ひっそりと群生

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【バウンドケーキでまたお茶を】感想

【男性主人公全年齢】



2021年08月21日配信
『あめ玉工房』様
バウンドケーキでまたお茶を】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








異世界に行って犬耳少女にお世話されたい!!



『房総で猫を追いかける使命感に囚われた川上駿(しゅん)は、いつの間にか気を失ってしまう。目を覚ますと目の前には蒼梨花(アリカ)と名乗る犬耳の少女がいた。
 犬耳猫耳が当たり前、だけど凄く技術の進んだ異世界「にゃんわんわーるど」に飛ばされたと知る駿は、どこか元の世界を思いつつ、アリカとこの世界に馴染んでいく。』
(公式より引用)



プレイ時間は約2時間45分くらい。
分岐有り、EDは2つ。


現在、異世界モノは「転生」が主流になっていますが、そんな中で「転生」ではなく「召喚」のような扱いで異世界に飛ばされる異世界作品。
異世界とは言いつつも言語や文化はほぼ現代日本と変わらない為、異文化でのストレスは全く無く。
更には技術は現代技術よりもかなり進化しており、どうしても必要な物は「女神様」にお祈りをし貢物をする事でほぼ手に入るという。
そんな夢のような世界で可愛い犬耳少女に拾われ、衣食住をお世話される…本当に理想を絵に描いたような幸せストーリー。
犬耳少女、アリカと平凡な日常を緩やかに過ごして行きます。
現実世界ではどこか居場所が無いと思っていた主人公は果たして異世界「にゃんわんわーるど」で居場所を得る事が出来るのか?
優しく、暖かく、でもどこかホームシックになるような…そんなほのぼの異世界ライフ。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
ティラノなので画面サイズを独自に変える事が出来るのですが、基本の大きさが1280×720で会話以外のモノローグが全画面文字表示になり、全画面文字表示の際は画面の端まで使い文字が表示されるので、読む時に若干目を動かす距離が長く大変でした。
もう少し端の部分に余白があっても良かったと思いました。
ノローグが全画面文字表示、会話がウィンドウメッセージと分けられている点は差分化されていて分かりやすく良かったです。
アリカの立ち絵が遠くに行ったら小さくなったり、道の向こうに立っていたり、距離関係での立ち絵の使い方、動かし方がとても上手だと感じました。


『音楽』
オリジナル楽曲らしく、クリア後に音楽鑑賞モードがあります、有り難い。
どの曲ものどかで、草原をバイクで駆け抜けるような爽やかさがあり作風にピッタリでした。
主人公のメンタルが弱っている時には若干不穏な曲も合っていて。
明るい曲も暗めの曲も良かったです。
特に「日常と違和感」「確かな想い」「二輪は行くよどこまでも」「僕のこけた猿楽町」「breaktime」が好きです。
曲を聞きながら海や田んぼなどがある場所を旅したくなりました。


『絵』
女性キャラのみ立ち絵有り。
もう一人の女性キャラの寧子も可愛いのですが、アリカがとにかく可愛く、制服やパジャマなど様々な姿を見せてくれます。
表情も豊かで、特にジト目が好きです。
ただ、ポーズが一つのみなので、そこは少し残念でした。
活発に動く子だったので、もっとポーズのバリエーションがあれば良いなと思いました。


『物語』
時々独特な表現が出た時がありその際に読みにくさがありましたが、その点以外はサラサラと読めました。
異世界モノではありますが、「敵が出る」「世界の真相を暴く」など込み入った事にはならず、とにかくアリカとの穏やかな日々を過ごす事になります。
その中で自分の事を見つめたり、元の世界の居場所の無さを思い出したり。
この世界の暖かさを感じたり、アリカの優しさに惹かれて行ったり、そして、居心地が良すぎるからこその居心地の悪さも感じたり。
異世界で緩やかに暮らしながら、主人公のメンタルに触れていく」そんな作風でした。
アリカが本当に可愛くて可愛くて…
彼女の可愛さ明るさおおらかさに見ていて幸せを感じました。


『好みのポイント』
アリカと一緒の学校に通い、アリカが部長を務める「当世地理」部という異世界の地理を調べる部に入り、アリカと一緒に主人公と共に異世界に送られたバイクで住んでいる場所の周囲の土地を回るのですが、その際に語られるバイクの知識がとても豊富で。
作者の方のバイクが好きな熱い気持ちが伝わって来ました。
自動車やバイクなどは完全に専門外で内容は分からない事が多かったのですが、作者の方のパッションが伝わるのがとても好きなので読んでいて専門チキの理解の難易度は高くても「好き!」を感じ心地良かったです。
バイクで平原を駆け抜けたい!旅をしたい!そう思える程にプレイ中とても開放的な気持ちになりました。





以下ネタバレ含めての感想です





現実世界にどこか行き場のない主人公が異世界で自分の居場所や立ち位置を見出す異世界モノ。
主人公の居場所が無く憤る気持ちや居心地が良い場所で「自分なんかがここに居ても良いのだろうか…」と思い悩んだりする負の感情の描き方がとにかく上手く、「どこに居ればいいのか分からない」そんな風に思った事がある人にはとても心に来る描写が多かったと思います。
異世界「にゃんわんわーるど」はとにかく優しく、アリカもとても優しく。
優しい世界に包まれながら悩み、そしてどこか許されていくような、そんな作風が心地良く爽やかでした。


