ひっそりと群生

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【冬は幻の鏡】感想

【男性向け18禁】



2003年08月17日発売
半端マニアソフト』様 ※リンク先公式HP
冬は幻の鏡】(PC)(18禁) ※リンク先公式(18禁)
以下感想です。








7人による7日間の幽霊騒ぎ。



『真っ白な雪に包まれた世界にもし鏡が落ちていたとして、
 さわらずに、自分を写さずに、その鏡を見つけることができる?
 もし、できるならその方法をおしえて。
 たしかめたいことがあるの。

 北海道の東側にある野別市の野別市立南陽高校では、四年前からある噂が流れていた。
 それは、四階の女子トイレに交通事故で死んだ留学生の幽霊が出るというものだった。
 留学生の幽霊、というのが珍しいと言えば珍しいが、どこの学校にもあるような噂の一つでしかない、とみんなが思っていた。

 北海道の長い冬がやっと終わりに近づいた三月の終わり。
 冬の最後のあがきのように、朝から大粒の雪がゆっくりと降っていた日の放課後、
 御堂道明は廃屋を隠れ家にしている登校拒否児の長池小月の頭を撫でていた。
 和泉和歌奈は友人の立花鈴夫と一緒に幽霊を探しに夜の校舎に忍びこむ準備をしていた。
 田之上小太郎は風俗の割引チケットを持って風俗店「フェランス革命」の前に立っていた。
 それぞれが、これから出会うことを知らずに。

 今は静かに眠っている虚ろな存在の浸食に、彼らはまだ気づいていない。
 ゆっくりと回転しながら沈んでいく、誰かの夢をまだ知らない。
 七人の主人公たちが織りなす、冬の終わりの、七つで一つの物語。』
(公式より引用)



プレイ時間は約17時間45分くらい。
分岐有り。


南陽高校に出没するようになった幽霊。
幽霊の関係者であった女性と接点を持った小太郎、幽霊の世界そのものと関わりを得てしまった道明、幽霊を否定する為に幽霊に関わって行く和歌奈。
南陽高校放送部の3人は知らず知らずの内に幽霊の世界とその世界で戦う者達の組織の管轄に足を踏み入れていく。
自身の居る世界、自身の知っている事、自身の常識、そして…相手への印象。
境遇の違い、立場の違いでそれぞれのキャラクターは全く違う側面を見せて行く。
これは、3人の視点から描かれる全く違う見え方をする7日間の物語。



『システム、演出』
NScripter製。
メッセージスピードがさほど変わらないのと、起動後のサークルロゴを即スキップ出来ないのが読む際に若干不便でしたが2003年の時代を考えると許容範囲ではありました。
OPがあったり、コンフィグ選択時などのUIはデザインが良かったりでセンスを感じました。


『音楽』
OPは静けさから始まり徐々にアップテンポになって行く所が冬の作風に合っていたと思います。
そして伊藤チョップというお名前ですがどう聞いてもRit…はい、すぐに分かる特徴的なお声をされています。
そういえば伺かとかもでしたね…途中で出てくる「ぱんださんほいくえん」といい、なんとなく時代を感じました。
曲は全曲オリジナルという2003年として見ると力の入り方が半端じゃ無いです。
どの曲も場面に合っていたり、どことなく音源が懐かしい感じがたまりませんでした。
「幻」「粉々」「鏡」が好きです。
ギャグパートでよく流れた「生き様」も作中のアホなノリを思い出しとてもテンションが上がります。


『絵』
絵はメインキャラとサブキャラでお二人が担当。
並ぶと絵柄が違う箇所がありましたが、同人なら有りの範囲。
一枚絵も重要なシーンや欲しい時に入ったので良かったです。
ただ、一部エロシーンで「ここも一枚絵が欲しいな…」と思ったシーンで入らなかったので、日常での一枚絵は大変良かったのですが、エロ方面では少しガッカリする箇所がありました。


