ひっそりと群生

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【みえない二等星】感想

【男性主人公全年齢】



2022年06月11日配布
D10RAMA』様 ※リンク先公式HP
みえない二等星】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








星は繋がり星座になる。
人は繋がり人生になる。



『今まで真剣に打ち込めるものがなかった 高校1年生の北斗は、
 幼馴染の美波とともに軽音部に入部する。

 中々ギターが弾けずに苦戦している中、
 天体観測をしている老人、高村と出会う。

 高村はとある星を探しているという。

 みえない星、そしてある1曲の歌謡曲から、
 北斗の星の巡りが変わっていく。』
(公式より引用)



プレイ時間は1時間30分くらい。
分岐無し。


雨にして人を外れ』(※リンク先感想)を制作された、D10RAMAさんの作品。


「星は星一つでは星座になる事は出来ない」。
この言葉を軸にするかのように主人公、北斗を中心に人間関係が紡がれて行きます。
軽音部の先輩達、河川敷に居る老人、高村、そして幼馴染の美波。
何かをすればそれなりにこなしてしまい、けれど飽きて新しい何かを始める北斗。
真剣に取り組めるものは無い、けれど、何かをしていないと、何かをして自分で立ち続けていないと居てはいけないのでは?という焦燥感に苛まれていて。
そんな彼の焦りを周りの人達が優しく包み込みます。
軽音部で演奏する楽曲、高村が探す星…全てが北斗を中心に形作られていき…
「人は一人で生きているように見えても、誰かが周りに居て見ている」。
そんな優しい世界を優しい登場人物達で彩るような物語でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
音関係もBGMとSEだけでなく音声もボリューム設定が可能。
履歴にてボイスリピート機能有りといたれりつくせりでした。
話の途中でこまめにアイキャッチが入るので、シーンの切り替えもとてもスムーズで小休止を挟む事が出来ました。


『音楽』
ギターとピアノ曲が多いのですが、ピアノの跳ねるような音が星の輝きを連想させ、どの曲もとてもシーンに合っていました。
特に星座の解説で流れる「標の星」やメインテーマ「みえないニ等星」はとても好みの曲調でした。
「ニ等星になって」は作中重要な役割をする曲ですが、こちらもまた「昭和歌謡」という設定に合っていて、どことなくノスタルジックでした。
声は皆さん本当にお上手で、特に高村さんの年の功を感じる声質に様々なシーンで主人公に助言をする際に説得力がありました。
本当にお声や演技が素晴らしかったのですが、収録環境の違いからか高村さんのお声だけ若干音質が良くなく…そこだけが本当に残念でした。


『絵』
立ち絵はメインキャラ全員に有り。
洋服も冬服と夏服があり、表情パターンも多く飽きが無いのと、メッセージウィンドウにも話しているキャラが表示される為、視覚からもとても分かりやすかったです。
ここぞ!という時に一枚絵が入るのもとても良く。
高村さんとのシーンや美波との過去回想など、重要なシーンでは一枚絵の美しさに魅了されました。
特に星空が丁寧に描かれ、ラストの屋上の一枚絵の雄大さ、壮大さはラストを彩るに相応しいイラストでした。


『物語』
とにかく丁寧。
会話文が多く地の文が少なめですが、その分、人間関係の構築が丁寧に描かれていました。
少しずつ主人公が誰かと繋がっていき、その繋がりから人情が生まれ。
出会う人が皆本当に優しくて暖かく、人の優しさに触れる作風で。
そして、まるで運命のように人々から得られた何かが一つに繋がっていく。
「星は繋がる事で星座になる」の言葉通り、「人は繋がる事で人生になる」にも掛け合わさり。
「繋がり」を描いた構成が本当に上手でした。


『好みのポイント』
ラストは悲しく切なくもとても納得のラストで、色々思う所はありながらも「これしかない」と納得出来る所が好きでした。
そして、主人公、北斗と幼馴染の美波の関係がもう…最っっっ高でした!!
幼馴染だからこその昔から知る積み重ねて来た関係と、今作が恋愛モノと一括には出来ないジャンルだからこそのもどかしさや二人の幼馴染ならではの落ち着く距離感などの描き方が秀逸で。
「付き合いました、終わり」では決して無い描き方が絶妙で本当に好きでした。
二人が今回の一件を抱え、ずっと一緒に大人になっていくのだろうなと思うと、胸が熱くなります。





