ひっそりと群生

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【親愛なる彼女の痕跡】感想

【男性主人公15禁】



2022年07月09日配布
ぱすてぃぶソフト』様 ※リンク先公式HP
親愛なる彼女の痕跡】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








純粋さも愚かさも紙一重



『季節は春。
 高校二年生になった及川翠(おいかわ すい)は憧れの水原来未(みずはら くみ)と同じクラスになる。
 翠にとって、来未への想いは恋愛感情よりも崇拝に近かった。
 ひょんなことから来未と仲良くなった翠は、我慢できずにその想いを来未に告げてしまう。
 戸惑いながらも、来未は翠の想いを受け止め、二人は晴れて恋人同士に。
 そうして、想い人と恋仲になった翠は幸せな日々を送っていた。
 だが、そんなある日、翠は来未の「ある事実」を知ってしまうのだった……。』
(公式より引用)



プレイ時間は1時間30分くらい。
分岐無し。

序盤、主人公の翠から今作ヒロイン、来未への想いの重さに若干の引きを感じながらも物語は翠と来未を繋ぎ合わせるかのように進みます。
ホワッとした絵柄と前半のほのぼのした恋愛モノ…そしてそれが徐々に違う何かに変わっていく「ある事実」。
人は純粋さの中に愚鈍さを内包し、愚かさの中に無垢を内包している。
本作の軸となるキャラクター達から強く人間の「どちらも内包している人間らしさ」を感じ取る事が出来ました。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
アイキャッチがこまめに入り、場面の転換がわかりやすかったです。
タイトル画面が進行によって変わるのですが、ラストのタイトル画面の学校背景で「主人公の青春がそこで止まった」感があり、非常に作風に合っていました。


『音楽』
明るく優しく日常を彩る曲が多かったです。
そしてそんな光寄りの曲調の中で展開される彼らの人間模様のややこしさにギャップが非常にあり。
「ギャルゲーに合う曲調の中でギャルゲーとは真逆の事をやる」という流れに音からも面白さを感じました。
声も全員合っていて演技も良かったです。
ただ、メインヒロインである来未の方の声質はとても良かったのですが収録環境が若干気になりました。
個人的に梨央奈と桃花の方の演技がとても好きで、梨央奈の後半の葛藤と桃花の途中の母性的な演技に主人公だけでなくプレイヤー的にも傷付いた展開を癒やされました。


『絵』
主要キャラ全員に立ち絵有り。
立ち絵ポーズは一つですが、どのキャラも表情が良かったです。
個人的に梨央奈の後半の苦悶の表情と添田の渋ったような顔が好きでした。
来未と梨央奈には私服もあり学校との違いが見えて良かったです。
一枚絵では梨央奈と空き教室で会話した際の一枚絵に狂気を感じたのと、ラストの抱きしめる一枚絵の空虚さがとえも好きでした。


『物語』
あらすじからもなんとなく察する事が出来ますが、前半の恋愛モノ、ギャルゲー感と後半の温度差が凄いです。
「ある事実」を知ってからの現実味というか…前半の物語的虚構と後半の現実的価値観の擦り合せというか…
絵柄とギャルゲ的恋愛モノ感、パステルカラー調の雰囲気に惹かれてプレイすると痛い目をみると思われます。
特に価値観の擦り合せに関しては中々にエグさがあるので覚悟を決めてのプレイを推奨します。


『好みのポイント』
物語のメインを張るキャラクター達にそれぞれ「純粋さと愚かさ」が平等に割り振られており、そこが好きでした。
皆等しく真っ直ぐで、でも醜くて。
真っ白だけど真っ黒で…そんな彼らが出会って関係を築いてしまったのが本当に悲惨でした。





以下ネタバレ含めての感想です





主人公の来未への執着と序盤で判明するキャラクターのある程度の相関図を見ればそれなりにこの流れは予想は出来ます、予想は出来ますが…
あまりにも紹介から見れる絵の質感と感じ取れる雰囲気からのギャップが凄すぎて「可愛い女の子と恋愛する作品」と思ってプレイしたプレイヤーが焼き払われるものと思われます!!
ノベルゲーム初心者がプレイするとかなりのトラウマものになるかと…地上地面から富士山頂上くらいの温度差あります、結構マジで。


今作はきっと、女性プレイヤーから見ると「主人公の翠が無理」になり男性プレイヤーから見ると「ヒロインの来未が無理」になるかなーとなんとなく思っています。
もしくは女性から見ても来未が無理で男性から見ても翠が無理となるか…それくらいプレイした人によってキャラクターへの無理度に違いが出るかと。
そして、主人公の翠が無理になる人の気持ちも、来未が無理になる人の気持ちも、他のキャラクターが無理になる人の気持ちも、全部かなり分かってしまうから怖い。
下手したら「全員無理!!」になる人が居てもおかしくないくらいにキャラクターの「無垢さと愚鈍さ」の描き方が秀逸でした。


