ひっそりと群生

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【各務家~食卓物語~】感想

【群像劇全年齢】



2021年08月31日配信
『NParadis des Hortensias』様
各務家~食卓物語~】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








人は、立場と気持ちにより見えている世界が違う。



『知れるものと知らざるものとがあり、その間に知ることの扉がある。
 【オルダス・ハクスリー

 どこにでもいるような幸せな家族の物語です。登場人物それぞれの視点から読む事ができます。
 ありふれた日々の隙間から抜け落ちていくものを、一緒に見つけて行きませんか?』
(公式より引用)



プレイ時間は約55分くらい。
分岐無し。


各務(カガミ)家は、パパ、ママ、姉、弟の4人家族。
今日は弟、睦祈(トモキ)の誕生日。
睦祈はウキウキしながら誕生日を迎えるが、他の3人には睦祈のウキウキとは全く違う感情があって。
独り立ちしている兄とその彼女も誕生日会に呼ばれやって来るが、各務家は何やら不穏な状況になりそうであった。
それぞれの立場、視点で描かれる群像劇。
一日のたった数時間の出来事ではありますが、それぞれの見ている世界の描き方がとにかく秀逸でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
若干挙動に危うい所有り。
7でプレイしていた際、「祈跡編」のラストで止まりました。
止まるのを回避する為に、「編」の最初でセーブを取っておいた方が良いです。
「祈跡編」最初のセーブをロードして続けると次の「編」に勧めました。
その後、コンフィグを弄れなくなったので、コンフィグはデフォルトのままが良いと思います。
クリア後の「おまけ」は一度ゲームを切るとリセットされるので、「笑楽編」ラスト辺りでセーブを推奨。


『音楽』
日常的で明るめな曲が主ではありますが、キャラクターのすれ違いが起こるシーンではしっかりと曲が不穏な曲に切り替わり良かったです。
ただ、切り替わりもですが、今作は視点が変わる事で「各キャラクターの心情の違い」を知ったからこそ感じる違和感がそこかしこに有り。
日常的で明るい曲の中で他のキャラクターの視点を見てプレイヤーがその違和感を感じ取った時、曲から感じるギャップが凄かったです。


『絵』
絵本というか…どちらかと言えば英語の教科書のような絵柄。
どこか洋を感じ、どことなくアメリカンな空気がある絵柄で、日本の幼児向けの絵柄とはまた違った可愛らしさがありました。
その可愛らしいキャラが結構ドロドロ寄りの感情の渦中に居るのでこれもまたギャップが凄い。
更には背景もオリジナルなのですが、キャラの視点によって色彩が違う事に気付いた時、「色の欠けが心境と直結している」という演出に驚きました。
オリジナル背景だからこそ出来る上、細やかな違いと表現の上手さを感じました。


『物語』
誕生日の主役である睦祈から始まり姉、母、父、兄、兄の恋人と視点が進み同じ時間が別の人間の視点で語られる群像劇。
人間の立場により変わるそれぞれ別の人物への印象と、各キャラクターの「見ているもの、見たいもの、見たくないもの」がハッキリと伝わり、幸せな家族に見えつつも常に綱渡りをしているような、一つ間違えば一発で幸せが不幸に変わり壊れてしまうような関係が絶妙に描かれていました。
見た目はポップでアメリカンな明るさを放ちつつもキャラクターの心情を見ると、一寸先は闇、一触即発、予断を許さない、綱渡り、そういう危うさを感じる単語が似合う、群像劇を最大限に生かした物語でした。


『好みのポイント』
所々不安定な言葉があったり、コンフィグが常に英語だったり、最近は色んな読みがあるとは言いますがキャラクターの名前の漢字の読み方が「日本の感覚ではあまりしない」そんな読みをさせていたり、背景や人物がなど作中の色々なセンスに海外っぽさがあるというか。
いい意味で海外のセンスを感じ、もしや…と思っていましたが、最後、睦祈の音声が流れる際、英語の発音が前提で発音される日本語の語りを聞き納得でした。
EDクレジットを見た感じ、本作はおそらく海外在住の方、もしくは海外出身の方が作られていらっしゃるのかな?と感じました。
背景の部屋や色彩などがとても良い感じに日本と違うセンスで他では味わえないタイプでした。
アメリカンな陽気な雰囲気がまたキャラの内面の闇と絡み合っていて、本作はやっぱり感情のボタンの掛け違いとギャップを楽しむ作品だと思いました。
最後に一つの救いがあるのですが、個人的に各務家を救う方法がとても好きですし、あの方法でないとこの家族のすれ違いは解決しないので納得のEDでした。





