【男性向け18禁】
2013年01月25日発売
『ぱじゃまソフト(解散)』
【夏の終わりのニルヴァーナ】(PC)(18禁) ※リンク先wiki
以下ネタバレ含めての感想です。
名作と呼ばれている作品をプレイしたいと思い開始。
この感想がいつ投稿されるかは分かりませんが、2023年より10年前、2013年の作品「夏の終わりのニルヴァーナ」をプレイしました。
プレイ時間は約13時間くらい。
7でもインストール、起動可。
ディスク、初回起動時必要。
今作は一応事前に信頼している方のご感想で「共通ルートのギャグがつまらないけど、個別に入ったら化ける」という事前情報だけは得ていました。
そのご感想の通り、共通ルートと個別に入って序盤のギャグ…特に下ネタ関係はビックリするくらい面白くなかったです。
下ネタやラッキースケベ嫌いじゃないですが、00年代半ばの作品なのに、下ネタのノリが00年代前半なんですよね…
ちょっとこの時代にプレイするには苦しいノリで、共通でのワイワイガヤガヤでのおスケベシーンは始終渋い顔になってました。
特に結構ヒロインたちが主人公に対してワガママ放題するので、主人公も傲慢や奔放ではありますがかなり尻に敷かれまくり、その辺りにイラッとする事もあるかなーと(まぁ、このワガママさに関しては「人間は我儘である」という主題にも当てはまるので納得は一応出来ますが…)。
一応共通にもいくつか「これは重要な部分では?」となる箇所があるので、そういう部分は気付きやすく良かったのですが、前半は下ネタとヒロイン達の振り回しっぷりは苦痛でした。
が、しかし、個別ルートに入るとあら不思議、前情報の通りにめちゃくちゃに面白くなって良い意味でビックリ。
各ヒロインの過去が明らかになったり、その過去の問題と向き合うシーンや過去を乗り越えるシーンなどは王道で。
全力で、捻り無く、真っ直ぐに「生きろ!!」という主張を突き付けて来て、その揺るぎなさ、ブレの無さにどのルートでも心の琴線を震わされました。
本作はタイトルや序盤から分かりやすく仏教が下地になっているのですが、「生きる事は苦しむ事である」「いつか極楽へ行く為に苦しみながらも生きる」「人の縁」「輪廻転生」など、重要だと思われる要素が作品にしっかりと反映されており、仏教の事が詳しくなくても分かりやすい説明と仏教を学んで居なくても日本人ならなんとなく知っている仏教要素で物語を引っ張ってくれていたので、置いて行かれる事が全く無く、後半はずっと楽しむ事が出来ました。
特に最終ルート固定の久遠ルートでは「輪廻転生」の部分が主題になっていて、輪廻転生モノ大好きなのでその要素だけで「おっ!!」と前のめりになったのに、下地に仏教要素がある事で唐突な転生モノにならず、「仏教モチーフだし転生要素は入りますよね…」という納得感を持たせていました。
転生モノ好きなのですが、舞台が西洋とかで転生モノがあるとどうしても「宗教観…」となってしまうところがあるので、その違和感が綺麗に払拭されていてお見事!
和尚の件も、歴史に詳しく無いので過去の物語として読み進めましたが、調べたら実在の人物なので、この辺りの歴史に詳しいと「ここをそういう解釈で描くか…」など別の視点で楽しめる要素になっていたのでは?と思います。
更には主人公が人間の上位存在とはいえ、今まで裁く側で、ある種の傲慢さが見えていてちょっと不公平感があったのですが、最後には「主人公にも罪が有り、それを受け入れなければならない、裁かなければならない」という、ちゃんと主人公にも罪と罰の矛先が向いたので隙が無い構成でした。
各ヒロインの縁や死への因果もしっかりと前世編で語られとても納得出来…こういう「縁で集められた」という状況はその「縁」の書き方が薄ければ薄いほどプレイヤーとしては「縁うっす!!」となってシラケるのですが、今作は前世編を描き、現世での邂逅を描き、積み重ねがとても丁寧に描かれていたので、メインキャラ同士の「縁」がとても強固に感じられて、「この縁なら現世でまた巡り会う」というのにとても頷ける関係性だったと思います。
自分は捻くれ者なので、こういう「実は生きていて現世での過去を紐解きもう一度生を歩ませる」というような話に対して過去がイイ話で描かれると「たまたま周りに良い人が居ただけじゃん、悪い人ばかりで現世に戻ってもロクな事無い過去だったらどうするんだろう?」と思ってしまうタイプなのですが、本作は「主人公が魂を裁く」という存在なので、「そういう周りに恵まれない場合は現世に魂を戻らせないだろう」と納得出来ますし、彼女達が「縁」を持っていて皆が揃って此岸と彼岸の間に来た来た理由も、そして彼女達が現世で死んだ原因も全てが綿密に前世と絡まっていて、「重箱の隅をつつくようにツッコんでもちゃんとした理由がある」という作りになっていて読んでいてスッキリしました。
