ひっそりと群生

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【月に寄りそう乙女の作法】感想

【男性向け18禁】



2012年10月26日発売
Navel』※リンク先公式HP(18禁)
月に寄りそう乙女の作法】(PC)(18禁) ※リンク先wiki
以下ネタバレ含めての感想です。








10作に一個は名作と呼ばれている作品を挟んでプレイしないと心が死ぬと学びました。
というわけで、この感想がいつ投稿されるかは分かりませんが、2022年の50作目は「月に寄りそう乙女の作法」に。


プレイ時間は約25時間30分くらい。
7でも起動可能、初回認証ディスク必要、ディスクレス起動可。
初回版はファンディスクである「乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-」に同梱のアペンドディスクを当てると主人公のフルボイス化とアペンドシナリオが追加されますが、現在は「月に寄りそう乙女の作法 -FullVoice Edition-」がある為、初回特典のCDなどを求めていない場合はそちらをご購入が良いかと思います。


個人的に文章の読みやすさは、
湊=瑞穂>ユーシェ=ルナ>走馬灯>>>共通
キャラの好みは、
ユーシェ>ルナ=湊>>>瑞穂
各シナリオの展開、構成の好みは、
ルナ>>>ユーシェ>>>>>瑞穂>>>湊
という感じでした。


つまり、ルナ様に捧ぐルナ様の為のルナ様ゲー。
同じように名家の子息、息女として生まれながらその出自から家族から疎まれ禁忌の子として扱われ、世間から隔離して育てられた孤独な二人が服飾を通じて出会い、デザインの才能と服を形作る才能にそれぞれ惹かれ合い、主従として寄り添い、交流を深め、互いの人間性に惹かれ合い結ばれるお話。
女装男子モノですが主人公である朝日(遊星)が家事万能で大和撫子を絵に描いたような性格でメイドで従側でどこまでも女性的でしとやかな性格であり守られる側の対象で、そしてヒロイン側であるルナが気高い精神が強く美しく、主人公を立場からも金銭からも養う主側でどこまでも逞しく守る側の存在で。
肉体的男女の精神的百合という珍しい形を成し、騎士系ヒロインと姫系主人公モノの極地を貫いた完成型の作品だったと思います。


完成型として成功したからこそ有名作として存在し、現在も根強い人気を誇るのもとても分かります。
分かるのですが…個人的には理解はしつつも自分が同じように楽しめたか?と言われたらちょっと楽しめなかった部分が多かったかな…というのが本音でした。
まず、全体的にもですが共通で特に強く感じたのが下ネタの多用。
イラストから感じる雰囲気やタイトルに「乙女」とあり、お嬢様系の作品だと認識していたので、もう少し品が良くお話が回るのかな?と思っていたのですが、思った以上に下ネタが多く。
作風や世界観は美しいのに各場所で主人公では無くお嬢様方の方から展開される下ネタに面食らう所がありました。
エロゲに品位を求めるのもどうかと思いつつも、もう少し下ネタを抑えて頂きたかったです…
単純に作品内のギャグが肌に合わない事も有り、所々での「美ネタ」や「サーシャの名前弄りネタ」も自分のギャグセンスとは合わず、展開される度に始終スン…となっていましたし、それに合わさりギャグが合わない中下ネタギャグも繰り広げられるので、シンプルにギャグが合わない+下ネタも合わないで日常会話で苦しめられました。