『物語』
文章は一人称と三人称がいきなり変わるので、小説という意味での読みやすさで言うなら読みにくさがありました。
ですが、それぞれのキャラクターの性格や思考がしっかりと地の文で表現されているので、どういう行動理念で動いているかというのがとても分かりやすく。
そしてその理念があるからこその外の世界の見方、他者をどういう風に見ているか、他の人物にどういう印象を抱いているかがしっかりと伝わり、置かれた立場と性格と見えている世界が絡まり、とても多面的に7日間を見る事が出来ました。


『好みのポイント』
上記でも書きましたが、群像劇としての作り込みが非常に巧みでした。
世界全体で見ると幽霊を管理する組織があったり、管理する組織同士での派閥争いや異能力者達の戦いがあったりと広大な世界観ではあるのですが、主人公によっては全く幽霊とは無縁の世界に生きていたり。
それぞれの主人公にはそれぞれの生き方があって。
行動ではアホな事を起こしつつ心の内では思慮深かったり、楽しんでいるように明るく振る舞いながらも内面では苦悩があったり、冷静に見えて周りを全く見えていなかったり。
常識では全く考えられない現象に包まれた世界でありながらもそれに気付かず日常を謳歌したり、はたまた怪異に巻き込まれたり、「人は人の数だけ見えている世界がある」というのを体現したような物語でした。
正直、大きな世界で見ると気になる箇所や残っている謎はあり、若干の消化不良感はあるのですが、「南陽高校放送部の物語」はしっかりと幕を閉じるので、そこまでモヤモヤした終わり方にはなっていないと思います。





以下ネタバレ含めての感想です





今回は渡辺さんのシリアス商業作品に触れる前に同人時代の作品を触れておきたいと思いプレイ。
商業作では「ナツメグ」「姫さまっ、お手やわらかに!」に触れていましたが、商業とはまた違い同人らしい設定と勢いと、そして若さが溢れる作品で読んでいて非常に「同人ゲームをプレイしている!!」という気持ちにさせられました。
一人称と三人称が入り交じる文章表現など、色々と粗さは目立ちますが、それでも強いパッションを感じ。
冬、雪という世界観で白さと静謐さを纏いながらも中心には迸る熱さを感じる作品でした。


以下、ルートに対しての感想。



『田之上小太郎 ルート』
キャラクター的には初手推奨。
幽霊に触れられず、除霊を行う組織からは一番遠くにありながらも精神面は最も「物語の主人公」をしていたキャラクターでした。
幽霊とは戦えない、でも、自分の大事な人達は守りたいし皆には笑顔で居て欲しい。
明るくハチャメチャな事をやりながらも周りの空気はしっかりと感じっっており、自分がうつけ者をやる事で周りの空気を解せるのなら進んで馬鹿をやる。
幽霊が出てくる物語の中心ではないけれど、人の中心に立つのには相応しい、まさに部長!
そんなとてもヒロイックな若者。
年相応にエロが好きで年相応に友人が大事で年相応に平和な世界が好き…とても気持ちの良い若者でした。
常にテンションが高めであり、場の空気を掴む為に色々な事を考えているので地の文を読む際にはカロリーを消費しましたが、清々しさを一番感じたのは小太郎ルートです。
作中で幽霊の知り合いであり惚れ込む風俗嬢の早織にも、放送部に入部する後輩の仁科にも好意を寄せられ、道明にも圧倒的信頼を得て居ますが、見た目はデブでも小太郎に惚れるのは分かります。
全ての行動が善寄りで、男女問わず人間的に惚れるよなーと進めば進むほどに思うキャラでした。


