ひっそりと群生

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【高対称のi】感想

【女性主人公全年齢】



2021年05月20日配信
冬至』様
高対称のi】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








居ても良いと差し伸べられる手。
数も形も、何もかも飛び越えて!



『「いっけなーい!遅刻遅刻!!」

 「わたし」はこの春、喜華学(きかがく)学園に入学する新入生。数学も勉強もちょっと苦手な普通の女子高生です。
 学園シミュレーションゲーム、としていますが教育ゲームの気持ちでやったくらいが面白いかもしれません。
 新しい友達や先輩と知り合い、自分とは違うベクトルの生徒たちと初めての出会いを重ね、内面でコンプレックスを抱えつつも本当の自分と向き合うことになります。

 ○高換°(こうかんど)を上げてキャラクターと親密になろう!
 なんだかんだで出会った高対称の生徒たちと会話を重ねて仲良くなっていくノベルゲームです。
 たまに選択肢が出ますが、どちらを選んでも上がる高換°は同じなので、リラックスして選んでね。』
(公式より引用)



プレイ時間は約1時間くらい。
分岐有り、EDは3つ。
主人公の性別がタイトル画面のイラストからおそらく女性で、攻略キャラクターの性別は不明ですが、話し方や対応などが男性的なので、ジャンルの方向性としては乙女ゲームに近いものになっています。


主人公(名前変更可能)が高校の入学式、嘘偽り無く文字通り丸の形をした生徒会長の「まる」、三角の形をした先輩の「さんかく」、四角の形をした同級生の「しかく」と出会う所からスタート。
出会うキャラクターの9割が数学用語関連の姿と名前の世界、そんな独自の世界の中、主人公はまる、さんかく、しかくと交流を重ねて行きます。
その形をしているからこその悩み、所々で語られる数学知識、そして主人公が隠している一つの事。
数の世界と形の世界。
可愛い外見ながらも魅力的なキャラクター達。
このゲームが終わった頃にはほんの少しでも数学が好きになっている…かも?
作者様の数学愛を感じる一作でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
セーブロード、スキップ、メッセージウィンドウ一時消去のみ有り。
音量調整はPCでの操作のみでメッセージ速度が変えられなかった所は若干使い辛かったです。
EDは3つですが、最後の選択肢でのみ分岐。
途中の選択肢は数学知識の説明が変わるのみになります。
個人的にはどの数学用語説明も面白かったので全選択肢の選択推奨。
まる会長ED手前で選択肢が出ますが、上の選択肢を選ぶとスタッフロール前で止まるので気を付けて下さい。
まる会長ED手前の選択肢はどちらを選んでもEDに影響は無いです。


『音楽』
よく聞く日常や学園モノのBGM選曲でした。
ただ、世界観が世界観なので「普通の日常曲」を聞きながら独自の世界観で進むギャップが面白かったです。


『絵』
可愛い、とにかく可愛い。
主人公が一応タイトル画面で確認できる容姿が女子生徒で、作中で人間の容姿を持っているのが彼女と一箇所のみ出てくる先生の2名のみ。
他のキャラクターは記号的容姿に顔が付いた姿で描かれており、見た目は絵本のキャラクターのように可愛いです。
ただ、その容姿がただの記号になっておらず、しっかりと物語に、そして数学的に絡み合っていて、ただのネタゲーで終わって居なかった所に作者様の手腕を感じました。
「教育系の本に出てくるキャラクター」のような容姿が「数学ゲー」の内容とベストマッチしていたと思います。