あとは上記でも書いた通り、今作が完全なルナ様ゲーだった事。
ルナのルートだけならそれはもう満点、いや、満点越えとも言えるほどの作品の軸である服飾と主従と家柄を全て解決した素晴らしいルートである事は間違いないのですが、他ヒロインとの話の出来との落差が激しすぎて。
ギリ張り合えるのは服飾を軸に回っていたユーシェルートくらいで、他の2人のルートがあまりにも天と地ほどの差がありました。
それくらいにルナルートの出来が良く、明らかに正史として作られ、そういう部分にスタッフからの圧倒的贔屓を感じ…
自分は捻くれたオタクなのでそういう制作側からの特定のヒロイン贔屓を感じるとちょっと萎えるというか、逆張りして「制作側が推すヒロインなんぞ好きになってたまるか!!」という反骨精神が湧くんですよ、捻くれてるので。
これがまだルートロックがかかっていて、ルナルートはラストのような作りだったら「ラストルート固定だし、ラストのヒロインを贔屓してもおかしくないかな~」となるのですが、今作はルートロックがかかっておらず。
こんなの、初手でルナルート攻略したら他ルートやる気起きないし、途中でダレるに決まってるじゃないですか!!
ルナルート初手でプレイしたら他ルート、ほぼ「無」ですよ!
ルナルートがあまりにも作品内全ての集大成過ぎて、他ルートはよっぽど他ヒロインが好きじゃないとやってられないと思います!!
それくらいの差を感じたので、絶対にルナルートラスト固定で、ルートロックをかけるべきでした。
個人的には「湊→瑞穂→ユーシェ→ルナ」でロックがかかってたら構成として納得出来たと思います。
捻くれ心が爆発して、他ヒロインがシナリオの構成上あまりにも哀れに感じたので、せめてルートロックがあった上で贔屓してて欲しかったです。


次に、今作が異性愛志向なのか同性愛志向なのか、どっちかが分からなくなった所。
作中で遊星を元から知っている湊と男嫌いの瑞穂を除き、ユーシェとルナは「貴方が貴方であれば良い」に行き着くのと、瑞穂が女の子である朝日にキャッキャするのと、サーシャが語る美意識の件もあり、恐らく「美しさの前に性別は関係無い」というのが主題の一つにあったとは思います。
「朝日だろうが遊星であろうがその人がその人であれば関係ない」これが軸の一つにあり、そこが今作の人気を多く獲得したのでしょう。
今作は女性ファンの方が多く見受けられるのですが、そういう「性別は関係無い」「朝日が一番可愛い」みたいな部分も人気の一つだろうなと。
ですが、それはそれとして「性別は関係無い」を貫くにしてはちょっと作中で同性愛に対しての思想が「不健全」として描写される事があまりにも多く。
「朝日が男だろうが女だろうが関係無い」を描きながら作品内での性愛が語られる時に何度も「同性は不健全」の思想が多々出てくるので、「どっちを目指してるんだろう?」と困惑した部分がありました。
特定のキャラが「同性は良くない」という思想を持っていて、それを数回語るとかなら分かるのですが、結構頻繁に色々な場所や色々なキャラから「同性はねぇ…」というような思想が語られる為、「肉体的男女で精神的百合を描きながら同性愛は否定される世界観」がお出しされるので、「これはたまたま朝日が遊星だったから許容されたけど、ガチで女性だったらどうなっていたのか…」という気持ちになり。
精神的百合っぽく描いているのにその百合が許容されない世界で、肉体は異性だったから結ばれる事が許容される世界とか…今作は精神的な百合要素が都合良く使われ、(百合過激派の方が本作をプレイするかは不明ですが)百合が好きな人からしたら結構発狂モノの世界観になってるなぁと思ったのと、そういう部分が一種の同性愛が排他的というか異性愛至上主義に見えた為、肉体的性別と精神的性別が都合良く使われてるな…と感じた箇所があったりしました。
一応、瑞穂は男性よりも女性が好きな描写があるので完全に異性愛だけの一辺倒では無いのですが、それを語るにしてもルナルートが優遇されている上、正史も正史に見えるルナルートでその方向性が顕著なので「正史でお出しされるとどうしてもそれが正しさにも繋がるので…」と唸った所がありました。
男性向け作品の女装モノで何言ってんだ感はありますが、そういう「周りからの同性同士の恋愛の批判」というのは同性同士で壁として立ち上がるからこそ効果があると思うのに、実は肉体的には男女で、そういう周りからの壁はあって無いような物として描かれるなら、壁なんて最初から無い方がマシだなと感じ。
「周りから非難されても私達は私達の愛を貫く」というのを描く為に周りからの非難があるなら確かに二人が愛を貫けば「強い純愛だなぁ」と思うので、周りからの非難もそれはそれで有りだとは思いますが、最終到達地点が異性同士なので周りからの同性愛に対しての非難というのは無になるんですよね。
「周りから同性愛を非難されたけれど、私達は異性でした、だから非難の声は無くなりました、めでたしめでたし」…って「(おそらく)性別は関係無い」が軸にあるように感じられる作品でされると、ある意味で凄く残酷童話じゃないですか?なんとなくエグさを感じた所がありました。
形作られている世界観がかなりホワッとしていて優しい世界観だったので、敵になる衣遠や一部のクラスメイト以外には特にそこを触れられる事無くおおらかに許容される世界観であって欲しかった所があり。
自分は上記で語ったような下ネタ要素やそういう同性だから…と非難される展開をこの世界観で見たくなかったというのが本音でした。