本作は本筋で見ると翠、来未、梨央奈、添田を中心に物語が回るのですが、まぁ全員綺麗に「無垢さと愚鈍さ」が描かれているキャラクター達でした。
翠の純粋さから来る「崇拝している対象に求める清らかさ」も分かります。
けれど、「清らかじゃない場合突き放すのはその相手を人間として見ていないという事である」というのは愚かさに繋がります。
来未の純粋さから来る「悪い人は居ない、何かあっても悪いのは私の方」という考えも分かります。
けれど、「騙された時に他者に警戒をせず自分の行動の緩さを顧みない」というのは愚かさに繋がります。
梨央奈の純粋さから来る「友人の為ならなんでも出来る、今度は私が救けなきゃ」という友情も分かります。
けれど、「その救けるという思いから発生した"自分の好きな人を自分に振り向かせる事が出来るかも"という甘い蜜を啜る自分の欲を優先する行為」というのは愚かさに繋がります。
添田は今作では分かりやすく悪役として描かれているので「自分の欲(特に性欲)を優先し他者の気持ちを顧みない」というのは愚かさが思いっきり出ていますが、「自分の境遇に近い猫は救けたり、自分の有利になるように救けてくれる存在には好意的に接する」というのはつまり、「欲が関わらず、自分のテリトリーに入る存在には無垢に接する」に繋がり、それは一つの子供らしい純粋さがあると思っています。


このように、今作は明らかに「純粋であり愚かである」という…善悪に割り切れない灰色のラインに立つキャラクターが明確に描かれた上で後半から愚かな面を全員が表し全員が己の価値観を決して変える事無くエンディングを迎える為、プレイヤーから「無理!!」となるキャラクターが出てくるものと思われます。
今作は良く言えば「最後まで自分を貫く話」であり、悪く言えば「愚かな部分を変えない話」なんだろうなと。
最終的に最も変わったように見える来未ですらも、「観客の偶像を糧に売っていくアイドル」という存在に非処女で飛び込むわけですからね…
正直、アイドル業界は翠以上に非処女に夢見ているような観客が多いと思われるので、ある種の他者へのナメを感じます。
作中で「自分の可愛さに無自覚」と翠は思っていますが、アイドルなんて自分の可愛さに自覚的じゃないとやっていけない職業だと思われる以上、来未は自覚的で…
おそらく翠が思っている以上に来未は狡猾な面があっただろうなと、その点でも翠は神聖を見る目が無いなと察せられる所がまた愚に拍車をかけていました。


もっと、翠から来未への気持ちが「普通の恋愛感情」だったらこんな事にはならず。
「そっかー、付き合ってた人が居るのか、来未は可愛いから仕方ないね」で終われたと思うのですが。
なにぶん、翠から来未への気持ちは崇拝で信仰なんですよね。
宗教的価値観での信仰対象には当然清らかさと処女性が付き纏うわけですから、崇拝で信仰である以上、来未は絶対に受け入れられないものだとは思っています(来未と翠の母親のボイスを同じ方がされていらっしゃいますが、ひょっとして来未と母親を同じ方を起用する事により、宗教的信仰…聖母への信仰のような構図にされているのかな?と思ったり…どうなんでしょう?思い過ごしでしょうか…)。
それこそラスト、処女であった梨央奈の方と結ばれるのですが…まぁ、ここでラスト、梨央奈を選ぶラストが固定で来未を追いかける未来が無いのは良かったです。
これで、来未を追いかけて結ばれでもしたら今度は梨央奈が処女を失っただけで終わり、翠は添田と同じになり、自分が苦手で侮蔑するような価値観の相手と同位置になるので。
そのあたりもまた純粋さを貫き、「ブレずに自分を貫いたな」と思います。


まぁでも、今作、面白いのがギャルゲー的目線で見ると序盤から来未が「ん…この娘、地雷なのでは?」と察せられ、梨央奈や桃花の方に明らかにプレイヤー的好感度が向くようになっているのが面白いなと。
来未、どう見ても詐欺に騙された後に「騙された私が悪かったの」とか言っちゃう系ですからね…現実的な目線で見てそういう娘と共にするのは難しいですし、危機感低く貞操観念低い女性というのは男性から見ても(というかある程度の倫理観と他者の悪意を知る女性から見ても)マイナス要素だと思うので。


というか桃花ですよ桃花!!
どう考えても桃花が一番の優良娘なのに全く靡かないのはどうかと思います!!
これがギャルゲーだったら絶対にルート分岐がある上で人気一位でしょう…
途中、「価値観の相違」というかなり現実的な要素を叩きつけられた際に桃花に真実を話し相談するシーンで「小学生にオブラートに包まず全貌を明かすか…?」となり、「実は桃花は妄想の中の存在では…」とまで勘ぐりましたが、一応現実に居る娘みたいだったので、主人公の精神状態には安心しました。
某夕焼けしかない狂気ゲームみたいにならなくて良かったです…
だからこそ、桃花ルート欲しかったですね。
小学生で貞操観念しっかりしてる娘なんて翠の為にいるような娘じゃないですか、恋愛は価値観に相違が少ない方が楽ですよ。
願わくば桃花ルート…幼馴染の年下の女の子と結ばれる超絶ギャルゲー展開見たかったです。


梨央奈を抱かずに来未を受け入れるルートも…見たかったといえば見たいのですが、ただこのルートに関しては主人公が己の価値観を変える展開になるので無くて良かったかなと思っています。
「来未と話し合わなきゃ」と立ち上がったにもかかわらず「崇拝している来未が純潔じゃないのは受け入れられない」という「価値観を変えられなかった」、「自分の純粋さと愚かさをある意味で貫く」、今作はそういう話だと思っているので。
自分をどこまでも貫く揺るぎないキャラクター達の「純粋さと愚かさ」に苦味と胸焼けと苦笑いと、「人間そんなに変わらないよなぁ」という納得感とブレない爽快感を感じる一作でした。