ひっそりと群生

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【Diana】感想

【男性主人公全年齢】



2022年08月13日配信
Jeliko』様 ※リンク先公式HP
Diana】(PC) ※リンク先ふりーむ!
以下感想です。








作り、残し、繋ぎ、月に還す。



『私は待っていた。
 この石牢を打ち砕いてくれる鑿を、光を、力を。

 私をあらわしてくれる、あなたを。

 夜の工房でひとり黙々と石を彫る彼女と、その彼女を見つめる石像。
 月の光がふたりの姿を静かに浮かび上がらせる。

 彼女は何故、石を彫るのか。
 その先に何があるのか。

 「創ること」を問うフルボイスサウンドノベル。』
(公式より引用)



プレイ時間は1時間くらい。
分岐無し。


時代は中世頃。
石工職人の家に生まれた女性が一つの神の石像を作っていく姿を「作られていく石像の視点」から眺めた物語。
今よりも女性に職業選択権が無い時代の中、作らなくては生きていけないような、作らなくては息も出来なくなるような。
そんな「創作せずには生きられない存在」の人間を「石像作り」を軸に「作られていく側」から完成までの期間が描かれて行きます。
作り、完成し、その先にあるものは…
「創作物から見た創作の世界」という独自性の溢れる作品でした。



『システム、演出』
LiveMaker製。
基本性能有り。
コンフィグなど性能で気になる箇所は無かったのですが、メッセージ速度は初期のまま、音声と連動する速度が最も読んでいて臨場感が高まると思います。


『音楽』
しっとりとしたピアノが静かで人気の無い工房と孤独に作品を作り続ける創作者の静と動の対比を引き立てていたと思います。
特に最後で流れるピアノ曲が前半は静かに、後半にはとても盛り上がる旋律で、作品への想いが天へ登っていく情景を音楽からも感じ取れました。
Extraのピアノ曲もとても好きです、音楽鑑賞モードが欲しかったです。
そしてまさかの全文フルボイスという…
「」会話などは無く、石像から見た地の文だけで話が進むのですが、それが序盤無機質で、そして徐々に作り上げられていく事で熱を持っていく語り口調には圧倒されました。
熱を持っていき、やがて形あるものが最後を迎える、その瞬間は本当に消え入りそうで。
素晴らしい語り朗読でした。


『絵』
背景と中世の絵画のような絵で表現されています。
立ち絵などが無く、人物絵などが出てこない所が世界観に合っており、創作者女性や作られていく石像の形などを頭の中で想像していく事が出来ました。
その分、光などの背景表現はとても効果的で、「神」という存在を光から感じ取り、作り上げられていく石像も映さず、そして石像が形作る「神」を映さず偶像で描かない所に読者に沢山の想像の余地を与えてくれていました。
Extraで唯一出てくるイラストがあるのですが、そちらが製作者の女性でしょうか?
おまけでようやく姿を移す所に作者様の粋を感じました。


『物語』
何かを残し、それが伝わっていく。
彼女が血を吐く用に石像を作り上げていく姿は本当に命を削っており。
その姿を真正面から知っているのが石像しか、作られている側しか居ないというのが「作者と創作物との対話」として強く描かれ。
彼女の魂が顕現し形になった時、大きな熱が引きながらも、産み落とされた存在を感じ。
石像が人々に渡っていき、伝わるべき人達に伝わっていく流れは胸に来るものがありました。
周りの空気や状況、人の動きや歴史から来る人の心情、その中で一人足掻く女性、そのどれもが目の前で繰り広げられているかのようで。
文章での表現力が素晴らしく、読みながらプレイヤーもどんどん天に登っていくような感覚を得る事ができました。