あとはこれ、どこでも語られてますが朝日(遊星)があまりにも「女性」だった所。
これが上記で書いた「精神的百合」に繋がるのですが、遊星君、あまりにも「男」じゃないんですよ…
女装モノで自分が求めている好みの一つに「主人公は女装はするけれども、内面は男性である」というのを求めている為、どうもそこが合わず。
数々の展開で主人公が「守られるヒロイン」の立ち位置になり、「男」の部分で解決する要素がそれこそ「異性だから結婚出来る」という要素でしか発揮されない為、自分が男性主人公に求めている展開や解決策とは全く違うものになって居ました。
一応女装モノは商業だと感想は書いてないのですがPS2版の「乙女はお姉さまに恋してる」、同人だと「シアワセ☆クインテット」「女装お嬢様への異常な愛情」をプレイした事があるのですが、どれも「女装への葛藤」「女装バレのドキドキ」「男性としての思考」があったのに対し、遊星君はどれも無く。
「女装への葛藤」は「嫌だよ~」みたいに言いつつも心で本気の抵抗は全く無いので体裁だけの拒否になってますし、「女装バレのドキドキ」も一緒の風呂に入ってもバレない上に、女性の下着を見ても勃ちもしないという。
下着を見ても勃たないのはギリ服飾家としてのプライドが先行して性を感じなかったと納得出来ますが、エロシーンになるまで一切男性の性の部分が無い為、「男性が女装する」という女装モノというよりも精神面は女性の男の娘モノになっていました。
そこが上記で語った「精神的百合」に当てはまる所です。
精神的百合をしながら同性愛が非難される描写がある中で実は異性愛をしてるからエグい…なんとなくエグい。
ただ、まぁ、遊星君は「そういう性格」であり、きっとそれ以上でもそれ以下でもない、とも思うので、彼の性格やスタンスにこだわる自分もまた性別に振り回されてるなぁとは思うのですが…ですが…
結局、シンプルに言ってしまえば自分の癖の話で「男性主人公モノは女装してようがなんだろうが男性の思想や漢気を持ってる主人公が好き!!」という事に辿り着きます。
乙女はお姉さまに恋してる」での1ルートで主人公が自分の家柄を使い、「僕が君を嫁に貰い君の家から自由にする!!」というルートがあったのですが、たとえ昭和と言われようが、「貴女の人生を貰い受ける!!」というような展開が好きなので、ルナルートで「僕が君の家に入り自分の家から自由になる」という展開に、「ヒロインとは…?」となった所がありました。
まぁそこが主従モノで騎士系ヒロインと姫系主人公モノの極地であり、本作の人気の部分だろうなーと思う反面、自分はやっぱり「エロゲの男性主人公には男、もとい、漢で居て欲しい!!」と思ってるみたいです。
百合モノなら良いのですが、個人の癖や嗜好として男女カプはやっぱり「男」と「女」で居て欲しいですし、そっちの方が個人的な癖に刺さるなと思いました。


あと、おそらく、全年齢化を前提に作られている(と思う)為、エロシーンの流れにノルマを感じた所が有り。
エロシーン前にシーンが必ず途切れる為、日常とエロが繋がってる描写が好き派としてはエロにノリ切れなかったのと、エロ無しでも十分に行けるので「逆にエロは要らなかったな…」となった部分がありました。
エロシーンで良さを感じたのはエロでの文章が面白く遊星verと朝日verでシチュエーションが変わるルナルートと、単純にエロでの文章が面白かったユーシェルートくらいかも。
流れるようなエロシーンで無いなら話さえ変わらなければ別に全年齢でも構わないという方は移植版の方が肌に合うと思います。


