になったと確かめるために
 最後のテストを行うのだが―――。』
(公式より引用)



プレイ時間は約20分くらい。
分岐有り、ED2つ。


椿堂ノ火』(※リンク先感想)を制作された柘榴雨さんの作品。


精神科医ブラッドリーは釈放間近の模範囚である『彼女』と会話し、過去を追っていく。
埃っぽさがありながらも秩序のある刑務所。
『彼女』の部屋から漂う規則正しさ。
『彼女』から語られる過去と犯した罪と、そしてオレンジ。
その魅惑の味を再び味わうか、拒絶するか…選択により物語の終わりは姿を変える。


『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
背景の色がオレンジ色の時や、白黒からオレンジに変化する所などが内容と絡まり印象深かったです。
選択肢は一つなので選択肢部分でセーブを推奨します。


『音楽』
手を伸ばしても掴め無さそうな、足場のない不安定な曲が多く、常に不穏な空気を漂っているBGMの選曲がとても良かったです。
まさに「洋画、洋ドラマの不安になるシーン」のイメージそのもの。
BGMもまた世界観にとても合っていました。


『絵』
立ち絵無し、背景のみ。
タイトル画面に居る男性がブラッドリーだとは思いますが、彼が本編に絵として登場する事はありません。
ですが、背景の写真の解像度の低い加工の仕方が海外…特にアメリカの若干治安の悪い感じが出ていてとても良く。
話の内容も相まって刑務所だけでなく過去回想での家などから感じる居心地の悪さを全面に出した雰囲気に圧倒されました。


『物語』
文字のフォントが独特の為、読みにくさがありましたが、世界観を考えるとフォントはとても合ってたと思います。
プレイヤーとしては読みにくいですが、洋の空気を考えるとあのカクカクとしたフォントは海外らしさがありました。
背景、音楽、そして所々で挿入される英語のナレーションから洋画、洋ドラマの雰囲気が強く。
海外製のミステリー、サスペンス好きにはとても刺さる世界観でした。


『好みのポイント』
物語はかなりの考察系。
明確に「これが答え!」というエンディングは無く、正直一周目は良く分からない所が多かったです。
一周目は「TRUE」に行きましたが上手く掴めず、二周目に「ANOTHER」に行った時に何となく把握し、三周目に選択肢の意味と過去の出来事を総合してなんとなく世界観が掴めた気がします。
物語での「明確には語られない考察系が好き、なおかつ手放しで万々歳出来るEDよりも「いや、これは…」となるような不穏なEDが好き」そんな人に是非オススメしたい作品でした。





以下ネタバレ含めての感想です





さて、ネタバレ…では無いのですが、考察系だった為、個人的な考察を下記に書いていこうと思います。


まず前提として犯罪(小児性犯罪)を犯した男性が居ます(その男性を便宜上「彼」を呼びます)。
「彼」は幼少期おそらく母親の虐待が関係し、別の家へ預けられました。
その預けられた先、「彼」は何故かオレンジだけを食べる事が出来ませんでした。
理由は分かりませんが、母親の虐待や母親そのものに関わっているのかもしれません。
「彼」にとってはオレンジの味は大丈夫でも食感がダメであるらしく、その食べ残しが虐待の一つになっていた可能性があります。
(もしかしたら既にオレンジがトリガーである事を「彼」は本能的に感じ取っていたのかも。)


ある程度の年齢の時に「彼」は公園で女の子に出会います(寄って来た女の子が「男の子と遊ぶのはおかしい」と言っている事から小学校半ばくらい?)。
その女の子から「男の子と仲良くしたらのけものにされる、私が女の子だから」という言葉を聞き「彼」は男性である事を捨て、「私」と名乗り女性として振る舞います。
その時に女の子からオレンジ味のキャンディーを貰い、トリガーが引かれ(もしくはここで人格を「彼」から「彼女」へ入れ替えた事とキャンディーの味が重なる事でオレンジの味がトリガーとして形作られ)、「彼」の人格は「彼女」になったと思います。
その後、「彼女」は母親の虐待から大人の女性は抱けませんが、女の子との交流から子供の少女には劣情を表し、「仲良くなったらもっと近づける」と幼い少女達に性暴力を働き小児性犯罪者として収監されます。
おそらくですが、序盤の英文の「フルーツは甘すぎるが、キャンディーはちょうどいい」「成熟した果肉が舌を滑る刺激を試したことはないが、指先に触れるだけでも吐き気を催すだろう」という文章や生のオレンジは食べられず、でも甘いキャンディーとしてのオレンジは食べられるという所は「大人の女性は相手に出来ないが、子供の少女なら味わう事が出来る」という暗喩になっているのでは?と。