『物語』
公式の説明文で「教育ゲームの気持ちでやったくらいが面白いかもしれません」とあり数学の知識が頻繁に出てくる作品なので「教育ゲーム」の側面も確かに強くありますが、キャラクター攻略ゲー(乙女ゲー)としても非常にときめかせて頂きました。
一つ一つの会話がとにかく良い。
しっかりと数学用語の説明を行いながら、各キャラクターがその形だからこそ持っているアイデンティティとそれに付属するコンプレックスを主人公に語り、交流によって解決して心を癒やして行く流れが本当にスムーズで。
その見た目の形の数学的な説明を聞いた後、彼らの悩みを聞くと「確かにその数学としての前提があると間違いなく辛い事だなぁ」と納得出来た上で主人公が形に囚われずキャラクター達を受け入れて行くので、相手の高換°(こうかんど)が上がって行くのもとても納得。
感情の流れの描き方が丁寧でそれぞれのキャラクターが見た目だけでなく性格からもキャラが立っているので、見た目はまんま丸、三角、四角に顔が付いただけで、まるでア◯パ◯マン世界のキャラクターのような姿をしているのに進んでいくと「格好良い…」「素敵…」と思えてくるから凄いです。
ア◯パ◯マンや食◯ンマン、カ◯ー◯ンマンも見た目の姿は幼児向けですが戦ってる姿や振る舞いを見ていると「イケメン…」と感じる事が多々ありますが、同じような気持ちを味わっていました。
読者に可愛い姿をしていても「格好良い」と感じさせる事そのものがラストで語られる物語のコンセプトにもしっかりと繋がっていたので、流れや作りがとても上手いと感じました。


『好みのポイント』
自分は数学が高校前半で止まってしまったほどに数学分からない&苦手意識を持っていたのですが、今作は会話の中でスムーズに話とキャラの属性を交えながら数学知識を盛り込み、世界観と絡め説明が行われ、「数学の広い世界の全部を理解出来たとは言わないけれど、分かる部分もあったし何より面白かった」と言えるくらいには数学が少しでも好きになれたような気がし、「嫌いor苦手な人間の拒否反応を少しだけでも改善出来るパワーがある」と言えるほどには物語の面白さで引っ張っていった作品でした。
やっぱり勉学というものは「面白さ」が大前提にある事で初めて「受け入れたい」と思えるのだな…と。
とにかく作者様からの「数学を好きになって欲しい!!」という熱い気持ちを感じ、その想いを「受け止めたい!」と思えるほどに素晴らしい内容でした。
一点だけ心残りがあるとするなら、出来る事なら作中の主人公同様、高校入ったすぐくらいにプレイしたかったです。
「高校」である事にとても意味がありましたし、リアルタイムでプレイしていたら当時の自分は苦手&嫌いな数学が少しでも好きになれただろうなと思いました。





以下ネタバレ含めての感想です





虚数、それは「実数ではない数」「想像上の数」。
主人公が一日の終わり、帰り道で色々と不安や不穏な考えをしており、何らかの「隠し事」をしているので何かあると思っていましたが…
あらすじの「自分とは違うベクトルの生徒たち」は…なるほど、そう来たかと。
虚数、「存在するものとして扱われるけど、実際には居ない存在」であり、それが主人公だったという真実には中々に熱いものが。
タイトル画面でも確認出来ますが、ヘアピンが「二乗」で、それを付ける事で一応存在出来ていたという、まさかのタイトル画面での見た目の小物も回収されてビックリ。
だからどこか自信が無く、でも周りの人物に対して憧れを抱いて居たのかと。


まる会長は品行方正であり他の生徒からも憧れの的ではあるが、「丸、円というのはどこまで行っても本当に美しい丸には成れない」として完璧では無く。
さんかく先輩はどこまでもロックで棘がありそうに見えながらも面倒見が良く、悩める主人公に直球で向き合ってくれて。
しかくは静かに見えながらも話好きで、四文字熟語を多用する独特さを持ちながらも主人公との会話を楽しんで優しく接してくれて。
攻略キャラ全員がとにかくイイ男(?)なんですよ!
自分は乙女ゲーで出てくるヤンデレ要素や介護要素が必要な男キャラが苦手なのですが、そういう要素のキャラが居らず。
主人公が悩んでいたら励ましてくれるし、悩みに主人公が応えたら素直に受け取って自分の力に変えてくれるし。
もう、とにかく全員イイ男!!
そして主人公からしたら、「実数」の存在であり形がある時点で本当に本当に羨ましさや憧れの存在で…
主人公も真っ直ぐに各キャラクターの良い所を言ってくれるので、「こんなに真っ直ぐに向き合ったら惹かれ合う」というのが手に取るように分かるという。