『御堂道明 ルート』
平穏と怪異の狭間。
彼のルートからいきなり除霊を行う存在であるガイキシ(劾鬼士)とそれを束ねる組織、トボウシュウ(屠傍衆)が出てきたり、それと対立する派閥や幽霊関係での専門用語が頻発します。
学校の幽霊の一件から幽霊が見えるようになり、幽霊が見え殺す事に長けている特殊な血筋、ソウボウシ(双眸子)という存在である事を見いだされる道明。
出会い、大事な存在になった小月という少女が幽霊だと知り、ソウボウシの殺人衝動や性的衝動に耐えながらも小月を傷付けないように、トボウシュウである三原と関係を築いて行く。
小太郎が昔ながらの「正統派主人公」なら道明はダーク系主人公というか、厨ニ系主人公というか…現代ではよく見かける「覚醒系主人公」だと思います。
平穏な世界から一変して怪異の世界に巻き込まれ才能を開花させていく。
道明ルートだと殺人衝動や性衝動などの苦痛が強く描かれ、メンタルが常に薄氷の上に立っている状態に見えたのですが、「秋に至る径」での三原の過去を見るとかなり衝動を理性で抑え込めているタイプで、ソウボウシとして異様な程のポテンシャルがあるタイプというのが分かり、このルートだと目覚めたばかりの能力に苦悩して居ますが、作品全体を見ると「覚醒系主人公」としての才を見せつけられます。
この物語以降、ソウボウシに入るとは思うのですが…彼がどういうソウボウシになるのかはとても気になります。


『和泉和歌奈 ルート』
彼女もまた小太郎と同じく幽霊や怪異からは遠い存在。
ただし、小太郎と違うのは彼女は聡明ではなく愚かな側の人間である事です。
「自分はしっかりと考えている」と思いながらも浅慮な行動、常にどこか上から目線で見ている思考。
自分の手を汚さずに自分に好意を寄せる人間に責任を押し付ける強かさ。
どれもが意図的にでは無く無意識に行われる為、彼女の視点で読んでいるとその言動一つ一つにドン引きして行きます。
正直、プレイ中、和歌奈の視点では和歌奈の事を全く好きになれずストレスが溜まる一方でした。
けれど、今作が凄いのは群像劇であるからこそ、和歌奈の視点がわざと「愚か」に書かれているというのに気付ける事。
小太郎、道明と共に思慮深く描かれている為、和歌奈の浅慮さがわざと描かれている事に気付きますし、「秋に至る径」では仁科が和歌奈に対して彼女のそういう一面を小馬鹿にしている為、作者様に上手い具合にヘイト管理をされている事が伝わりました。
そして、怪異から遠く人間らしい「愚かさ」を持っているからこそ、怪異から近い人間からしたら「普通の人間」であり「平穏の象徴」として好意を寄せられていくという。
まさに、「馬鹿な子ほど可愛い」を地で行くキャラクターでした。
正直、和歌奈ルートでは思考にドン引きする一方で全く好きになれなかったのですが、「秋に至る径」にて仁科という怪異側から見た時に初めて和歌奈に惚れた鈴夫の気持ちが分かりました。
怪異に近付けば近付くほどに、彼女の「愚か」で、だからこそ「普通の人間性」に惹かれるのだろうな、と感じました。


『秋に至る径(仁科ゆう) ルート』
小太郎ルートでは無口で無表情な少女、道明ルートでは幽霊を殺し驚異を見せる謎多き存在、和歌奈ルートでは気に食わない印象から徐々に友情に変わっていく人物。
それぞれのルートで全く違う見え方をした少女であり、群像劇の醍醐味を見せつけてくれた仁科。
「秋に至る径」はそんな仁科が主人公であり、最終ルートになります。
各ルートで異彩を放つ言動を見せる三原とコンビを組み、トボウシュウが生み出した幽霊を殺す幽霊…ヒメオニ(秘鬼)と呼ばれる仁科。
そんな彼女が現代の7日間を辿りながら、過去の人間だった頃、三原がソウボウシになった学生時代を織り交ぜ、現代と過去を交差しながら進みます。
ヒメオニとして異端者として殺人欲に突き動かされるまま、性衝動に突き動かされるままに生きていれば問題のなかった彼女が、放送部の面々と関わる事で「人間」の頃の感情や感覚を取り戻してしまい、暖かさを知り迷い藻掻く物語。
ソウボウシである道明や道明の大事な小月には冷徹に接しつつ、日常側である小太郎や和歌奈を最初は小馬鹿にしつつも徐々にその何も知らない「愚か」な部分の中に純粋さを見出し惹かれて行く過程が丁寧に描かれていました。
三原との関係も、今はヒメオニとソウボウシの関係ではありますが、過去には仁科はガイキシであり人間であった頃があり。
幽霊を人為的に生み出せるカミビト(火水人)になった事で組織から危険視され、三原と逃亡を計りますが叶わず。
殺された後、組織の力によってヒメオニとして仁科のまま再び幽霊として生み出され…トボウシュウとして活動してきた彼らが放送部と触れ合う事で今度こそ逃げ出そうと誓う…という、最後は組織からの逃亡劇として幕を下ろす形で結末を迎えました。
小太郎と接する事で喜び、道明と小月の関係を見て幽霊と人との愛に嫉妬し怒り、和歌奈と共に友人の聡美の事件に哀しみ、放送部全員と触れ合う事で楽しさを知る。
全体を通すと今作は仁科が人間になっていく、戻っていく物語だったと思います。