そして物語はそんな「彼女」が刑期を終える所からスタート。
上記の話から分かるように、主人公である「彼」はオレンジの味をトリガーにして人格が入れ替わる(もしくは新しい人格が生まれる)二重(多重)人格者です。
物語開始時の「ブラッドリー」は「彼」の元の人格であり、序盤の英文の「認識と行動は相反する」という言葉から、「彼(ブラッドリー)」は「彼女」の犯した罪を「彼女」と同じ目線で見えており、認識し、それを非難しながらも「彼女」を止められなかったのだと思われます。
本作はおそらく刑期を終えようとしている「彼女」を正しく改心ようと、「彼(ブラッドリー)」が心の中でカウンセリングをする…いわばセルフカウンセリング物。
「彼(ブラッドリー)」は過去を追って「彼女」を会話をしていきますが、おそらく今までの会話や今回最後の会話で「彼女」を改心させる事は不可能だと「彼(ブラッドリー)」は悟ります。
それどころか、最後の最後で「彼女」の人格は「彼(ブラッドリー)」を虐待していた母親を元に作られた人格である事が判明し、「彼女」は母親として「彼(ブラッドリー)」を責め立てます。
「彼女」の責めに耐えられず、「彼(ブラッドリー)」は精神世界で「彼女」を撃ち殺します。


撃たれた「彼女」が人格交換の為、最後にオレンジ味の飴を渡して来て選択肢へ。


片方は飴を舐める事でトリガーが引かれ完全に「彼女」の人格が入れ替わり「TRUE」へ。
このEDでは幼い少女と普通に接しており、名前が「ブラッドリー」で固定なので、おそらく「元の人格の「彼」=ブラッドリー」の「人格入れ替わりの二重人格」がやっぱり濃厚かと。
ブラッドリーとして正しく表に出て、そして刑期を追えた彼。
順風満帆に見えますが…
オレンジ色の空を見つめ続けた事でまた再び不安定になり、そして「Hello,My"Orange."(こんにちは、私の「オレンジ」。)」という少女の声を聞きEDへ。
「彼(ブラッドリー)」のトリガーが引かれたのか、それとも引かれて居ないのか…「彼(ブラッドリー)」の精神はまだ不安定だという不穏さで終わります。


もう片方は飴を舐めない事でトリガーが引かれないまま「ANOTHER」へ。
その後の看守達の会話から無事に出所した事は明かされますが、正直人格入れ替えのトリガーは引かれていない状態なので、「彼女」を撃ってはいますが切り替わってはおらず。
このEDだけだと「ANOTHER」の方が平穏には見えますが、全体を通すとまた再び「彼女」の犯罪は巻き起こるかもしれない…という予感がするEDになっています。



以上が自分が想像した考察になりますが、「これが明確な答え」というのは作中に存在しない為、まだ考察のしがいがあるとは思っています。
「TRUE」のEDはブラッドリーとして出所して平穏には見えますがラストの「Hello,My"Orange."」でゾクっとしますし、「ANOTHER」も看守達の会話の風景は平穏には見えますが、選択肢からの影響を考えると「ん?」となりますし、「TRUE」も「ANOTHER」もどちらもとても不穏なEDで、「あれ?喜べないぞ?」という。
不穏EDが好きな人にはとても響くかと。
洋画などでハッピーエンドに見えたかと思っていたらエピローグにて「犯人は実はまだ生きているかも…?」のような不穏さを漂わせていたような作品でした。
紹介文にある通り間違いなく「ドラマ ミステリー サスペンス」で、洋画、洋ドラマの上質な雰囲気、良い所を丁寧に取り込んでおり、短編に纏め上げ、EDクレジット中にゾクゾクとした感覚を引きずる、そんな短編の映画を見た気分を味わえました。


椿堂ノ火」とはまた違った毛色でありながらもしっかりとした主題は強くあり、作風の幅の広さを感じました。
柘榴雨さんは他にも沢山作品を出されていらっしゃるのでまた別作にも触れたいと思えるほど「椿堂ノ火」、今作、共に面白かったです!