ひっそりと群生

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【消失現象R/アール】感想

【群像劇全年齢】



2022年08月08日配布
物置の中の骸骨』様 ※リンク先公式HP
消失現象R/アール】(PC) ※リンク先ふりーむ!
以下感想です。








R、そこは好きな自分に成れる場所。
R、そこは望む世界が広がっている場所。
Rへ、さあ行こう―――。



『世界が二つある不思議なノベルゲーム
 ●物語
 内容については、下記の特徴を参考にしてください。
 <特徴>
 ・二つの世界(世界アール・世界R)が存在します。
 ・シーンは一つずつ解放され、複数の視点で物語が進行していきます。
 ・ただし、シーンの解放は、世界・視点をまたいで実行され、また、必ずしも時系列順ではありません。
 ・上のような特徴のため、特に序盤は混沌として見えるかもしれませんが、情報のピースが集まるごとに物語の全貌が見えてきます。
 ・そして、最終的に、「消失現象R/アール」を取り巻く事象が明らかになるまでの物語です。
 ・繊細な人間心理を掘り下げた、硬派な物語です。

 ●キャッチコピー
 ―― さあ 行こう ――』
(公式より引用)



プレイ時間は4時間30分くらい。
分岐無し。


とある町、6人の主人公達はそれぞれの人生を歩んでいた。
しかしある時、それぞれは事件を迎える。
その事件から彼らは過去に囚われながら鬱屈さを抱えて生きていた。
そんなある日、町にRAKDA館という店が建つ。
そこでは「客が望む世界」が待っているらしく…
町の人々は吸い込まれるかのようにRAKDA館に向かって行った。
RAKDA館が現れてしばらく経った時から起こる住民達の消失現象。
そして現れたもう一つの世界、「R」。
世界「R」と「R」の住民が語る「アール」という世界。
6人の主人公達は世界「R」と世界「アール」に巻き込まれ、境界を失って行く…



『システム、演出』
吉里吉里製。
基本性能有り。
ただ、履歴が若干バグっており、しばらくプレイすると過去の会話文が履歴文章に被さり履歴が綺麗に読めなくなって行きました。
この問題は再起動すると戻ったのですが、連続プレイだとストレス箇所だと思います。
ツールが吉里吉里なのもあり、ズームイン、ズームアウトなどの画面の動きの滑らかさは見ていて気持ちが良く、「今何を注目して見ているか」が明確に伝わってきてとても良かったです。


『音楽』
全曲オリジナル。
突出して好みの曲は無かったのですが、全曲満遍なく不穏さを抱えており、どの曲も不安や焦りを感じさせて作品内容に合っていました。
声はフルボイス、ただ、演技面で見るとDLサイトなどの紹介文で表記が無いキャスト様に関しては聞きやすいとは言い難い所がありました。
表記のあるネット声優の方々の演技はとても良かったです。
ただ、作品全体の雰囲気で見ると、後半、その聞きやすいとは言い難い中から生まれる無機質さが世界観とマッチしていて中々に絶妙な感じに。
演技単体で見ると上手いとは言い難いですが、「最終的に作品には合っていた」そういう印象を受けました。


『絵』
こちらもまた人物画が独特です。
リアル寄りで愛想が無い感じが暗澹とした空気に合っていたのと、立ち絵枚数や一枚絵は多いので、その時その時でキャラクターがどんな表情を浮かべているのか、どんな感情で居るのかがかなりダイレクトに伝わりました。
背景も独特なタッチですが、ほぼ全部オリジナル、文章と連動してしっかり背景描写が反映されるので、背景と状況が一致しないという場面が全くありませんでした。
本当に細かく、一行単位で背景が移り変わる場面が多いので、背景からも状況が把握しやすく。
物語の時間軸がバラバラな構成なのですが、背景の建物などで一気に今の時間軸を把握出来た所もとても良かったです。
特に一番最後にのみ、今まででは無かったとある背景になるのですが、それが作品の主張と合わさり演出の上手さを感じました。


『物語』
上記で語った通り、時間軸がバラバラの構成になります。
チャプターが全135個あり、一つにつき約10~15分くらいで読めます。
チャプター開放順は決まっており、1から順番に読む事は出来ず、プレイヤーはバラバラの時間軸とバラバラに開示されるキャラクターからキャラクター達の過去や現在を追っていく形式。
商業ではあまり見かけませんが、同人ではそれなりに見かける形式で、「これぞ同人!フリーゲームの醍醐味!」という気持ちに。
物語は約6人のキャラクターの人生と世界「R」での出来事を追っていくものになりますが、そのどれがものの見事に薄暗く、影がある話ばかり。
後悔、傲慢、嫉妬、執着…そういう文字で埋め尽くされそうなほど、登場人物達の状況や心情の描き方が絶妙でした。
そんな、下手をすれば暗くなりすぎてプレイするのが阻まれそうになる作風の中、所々で独特なセンスのSEやネーミング、背景などがお出しされる事により、変な笑いを醸し出し、暗くなりすぎない空気になっていた所にとんでもないバランス感覚を感じました。
いや、本当に、この作風でプレイヤーの気持ちが決して地の底に落ちないの、凄いです。
文章自体も読みやすく、複雑な展開が続く中、夢のような理不尽さはあるとしても理解不能という状況が無かった所に文章の上手さを感じました。