『好みのポイント』
状況や心情表現も素晴らしいのですが、その中でやっぱり創作に関しての表現が特に素晴らしく。
「作らないと生きていけない人間」が物を完成させるまでの、まさに魂を掛けた「生き様」が丹念に描かれていました。
完成させた時の女性の安心した顔がしっかりと頭の中で想像出来て。
そして、彼女の作品に魅了され、人生を変えられた、もしくは人生の中で残り続けた人々の想いも石像の視点でしっかりと感じる事が出来ました。
「人の想いの一瞬一瞬が繋がり、それこそが永遠になる」そんな表現に弱いので後半は好きな表現に圧倒されっぱなしでした。
作られたものは、どこかで誰かの想いに残り続ける、そんな前向きさと創作者の狂気を感じ取れました。





以下ネタバレ含めての感想です





最後、彼女の作った石像が世界的に評価されるわけでもなく、買い取られた先、富裕層だった屋敷の庭で朽ちていく姿が悲しくもあり、そして安心感もある所がとても好きでした。
個人的な予想では「彼女の唯一の創作物が世の中に認められ、美術館などに飾られるのだろうか…?」という予想をしていましたが全くの真逆で。
世間的に大きな日の目を浴びる事無く、裕福な家から家へと買い取られ、最後は誰も居ない場所で形あるものとして終わりを迎える。
それはとても創作物としてのリアルな姿で。
ルネサンス期にも女性の芸術家はいらっしゃる為、「女性だったから有名になれなかった」とは決して言えず。
けれど、有名な女性作家は沢山の作品を残しているからこそ評価をされており。
もしくは一作のみでも作家本人自身が歴史的に何らかの大きな繋がりを持っており作品が評価されているという事が殆どで。
彼女は作品を一作のみしか残せず、本人自身が歴史との繋がりが無かったからこそ、名が広まる事は無く、彼女の石像は買い取られていく運命になった。
それでも、たった一作でも、彼女の石像は渡り歩く内に心を掴んだ存在も居て。
そんな人々の想いを石像が受け取っていく姿。
「創作物の視点」だからこそ「自分に向けられていく想いや縁を受け取り、自分の中で繋がりが出来ていくのを感じ取る事が出来る」というのが今作の視点ならではの作りだったと思います。
その繋がりこそが歴史の裏舞台に消えた…一般人として人生の幕を下ろした彼女という存在が歴史と繋がっている唯一のものなのもまた熱いです。


そして、決して彼女の石像が、彼女自身が世界的、世間的に有名になれなかったからこそ、石像は「ものとしての終わり」を迎えられたのだろうなと。
もし美術館に飾られる存在になっていたら、半永久的に管理をされ続けて…
それはそれで名誉ある事だとは思うのですが、石像の中に、自分の中に蓄えられた想いを天に月に還し、彼女の元に届ける事が出来なかった。
その事実を想像すると、「人々の想い」を彼女に伝える事が出来た石像は最後の朽ちる瞬間、生まれた意味を知る事が出来、幸福だったのだろうなと感じました。


「形あるものはいつかは壊れる」「永遠は無い」。
けれど、「人々の想いの一瞬一瞬が連なり、その紡がれる想いこそが永遠になる」「一瞬の中に、永遠を見る」。
こういう作風が本当に大好きで、最後の「永遠を抱えながら月に還る」流れが心に突き刺さりました。
ダイアナ、月の女神。
きっとおそらく、彼女の名前にもなっていると思いますが、最後に天に上り神と神が神の国で交わるのがとても素敵で。
彼女はその後きっと嫁ぎ、普通の女性として過ごしたのだと思いますが、今作のエンディングを迎える頃にはおそらく彼女は既に神の国に居て、石像が連れて来た人々の想いを神の国で受け取るのでしょう。

最後の最後まで「彼女」と「石像」で語られ名前が出ず、おそらくラストとタイトルでの作品外の部分で名前を察せられる構図が「決して歴史には残る事の無かった作者と作品の一端」というのを感じ取り、とても好きでした。
創作者としての狂気と、創作者が残したものに寄せられ蓄積されていく人の想い。
「何故、人は遺すのか」を力強く描いた一作でした。