ひっそりと群生

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【世界を破壊する魔法】感想

【百合全年齢】



2021年08月21日配信
もっきゃりぺお』様 ※リンク先公式HP
世界を破壊する魔法】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








まともでふつうで、完璧な人間になるために…?
(そんなものに、なりたくない)



『暑さに張りつくセーラー服、すり切れた机、退屈な黒板消し。

 『ほら、ワンとでも鳴けよ』

 信じられるものが必要だった。

 『まわりを無視していられるのは、子供だけなんだ』

 教室、団地、夏祭り。

 『埋まってるの。ここに――』

 そうじゃなきゃ、息も出来ない。

 『世界を破壊する魔法が』


 夕暮鴉(ゆうぐれからす)は
 イマジナリーフレンドのフェアリーハートをある日突然失ってしまう。
 彼女は昔、団地の裏の雑木林に「世界を破壊する魔法を埋めた」と言っていた。
 夕暮をモーレツにいじめている朝野光(あさのひかる)と共に
 世界を破壊する魔法をさがす日々。
 そんなある日、クラスの人気者、
 平野蛟(ひらのみずち)が話しかけてきて……!?

 3人の少女による閉塞感のある百合ジュブナイルノベルゲームです。』
(公式より引用)



プレイ時間は約1時間15分くらい。
分岐有り、EDは2つ。


客観的に見ればイジメを受けている主人公の少女、鴉はそれでもイジメをして来る光という少女の「友達」を信じていた。
鴉をイジメながらも他人は奇行と感じている鴉のイマジナリーフレンドと話す姿を否定はせず、鴉のイマジナリーフレンドの存在は信じている光。
そして、鴉のイジメられている姿を見て鴉のイマジナリーフレンドは否定しながら鴉を助けようとして来る蛟。
三人の少女達の噛み合わない感覚とズレた行動はやがて鴉のイマジナリーフレンド、フェアリーハートが「世界を破壊する魔法」を埋めたという場所にまで辿り着く。
人間の感情と認識の違い、人間の行動の残虐さ、子供と大人の壁、そして性。
交わらない平行線を進む三人の少女が「世界を破壊する魔法」に辿り着くお話。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
立ち絵や一枚絵も素晴らしいのですが、所々で画面の中心だけに出てくるイラストがそのシーンをとても効果的にしていました。
立ち絵で話しているキャラだけにスポットが当たり、他のキャラは影絵になる所も読んでいて誰の台詞かが一目で分かり、良かったです。
分岐はラスト一箇所のみ、そこでセーブさえ取ればサクサク分岐出来ます。


『音楽』
繊細で可憐な曲が多く、どの曲も少女達の繊細さと可愛らしさと儚さと、そして横暴さや残酷さを盛り上げるとても良いBGMでした。
特に作中でオルゴールが流れるシーンが主人公の鴉の心が大きめに動く事が多いので印象的でした。
ED曲の歌唱曲もまたウィスパーボイスで囁かれるように歌う声が作中の少女達の存在にとても合っていました。


『絵』
等身が低く瞳が大きく手足が細く塗りが淡めで、お人形さんのように可愛らしい少女達。
「可愛い」が凝縮されたイラストですが、負の表現の時の絵のインパクトが凄まじかったです。
表情や動きから「醜さ」や「性」が溢れて来てプレイ中「う゛っ」となりました。
可愛い絵柄から溢れて来る醜と性のギャップが凄まじく、それがクセになりそうでした。


『物語』
認識の違い、感覚の違い、強者と弱者、許容と拒絶、残虐性。
人間の負の部分をダイレクトに描きながら、「世界」からはみ出た二人を描き、二人の立場が徐々に変化していく流れと心理描写が秀逸でした。
なぜ強者と弱者になるのか、なぜ許容出来る人と出来ない人に分かれるのか、他者のどこに拒絶するのか。
そんな人間の言語化が難しい感情が三人の少女の立場から丁寧に描かれていて。
イマジナリーフレンドの妖精が語った「世界を破壊する魔法」を探すという、とてもファンタジックな内容ではありますが、ファンタジーの外装をギッチリと人間の感情で硬め、ファンタジーで落ち着かせない、終わらせない世界観がありました。
絵柄や空気感などが幻想を感じさせつつも、感情や人間の行動は生々しく、そのギャップが独自の世界を築き上げていたと思います。


