ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【A-line】感想

【男性主人公全年齢】



2022年03月23日配信
質量欠損』様 ※リンク先公式HP
A-line】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








恋は上書き保存?名前を付けて保存?
それとも、永遠に再生中?



『2021年、10月24日。
 今日、僕は初恋を殺す。』
(公式より引用)



プレイ時間は約1時間くらい。
分岐有り、ED2つ。


そして僕らは世界を壊す』(※リンク先感想)を制作された質量欠損さんの作品。


結婚をし、引っ越そうとしている10歳離れた従姉妹。
そんな従姉妹に初恋をしていた少年。
引っ越し前に少年は従姉妹の元へ結婚祝いの挨拶に訪れる。
シックな雰囲気の部屋と音楽に囲まれながら、自分の初恋に懸命に見切りをつけようとする切なくて苦くて、でもどこかほんのりと酸っぱ甘いお話。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
従姉妹の部屋を見回すシーンは自分のマシンスペックが低く若干もたつきました。
フリゲにしては見回すシーンが重いので、落ちる事は無かったのですがマシンスペックは高い方が良いかと思われます。


『音楽』
選曲がお洒落でとてもセンスを感じました。
途中でギターが出てきたり、カセットテープが重要アイテムだったり、音楽が若干重要視されるのですが、キーアイテムに見合う選曲だったと思います。
常に流れている音楽もお洒落ですが、途中音楽を変える事が出来、前作の「そして僕らは世界を壊す」のBGMを流せたのが楽しかったです。
同じタイトルの「そして僕らは世界を壊す」はやっぱり名曲だと思いました。
カセットテープから流れる二種類の声があるのですが、どちらも声だけでそのキャラクター"らしさ"を感じ取れたのと、どちらもたどたどしい感じが「素人が録音したテープ」感が出ていてとても良かったです。


『絵』
主人公と従姉妹のミナ、そしてクリア後に出てくるとあるキャラに立ち絵有り。
表情豊かで動きも豊富で、見ていて飽きが無かったです。
特にミナととあるキャラの描き方がとても好きで好きで。
上手い方特有の雰囲気の出し方だと思います。
背景もオリジナルだったのですが、部屋から二人分のセンスが垣間見えたのがGOOD。
ミナの好みと、そして結婚相手の好み両方を感じ取れて複雑な気持ちになる主人公に共感しました。


『物語』
好きな人の細かい所に目を向けてしまう主人公の心理描写がとても上手かったです。
好きだからこそ見えてしまい、好きだからこそ傷付いてしまう、そんな生々しさが感じ取れました。
部屋を見回して家具を見た時のコメントなど、一つ一つが面白かったです。


『好みのポイント』
主人公のカセットテープに対する行動で分岐するのですが、とある行動を取った後に続くエピローグと、更に続く話がとても好きでした。
初恋は報われず、でも恋は恋のまま残り続けて。
爽やかそうに見えますが、「引きずる人間の末路」をかなりリアルに描いていたと思います。
報われて欲しいけれど…ミナがミナである限り報われないんだろうなというのも分かるので…苦さがあります。
ほのかに甘く酸っぱく、でもどこか苦く。
作中で飲み物を選ぶように、プレイ中はそんな味の飲み物を飲んでいるような気分になりました。





以下ネタバレ含めての感想です





男性の絶対に捨てられない初恋と下心と、女性の無自覚の小悪魔さと恋の切り替えの速さを生々しく描きながらお洒落な雰囲気と音楽でカバーし爽やかさを上乗せし生々しさを上手く取り除き精製したような作風でした、
主人公の環はひたすらにミナの事が好きで、ミナが結婚すると分かっていて諦めないといけないと分かっていても本心は諦められず。
ミナの旦那がミナにプレゼントしたカセットを盗み帰り、更にはカセットの中にある旦那がミナに送った曲の上から自分の声を上書きするという行動を取ります。
作品の雰囲気でどうにかカバーされていますが、環の取っている行動は客観的に見るとかなり重々しく、所々で素で「うわぁ…」と思う箇所が多々ありました。
ミナもミナで、環の気持ちに無自覚なのか、それとも分かっているけれど気付かないふりをして従姉妹として振る舞っているのか。
どちらにしても環からしたらかなり期待しそうになるような行動を取る為、女性のそういう小悪魔さが出ていて。
更にはエピローグでミナの娘が出てきて今度は娘が環に想いを寄せていて。
娘が環のカセットを聞いてしまい環の想いを知って「私はお母さんに似てるから!」と強かに寄っていったり、それでも環は娘だからと受け入れる事は無く、ミナの想いを断り。
最後に娘は環の事は初恋だと割り切り別の男性と結婚するけれど、環は永遠にミナを想い続けるという…


なんというか、よく「男性の恋は名前を付けて保存で、女性の恋は上書き保存」と言われますが、そういう感じの男女の濃いような、ややこしいような、簡易なような、でもサッパリしているような恋を見事に短編で示して居たのが上手いなぁと感じました。
ミナはどこか小悪魔さがありつつも旦那さんとずっと添い遂げて。
娘の日奈は10代の時には環に想いを寄せて告白して振られて、数年後には別の男性と結婚して。
女性側はわりとフラットというか…あっさりと「環君は従姉妹の男の子」だったり、「初恋は初恋」と割り切ってる部分があるのに対し、環は全然フラットになり切れず。
永遠に初恋を拗らせて、日奈が結婚する時も独身貴族を貫き続け、更には「想いを伝えるのは死ぬ時」とかまで言っちゃうのがあまりにも重くて「重っ」と声が漏れました。
というか部屋の内装、ミナの内装とほぼ同じにしてるのもクッソ重くてビビります。
旦那さんの佑二さんも、作中で登場しませんがカセットテープを聞くとカセットが切れるギリギリどころかカセットの長さを考えず話しており、途中で言葉が途切れますし、カセットテープに残している所も含めて、話している内容がロマンチックではありますがどこか重さを感じる物になっていて。
女性側とは真逆に想いに重力を感じるんですよね。
そういう恋へのスタンスの違いという物がかなり綿密に描かれていたと思います。
(…よくよく考えるとA面、B面、別の男性の濃い想いが詰まったあのカセットはとっても激重いカセットだなーと改めて思ったり…特級呪物レベル。)


環…幸せになって欲しいですが…環がミナへの想いを捨てられない限り、恋愛のスタンスを変えない限り、恋で幸せになる事は不可能なんじゃないかなーとも思っています。
人生、恋愛だけでは無いので、他の幸せがあれば良いのですが…これだけ重いと他の幸せの負荷になってないかな?と心配にもなります。
ミナの結婚を全力で祝えないけれど建前では祝いつつ、日奈の結婚を叔父として見届けつつ、ミナの間際の時に想いを伝えるのでしょう、きっと。
ぶっちゃけミナは作中を見る限り何も知らない側なので、ミナからしたら正直「知らんがな」だとは思いますが…
そういう部分、作中、ミナは全く何一つ状況を知らないのが絶妙にリアルで好きです。


質量欠損さんの作品はラスト、爽やかそうに終わりながらも深く考えると「あれ?これは…」となる事が多いのでクセになります。
今作も例に漏れず、シックでクールな作品でありながらも後味がどこか苦い作品で。
恋の甘さと苦しさと、報われ無さが最大限に押し寄せてくる、そんな一作でした。