『好みのポイント』
クリア後の「あとがき」にもあるように間違いなく「変わった」作品だと思います。
一つ一つをクオリティ面で見るとさほど…になるけれど、全てが合わさり一つの作品として昇華されると独自の世界を生み出しているタイプ。
好みは大変分かれると思いますし、7、8、9割くらいが振り落とされそうな作風ではありますが、他では類を見ない空気感の為、癖になった人にはたまらないタイプ。
こういう作風があるのが個人制作の強みだと思っているので、読んでいてその独特さが大変楽しかったです。
あと、本作は公式に記載は無いのでジャンルとして扱うのは違うと思いつつも、一応「男同士の激重感情」がかなりあるので、苦手な方は注意です。
ジャンルに無いのでBLとしてはカウントしませんが、感情の矢印がかなり重いです。





以下ネタバレ含めての感想です





読んでいる最中に感じたのは「このドス黒い心理描写と拗れに拗れた対人スキルを持つキャラクター達の物語でプレイヤー側のメンタルが落ち込まない事が凄い!」でした。
とにかく暗い、自己肯定感の高さや低さを同時に見せ付けられる上、他者への執着や加害者被害者などの構図の何もかもがドス黒い霧で覆われています。
それなのに全くプレイヤーが暗い気持ちにならず…
その理由はおそらくキャラクター達があまりにも自身の最悪な部分を隠す事無く綺麗にモノローグなどで言語化する為、「華麗なるクズ」というか「そのクズさをモノローグとはいえ隠さない、ある種の純粋さ」があった所にあるのかなと。
自分の中でせめて心の内だけでも良い所を見せたいというか…心の中で言い訳をして自分を納得させたいというか…そういう部分がこの作品のキャラクター達には無いんですよね。
言い訳は全くしないままで「いや、私は正しいから」みたいなスタンスでクズっぽさを出すので、それが逆に清々しさに繋がっていて。
「(色々と最悪だけど)なんて気持ちの良い奴らなんだ!」みたいな気分で読み進める事が出来ました。
陰鬱でありながらも清々しく当然のようにアレな行動を起こすので、陰湿にはなっていなかった塩梅が絶妙で。
そういう「清々しいクズ」な所に個人的にフィクションでの面白さを感じ、「画面の向こうの出来事」としてネガティブに引きずられずに受け取れた所があったと思います。
あと、上記でも書きましたが所々のSEで謎のテンションでの掛け合いが入ったり、背景などの看板のネーミングセンスが「ナンジャコリャ」なのが多く、そういう点でもフィクションを感じられたところにもバランス力を感じました。
駅名の「どびん」「しびん」、行き先「堕落」行きへの電車、「講師がアンニュイ、生徒もアンニュイ」の張り紙、「カフェ デガラシ」「おさるのバケツ」という店、などなど、そういうところにも「変」さがあり…
例えるならシリアスなシーンで突然ボー◯ボやギャグ◯ンガ◯和の空気感がお出しされる為、シリアスに感情を全振り出来ない作りになっています。
ひょっとして作中で重要なRAKDAも「楽だ」から来てるのでは?と思うほどのネーミングセンス。
今作は登場人物に引きずられシリアスに感情を全振りするとおそらくキツイので、その謎なセンスに個人的に助けられました。


作中の時系列ですが、構成考察が得意ではない中、一生懸命流れを考えました。
最も古い主人公同士の交流がある過去はおそらく麻山と豊川の学生時代。
ここから考えて行くと、


