ひっそりと群生

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【雨にして人を外れ】感想

【男性主人公全年齢】



2021年08月25日配信
D10RAMA』様 ※リンク先公式HP
雨にして人を外れ】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








人を外れた先輩と僕の辿り着く選択と結末。



『ミステリアスな先輩。
 世間を賑わす殺人事件。
 そして足元を泳ぐ巨大な魚影……
 そのすべてがひとつに繋がっていて、輪のように僕を取り囲んでいたら。
 僕はどうすればいいのだろう?』
(公式より引用)



プレイ時間は約50分くらい。
分岐有り、ED2つ。


白と黒しかない世界、雨音が常に響き渡る世界。
そんな世界でセーラー服で黒髪の美しくも独特な性格の先輩に振り回されるお話。
灰色で薄暗い世界、世界に取り残され人から切り離されたような感覚を抱く主人公はそんな自分を受け入れてくれる先輩にどこか救われていて。
先輩と主人公の日常がずっと続けば良いのにと思う中、物語は殺人事件の話題と共に動き出します。
「世界を変える」や「世界を救う」というような大きな出来事は無いけれど、先輩と僕の間で細々と紡がれる物語でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
ただ、操作に影響は全くないのですが音量がどうやっても100%に出来ず99%止まりなのは若干気になる部分ではありました。
UIは灰色と雨が意識してデザインされていてセンスを感じました。
タイトル画面でマウス移動に合わせて画面が揺れたり、所々でセンスを技術の高さが見えました。


『音楽』
おそらく全曲オリジナル。
どの曲もピアノが主軸であり基本になる旋律が一緒で「一つの曲が中心になりアレンジ曲で様々な曲がある」タイプのBGM好きにはたまりませんでした。
主軸曲でありタイトルと同名の「雨にして人を外れ」はまさに作品そのものを奏でているような楽曲。
ピアノの力強くも儚い旋律が見事に細い雨が常に降り続けている世界そのものを描いていたと思います。
個人的には「あじさい園」とOPで起用されている「雨にして人を外れOPver」が好きです。
あじさい園」は「雨にして人を外れ」よりも更に緩やかなテンポですが作中で先輩と行くあじさい園のシーンの時の穏やかな気持ちにピッタリで雨音もBGMに組み込まれているのが印象的でした。
「雨にして人を外れOPver」は「雨にして人を外れ」よりもテンポが早く起承転結が曲の中で組み込まれ「BGMでは無くOP曲!」となっていて通常BGMの「雨にして人を外れ」と差別化がしっかりされていた所が好きでした。
雨のSEもとても効果的に使われていたと思います。
クリア後にBGM鑑賞モードが有りとても嬉しいのですが、鑑賞でループが出来ると嬉しかったです。
一曲一曲の音がぶつ切りになるのが良い曲な分残念でした。


『絵』
雨が降り続いている白と黒しかない灰色の世界の色彩が印象的でした。
一応主人公もウィンドウメッセージに表示されますが、基本は先輩が立ち絵で大きく映り先輩と主人公の二人の世界で進みます。
主人公の見た目も少しだ登場する部長さんのデザインもとてもいい絵柄だとは思いますが、何よりも先輩の見た目が印象深く、その美しさはまさに「美」そのもの。
本作はボーイミーツガール物だと思っていますが、その片割れに見た目での存在感があるとやっぱり映えます。
先輩の、存在感がありつつクールそう、繊細そうに見えても表情がとても良く、たまに見せるイタズラっ子の表情が「主人公を振り回すお姉さん」の表情をしててとても良かったです。
OPには若干のアニメーションも有り。
あじさい園で先輩が動いて振り返るアニメーションなのですが…最近のフリゲはOPが当たり前になりつつアニメーションもあるのか…と驚きました。


『物語』
ずっと続くと思っていた、でも永遠なんて無くて。
降り続ける雨の中で「どうしようもない諦め」というのを感じ取るような話でした。
あらすじに「殺人事件」とあるので明るい方面には行かないだろうなと思っていましたが…そういう方向で来るとは。
色んな物に目を背けて来て手に入れていた平穏ではあった、それでも先輩との交流は楽しく。
自分を受け入れてくれる独特で楽しい先輩と一緒に居たいのに、中々それは難しい、そんな気持ちにさせられました。
EDが2つありますが、最後の選択がどちらも印象的なお話でした。


『好みのポイント』
「白と黒の色彩、常に降り続ける雨、黒髪ロングセーラー服の独特な性格の先輩と二人だけで話す」もうこれだけで「強さ」だと思ってます。
強い、何もかもが強い、雰囲気ゲーとしてかなりの強度を誇っているかと。
セーラー服黒髪ロングはズルいよ…先輩の造形美だけで小一時間語れるレベル。
空気感の使い方も上手く、始終白黒でもあじさい園のシーンではあじさいの色の見えたような気がしたほどどことなく鮮やかさがあり。
中盤から若干毛色が変わりつつも「先輩の独自性」は保ちながら儚い空気が損なわれる事は無く。
世界観をとても大事にしている事が伝わり、そこがとても好きでした。





以下ネタバレ含めての感想です





「殺人事件」とあらすじにあったので「どちらかが巻き込まれる系…?」と思い進んでしましたが、まさかの人外系で驚きました。
傾向としては妖怪系…なのかな?
殺人事件も巻き込まれる側では無く起こしていた側でなるほど…と。