自分の好みから外れる部分はありましたが、本作が女装モノエロゲでも今まであまり無かった「主人公の性自認が男性でありながらも最も女性の思考を持つ女装モノのエロゲー」として一つの完成型を作り上げた事は間違い無いです。
その上で服飾やお嬢様学校というような優雅でありながらもそれに縛られるお家柄が描かれ、新しい女装モノの局面を見せながら「今まで孤独だった似たような境遇の者同士が出会い惹かれ合う」という普遍的であり純粋に面白い物語で、新しさを古典で引っ張って行った物語だったと思います。


絵は鈴平さんと西又さんのNavelコンビ。
サーシャ以外の男性キャラデザと朝日のキャラデザが鈴平さんの為、エロシーンにおける絡みの絵がどうしても鈴平さんが圧勝している所がありました。
自分は男女の絡み絵が好きなので、そこはもう仕方ない。
担当のユーシェとルナもまたシナリオが良いので、今作は鈴平さんの印象が強いかと。
俺つばが西又さんなので、メーカー全体で見るとバランスが良いとは思います。
西又さんの方が色々と目立つ方なので知名度は高いですが、個人的に鈴平さんの絵が好みなのと、服飾に関してはその…これまた鈴平さんの方が好みなので、服飾ゲーとしても鈴平さんがユーシェとルナ担当で良かったなと思ってます。
ルナの白いドレスとユーシェの青いドレス、とても好きです。
でも、これ言うとアレですが、リアルのパリコレ、SNSで回って来る服があまりにも素人から見た印象かもしれませんが突拍子も無いデザインが多いので、「服飾とは…?」「ここを目指してるのか??」となってしまうリアルの印象との兼ね合いもありました…
ゲーム内のドレスは綺麗で好きです。


音関係は流石のNavel
OP、挿入歌、EDは個人的には曲調は普通ですが、歌詞は作品を表していたと思います。
作詞は西又さんらしく、西又さんは俺つばもですが作詞のセンスがある方だと思います。
BGMは「Philia X'mas Collection」「「ああ楽しかった!」」が好きです。
ピアノの軽やかさが素敵なのと、ここぞという時に流れるので印象深かったです。
声は「乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-」のアペンドを当てた為主人公含めてのフルボイス。
朝日(遊星)役の月乃さんはその…お名前は本作のみですが、一応本作以外でも2作品ほどお聞きしています。
朝日時と遊星時の演じ分けが巧みなのと、素になってツッコミをする時の演技がとても好きでした。
演技がお上手なのと、エロシーンで少年声の女性声優のエロシーン演技をお聞き出来たのでフルボイスにしてて良かったです。
ルナ役の卯衣さんは見た目に囚われず変に声の高い演技をされてないのが本当に最高に最高で…
見た目だと「声高そう…」となったのですが、話すとハスキー寄りの気取っていない格好良いお声を話し方であまりにも自分好みの声質で驚きました。
可愛らしい見た目から出るハスキーボイス、最高…
「館の主人」の風格に相応しい話し方と格好良くも可愛らしいという絶妙なバランスの声質が素晴らしく、初聞きの方でしたが印象に残る声質でした。
ユーシェ役の五行さんは、流石です、こういうプライドの高いキャラの演技が上手い。
オーッホホホ笑いと間違った日本語ですが、「ですわ」口調が合いすぎです。
プライドが高く、でもとても繊細で、そういうキャラ演技が抜群に上手い方で安定感がありました。
瑞穂役の星咲さんは初聞きですが品のあるお声が凄い。
黒髪ロングにこれほどまでに合うのかというお声でした。
和、黒髪ロング、雅、声質から上品さが溢れていて、本当に素敵でした。
湊役の森谷さんはこういうたまに「だぜ」系口調が出る明るいキャラが似合う似合う。
森谷さんの演じる見た目可愛いけどたまに雑な話し方になる女性キャラが好きなので、今回モロにピッタリのお役柄で適材適所、欲しい演技が聞けた満足感がありました。
もっと「だぜ、だぜ」言って欲しい方です。
他のサブキャラで印象深かったのはやっぱり衣遠役の鳩万さんでしょうか。
「終わる世界とバースデイ」の陶也役でお聞きしていましたが、自分が知ったのが某アニメの「ぬかしおる」キャラだったので、こういうエセ貴族風(衣遠はエセでは無いですが…)の威圧感のある話し方が似合う声質だなと。
作中でどの場面でも常に後ろに存在感を発揮する人ですが、一言で周りを黙らせるような声の張り方で権力者の風格を見せ付けてくれました。
…それにしても衣遠の「才能至上主義であり才があれば妾の子供でも主人公を大蔵と認められるのに才が無いと判断したから大蔵と認められず弟として接する事が出来ない(でも本当は一番兄弟を求めていて弟として接したい)」みたいなクソ面倒臭い感情、男性向けゲームの中でもかなり上位の「理解されにくいけど理解した瞬間にヤバい」と分かる、俗に言う「クソデカ感情」なので、打ちのめされた女性ファン多いだろうなと思いました。
衣遠アペンドシナリオもヤバさの塊ですし、おそらく遊星が女性だったら冗談抜きで才の無い遊星を側に置く為なら男女として関係結んでそうですし…
行き過ぎた執着で一種のキモさを孕んだクソデカ感情はプレイヤーをドン引きと同時に一部の腐ったプレイヤーを虜にした事だろうと思います。
兄様や、精神的に独り立ちしないといけない一番の人物は貴方でっせ…となりました。