『好みのポイント』
外側から見れば負の選択でありつつも、「世界」から外れてしまっているから負になるしかなかった。
そんな二人の少女達が見つける、辿り着く選択、「世界を破壊する方法」は刺さる人にはかなり刺さると思います。
「こんなクソな世界、無くなってしまえ」「世界からズレてしまって、世界から受け入れて貰えなくて、だから二人で壊そうよ」そんな百合、オタクはみんな大好き!!(暴論)
「お互い相反、反発しているけれど、世界から見たら二人しか居ない」そんな孤独な二人が手に入れる「破壊された世界」は世間では間違いではありつつも二人にとっては唯一の、これしか無い正しい答えで…そういう歪さに美しさを感じました。





以下ネタバレ含めての感想です





イマジナリーフレンドの居る夕暮鴉。
彼女はイマジナリーフレンドであるフェアリーハートと家の中以外、教室だろうとどこだろうと会話をする為、他人から見れば「おかしな子」として扱われていました。
クラスメイトの朝野光からは「フェアリーハートと話すのをやめろ、気持ち悪い」とノートなどの所有物に被害を受けながらも光の「友達」という言葉は真っ直ぐに受け、客観的に見ればイジメと判断される行為を「友達のする事」と受け入れいて…
確かに光の行動は客観的に見ればイジメですが、光は鴉自身の事は気持ち悪いと攻撃しても、フェアリーハートの事を否定はせず。
光は鴉を相容れない存在として攻撃しても、決して鴉の世界そのものを拒絶しませんでした。
そしてなにより、光は大人達が平然と行う「嘘を吐く」と事は全くしませんでした。
嫌いなものは攻撃する、でも、存在そのものを否定はしない、そして嘘を吐かない。
光のそんなブレなさに鴉は惹かれていて、だからこそ「友達」に嬉しくも感じていて。
そういう外側から見ればイジメでも、本人が納得している、本人からしたら嫌な事は確かにあるけれど、相手に憧憬を感じているからこそ許容しているという人間心理の描き方がとにかく上手く。
鴉は光だったからこそ、自分の世界そのものを否定しなかったからこそ光の「友達」を受け入れていたんですよね。
フェアリーハートが居なくなってもフェアリーハートを否定せず、一緒に「世界を破壊する魔法」を探してくれた光。
妖精の国から来たと言った光。
鴉の世界を受け入れてくれた光。
だからこそ光の「妖精の国から来た」という言葉が嘘だと知った時、鴉は光を拒絶します。
それは、その嘘の内容そのものよりも「光が嘘を吐いた」事そのものが許せなかったから。
「絶対に嘘は吐かないと思っていた光が大人と同じ嘘を吐いた」から。
その拒絶により二人はイジメという繋がりすら無くなり断絶の道に進みます。


鴉と光のイジメが無くなった時、現れたのは蛟という少女。
彼女は「光のイジメが辛かったよね?」と寄り添いながらも鴉の世界は否定し、鴉のイマジナリーフレンドに対しては「キチガイ」と言ます。
蛟は鴉を労る行動を取りながら、「鴉はおかしいんだよ?マトモにならなきゃ」と友達として寄り添いながら鴉の世界の全てを否定して来ます。
ハタから見れば「友人」に見える関係を築いてくる蛟、けれど鴉自身は蛟に「友人」を感じる事が出来ないまま、カーストトップの蛟に淡々と従います。
この時の蛟の「可愛そうな子を助けている私、偉いでしょ」という弱者を労るフリをしながら自分の善性を周りに見せ付けて周りの好感度を上げようとする姿勢が本当に気持ち悪くて気持ち悪くて。
光もまた蛟側からしたら弱者で。
昔は蛟と光は友人でありながらも蛟の好きな人を光が取ったらしく、そこで断絶が起きており、蛟は光を敵視しており。
光もまたそういう「人の彼氏を取った」という部分や「家が良くなく援交をしている」などの噂から弱者側で。
そういう弱者描き方と、強者の描き方、女子カーストの描き方が上手過ぎで寒イボが出ました。