主人公もまたただの置き物になっておらず。
俺様系主人公で序盤は人間の上位存在らしい傲慢さが鼻につきちょっと癖のある主人公ではあるのですが、進むにつれてやる時にやる男だと分かっていき好感度が徐々に上がり。
上記の「最後に主人公にも罪と罰と裁きがある」という部分もですが、各ヒロインルートでは最後にちゃんと見せ場があってヒロインを救済しますし、最終ルートでもちゃんと物語の主人公らしい決断を下すので、傲慢さを含めて「生きとし生ける物の悪い所」として納得でき、物語として嫌な気持ちにならない選択を取ってくれるので素直に「良かった」と思えるラストにしてくれていました。
前半はダレますが後半から面白さが加速するというちょっと特殊な作りで、主題がハッキリしているとても良い作品だったと思います。
…が、前半以外で物申すなら、この作品、驚くくらいにエロ要らないんですよね……
各ヒロインルートはメインルートではエロが入らず、クリア後に行けるifのルートでようやくエロが入る作りになっていて。
正直、久遠のメインルートのエロ以外は蛇足だなーとは思いました。
本当にエロが要らなすぎて、エロシーンを全年齢のイベントに差し替えて全年齢で販売したらウケたのでは?と思えるほど。
今作、話の構成からどうしても久遠がメインヒロインで久遠の為の物語という所が大きいので、他ヒロインと恋愛的な流れになるのがどうしても違和感があって。
久遠…はなんとなく恋愛もしっくりきますが、他ヒロインは主人公との関係が「友達以上恋人未満」というか…「恋とか愛とかでは測れない大切な関係」というか…「とても大きな様々な情」というか…
そういう言語化が出来ない「大切な関係」というのがしっくり来る繋がりなので、恋愛っぽい描写やエロがなんか妙に浮いてたんですよね…
完全にエロがクリア後のおまけ扱いでしたが、正直エロよりも全年齢の二人で友情を確かめ合う…例えば各ヒロイン彼岸に残るルートで、「彼岸の街で二人でヒロインの思い出深い場所を歩く」とかエロよりもそういうちょっとしんみりとしたイベントを見たかったなーという気持ちが強いです。
なので、全年齢でそういうシーンをエロから置き換えるととても映えそうだなと思いました。
ラストの久遠とのエロも、エロよりは二人で移りゆく季節を大切に噛み締めてて欲しい、過ぎゆく1000年を寄り添い合うシーンが見たいという気持ちが強く。
なので、これほどまでに「エロよりも他の二人で過ごすシーンを見たい!」となるエロゲは久しぶりでした。
主題がハッキリしていて良いお話で、メインルートがエロが無くても十分面白かったからこそ思ったのかもしれません。
…いつか全年齢でやってみたいなと思いました。
絵は大野さん。
大野さんの絵は昔、電撃姫を買っていた時にプリズム・アークを異様に大プッシュしていたので絵柄だけは存じていました。
絵が好みかと言われると…うぅん…等身低い絵は好みにはあまりならないので、さほど…という感じです。
ただ、立ち絵の豊富さや必要な時に一枚絵が入ったり、蛍や彼岸花の揺れなどの演出方面は本当に美しく、イラストの塗りも品が良く鮮やかなので世界観にとても合っており、視覚方面で違和感や「これが無い…」などの残念さはありませんでした。
全体的に演出は高レベルだったと思います。
音楽はBGMがI'veで主題歌はsolfa。
OPもEDも歌詞が思いっきり作品とリンクしているので、クリア後に歌詞を見ると「あぁ…」となるとても良い主題歌だったと思います。
BGMはクラッシックアレンジが半分以上を締めていました。
仏教とクラッシックで若干宗教観的には齟齬を感じなくも無いですが、死生観にはクラッシックはとても合っていて。
「魂の物語」にクラッシックはピッタリで世界観としては作品を引き立てていたと思います。
声は美羽夜役の夏野さんは今までTHE・ヒロイン!のようなキャラでお聞きする事が多かったのですが、美羽夜のような低くダウナーな演技も良かったです。
那由役の不破さんは…その…良くお聞きしています。今回モロに車って感じのお名前で笑いました。
那由の天真爛漫のように見えて抱えてる物が大きい…ある種の諦めを持っているみたいな演技がお上手でした。
玲亜役の三代さんは今までお聞きして来たのがちょっと裏がありそうな、でもヒロインみたいなキャラが多かったので、こういうコテコテのお嬢様役を初めてお聞きしました。
オ~ホッホッホッホと高笑いしそうな演技でとても良かったと思います。
ノノ役の桐谷さんは…もう、今をときめく方ですね。
