ひっそりと群生

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【等速運動の君へ】感想

【男性主人公15禁】



2021年10月24日配信
LR』様 ※リンク先公式HP
等速運動の君へ】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








外力も常識も他人の視線も何もかも。
どんな力や法則にも影響を受けず進んで行く。



『初恋は実らない。でも、実ってしまったら、どうしよう?
 常に前向きな"俺"の恋人は、前向きすぎて、今にも"俺"を追い越してしまいそう。
 大学生カップルの、時速の違う等速運動の一幕。』
(公式より引用)


プレイ時間は約25分くらい。
分岐無し。


主人公の武部は10年前に家の都合で離れ離れになった幼馴染の霧崎と大学で再会し告白され付き合っていた。
10年前から真っ直ぐ前に進み続ける霧崎と停滞を好む式部。
二人は言葉足らずと早とちりで仲違いしてしまい…
独特の感性や価値観を持つ幼馴染カップルがちょっとすれ違うお話。
二人の様々な知識を交えながら独自の方向に進み、話が行ったり来たりしながらも必ず二人の納得のする場所に着地する会話が見ていて心地よく。
「必ず、君の元へ、帰って来る」そんな「運命の幼馴染物」が好きな人にはたまらない一作でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能はありますが、メッセージ速度変更は不可。
ですが、プレイ時間的に支障は無かったです。
途中、宇宙船を動かすシーンがありプレイ中は???でしたが、クリアすると「なるほど!」でした。


『音楽』
素材曲が数曲。
通常で使われる曲も良い曲ですが、物語後半、和解の為に霧崎の家に向かう際の音楽が壮大で音楽のギャップが面白かったのですが、主人公にとっては一世一代の行動というのが伝わり、そういう表現も上手かったです。


『絵』
絵はとても美麗。
色の塗り方が淡く綺麗でした。
霧崎と霧崎の友人のヨッコちゃんに立ち絵有り。
他に登場人物が居ない為、主人公以外の登場人物には全員立ち絵があります。
彼女である霧崎の立ち絵に洋服差分があったり、印象的なシーンでは一枚絵が挿入されたり。
一番好きな絵は幼少期の回想で主人公と霧崎が一度お別れする際に、子供時代の足元が映るのですが、主人公と霧崎の足元が映り、一度霧崎の足が主人公に向かいつま先立ちをして別れるという絵が挿入されるシーン。
絵だけで、「あ、幼少期に主人公の頬にキスをして別れたんだ…」というのが伝わり、ニヤニヤしてしまいました。
そういう細やかな表現が多く、絵柄や表現からとても繊細さを感じました。


『物語』
大筋は「恋人が一度すれ違い仲直りする」という話なのですが、シンプルな構成の中で文章や二人の会話がとても良く物語に彩りを与えていました。
二人は様々な知識や雑学を交えながら独特の話の流れを作っていて、傍から見れば二人共結構な変わり者の会話をするのですが、それが二人の当たり前の会話として描かれているのがとても良く。
「二人しか理解出来ない」そんな話の流れがあり、熟年夫婦のような、ツーカーのような、二人の間には誰も割り込めない空気がとても最高でした。
二人共それぞれに他人には決して動かせない強い軸、こだわりがある事が会話の隅々から伝わって。
だからこそすれ違ってしまう流れがとても分かり、そして「この二人にはこの相手しか居ない」事も分かるので元の鞘に収まるのもとても納得が出来。
カップルの喧嘩物」というと結構暗い空気になる事が多いのですが、二人の関係があまりにもブレが無い為そんな空気にならずサラッとした爽やかな「ちょっとだけ言い方や受け止め方を間違ってしまうカップルの喧嘩物」として楽しむ事が出来ました。


『好みのポイント』
ビバ!男女カプ!!固定カプ!!!
式部と霧崎の二人の関係がたまりませんでした!
二人の幼少期が作中でガッツリ描かれる事は無いのですが、ほんの少しの回想でどんな二人だったのか察せられる所など、関係の描き方が本当にお上手で。
ED後の二人を想像するとニヤケが止まりません。
幼馴染が特別好き!三度の飯より好き!という事ではないのですが、そんな自分でもこの二人の幼馴染の関係に「最高!!」となったので幼馴染好き人にはたまらないかと。
「幼馴染さえあればご飯何杯でもいける!!」そんな人に全力でオススメしたい一作でした。