放送部の物語として見れば完結はしているのですが、仁科と三原の物語として見ると、「この先は?」と気になる要素があり、「一つの事件は解決したが、全体を見ると未解決な部分が残っている」というようなエンディングではあったと思います。
小月も、誰が小月という幽霊を生み出したのか小月を生み出したカゲビト(影人)は誰なのか?
今後、道明はソウボウシとして生きていくと思われるがどう活動して行くのか?
トボウシュウと敵対しているツルギヤマ(剣山)のヒメオニである七菜との決着は?
三原と仁科はトボウシュウから逃げられるのか?再びまみえた際に決着を付けられるのか?
仁科をヒメオニとして生み出した木村という存在や名前が出てきたトボウシュウの南 牟礼(みなみむれ)、張元などの人物の所在。
などなど、世界全体で見ると気になる要素がかなりあります。
…が、よくよく考えると00年代の同人ゲームの有名作、「月姫」も世界設定は大きいけれど主人公達の話で見ると小さいというストーリーラインだった為、当時の流行りだったのかな?とも感じました。
一応、序盤の森の中での状況の真相や各視点での意味深な部分など、謎そのものは解決しているので今作がこれで終わりと区切っても問題はない作りだとは思います。
トボウシュウがある限り絶対のハッピーエンドと言い切れず、三原と仁科を手放しで見送れないという所が若干気にかかる部分であり。
他キャラに関しても道明は今後戦いの道を行くと思われるが小月と共に生きていられるのか?
和歌奈も鈴夫が幽霊として顕現した事を知らない為、絶対に安定の幸せは無いが大丈夫なのか?
などなど、小太郎以外が不安要素を抱えたまま爆弾を抱えたまま終わるので、その辺りは確かに気になりました。
あと、鈴夫は視点が無いので「僕は幽霊を殺せるんだ(キリッ」と出てきたかと思いきや、自分が幽霊を生み出す存在でありカゲビトやカミビトの事は知らないまま危険人物として仁科にあっさり殺されたのはちょっと情けないというか…ぶっちゃけ鈴夫視点も欲しかった所がありました。
勢いよく「幽霊を殺せる」「仁科さんよりも幽霊に詳しい」と言ったわりにはサクッと殺されるのはどうかと…


そういう色々と粗いと感じる箇所はありますが、多面的な見方で7日間を見ていく群像劇としては非常に出来が良く、南陽高校放送部の面々が面白おかしく好きだなーと素直に感じれるほどにキャラクターが魅力的な作品ではありました。
作中には登場しませんが小太郎から語られるOBの新田先輩、鉄パイプ先輩、大野先輩は気になりますね…破天荒時代の放送部も見てみたかったです。
とにかく作中からパッション、勢い、若さ、00年代の同人のノリをとても感じたので、懐古厨にはたまりませんでした。
渡辺さんの作品は商業などで触れていくとは思いますが、今回、同人時代の処女作をプレイでき、とても良かったです。



※ゲームの攻略で検索される方がいらっしゃるみたいなので参考にさせて頂いた攻略サイト様を失礼します。
参考攻略サイト様:ゲーム攻略委員会 様
http://www1.ttcn.ne.jp/~syuri/
 冬は幻の鏡 ページ
http://www1.ttcn.ne.jp/~syuri/huyumaborosi/huyumaborosi1.html