ただ、数点思った所もあり。
一つは異世界「にゃんわんわーるど」の地理を調べる「当世地理」という部活に入りながらも「世界の謎」などは解明されず、女神様の存在も分からず。
現実世界とリンクしそうな土地などは出てきますが、明確に謎が明かされる事は無いため、「世界の謎」を知りたいタイプの人にとってはモヤモヤが残ると思った点。
アリカ達の犬耳猫耳の謎も明かされないので、「なんか受け入れてくれる不思議な世界に飛ばされた」という事だけしか世界の事が分からなかったのが心残りでした。


もう一つはタイトルの「バウンドケーキ」要素が若干薄めに感じた所。
もっと作中で「バウンドケーキ」の要素が絡んで欲しかったのですが、数カ所でしか出て来ない為、印象が薄めでした。


あとは主人公が若干デリカシーが無いなと感じた部分。
異世界に飛ばされ右も左も分からない状態でアリカが衣食住全部面倒を見てくれて優しく優しく受け入れてくれるのですが、主人公、かなりの頻度でアリカを異性として意識する描写が多くて…
いや、分かります、これだけ可愛い女の子が傍に居たら意識するのも分かります。
ただ、意識の仕方があまりにも性的の方面に偏り過ぎて居たというか、これがエロゲなら結構納得なのですが、ほのぼの同居ゲーとして見るとちょっと過剰だった印象。
衣食住整えてくれた事への感謝の感情よりもそういう方面で意識する描写が多い為、「いや、もう少し、感謝の気持ちの方を強く持った方が…」と思ってしまいました。
異世界に来る人は皆良い人だから」と受け入れられますが、あまりにも主人公が下心満載過ぎて女の子一人の家に置くにはちょっと危機感を感じた部分があったり。
老人心として「大丈夫か???」という気持ちが先行しました。
一緒に暮らしている時にアリカの「当世地理」の探索を付き合うのは良いのですが、それ以外での家事を手伝うという描写も無いので一緒に生活する上でちょっとモヤッともしたり。
まぁ、技術が発達してるので掃除洗濯料理などしなくても良い世界かもですが、それでも「一緒に生活する上での心得」みたいなのを語るターンも欲しいとは思いました。

主人公の所々出るネガティブ思考も物語の主題だとは思いつつも、気になる人はとことん合わなそうですし、そういう主人公に対し、アリカは本当に理想を絵に描いたような女の子で。
そんな素敵な女の子が何故か片方のEDでは主人公に惚れるので、ちょっと置いてけぼり感があったり。
プレイヤーから見たら主人公が若干デリカシー無くネガティブ思考なので、「どこに惚れたんだろう…」とちょっと思ったり。
異世界から来た異端な存在に吊り橋効果で惚れた」という感じに見えて、アリカに対して「ちょっと待って!!」と言いたくなりました。
好きになるのに周りは関係無いとは分かりつつも、主人公の良さがあまり見えない為、そしてアリカが良い子で素敵な子の為、違和感を抱いてしまって。
正直「家族になる」なら納得出来たのですが、「恋愛に落ち着く」という点に自分が納得出来なかった所がありました。


同時に、主人公のそういうネガティブな部分こそが現実世界での「生き辛さ」に繋がってるのだろうなーとも思ったり。
主人公に全く非が無い上で周りの対応が悪く「居場所が無い」となっているというよりも、そういうデリカシーの少なさネガティブさを周りが察知して距離を置いているのかも…とも思い、主人公の性格と現実での立ち位置のリアルが絶妙な采配に感じていました。
そういう人でも「にゃんわんわーるど」は受け入れてくれるという事なんだとも思うので、「どんな人でも受け入れてくれる世界」の優しさはしっかりと出ていました。


EDが2種類ありますが、異世界に残りアリカと結ばれる物語的なハッピーエンドと、現実に戻り現実世界で地に足を付け生きて行くEDで綺麗に分かれていて、上記の「主人公が常に自分の居場所に悩み続けている」という件もあり良い分け方だなと感じました。
ED的にトゥルーエンドは「異世界移住」でノーマルエンドは「現実送還」だと思うのですが、個人的に「現実送還ED」が好みです。
異世界移住ED」だとアリカに甘えに甘えて主人公の良さが分からないままに恋愛EDを迎えたのに対し、「現実送還ED」は物悲しさもありますが、「それでも戻ったのならこの世界で頑張って生きていこう!」みたいな「選択した事での前向きさ」がどことなくあり、個人的にこちらの方に主人公の成長を感じ。
「優しい異世界に包まれて明るく楽しく生きていく!」が本筋ではあると思いつつ、やっぱり「現実と向き合う」みたいなのが好きな自分としては「現実送還ED」が好みド直球でした。


「優しい世界で優しさに包まれながら生きていく」「それでも不安は付き纏うし優しいからこそ出てくる焦りもある」そんな世界の優しさと主人公の負の感情の描写がとても上手いと感じ。
そして、優しいだけだと甘ったるくなりそうで、でも負の感情だけだと苦くなりそうで。
そんな、どちらかに転ぶと読み辛くなりそうな物語を「バイクでツーリングする」という旅的要素で爽やかに纏め、甘ったるさや苦さを綺麗に包み込んでいた一作でした。