ひっそりと群生

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【あいからの鎖】感想

【女性視点全年齢】



2018年08月31日配信
鳥那狐蘭』様 ※リンク先公式HP
あいからの鎖】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








自殺願望のある独りでは居られない少女と、殺人衝動のある殺人鬼を名乗る少年の、どうしようもなく破滅的で儚い共依存



『主人公、笹音浪榎(ささねなみか)は自己肯定感の低さと孤独から常に自殺願望を抱えている少女。
 誰かと付き合っている時だけは、孤独を忘れられ、必要とされていると感じる事で、自殺願望を紛らわす事が出来、常に誰かと付き合っては別れを繰り返していた。
 そんな浪榎はある日、唐突に、恋人の男性から別れを告げられてしまう。
 恋人と別れた事で孤独を感じ、自殺願望を再び感じ始めた浪榎は死ぬ為に学校の屋上へと向かう。
 しかし、屋上には鍵がかかっていた。
 また死ぬ事が出来なかったと途方に暮れる浪榎の元へ、同じクラスの少年、葦阿瑛(いくまえい)が現れる。
 彼は自分の事を殺人鬼だと言い、最近、町で起きている無差別殺人事件の犯人だと告げる。
 そして、浪榎を殺すとも。
 死を受け入れる浪榎。
 葦阿は浪榎の首を絞めるが、死の寸前に浪榎は「死にたくない」と葦阿に叫ぶ。
 葦阿の手は離れ、浪榎は自由になり死ぬことは無かったが、同時に葦阿からなら自分が求める死を与えられる事を、そして死ぬギリギリで生を感じ取れる事を知る。
 抗えない殺人衝動を持ち、しかし「生きたい」と願う人間を殺すのには躊躇いがある人間離れしながらも人間を捨てきれない葦阿。
 死にたいと願いながらも死ねず、葦阿の手によってもたらされた死の瞬間に感じた「死にたくない」という気持ちで生を感じた浪榎。
 葦阿は死にたい浪榎を殺そうとする限り、罪悪感を持つこと無く、何度も殺す感覚を得て殺人衝動を満たす事が出来。
 浪榎は葦阿と共に居る事で、常に一人の孤独から逃れられ、葦阿に殺されようとする事で、自殺願望を満たす事が出来た。
 そうして、二人の歪んだ共依存の関係が始まった。』



主人公が自殺願望があったり、家庭環境や今までの人生からかなり悲観的で、とにかく始終陰鬱に話が進みます。
「明るい主人公が好き!!」というタイプにはかなり向かず、その溢れ出る孤独感から辛い気持ちになり、読むスピードが落ちかけそうにも見えますが、それでも続きが気になったのが殺人鬼を名乗る少年、葦阿君の存在。
彼の思想や会話する際の話の構築の仕方がとにかく独特で、彼との会話にとにかく惹き付けられました。
殺人鬼を名乗りながらも人の心理を事細かに知っている、知っていることが分かる言葉の選び方、そして、殺人衝動があると言いながらも人を殺す事に対する負い目。
そんな相反する彼の言動にとにかく魅せられ、彼との会話を中心に描かれますが、その会話が面白いので、「もっと彼と話をしたい」「もっと彼の言葉を聞きたい」と主人公とはまた違う興味を彼に抱きました。
そしてそんな不思議な彼と会話をしていく内に、主人公の抱えている家庭問題、過去、唯一の友人、自分について…その全てと主人公は向き合う事になります。
自殺願望、死生観などを題材にしつつ、殺人鬼を名乗る存在が側に居るという、どこか非日常的で魅力的に描かれている存在を組み込む事で読むスピードが遅くなりがちな暗い要素を打ち消しグイグイと進めて行く筆力にはただ圧巻の一言。
世間からズレている、家庭環境から普通では居られなかった少年少女の共依存の物語の、どことなく分かってしまう孤独な部分に胸が締め付けられる想いでした。



『システム、演出』
ティラノ製。
デフォルト設定です。
起動時に注意書きを飛ばす事がが出来なかったのがちょっと残念。
最初はPC版でプレイしていましたが、PC版の方では漢字とひらがなの文字の大きさなどが異なり若干読みにくかったです。
体調もあり、初めて途中から「ノベルゲームコレクション」の方で読みましたが、こちらでは文字表示などは携帯なので小さかったですが、文字の大きさは統一されていました。
オススメはブラウザ読みかもしれません。
クリア後に音楽鑑賞モードがありますが、曲を順に送っていき、前の曲に戻れない音楽鑑賞モード初めてでした。
出来れば選択式にして欲しかったです。