蛟は光に対抗する為と、そして周りからの「イジメられていた子を助けた、優しくて偉い」の地位が欲しく鴉に寄って行きますが、鴉の世界を完全否定しており、鴉の地雷を丁寧に一つ一つ踏み抜いて行く姿が本当に凄い。
全部の行動が一つずつ鴉の「触れられて欲しくない部分」に的確に触れており、プレイヤーは気持ち悪さを感じます。
光は確かにイジメをしていたとは思いますが、鴉の地雷を踏む事は決して無く。
ここが光と蛟の決定的な違いだと感じました。
鴉が苦手がっている、大人になりたくない部分に的確に入り込み、鴉の世界を壊し、大人の性を見せ付けていく蛟。
光と一緒に探していた「世界を破壊する魔法」が埋まっている場所に純粋に魔法を探す為では無く、妖精の世界を否定し、馬鹿にしながら「光が探しているから、馬鹿にしたい」という理由だけで神聖だった「世界を破壊する魔法」を探していた「二人の場所」に踏み込む姿。
そしてそこから始まる今度は蛟から鴉へのカースト上位から下位への扱い…「友達」の中で行われる光とはまた違う性を使ったイジメ。
光からのイジメはまだ光の性格同様直接的であり、どこかお互いに「羨ましさ」があった上で行われるイジメだったのに対し、蛟からのイジメは本当に上位の物が下位の存在を甚振る為だけに行われ、相手が大事にしている世界そのものを侵食し破壊する、まさに尊厳凌辱で…
フェアリーハートの件に踏み込まれ、「フェアリーハートなんて居ない」とイマジナリーフレンドをジワジワと否定され、最終的にイマジナリーフレンドは「昔住んでいた場所に居て失踪してしまった小さな頃の友人」であった真実に気付き、完全にフェアリーハートを失った鴉。
どんどん自分の世界が失われる事を感じた鴉は本当に「世界を破壊したい」と願い、フェアリーハートの真実を知っても尚、「世界を破壊する魔法」を求めます。
「世界を破壊する魔法」を埋めたとフェアリーハートが言っていた場所に光は居て、再び一緒に穴を掘るも、今度は蛟とその仲間がやって来て…
「二人の神聖な場所」を汚していく姿は鴉から見たら本当に悪魔的で。
もうこれ以上ない尊厳凌辱で震えました。


最後の結末は…社会的に見れば「間違い」ではありますが、フィクションとしてはコレ以上無いほどの爽快感。
こういう爽快感を得る為にフィクション作品をプレイしているので、最後、「世界を破壊する魔法」がある場所を蛟が穢し始めたあたりで「殺れ!!鴉!!もうやったれ!!!」と全力で応援していた声に鴉が応えるかのように蛟に振り下ろされたシャベルにガッツポーズ。
ただ、同時に、目撃者が居る以上、鴉と光の社会的な「世界」は確実に「破壊」されたので…
ED選択肢が出るのですが、二人寄り添って完全に「世界」から逃亡する「死」のEDと、擬似的に世界から逃げ出す(でもきっと、現代では捕まってしまう)、「逃亡そして逮捕」のEDに分かれており。
二人の結末がこの二つなのにはとても納得。
「妖精の国」が無い以上、「現実の世界」で生きるしか無いんですよね…
これにより「妖精の国がある世界」は完全に無くなり、鴉の「世界」が「破壊」され、図らずも魔法が手に入ってしまう流れが辛くともとても現実的で好きでした。


光もまた独白からおそらく「家庭環境が劣悪」であり「彼氏に暴力を受けている」少女で。
彼女は鴉に対しての受け入れられ無さと嫌悪感がありイジメを行っていますが、根底には「イマジナリーフレンドを信じていて絶対にブレない世界があり羨ましい」「何があっても周りを気にせず、興味が無く、自分の世界の中で生きている凄さ」に対して一種の畏怖と羨ましさがあった上でイジメを行っていたというのがこれもまた人間心理の描き方が上手く。
だからこそ鴉自身はイジメても鴉の「世界」への拒絶や非難は無かったのだな…と納得。
この、鴉も光もお互い嫌な所があり苦手にしている部分がありながらも、お互いの自分の持っていない部分に対して憧れているという部分が、関係性萌え持ちにバッチバチに刺さりました。
光はかなり劣悪な環境下にいる為、鴉の「世界を破壊する魔法」が「絶対にある」と信じている訳ではありませんが、あるのならそれに縋りたいくらいに「世界」を嫌っています。
「イジメて居る相手が絵空事のような物を一緒に探す」という不思議なシチュエーションですが、光の立場と光の鴉への想いが分かると一気に納得出来。
「世界を壊せるなら壊したいし、なにより、鴉と同じ様に世界を見てみたい」と思っている部分が、光の鴉への憧憬を感じさせました。
最後には尊厳凌辱を受け、限界値を超えた鴉と共に蛟を殺す選択を取りますが…光はここでようやく鴉に対して「あんたは他人に興味が無いんだよ」という、暴言でありながらもどこか羨ましさを含んでいた言葉と同じ立ち位置になれたと思っています。
殺人はある意味で究極の他人の無視なので。
「他人に興味が無いから自分の世界に引きこもっていてそれが気持ち悪い」と同時に「他人に興味が無く自分を貫いている姿が羨ましい」と思っていた光。
最後にようやく鴉の羨ましさに近付けたのかなーと。