プレイ順は
湊→瑞穂→ユーシェ→ルナ
の順で攻略


柳ケ瀬湊 ルート』
主人公の幼馴染で幼少期から主人公に惚れている…というエロゲ的には美味しい要素を持ちつつも本作の構成的に報われないポジションでとても不憫なキャラ。
何が問題かって服飾を中心に回る物語で服飾がフェードアウトする所。
服飾がフェードアウトする上に湊は女装の件を知ってる為、女装モノでも服飾モノでも無い単なる恋愛モノになってしまい。
後半は「それって本作のコンセプトや世界観でする事か?」という展開のオンパレードになるので、クリア後完全に印象が薄い…どころか話を忘れているという。
湊というキャラ自体はとても真っ直ぐで一途で良い子なので落ち度は何もないのですが、いかんせんシナリオ、話の展開が良く無さ過ぎました。
せめて全ヒロイン「12月の衣装は完成させる」という流れは同列で展開して欲しかったです。
他がお嬢様ヒロインなのに対し、彼女だけ成り上がり企業のお嬢様でプレイヤーと感性が近いのは彼女になるのでもう少し「洋服を作る」「庶民的な感性」という点で上手く話が回せそうなのに、それが全く発揮されないのが本当に不憫でした。


『花之宮瑞穂 ルート』
彼女もまた不憫というか…彼女の「男性嫌い」の特性上、「あ、これは主人公が男という件でひと悶着あるな」というのが予想付けられる上、本当に思った通りに進むという展開。
「女装モノにおける男性嫌いのヒロイン」は女装モノとして鉄板なので有りなのと王道展開は大好きなので、その流れに行ってもなんらおかしくはないのですが、彼女に関してはユーシェの付き人のサーシャにはさほど怯える事は無いのに遊星には怯える為、「いや、サーシャ居たじゃん!!」となってしまったのがネックかと。
サーシャが完全に女性に性転換して女性として生きてる人間なら納得なのですが、スイスでは女性戸籍でいくらサーシャが自分の美にしか興味がないとはとはいえ日常会話で私服は男性寄りだしカツラはかぶってるし、所々で男性的(下手したら遊星よりも男前)なサーシャが居る中で実はめちゃくちゃ女性らしい朝日が遊星と言う名の男性でした!となったとしてあそこまで拒否するのか?という感覚になったんですよね。
瑞穂ルートだけなら「恋愛的に好きになった相手だし、朝日から嘘を吐かれてた事そのものが許せないんだろうなぁ」と思えますが、どのルートでも凄まじいほどの拒絶をするので、他のヒロインよりもどことなく印象が良くないヒロインになってしまっていた所がありました。
瑞穂からすればショックなのは理解しつつ、やっぱり女装だと分かってても「関係無い、好き」となってくれるヒロインに惹かれるのは仕方ないです。
「人間はは自分を好きな人が好きだ」じゃないですが、それと同じ傾向になるのは仕方ない。
話の展開も、後半は瑞穂との拗れの方が優先され、服飾がオマケ扱いになっていたのが服飾モノとしては印象が薄くなりがち。
というか、悪くは無いのですが、ルナとユーシェの話の展開が良すぎて影に隠れる形になっており、これまた彼女も不憫さがあったヒロインでした。