麻山と豊川、学生時代に出会う

そこから更に時間が経過し灰ヶ峰が忍に出会い惹かれ、忍の弟の渚とも出会う

喜多乃が渚と広輔に出会い、渚に惹かれる

渚、駅のホームで広輔に突き落とされ昏睡状態に

灰ヶ峰と忍、喜多乃の人生が狂い出す

更に時間が経過、忍が渚の件もありRAKDA制作

灰ヶ峰、ホストに

由愛、灰ヶ峰と出会う

喜多乃、広輔と再会し、広輔に渚を重ねて惹かれる

広輔、喜多乃に言い寄られたのと渚の件もありRAKDAへ

灰ヶ峰、忍と再会

由愛、灰ヶ峰との件で友人と険悪になりRAKDAへ

麻山と豊川、再会

情緒不安定な広輔をカウンセラーである麻山の元へ

麻山、豊川にRAKDAを勧めてしまう

豊川、RAKDAへ

喜多乃、広輔の件を探る為、自らもRAKDAへ

灰ヶ峰、忍の情緒不安定を確かめる為にRAKDAへ

麻山、情緒不安定になった豊川の件を確かめる為、RAKDAへ

そして、「R」出来事に繋がって行く


これが現実世界での出来事だと思います。
そして「R」での出来事は「世界R」の時系列順になるのですが、現実世界である「アール」と時系列をなぞると、おそらく若干「R」の方の時間の流れが遅いというか…
シーン数が現実世界よりも少ないのでそうならざるを得ないのですが、多分現実世界「アール」と「R」は「現実世界から人間の意識を一度は引っ張って来て電子世界に入れるけれど、そこから先は同じでありながらも違う存在になる」のではないかな?と感じました。
現実世界で仮想世界「R」と繋がると「R」でキャラクターが出来、意識はそこに引っ張られる。
けれど、完全に「R」のキャラと同化しているわけでは無く、「R」にキャラクターが出来た時点で「R」の自キャラと若干の意識のリンクを発生させながらも現実世界の自分と「R」世界での自分で意識が半々になり、現実世界の自分が奇行に走る。
「R」では現実世界の認識は不可能である為、「R」世界の住人は現実世界の自分の意識が完全に消えるまで「R」世界の住人としてしか存在出来ず、その時点で現実世界の自分と「R」世界の自分が完全に分かたれた形になる。
こういう事なのかな?と。
なので、「R」世界の中で救けるという事は出来ず、現実でなんとか意識を戻すしか「R」に囚われた人を救う方法は無いのだろうなと。


今まで仮想世界系には沢山触れてきたと思うのですが、「現実世界の自分=仮想世界の自分」が殆どだったのに対し、仮想世界に自分の意識を入れた時点で完全に別の存在が出来上がり、同じでありながらも違うものになる…「現実世界の自分≠仮想世界の自分」という構図になり、最終的に「仮想世界のキャラクターは現実世界の自分とは別の道を進み、電子の海に消えていく」というラストを迎える作品はあまり無かったので新鮮でした。
最後は「現実と向き合う」という主張をされるので、「仮想世界のキャラクターは仮想世界のキャラクターとして独立し切り離され、それぞれが現実に帰還し現実を見つめる」というラストなのだろうなと。
上記の項目でも書きましたが、最後の唯一の写真背景で終わる事によって「現実を生きる」という主張に力強さがありました。


正直、まだ、色々と謎は残っています。
ライオンが探していた「青い実」はなんだったのか?
ライオンが洞窟で負かした生物はなんだったのか?(おそらく電車だとは思いますが、電車のシーンはライオンが泉に向かうシーンと繋がると思うので時系列が…)
ライオンが言う「センセイ」とは誰なのか(一緒に開発したタカツ?)。
など、正直、ライオンに関しての謎が多いです。
ただ、「現実世界の自分≠仮想世界の自分」という仮説が正しいのなら、「忍≠ライオン」になるので、あのシーンでのライオンの動きは忍に反映されるものでは無く、彼女が「R」世界での少女、ライオンとして個人的に動いていた姿なのかな?とは思いました。
渚のラストの病院のような場所を歩くシーンも謎ですし…
これはメタな想像ですが、医者の声と木戸の声の方が一緒なので、木戸は医者になり、それが「センセイ」に繋がり、木戸からの助言で忍が渚を目覚めされる為の「何か」を探していたのかな…?とも考えましたが…あまりにもメッタメタな想像なので、これは無いかなとは思います。


色々と世界の構造について考えつつも、最終的には「現実を見つめる」に帰結するとは思っているので、あまり「R」世界を深堀りするのも良くは無いのかなと。
彼らが現実で他人の為や自分と向き合う為に行動を起こせば運命が変わるという構図…(裏)ルートに行ける未来があるというのがゲーム的でとても好みで良かったです。
あとは喜多乃の少年への執着や、灰ヶ峰が忍に向ける執着がかなり好きでした。
BL…と言えたら良かったのでしょうが、最早LOVEという綺麗な感情では無く。
ファムファタール的な…男性同士のオムファタールで「運命を狂わせる相手」という表現がしっくりきて。
こういう一目惚れ的な要素は上手く描けないと陳腐な関係になりがちな中、読ませる文章や世界観もあり「灰ヶ峰が忍に重い感情を向ける理由は分からないけど、理解は出来る」というのを上手く表現されていたなと感じました。
個人的に麻山と豊川の関係の方が麻山が豊川を良いなと思っている部分の説明が「名前だけ」だったり、怪しいRAKDAに自分が確認する前に豊川を向かわせたりするので、「麻山の好きって何!!?」「麻山よく分からないけど怖い女性だ…」となっていました。
自尊心が高すぎる所とかも含めて彼女に対しては妙な忌避感を感じていますし、プレイヤーと共にRAKDAの真相に辿り着く存在ではありますが、作中、最も彼女に向ける印象がさほど良く無かったり謎だったりで一番プレイヤーから遠い人物だと感じたのが中々に面白かったです。


まさに「独特」を貫いた作品でした。
作者様からも「変」と言われているように「変わった」作品ではありますが、こういう作品があってこその同人、フリゲだとも思っています。
フリゲらしさを存分に浴びる事が出来、大変楽しかったです。