蛟はおそらくプレイヤーのヘイトを一気に溜め込むキャラではありますが、作中で断片的に語られる情報から光に好きな人を奪われた事で光への友情が反転し、嫌悪しています。
彼女の心情も察しはしますが、だからと言って行うイジメ行為があまりにも度を超えていて庇護出来ない面が大きく。
光も確かにイジメを行っていましたが、光との違いは蛟は確実に相手の地雷を踏み抜いて踏み躙っている点にあります。
光は絶妙に鴉の地雷を回避していたのに対し、蛟は全く回避し切れておらず、そこはプレイヤーから見たら超絶に許せないキャラクターになっていたなと。
要は根底に鴉から蛟へは憧れや羨ましいなど好意のポイントが全く無いんですよね…クラスのカースト上位ではありますがそういうのに対して鴉は別に羨ましさを感じてはいませんし、蛟の交友関係を見ても憧れても特にいませんし。
「好印象を特に持っていない相手から地雷を踏み抜かれる」それはもう、ギルティ案件になります。
怒りに触れてしまった蛟は殺されるという悲惨な結末を迎えますが、おそらくプレイヤーの大半からもガッツポーズをキめられている事から本当に不憫な子だなとも同情。
ただ、蛟と光が友人だった頃、本当に友人だったのは間違いないとは思っていて。
クリア後のおまけのCG鑑賞モードで作中で登場しない「光と蛟の仲が良かった頃」のようなイラストがありますが、それを見ても嘘には見えず。
そしておそらく、光の「付き合っている」という相手が蛟が好きだった人と変わらず同じ人だった場合、その相手は光に暴力を奮っている事になり…
蛟からの「好きな人を奪った」という話の中で光は言葉を濁しますが、おそらく光は相手の本質を知り、蛟を守る為に自分の身を売る形で付き合っているのでは無いか?とは思っています。
光、歪んだ形で受け入れた相手には歪んだ行為で寄って行きますが、正しい形で受け入れた相手には真っ直ぐに守りそうなので…
そして蛟は真っ直ぐに「あの人はダメ」と言って聞き入れるタイプでは無い事が作中からヒシヒシと感じるので…
そういう解釈で進むと、蛟は「周りが見えて居ない子」になります。
交友関係は広くて中心に居るけれど周りの意見を聞き入れず敵とみなした人には容赦の無い人。
カースト上位によく見かけます…そしてそういう人は「完全な悪」では無く、「自分の中の悪意」を自覚していないタイプなので余計にタチが悪いという。
善意を持っていた時にはきっと光とは本当に友達関係だったのだろうと思うと苦しいものを感じます。
ただ、鴉に関しては一貫して下に見ており、「頭のおかしい子」「キチガイ」として鴉を矯正する為、「おかしな子にでも平等に接してる私、優しい」のスタンスで来る為、例え光と善良な関係の時期があったとしても、鴉視点から見ているプレイヤーからは全く良い印象を貰える事は無くて。
ラストは人道には反しつつも、「これだけ地雷を完璧に踏み抜いてたら、そりゃこうなる」という納得感しか無い結末を迎えた子でした。


鴉と光は蛟の「世界(物理)」を壊し、「世界(現実)」に追われ、蛟は鴉と光の「世界(幻想)」を壊し、「世界(生命)」を失う。
三者三様の感覚と感情と「世界」が見え、人間の複雑な心象が丁寧に丁寧に描かれた物語でした。
正直鴉のイマジナリーフレンドに関しては、作中で年齢が出ないので(多分出なかったと思う…)分からないのですが、中学でしたら許容範囲ですが、高校だとかなり厳しい為、外側からみたら自分も攻撃はしなくても「かなり厳しい子」だと感じると思いましたし、光の「友達」を受け入れたり、蛟に対して最後の最後まで絶対に反抗しない姿に一種の恐ろしさ、不気味さがやっぱりあって。
彼女達の心情を理解は出来るし理解させられる文章力がある、けれど「もし自分だった場合」には三人の行動全てに納得は出来ないのと、他者を物理的にあそこまで傷付ける行動を起こせる事自体は分からない。
そんな感覚になりました。
「独自の世界を形成し生きている人間の思想を理解させる文章力がある」そんな作品で。
「気持ち悪いものは気持ち悪いままでも良い、でも物理的に攻撃をし、相手の「世界」には踏み込んではいけない」そんな、「当たり前だけれど、とても難しい事」を突き付けて来る作品でした。


ところで、イマジナリーフレンドの元になった幼少期の鴉の友人は本当にあの空き地に埋まっているのでしょうか?
あの子だけ明確には語られないので行方不明の詳細は分からないままですが…
もしかしたら本当に埋まってるかもしれませんね、なにせ"行方不明"なので。