『ユルシュール・フルール・ジャンメール ルート』
天才のルナと秀才のユーシェの戦い。
服飾でのデザインセンスの競争という中で、コンセプトがめちゃくちゃに良かったルート。
ユーシェの負けず嫌いで実は努力家で優雅に泳ぐ水の中で必死に足をバタつかせてる姿が見れるルート。
自分は凡才どころかそれ以下なので、秀才で努力家の彼女の足元にすら及ばない存在ですが、やっぱり「秀才が天才に立ち向かう姿の話」というのは大好きなので、「単純に自分の好みの展開はどれか?」と聞かれたらユーシェルートだと答えます。
傲慢で天才型に見えて実は努力家で一番現実が見えていて天才の強さと恐ろしさに震えながらも立ち向かっていくキャラクター、嫌いな人居ます?居ないと思います!!
ユーシェはそういう創作モノの作品でのプレイヤーが一番共感出来る美味しい役回りだなーとつくづく思います。
数々の場面でルナの才能に打ちのめされ負け続けた彼女が最後の最後で主人公と共にルナに打ち勝つ!
「愛で勝利する!」というある意味で陳腐である意味で王道で、でもだからこそプレイヤーである自分の心に響く話の展開でした。
彼女のルートは彼女の「水の中で足掻く姿」を明かされる代わりに女装を明かし、秘密を明かし合う所からスタートで、「驚きはしたけど別に性別は関係無い」というのが序盤から展開し、「女装モノにおけるヒロインとの性別でのゴタゴタ」を序盤から無くし、後半か完全に服飾に専念していた所がサッパリと分かりやすくストレスフリーな流れだったと思います。
「創作における凡人の苦悩」という創作モノで見たかったものをしっかりと見せ付けてくれる、素晴らしいルートでした。


