ひっそりと群生

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【金魚の姫と明日の夏海】感想

【女性主人公全年齢】



2022年11月27日発売
Nice Net Neat』様 ※リンク先公式HP
金魚の姫と明日の夏海】(PC) ※リンク先BOOTH
以下感想です。








君と過ごすひと夏の金魚姫物語。



『夏祭り。ほのかな灯りがきらめく場所も、金魚にとっては一大事。
 今日もまた同胞たちが次々と姿を消していた。

 その光景を、一匹の金魚が見上げている。

 彼女の名は、金魚 姫(かなうお ひめ)。
 悪しき人間の手から金魚を解放するのだと、決意だけは一人前の少女。

 そんな姫に、手を差し伸べた人間がいた。

 彼の名は夏海 歓(なつみ よし)。
 まだ何の力も持たない、ありあまる優しさを持った少年。

 彼女と彼の日常は、どこまでも普通で、どこまでも夢のよう。

 きっとこれは、今できることに一生懸命な生きものによる、ひと夏の恋物語だ。』
(公式より引用)



プレイ時間は約2時間30分くらい。
分岐有り。
攻略は『公式サイト様』(※リンク先公式)にあります


祭りの金魚の養殖が盛んな町。
そんな町の養殖場で一匹の金魚が人間の道楽に使われる己の存在や同胞に嘆き、「いつか同胞を人間から開放するのだ」と意気込んでいた。
そんな彼女の決意虚しく、金魚の少女はお祭りにて人間の少年に掬われてしまう。
しかし、実はこの金魚の家系は不思議な力があり掬い上げられた瞬間、人間の姿に。
人間に変身出来、不思議な力を持った金魚の金魚(かなうお)の一族。
突然の人間の姿や人間社会に驚く中、掬い上げた少年は優しく少女を導き自分の家に連れて行く事に。
金魚の頃は憎かった人間、しかし、同じ人の目線で見ると悪い人間だけでは無い事に気付いて行き…
金魚の少女と人間の少年が織り成す異種間愛ボーイミーツガール。



『システム、演出』
吉里吉里製。
スクロールの滑らかさやUI関係の動きのそつの無さ、絵が一枚一枚動く細かさは流石の吉里吉里
スキップも早く、ED回収も非常に捗りました。
OPも各キャラクターの動きやアニメーションの展開などが非常に見応えがあり、ここからはじまる物語のワクワクがたまりませんでした。


『音楽』
全曲オリジナル。
日本の夏や金魚の題材らしく、「和」を基調にした曲が多かったです。
幻想的だったり、夏の暑さを感じたり、その中のどれにもどことなく「和」がありました。
「夏の華、一鱗」「能力発動」が特に好きです。
優雅に踊る金魚を感じる曲で今作をとても表していたと思います。


『絵』
立ち絵の表情だけでなくポーズや洋服の豊富さに驚きますし、眼鏡の有り無し、髪型なども状況に反映されており違和感が皆無です。
更に金魚一族のデフォルトでの和装のきらびやかさが素晴らしい。
着物にフリルが散りばめられており、金魚のヒレが着物で表現されており、人間から見た金魚のヒラヒラとした美しさが擬人化でも満遍なく描かれていました。
更に、髪の色彩なども一つの色だけでなく赤から白へとグラデーションがかかっていたり、「金魚らしさ」が研究され尽くされていました。
人間の姿の姫もきらびやかで美しいのですが、金魚の姿の時の表情変化もまた可愛らしかったです。
町の背景写真も、どことなく現代の京都や鎌倉を彷彿とするような、「雅な和風の町がそのまま現代の町になった」そんな背景を選別されていて、静かで昔から続く田舎町の空気感がたまりませんでした。
あとこれはたまたまなのですが、吉里吉里の起動アイコンのデフォルトが魚なので、金魚に合い過ぎてるなとは思っていました。


『物語』
主人公である金魚の姫と姫が出会う少年、歓の交流が可愛らしく、10歳くらいの少年少女感が溢れていてまさにボーイミーツガール。
その上で10歳くらいではありながらも姫は「金魚の姫」の名に相応しく、知識しか持ち合わせない中で人間社会の事を知って行き、自分が相手に失礼をしたと分かるとすぐさま謝り決して言い訳をせずにしっかりとその間違いを反省する姿勢を見せたり。
歓も見た目はナヨナヨ系の少年に見えますが実は頭が良く行動力もあって、気付く所で直ぐに気付き姫を気にかけてくれたり。
とにかく二人の少年少女が聡くて思慮深く、読み手が不快に感じる愚かさが一切無いため清々しい気持ちで二人の経緯を見る事が出来ました。
歓の父親や兄など夏海家の方々もとても優しく暖かく…金魚を商売に使う人間はたしかに金魚から見れば悪ではあるけれど、夏海家というミクロで見ると「悪い人」は居ないというのが非常に良かったです。
日常面はとても良いのですが、若干戦闘描写が心もとなかったり、姫の視点から外れると会話のみで進行するので説明不足感があり、三人称でも良いので地の文が欲しいなとも思いましたが、金魚から見た外の世界や人の姿になってからの人間への印象への変化など、「多種族から見たこの世界」の描き方がとても上手だと思いました。


『好みのポイント』
EDのどれもが都合の良いEDを迎えない所が好きでした。
なんとなくの奇跡は起こるけれど完璧な奇跡では無く。
途中、人魚姫の話が出てきますが、あの物語ほどの悲劇は起きないけれど、「金魚と人」の話から逸れる事は決して無くて。
今作が最後まで「金魚」の姫の物語であるという揺るぎなさを感じ、とても良かったです。