最後、各ルートで虚数という事を打ち明けるのですが、それに伴う回答の出し方も、丸だからこそ、三角だからこそ、四角だからこそ、その形だからこそ、虚数と関われるという数式をしっかりと持ち出して来て、「主人公が虚数である事と、攻略キャラが形だからこそに意味がある」という結末にした所にただただ脱帽。
しかも「高校からその数式が出る」という点も持ち出し、作品舞台が高校である事にも意味付けられていて。
主人公は作中しきりに「形じゃないです、お話が楽しくて内面が好き」という事を言いますが、その流れがしっかりとラスト主人公にも向いていて。
「形が無くても、貴女が好き」という結末に結び付いた流れは美しくて美しくて。
更に上記で語った「記号に顔が付いており幼児教育系のキャラクターの見た目」の上でそういう「物語や性格があるからこそ出るカッコ良さ」を出し、「姿は関係無い」に結び付いて行ったのが所もまた…上手いと唸るばかり。


高換°(こうかんど)も、キャラと接すると必ず上がるのですが、なぜ好感度では無く高換°(こうかんど)なのだろうと思っていましたが、数学用語で「可換」とは「演算や操作の順序を入れ換えても結果が同じになること」なんですね。
つまり、「換」を可して数字(好感度)が高くなっても同じ結末に辿り着く=説明書きにある「どちらを選んでも上がる高換°は同じ」に繋がるのかなと。
そして、数字が必ず上がり、主人公と同じ位置まで「釣り合う」のかなと。
数学ダメダメではあるのでこの解釈が合っているかは分かりませんが、「主人公がどう足掻いても幸せになる」というのは虚数の主人公の事を考えるとロマンチックだと思いました。
というかそもそも、オタクは「本来存在しない存在を存在させる為に頑張る!」みたいな展開が大好きなんですよ!!(暴論)
主人公を存在させる為に自分の持っているアイデンティティを使うとか最高じゃないですか!!
最後の結末の流れ、それぞれのキャラクターに違う数式があり、そして違うアプローチで主人公の虚数と繋がれる、虚数に居場所をくれるというのがロマンチックの塊でした。
「高対称のi」のタイトル回収が綺麗過ぎます。
まるは最終高換°(こうかんど)が12、さんかくは最終高換°(こうかんど)が7、しかくは最終高換°(こうかんど)が7なのには何か意味があるのでしょうか…?
ここまで数学を盛り込むのでこの数字には何らかの意味がありそう。
数学がもっと出来たらもっと楽しめただろうなーと強く思いました。


紹介文に「教育ゲームの気持ちでやったくらいが面白いかもしれません」とあり、「ガッチガチの数学で来るかな?」と構えていましたが、確かに数学要素は強いのですが、作品がガッチガチどころか、今までガッチガチだったこちらの頭の方を解してくれるくらいに物語の面白さで勝負をしてくる話でした。
恋愛ゲーム(乙女ゲーム)としてもドキドキさせて頂き、キャラの関係性も良く、コンセプトの「どんな姿形でも関係無い」というのも忘れずに回収され。
「姿が無くても、居場所が無いように感じても、居ても良いんだよ」そんな暖かさも感じ、どこか許されたような気持ちにもなりました。
最後の最後まで全く隙の無い作品でした、プレイできて良かったです、有難うございます!





あと、さり気にネット上で「三角関数」が色々と話題になっていた時期だったのでタイムリーでした。
無いと絶対に生きられない訳ではないけれど、あったら世界が広がる、そんな数学の良さも今作で感じ取れました。