以下ネタバレ含めての感想です





10年間離れていたけれど想いは募る事も減る事も無くそのまま変わらず。
10年前と同じ気持ちのままで好きで居続ける。
物でも想いでもどんな物でも増える事や減る事が当たり前なのに同じ気持ちのまま居続けた霧崎。
本作は同じ場所を好む式部と進み続ける霧崎の話で、霧崎は「動」の人物なのですが、そんな霧崎が式部の想いだけは「不動」だった所が最高なんですよね。
10年間、理想を押し付ける事も無く、想像で幻滅する事も無く、幼い日の想いのをそのまま持ち続け、主人公に会う為に成長し一人前になり大学に進み再会し、告白した霧崎。
「動」のキャラの唯一の「不動」とか、もう、たまらんですよ、こんなの。
主人公もまた「不動」のキャラなので色んな想いをそのまま停滞させて大学まで来ましたが、こう…自分は「運命」大好きな人間なので、霧崎の唯一の「不動」と主人公の生まれ持った「不動」が噛み合う事はそれはもう「運命」だと思っています。
10年の空白で別に好きな人が出来る事が無く、霧崎の一途さやラストの主人公の描写からお互い初めての恋人っぽいのもまた、最高で最高で。
あー、「運命の二人」、たまらなかったです。


宇宙飛行士になりたいと言った霧崎に対し、言いたい事の前段階として「ついて行けない」と言ってしまう主人公。
その最初の言葉だけを受け取り傷付いて泣いて逃げて行ってしまう霧崎。
主人公の言う「ついて行けない」は(物理的に)であり、霧崎が受け取った「ついて行けない」は(気持ち的に)というすれ違いがリアルだなぁと思いました。
主人公が段階を踏んでもっと上手く言葉を紡いでいたら、霧崎が最後まで話を聞いていたら、喧嘩が起こらない事がプレイヤーには分かるのが作りが上手く。
主人公の言葉足らずと霧崎も早とちりで、プレイヤー的には見ていてヒヤヒヤしましたが、最後には霧崎の友人のヨッコちゃんの言葉もあり仲直り出来て良かったです。


物理の知識が小学生で止まっているので、この作品のタイトルになっている「等速運動」を調べましたが、「一般に外からまったく力の作用しない場合の物体の運動」とあり。
どんな常識も、他人の視線も、全く気にせず己が道を進む。
なるほど、確かに霧崎だと納得しました。
そんな彼女に主人公は「自分は変わらない事が好きだから」と「霧崎を変わらず待ち続ける存在になる」という結論がまた良くて。
更に調べると「地表面での重力による運動はだいだい等加速度運動(等速運動)になります」とあり…
霧崎が「等速運動」だとしたら、もしかしたら主人公は「重力」なのかもしれないな、とも思い。
作中の宇宙船がゴールに向かう画像ですが、遠くの星から様々な星を渡り、途中どんな困難(作中のすれ違い)があっても戻ってくる画像で、「彼女がどんなに宇宙に飛び立とうとも地球で生まれた霧崎は地球の重力に引かれ戻って来る」という意味が込められているのかな?とそんな風に思いました。
「等速運動」は「重力」があるから成り立つ、お互いついて行けないくらいの遠くに行ったとしても必ずまた、引かれ合う。
そう考えると本当にロマンチックな物語だと感じました。


あと、作中では霧崎が「等速運動」として扱われますが、主人公も、果ては少ししか登場しない霧崎の友人のヨッコちゃんも、皆かなり独特なキャラクターで己が道を突き進んでおり。
主人公は「動かない方が好き」と言いながらもそれを貫くのもまた外力に歯向かわないと中々に貫けない難しい道だと思っていて。
主人公もヨッコちゃんも霧崎に対して「突き進む」とか言いながらも、全員が全員ブレが無い為、「なんだよ皆、外力の作用を受けない存在じゃん」となり、動いているか止まっているかの差で霧崎と似た者同士だなぁと気付き笑ってしまいました。
最後、若干エロティック?な方向に話が行きますが、そんな流れも主人公と霧崎の二人があまりにも可愛らしく、初々しさ満載で二人のドギマギした会話にテンションが上がり奇声を上げそうでした。
あの後は、まぁ、「ゆうべはお楽しみでしたね」になったのでしょう、きっと。
そのシーンも見たかったですが…あそこでフェードアウトするからこその美があるとも思っています。
霧崎が宇宙へ旅立っても、主人公は待ち続け、また再び地上で出会える事でしょう。


物理学とかダメダメなので学問的な法則の話は大間違いかもしれませんが、結論としては外圧には全く左右されない、「外側や他人に惑わされない独特な人間が自分の道を貫く話」として受け止め、力強いキャラクター達の話だと感じたのと、「惹かれ合う運命の男女の話」は大好きなのでとても刺さりました。
意思の強いキャラクター達のブレない生き方と随所から感じ取れる幼馴染の関係性の良さを堪能する事が出来ました。
とても楽しかったです。