最近では魂の双子の方を地上波でお見かけします…ヒロインに主人公に、とんでもないです。
正直エロゲからあんな感じで表の方に大出世される方は今まであまりお見かけしなかったので、凄いと思います。100年に一人の逸材とお聞きしてましたが、伊達じゃないですね…
演技は流石でございました、声質がモロに某疑似家族で密偵家族の娘の声とそのままなのですが、そこに真っ白な無邪気さ、無垢さが合わさりノノを形成していたと思います。
一歩演技を間違えば鼻につきイラッとしそうになりそうなキャラなのですが、絶妙なさじ加減で純粋さと可愛らしさに昇華されていました。
ノノの純真無垢さは桐谷さんの功績が大きいと思っています。
久遠役の小鳥居さんは『リバコロ』のアズライトでお聞きしていました。
個人的にはアズライトの声質が好みでしたが、久遠のヒロインらしいヒロイン声も良く、幅広い方だなと。
下記のキャラクター評で語りますが、個人的に久遠が苦手な要素がいくつかあったヒロインなのですが、小鳥居さんの演技でヒロインらしさを保っていたキャラだと思います。
久遠も一歩間違えば鼻につく所があったキャラなので、声優さんの力って凄いです。
プレイ順は
美羽夜→那由→玲亜→ノノ→久遠
の順で攻略
久遠は最終ルート固定
『橘美羽夜 ルート』
毎日死に誘われ自殺を繰り返し最初から死の原因が分かっている子なので、最初推奨。
父や母、叔母など彼女の周りは優しい人だったけれど、それより周りの人々に恵まれて無かったなーという印象。
まぁ、外野からの声が一番心無くエグいので、それの被害者だったなと。
前世編の美羽もまた自分の家族が大事だったからこそ主の命令を反故出来なかったんですよね…
前世編での美羽の友人を見捨てる行動に憤りを感じつつも、家族を人質に取られてるような状況ではやむなし…とも思ってしまいます。
だからなのか、友人を見捨てたからこそ現世で自殺未遂をするまでは友に恵まれなかったのかな?と。
友人を助けなかった罪も背負ってそうです。
前世でも耐えられず自害の道を選び、それが魂に刻み付けられてる所に業の深さを感じました。
『如月那由 ルート』
彼女の罪に関しては「耐えられない身体で無茶をした」ことではありますが…仏教とか宗教的には納得できつつも、人としての気持ちでは「それでも走りたかった、全力を出してみたかったんだよ…」と寄り添ってしまいます。
宗教などではそういう「自分の限界を自覚しながら越える」というのは結構罪になりがちなんですよね…
人には人の領分がある、みたいなのが根っこにあるので。
でも…自分の寿命が決まってたら、一度は全力を出したいのは人として正しいとは思ってしまいます。
限界を越えていくのもまた人だと思うので。
前世の奈津もまた同じように身体の限界を越えてしまい亡くなっていて…那由の魂は奈津の頃から限界を決められているんですよね…
それは本当に神のいたずらというか…今作では登場しませんが、運命の神が居たら大層性格が悪そうだなと思ってしまいました。
でも、命に制限があるからこそ、人は生きて輝くので、那由は輝いている子だとも思います。
きっと現世に戻っても限界が近いかもですが、それでも限りある時を精一杯生きて欲しいです。
『九条院玲亜 ルート』
人を拒絶した罪…ではありますが、玲亜もまた他のヒロインと同じく理不尽の元に居るなと。
父が騙され、没落し…
おそらく前世の伊予の頃からの因果だとは思うのですが、周りの腐れっぷりが半端ない状況に因果があるなと思います。
伊予は最後ちゃんと友情を重んじて祖父に抵抗出来る気高い子で。
正直、玲亜よりも気高いなーと思ったのですが、玲亜は因果によって周りがクソになる仕様なので、その因果がある限り人を信頼して思いやれる気高さが培われないんですよね…
多分ノノのように「本当に信頼できる友人」が居たら伊予のように気高く振る舞ったんだろうなーと思います。
因果が絡み付きすぎた結果、前世の良い所が失われてしまうのもまた理不尽で、残酷さがありました。
エピローグでは友人にはとても優しく懐広く接しているので、今後は他のヒロインと良い友人関係を築いて欲しいです。
『ノノ ルート』
ルートは無いですが、一応項目として書きます。
自分は美女と野獣で最後に人間になる…みたいなケモから人へが若干苦手なのですが、今作が仏教の輪廻転生が下地にあったことと、桐谷さんの演技で苦手な要素でも納得出来るようになっていました。
人道と畜生道などがあるので、そら人にも犬にもなりますよね…という納得感。
しかし、寧子がどうして犬になったのか…
あれですかね?前世での悲劇の引き金を引いたからでしょうか…?