先輩は自分の形を得る為、妖力的な物を保つ為に人を殺しており、それを止め先輩を本来の世界に連れ戻す為に別の妖怪がやって来る。
人道的に見れば先輩は明らかに「人間の敵側」であり、連れ戻しに来た妖怪の方が正義側なのですが…
今作、中々に面白いのが「主人公もまた人間でありながらもどこか世界からはじき出されており、精神が人の道から逸れている為、他の人間からは殆ど受け入れて貰えず、本当に心から受け入れてくれているのが人外の先輩しか居ない」という状況なんですよね。
だから例え先輩が人間にとっての悪でも自分の中では悪では無く先輩の方に肩入れしたいと思っている。
とても現代っぽい考え方というか「他人にとっての悪が自分にとっての悪とは限らないし、悪どころか善の可能性だってある」みたいな、そういう感覚を強く感じました。
「僕は裁く側では無いから別に先輩の殺人を裁こうとは思わない」「僕にとっては亡くなった人よりも先輩が大事」そういうクールさというか集団では無く個を感じる所と言うか、とても今風な感じ。
「あなたを生かすためになら他人や世界を犠牲にしても構わない」みたいなセカイ系というかメリバというかそういうボーイミーツガール大好きなので、先輩と主人公の関係はとてもとても大好きでした。


ただ本作はそれでも「殺人は人の世からも妖の世からも外れたもので裁かれるもの」「主人公はどう足掻いても人間である」を貫き続けた所もまた好きで。
分岐がありAルート、Bルートありますが、どちらも先輩と物理的に一緒に居続ける事は不可能なんですよね。
Aルートでは別れ先輩は元の世界へ、Bルートでは主人公が食われおそらく最後に先輩は最終的には刺客に捕まってしまう。
先輩も言ってますが「どう足掻いても追手からは逃げられない」この結末がある限り主人公と先輩は一緒に居続ける事は叶わないんだなぁと。
主人公がどんなに精神が人の道を外れても人間として生まれた以上、人の道から外れる事は出来なくて、人が人で居る限り人の世界はあって。
そして世界の枠に妖の世界もあって。
先輩は食う相手を選んで人の中でも極悪人を食べてはいたけれど、「人の世には人の裁きがある」のと「人を食って妖力を得る」というのは人の世でも妖の世でも反している事だから、だから妖の世界で裁かれなければならないし、世界に居る限り逃げ続ける事は出来ない。
閉じ込められて生かされて来た先輩の境遇も可愛そうではありますが、もっと妖の世界だけでなんとかしようと足掻く事の方が正解で、人の世に降りてしまった時点で世界の理から外れてしまったんだなと思っています。
人の世に降りて更に人を殺し人の理をも犯すから…まぁAルートもBルートも連れ戻され殺されるEDしか無いよなぁというのはとても納得でした。
主人公も「どう足掻いても人間」なので、理を破っている先輩が連れ戻される結末を変える事なんて不可能で。
だからこそ、「先輩の結末を受け止め、受け止めた上で正しい波に乗り記憶を忘れて人として生きていく」か「先輩と一緒に居る(物理)をする為に先輩に食われて死ぬ」しか無いんだなと。
EDの雰囲気的にAルートの「別離記憶喪失ED」がエピローグもある事といい前向きな正規のEDなんだろうなと思いつつ、Bルートの「食われ血肉となるED」もまたメリバ好きにはたまらない良さがありました。
好きな人の血肉になる、とても良いメリバです。


タイトルの「人を外れ」は「妖という人外」という真っ直ぐそのままの意味もあり、主人公の「人の道から外れた精神性」や先輩の「妖で人の倫理で測れない存在ではあるけれど、人の姿を取りながら殺人を犯し人の道からも外れる」という意味が込められているのかなとも思ったり。
妖の世界から逃げ、人では無く、人を殺し食い、妖の世界からも人の道からも逸れてしまった先輩。
そんな傍から見ればどちらの世界から見ても極悪人のような先輩だけど、人の精神から外れていた主人公を唯一受け止めてくれた存在であり、主人公の中では「自分を受け入れてくれる面白く美しい先輩」だったのだと思います。
作中内でもそれがしっかりと反映されていて、主人公の考えや作品の空気感から先輩に嫌悪感やヘイトが向かないように上手く作られていた所もまた凄く、雰囲気ゲーとして上手かったです。
人の倫理的には邪悪ではあるけど、邪悪な人が自分にとっての悪だとは限らない。
そういう立場によって変わるような印象が雰囲気を最大限に活かし描かれていたと思いました。


(プレイヤーからしたら)短めの時間の中、雨の中で精神的にも肉体的にも人の道に外れたもの達と出会い。
理から外れた世界を見守りながら、最後はそれぞれ正しい自分の道に戻って行く。
作中同様、梅雨の時期に一週間降り続ける雨のような話でした。
一週間続く印象的な雨、でも梅雨が終わったら空は晴れやかで。
「あの雨はなんだったんだろうね」そんな風に思うポジションに「先輩」という存在が居たような気がします。
もし次の世があるのなら、先輩が人間として自由を得られますように、そんな風に願います。