以下ネタバレ含めての感想です





群像劇物としての出来の良さが本当に素晴らしかったです。
本作は誕生日の主役の末弟の睦祈→姉の祈跡→母親の友理奈→父親の陸人→長男の歩→歩の彼女の笑楽(ニラ)と視点が交代し誕生会前の出来事を見ていくのですが、まぁ、皆見事にから回ってました。


末弟の睦祈は子供らしく純粋で視野が狭いです。
自分の誕生日と自分の好きなものしか見ていませんし、年齢的にそれが当たり前です。
姉の祈跡のお菓子を食べても感謝も言わず自分の「嬉しい」という感情のみですし、祈跡と父と母が言い争っても全く空気を読みません。
祈跡が笑楽を苦手がってるので自分も警戒しますが、笑楽からおもちゃを貰うと即座に切り替わります。
良くも悪くも年齢に見合った子供であり、プレイヤーから見たら睦祈の行動でギスギスが増す部分に一種の苛立ちや不安を覚えながらも、無邪気さに年相応を感じる事で各務家は一応は「普通の家庭」をやっているのに安心を覚えました。


姉の祈跡はおそらく今の各務家の中では一番聡く、そして聡過ぎる故の生意気さがあります。
今どきの女の子らしく高校の友人と電話やラインで楽しく話していますが、中学までは友人が居らず、そしてその事を母親に悟らせないように生活していました。
そういう細やかな事に母は気付かない為、聡い祈跡は母の鈍感さに気付いており、若干見下し気味です。
その上反抗期らしく、母親の言う事を真正面からは受け取りません。
ですが、真正面からは受け取らなくてもしっかりと見えていない所で言う事を聞いている素直な子です。
睦祈にお菓子をあげて、感謝の言葉が無くても気にせず睦祈を見つめ続ける優しさがあったりもします。
それでもやっぱり母は鈍感で気付かない為、ますます亀裂が生まれて行きます。
外に明確な逃げ場も無い為、現在この家に居る中で最も苦労している少女だと思いました。


母親の友理奈は見た目は良妻賢母であり夫の三歩後ろを歩きますが、内面は日和見です。
彼女はこの家の中で一番見たいものしか見ていません。
なんとなく本当は知っているだろう事に目を逸しているフシがあります。
祈跡が友人が少ない事も、夫が家に帰るまでにキャバクラに寄った事も、分かっているけれど「そんな事あるはずない」と目を逸らします。
良い所しか見ない、立派な事ですが、それが益々彼女が外から見たら鈍感に見える姿に拍車をかけています。
その上で自分より立場が強い者(陸人)には従うのに弱い者(祈跡)には強気に出ます。
彼女がもう少し自分の意見を言っていたらこんな空気にはならないのに…と言えるくらいこの家の空気を不安定な物にしていた存在その①でした。


父親の陸人は見た目は寡黙で仕事を頑張る父ですが、内面は自分を子供より一番に見て欲しい大人子供です。
彼は子供よりも何よりも自分が優先されないと気が済みません。
なので、そこに不満を感じた彼は息子の誕生日にキャバクラに行った挙げ句、ケーキを忘れます。
「睦祈編」で睦祈がケーキを楽しみにしている事を知っているプレイヤーは彼の行動に間違いなく苛立ちを覚えるでしょう。
彼の視点での家の背景がモノクロになる所から家に良い印象を抱いていない事が分かりますが…父親がコレでは…とどうしても思ってしまいました。
仕事が忙しいとはいえ、各務家で一番子供の精神をしており、この家の空気を不安定な物にしていた存在その②でした。