宗教では結構理不尽な事を罪として換算されるので、寧子の行動が罪にカウントされて人道から外れても、「そういうこともありそうだな」と思ってしまいます。神の世界は理不尽だ…
ノノもifでエロがありますが…エロゲなので仕方ないとはいえ、ノノのエロはさほど見たく無かった気持ちがあります。
エロじゃなくて、仲良く一緒に遊ぶみたいな展開を見たかったです。
エロが完全に「コレジャナイ…」「望んでない…」みたいな要素になっていたのが残念でした。
『久遠 ルート』
最終ヒロイン。今作のメインヒロイン。主人公の正妻。
久遠、正直暴力系ヒロインで嫉妬系ヒロインなので苦手要素満載でしたが、彼女が最終ヒロインで、今作が彼女の為の物語なので苦手な要素はありつつも、絶妙に「正妻だから嫉妬もするよね…」「1200年も想ってれば主人公が他のヒロインの所に行ったら許せないよね…」と納得出来る仕様になっていました。
実際1200年前の人間であり、主人公の血を口にしてしまった事で不老不死を得てしまい、人の世の理から外れて世界の均衡を壊してしまう存在になってしまったという悲劇のヒロイン。
主人公が人間に興味を持ち、下界に降り、天人の身でありながら人間と縁を持ってしまった事による罪を背負った少女。
主人公の罪の具現化であり、だからこそ主人公が自らの手で罰を下し、魂を完全に消滅させないといけないという…
久遠を消さなければ世界が滅びる…けれど久遠は主人公の大事な存在で…
こういう「世界を取るか、ヒロインを取るか」めちゃくちゃ好きです、これが嫌いなオタクは居ないと思います(暴論)。
最後、悩みに悩んで、久遠の魂を消滅させない、けれども、久遠と世界全ての縁を切り、「存在するけれども存在しない」という状態にした上で、自分もまた久遠と同じように世界全ての縁を切り、二人だけで「世界から縁を切った者同士」最初に出会った場所で生き続ける…という個人的に「こういうEDで来たか…」と感嘆するEDになっていました。
世界を選びつつヒロインも選ぶ…両立出来無さそうなのですが、今作が仏教が下地にあり「縁」の物語なので出来たEDだなと。
そうですよね、世界から縁を切れば、不老不死が居ようが居まいが、「居るけど居ない」状態になるので、世界とは関係無くなるんですよね…なるほど、と。
こういう状態でヒロインを選ばないのが苦手なので、しっかりとヒロインを選びながら、でも、世界も救うという選択をした主人公に拍手を送りたいです。
物語の主人公をしつつ、世界のヒーローにもなるのが自分の好みの選択だったので、切なくも拍手を送りたいEDでした。
最後もまた時間が経てば「縁」は「因果」は結ばれていく…という流れで、分かたれた魂が消滅したはずの久遠がまた自我を取り戻した…かも?と思わせるEDで希望がありました。
切なくも、最後にうっすらと希望があり、好きだなぁと素直に思えるラストでした。
前半は苦痛でありつつも、後半からどんどん化けていった作品でした。
一部で隠れた名作と呼ばれていたのが分かりました。
あと、完全に他社の作品で多作になるのですが、「彼岸と此岸の間」「縁」「因果」などで某サイコロの作品とコンセプトが近いのですが、そちらはプレイ後にかなり文句を言いましたが今作はその作品で納得できなかった部分が綺麗に納得出来る形に落ち着いていたのがとても良かったです。
動物が人間になるのにも納得出来る仏教の下地があり、それをしっかりと説明してくれて、主人公がちゃんと主人公として活躍しながら上げ上げにもなっておらず主人公にもまた罪があり、それを裁かなければならないという…まさに「因果応報」が作品の随所にあり、ご都合主義になっていなかったのがとても良かったです(エロが要らないに関しては同じですが…)。
宗教色が強くありながらも置いて行かれる事はなく、「生きろ!!」「生きたい!!」「共に生きたい!!」という「生」に対して強く強く訴えかけてくる作品でした。
主題がしっかりとした良作でプレイ出来て良かったです。
※ゲームの攻略で検索される方がいらっしゃるみたいなので参考にさせて頂いた攻略サイト様を失礼します。
参考攻略サイト様:誠也の部屋 様
【https://seiya-saiga.com/】
夏の終わりのニルヴァーナ ページ
【https://seiya-saiga.com/game/pajamas/nirvana.html】