以下ネタバレ含めての感想です





姫と歓が本当に良い子で良い子で良い子で…
見ていて微笑ましく可愛らしく、小学生くらいの少年少女がホワホワと仲良くなる描写が好きな自分にはたまりませんでした!
そんなホワホワしつつも二人共本当に良い子で聡い、大人が心配になる程に賢く。
途中のお金の問題にて姫は元は金魚なのだから一応知識があるとしても「お金があるなら払えば良いだろう(フフン)」みたいなお姫様らしい傲慢さを見せるかと思いきや、お金の問題と稼ぎの問題…兄のバイトや父の夜勤などの姿をしっかりと結び付け、「お金がどこから入るかなど考えた事が無かった…この洋服を買うお金は私が使って良いものでは無い」と夏海家の事情や自分の立場を即座に理解しお金を使う事への申し訳無さに店を飛び出す姿を見せ、「傲慢系お姫様じゃなく、ノブレスオブリージュ系のお姫様キャラだった!!」と良い意味で予想外のキャラクター性を見せ
更には頭を下げ、夏海家の面々に住まわせて貰っている事を感謝する姿に「本当の高貴さ」があり、その気高さに惚れ惚れ。
姫は夏海家に美味しい料理を提供しているので、料理番として働いてもいるのに、ちゃんと「料理番では彼らが稼いで来るお金にはなっていない」と弁えている所に居候としての配慮が行き届いており下手な人間以上に物事を考えていてとても好感が持てました。
そういうお金の方面で気にした姫に対し夏海家の面々はちゃんと「美味しい料理で返して貰ってるよ」と姫の料理番の仕事を肯定する所まで含めてGOOD、対応が完璧で…
皆がそれぞれに相手を思いやり、相手の行動を立て、一緒に暮らしていく姿は「家族モノ」が好きな自分にとても刺さりました、夏海家、最高です。
歓と蒼の対比も良く、蒼が見た目はしっかりに見えてちょっと抜けているアホなお兄ちゃんで、歓が押しが弱そうに見えてとてもしっかりと地に足がついている弟で、この兄弟の今までの生活や苦労などが見えて来るのが良いなーと思いました。


歓と姫の「押しが弱そうに見えるけどしっかりものの少年×気が強そうに見えるけれど謙虚さがあり気高い少女」のカプも最高ながら、蒼と草の「しっかりものに見えてポケポケしてる青年×凛々しく見えて乙女チックで一途な女性」のカプも最高で…
更には父親と姫の母、更には祖母の「父と祖母の決して恋愛では無いけれど、弱った人間を見捨てておけないお婆ちゃんと妻を亡くし弱っている父」のコンビや、「決して妻の事を忘れられない父とそんな父に想いを寄せてしまった母」の片思いカプもまた最高で…
とにかく男女カプや男女コンビ好きに刺さりまくる要素がいっぱいで幸せでした!!


そして今作は「金魚の反乱」という言葉が出てくるので金魚vs人間になるかと思いきや、金魚(かなうお)一族と夏海家の確執の話であり、この界隈だけで収束を迎えるので、間違いなく金魚(かなうお)と夏海というある意味で閉じた世界の物語で。
今作タイトルが「明日の夏海」とあり「歓」じゃないんだ…と不思議でしたが、後半に進むにつれて納得でした。
今作は「夏海家」の全員の話なので、タイトルが「金魚の姫(金魚(かなうお)の姫君達)と明日の夏海(家)」なんですね、なるほど。
金魚(かなうお)の一族も、「人間に掬われたら人魚に戻る事が出来るけれど、自分から人間に変身してしまったら人魚に戻る事は出来ない」など、自分達を養殖し祭り事に使う人間に負の感情を向けつつも、「人間が居ないと金魚に戻る事は出来ない」など、様々な方面で人間を中心に能力が回っており。
金魚という存在が「フナの突然変異を人為的に選択し、観賞用に交配を重ねた結果生まれた観賞魚」という「人間が観賞の為に交配し養殖した存在」であり「種の根源に人間が居る」という人間からの逃れられなさもしっかりとあって、中々に面白かったです。


最後、3つのEDを迎えて、一つは悲しい終わりを迎え(ED全体で見るとBADっぽい)、もう一つは金魚に戻るED、もう一つは人間の姿になるEDを迎えますが、「完全に人間になるED」が無かった所が好きでした。
人間の姿になるEDがありますが、一年後に姫が中学生くらいで歓よりも明らかに大きくなっている為、お婆さんよりは成長スピードが遅いかもしれませんが、人間の成長スピードよりもおそらく早く。
歓はどう足掻いても姫を先に看取る側になるのでしょう…そして、それを覚悟して一緒に居ると思うと切なくなりました。
今作は人魚姫物語のように想いが成就されず泡になって消える結末は迎えませんが、想いが成就しても金魚姫としての物語からは逃れられないのだなぁと。
ただ「金魚の姫は人間になり、お爺さんとお婆さんになるまで幸せに過ごしました」という手放しで喜べるEDになっていない所がとても良かったです。
今作は「金魚の姫と明日の夏海」なので、明日…どこまで行けるかは分かりませんが、姫と歓に永遠では無い明日を駆け抜けて欲しいなと思いました。
そんなひと夏の中に和や雅を感じるとても心地よいボーイミーツガールものでした。