長男の歩は皆を立てるのが上手でありながらも、気遣い過ぎて全てを背負い込むタイプです。
彼は既に独り立ちをしていて彼女の笑楽と一緒に暮らしています。
彼が独り立ちした理由が端的に言えば「各務家が窮屈だったから」とプレイヤーには丸わかりな状態です。
母や父からは「良い子」みたいな認識でしたが、彼はその「良い子」の圧が辛く。
「父さんや母さんの期待に応えられない」と心が荒んでいた時に笑楽に出会い、彼女の明るさに救われています。
そしておそらく各務家の父母は隠していますが、彼は養子だった事が分かります。
養子で、でも本当の息子の睦祈が生まれて…そんなのプレッシャーに押し潰されるなと言う方が無理です。
笑楽と接する歩を見ていると笑楽がいかに素敵で心の支えになっているかが痛感出来。
実家に帰る事に不安を感じながらも笑楽のおかげでなんとか普通を装い帰る事が出来ている姿に彼女の偉大さを感じました。


歩の彼女の笑楽はもう、なんというか、今作のまさに「要」。
笑楽への印象は祈跡は知人の叔父さんから「不健康だ」とぶん取ったタバコを見られた事で「弱みを握られた」と危険視しており、睦祈は祈跡が苦手がっているという理由で警戒。
友理奈は歩の気も知らず「家族だけで誕生日を祝いたい」と若干笑楽を邪魔者扱いし、陸人は歩の負担も知らず「歩は良い話し相手だからな」「歩も良い娘を選んだな」と好印象ですが歩ありきです。
序盤、笑楽への各務家からの印象がさほど良くないのですが、歩との交流や彼女の視点になった瞬間一転。
彼女の良さが一気に跳ね上がります。
というか今まで見て来た各務家があまりにもあんまり過ぎる為、外から見ると「普通」の笑楽への印象が良い方向に跳ね上がります。
歩を思いやる仕草、父が自分が務めるキャバクラに行ったのを香水から察しても言わない口の硬さ、母親の事を颯爽と手伝う行動力、祈跡のタバコと態度を全く気にしていないおおらかさ、睦祈にプレゼントを渡すしっかりした所と睦祈の幼さを素直に可愛がる優しさ。
あまりにも行動がパーフェクト過ぎて今までの各務家の内面を見ていると「実は何かあるのでは…?」と疑ってしまったほど。
でも、本当はそんな事は無く。
彼女の行動こそが世間一般での「普通」であると、今までの各務家のギスギスした空気が「異常」であったと改めて思い知らされました。
最後には父が買い忘れたケーキを別口で用意しており、しかもオーダーメイドでそれぞれの人物に合ったカップケーキを注文しているという。
まさに気遣いの鬼。
裏も無く、口も固く、行動力も有り、おおらかで、優しく、気遣いも出来る…クリア後に「(歩が居るのが分かりつつ)笑楽と結婚したい!!」と思う事間違い無し。
「別に誰が悪いという訳では無いけれど、ちょっとしたすれ違いから空気が悪くなる」、そういう事が多々あり、そういう事で家族間の仲が悪くなる事も多々ありますが、そういう時に笑楽のような存在が居たら…そりゃ歩も惚れるなぁと納得でした。
笑楽、可愛いよ、笑楽。


そして、本作で一番納得出来た所が「家族間の空気が悪い問題などは家族間ではどうする事も出来ず、外部の人間が加わって初めて良い空気に変わる事がある」という点でした。
実際本当にそういうもので、「家族間だけだともうダメ、悪い方向にしか転がらない」という事ってかなりあって。
そんな時に外部から来た人間が善性の塊でどうにか家族の問題が解決する…というのが「家族のリアリティ」を高めていたと思いました。
序盤で他者の視点の感覚によって印象の悪かった笑楽が本人の視点で全く嫌味無く善良な子で株を上げ、プレイヤーの印象を覆した構成は本当に天晴。
とあるキャラクター視点の時に出てくる人物の名前が、別の視点になった時に別の立場で同じ名前が出てきたり。
そういう細やかさがとても良く。
短編のなかでかなり濃い誕生日の一日を見る事が出来ました。
人間の心理の変化や「見えているもの、見たいもの、見たくないもの」がしっかりと見え、まさにあらすじにある「知れるものと知らざるものとがあり、その間に知ることの扉がある。」通りのとても作りが丁寧な群像劇でした。