以下ネタバレ含めての感想です





主人公北斗の「何かをしなければいけない」「その何かを一人でなんとかしなければいけない」そんな焦燥感はなんとなく自分も昔…思春期頃に通ったことがある道で。
彼の頑張りが頑張ってはいるのだけれど、同時に自分の首を絞めていく姿に昔を思い出し息苦しさを感じました。
特に父親を早くに亡くし、母親が働き家に一人きりの彼だからこそ、そういう「一人でやっていかねば」という思いは人一倍強くなるんだろうなーと思うと…本当に幼馴染の美波が側に居てくれて良かったと心から思います。
「一人でも生きていけるかもしれない、でも、じゃあ、倒れた時は?」「本当に一人なのか?心配する人は居ないのか?」など、「人は一人きりでは人生にはなれない」というのが「星」の話と関連付けられているかのように展開し。
美波がしっかりと北斗を支え星座になり、それから軽音部の面々とも向き合い大きな星空になっていく姿が印象的でした。


皆本当に良い人ばかりで…だからこそ、高村さんのラストはとても苦しく。
けれど、高村さんは自分の星座を作るのに必要な奥さんを失っているので、彼の人生は確かに主人公達によって良きものにはなっていても一日24時間ある生活の面では決して奥さんを失った穴を埋める事は出来ないよなぁ…とも思い、彼のラストはあれ以外には無いとも納得してしまいました。
もっと北斗と美波と一緒に話して欲しかった、もっと8月の演奏も聴いてもらって軽音部の面々とも会って欲しかった…
でも、高村さん人生の生きていく上での先よりも、二等星の奥さんの元に行く事を選んだのだなぁと。
高村さんが糖尿病でありながらお酒を飲み続けたのは緩やかな自殺で…
切ないけれど、彼の人生は彼のものである以上、その選択も仕方ない事だと思いますし、人生における唯一の相手を失うというのは想像を絶するものだと思うので、彼が星の元で奥さんにまみえる事を願わずにはいられません。


きっと、美波への想いを自覚する前の北斗だったら高村さんの選択を全否定し下手をしたら軽蔑していたかもしれませんが、美波の存在の大きさを知り、その存在が高村さんにとっての奥さんだと気付いてしまった以上、北斗は完全に彼の死を…願いを止める事は出来ず。
最後、高村さんに「死なないでほしい」と告げ「傲慢だな」とは言われますが、縋り付くほどの必死さで止めなかったのは彼の奥さんへの想いの重さを知ってしまったからだろうなと思ってます。
なんとなくですが、物語開始時、美波への想いに気付いていない北斗だったら高村さんの想いを汲み取れず、彼の行動をもっと分かりやすく非難しただろうなと思うので。
「高村さんともっと生きて欲しかった話したかった、でも、高村さんがもっと生きて奥さんが居ない世界に居る事もまた酷である」という自分の想いと相手の願いが相反し、そこに折り合いを付けていく姿。
それこそが北斗の成長であり、大人への一歩であり、広がった彼の中の星図だからこそできた許容であり。
高村さんもまた北斗の星図を広げる一人に、人の繋がりを広げ人生を広げる一人に最後の最後でなれたのだと思うと…
奥さんの元へ向かう願いも叶え、老人として若者の人生を広げもし、自分自身も最後に楽しい思い出を作る事が出来た…ある意味での一人勝ちであり、独り身の彼からすれば大往生だったのではないかな?と思っています。


美波との関係も、とにかく何もかもが良すぎて二人の過去やもどかしい会話が繰り広げられてる度に顔を手で覆い。
軽音部の面々と同じ気持ちで北斗と美波の二人を見続けました。
恋愛として確かに結ばれますが、距離感は変わらないままに「北斗の頑張る姿が好き」「美波が居ない人生は考えられない」と言い合いお互いの大切さを確認する姿はまさに熟年の夫婦のよう。
当たり前の距離が大切だと認識しあう、まさに幼馴染の特権のようなお互いの距離の確認の仕方で。
キスをするわけでもなく、抱き合うわけでもなく、ただ、お互いの大切さを理解し合う恋愛の成就の流れに恋愛モノでよく見かける「これが恋愛での結ばれるシーンです!」というようなあからさまなカップル成立シーンよりもニヤケが止まらず。
ただただ拝みたくなるような、二人だけが認識し合える二人の世界の愛をほんの少しお裾分けさせて頂けるような、とにかく本当に良すぎる大事な人の大切さにに気付くシーンでした。
幼馴染カプが好きな人には絶対にオススメ出来ます!!


軽音部に高村さんとの天体観測に幼馴染の美波との関係。
色々序盤から人間関係を広げてくるので「ちゃんと収拾が付くのだろうか…」と心配していましたが見事に纏め上げられた人間模様にアッパレ。
どの要素も欠ける事が無く、一人一人がしっかりと大事な星の一つとして、北斗の星図に綺麗に星座を彩っていました。
高村さんがきっと奥さんの星の元へ行けたように、北斗と美波もまたいつか時代の先で二人星の元に行くのでしょう。
自分の人生でも一緒に居てくれる人、自分の側に居てくれる人や自分を見てくれる人を大事にしたくなるような、そんな一作でした。