『桜小路ルナ ルート』
名家の生まれではありながら妾の子で表舞台からは捨て去られた主人公と、名家の生まれではありながら先天的な外見(アルビノ)により外界から隔離されたヒロインが服飾を通じて出会い、主従として過ごしながらデザインと洋服作り、それぞれの天賦の才能で手を取り合い、結ばれ、才能によって世界とそして世間に認められ、やがて生まれた家にも認められる…なんたる王道、なんたる正史。
正史も正史、制作陣からも、そしてユーザーからも圧倒的に納得される正当な史実の物語でした。
他のルートでは一つの服を作るだけで四苦八苦しましたが、このルートでは序盤から主人公の前に君臨していた兄の衣遠が審査員の立ち位置で敵対するだけでなく、ルナのデザインそのものを盗作するという服飾自体を阻害し、正しく「悪」として「敵」として行動を起こし、それを主人公がルナの為にデザインし作り上げていたドレスで打ち勝つという。
他のヒロインルートでは湊ルート以外での衣遠との戦いは「12月のショーで入賞し衣遠に認められる」というEDを迎えますが、デザインしたのはヒロインの力であり主人公とヒロインで認められる流れの中、ルナルートでは主人公がデザインし、主人公が作り上げた服で衣遠に認められるという流れの為、「敵として君臨した衣遠に主人公の力のみで完全勝利をしヒロインの雪辱をも果たす」という「主人公が完膚無きまでに敵を倒す」というスッキリした物語として仕上がっており、唯一、「衣遠に認められる」のでは無く「衣遠に勝つ」ルートとして別格の位置を築いていたと思います。
主従の関係も素晴らしく、途中、遊星の正体が明らかになっても「関係無い」と豪語するルナは「これこそが女装モノで見たかったヒロインの反応」を地で行きますし、数々の場面で「意地悪で孤高で妥協を許さず、でも本当は優しく慈悲深く全てを許そうとしてくれる人の上に立つ完璧な主」としての姿を見せ付けてくれる為、プレイヤーは間違いなくルナ様に心酔しますし、朝日と同じように「ありがとうございます、お優しいルナ様」とルナに跪きたくなると思います。
エロシーンもルナにのみ女性攻めの描写があり、そこもまた女装モノとして、主従モノとしてプレイヤーはメロメロになるかと。
愛ある女性上位の女性攻めの挿入無しプレイ大好きな人にはたまらないシーンが目白押しだと思いました。
とにかく引くポイントが全く無く、主従女装メイドモノとして、一緒に服を作る共同創作モノとして、そして家柄によるお家問題モノとしても完璧を掻っ攫ったルートではあるのですが、問題があるとするなら、「完璧過ぎた事」かと。
ルナルートがSSS(トリプルS級)過ぎるが故に、他のルートが霞むのがヒロインを横一列で攻略出来るタイプのゲームとしては贔屓が過ぎます!!
「月に寄りそう乙女の作法」というタイトルがモロに「月(ルナ)に寄りそう乙女(朝日)の作法」である以上、「タイトルから分かってるでしょ?」と言われればそれまでですが(と、言いつつ「月(遊星)に寄りそう乙女(ヒロイン)の作法」というダブルミーニングもあるとは思ってますが…)、それでも、それでも、マジでルナルートをプレイすれば「他ヒロインどうでもいいや」になるくらいにシナリオレベルの差が有ります。
拙者、「ルートロックがかかってない上で制作陣からの特定のヒロイン贔屓が見えると萎える侍」なので…制作陣の意気込みやシナリオの素晴らしさは理解しつつも、やっぱりルートロック無しで他ヒロインが霞むのはどうなのよ?とはなりました。
その点以外ではルナルートでの欠点はほぼ無しです。
大蔵家の問題も綺麗に解決しますし…これが制作陣の望んだ美しい〆なのだろうなと思いました。



今作に心酔した他のプレイヤーのように「ルナ様ー」と言いたいのは山々ですが、自分は「制作陣からの愛」や「その世界からの愛」を受けていないキャラに惹かれる傾向があるので、個人的な好みは明らかにユーシェでした。
ひたむきで、天才に見せた努力家で、足掻いて藻掻く、そんなキャラが嫌いになんてなれなくて…
そんなキャラが「制作陣からの愛」含めて二番手なのがどうしても苦しくて…
だからこそルナルートの構成や展開を評価しつつも、そういう「作中での秀才で必死に努力するユーシェが天才のルナには勝てない」という状況がゲームの構成や制作陣からの愛、プレイヤーからの愛すらもルナに及ばないというリアルの状況に降りかかる状態が形作られるのがどうしても腑に落ちなかった所がありました。
「ユーシェ好き過ぎでは?」と言われたらそれまでですが、自分は凡人であるが故に凡人の努力を評価したい側なので仕方無いです。
ただ、これでユーシェが湊側の「普通の家」の出だったら家柄からも生まれの裕福さの差を見せ付けられ「やはり生まれも才か…」と更に沈んだのですが、ユーシェは本当に貴族のままでルナの方が家は没落した上で自身の株の才能や商才によって資産を手に入れ自分で家を捨て這い上がったからこそ、ルナにさほど悪い感情が向かないような作りになっているのには上手いなと思いました。
そういうキャラクターの境遇を少し変える事で印象を変えてくる手腕は本当に上手く、素晴らしい作品であるのは間違い無いのですが、同時に、全力で「ルナ様ー!!」と言えるほど制作陣の思惑に乗っ取った楽しみ方が出来なかった為、「素晴らしいけれども自分には合わなかった」そんな作品に落ち着きました。
名作ではある、けれど、「制作陣の思い通りに感情が左右されるものか!!」という謎の反骨精神を抱くような作品でした。



※ゲームの攻略で検索される方がいらっしゃるみたいなので参考にさせて頂いた攻略サイト様を失礼します。
参考攻略サイト様:誠也の部屋 様
https://seiya-saiga.com/
 月に寄りそう乙女の作法 ページ
https://seiya-saiga.com/game/navel/tsukioto.html