『音楽』
ピアノ曲の統一感が良かったです。
素材曲で、いくつか聞いたことがあり。
好きな曲もいくつかあったのですが、どれも良いシーンに効果的に使われており、好きと好きが重なり最高でした。


『絵』
立ち絵はオリジナル。
誰も彼も、どこか作ったような笑顔で…その、笑顔でありながらも目が笑っていない姿がどことなく恐ろしく。
恐ろしさと同時に作風に凄く合っていたので、「人の、何かを隠しながら生きている姿」が鮮明に描かれていたと思います。


『物語』
凄く理知的な会話が多かったです。
特に葦阿君の、主人公の不思議に思っている事の正解をくれる的を得たような会話は読んでて楽しかったです。
地獄に光が差し込み、徐々に晴れていくのも段階を踏んでいて良かったです。
ただ、ラストに少し思う所がありますが…そこはネタバレなので下で書きます。


『好みのポイント』
葦阿君、好きです。
無償で側に居るのではなく、彼にもちゃんと彼の目的があって、だからただ与えられるだけじゃなく。
ただ与えられるだけの負い目を感じなくてもいい所に安心できるのが凄く良く分かります。
全ての過去を、感情を晒してまでも側に居てくれて、独特の言葉、会話の構築の仕方が独特でありながらも欲しい言葉を、最も必要な言葉をくれる彼のような存在が居てしまったら…
共依存になってしまうのも分かります。
私だったら、彼が何者であっても、彼を選んでしまいます。





以下ネタバレ含めての感想です





葦阿君との共依存、最高でした。
でも、だからこそ、殺人鬼の真相は悲しかったです!!


葦阿君が殺人鬼だからこそ成り立っていた関係で、殺人鬼だからこそラストのあの選択肢に悩む事に意味があったと思っています。
実は別の人でした~で、えぇ…みたいな…若干の肩透かし感が…
あと、浪榎の恋愛至上主義の生き方をしている中に、葦阿君の殺人衝動の生き方が入る事で物語に歪さが生まれ、二軸の全く違う価値観を中心にしているけれども共依存をする。
二人の交わらない価値観が利害の一致で交わるという部分好きだったのですが、ラストで葦阿君も恋愛で行動する人物だと明かされる事で結局は同じ軸に居た事になり、「結局は恋愛か…」みたいな気持ちになりました。
まぁ、要するに、今風に言えば、葦阿君が恋愛で行動する人という結論がラストで明かされる事になり、今までの殺人鬼としての葦阿君が好きだった自分と解釈違いになったんだなぁと思ってます。
「あいからの鎖」は葦阿君の「愛」から浪榎に渡される共依存の「鎖」って意味なのかなぁ…どうなんだろう…
もしこの意味が合っていれば、タイトルから見れば葦阿君が恋愛で動いててもおかしくはないんですよね…
でも、葦阿君に恋愛脳で居て欲しく無かった…みたいな解釈違いはやっぱりあります。
…ただ、ここの葦阿君の真実の気持ちから来る行動に関しては、ラスト、浪榎も近い感情だったのか、殺人鬼ではない葦阿君をフるので、よくやった!!という気持ちです。


それと、「葦阿くんを見逃す」のEDはあの真相がある事で、別に殺人鬼でもない、自分を別に殺してくれる気がない少年と一緒に居るって事で…
私は、浪榎と葦阿君の関係は「いつか彼が殺してくれる」という部分に美しさを、そして、彼が殺人鬼で、殺人衝動を抑えられなくて、唯一無二の友人の親族を殺した。
だからこそ選ぶ「ラストの二者択一」に魅力を感じていたので、その部分が無くなってしまう事に自分の中での魅力が半減してしまった所があります。


あとは、彼が本当に殺人鬼だったらEDの中に本当に「浪榎を殺すED」があって…
そのEDを迎える事で、今まで浪榎をどんな理由があったとしてもないがしろにしてきた家族や、心の中では下に下に見ていた親友にある意味で一矢報いる、永遠に消えない傷を残すみたいなEDもあったのかなぁって…


だって、悔しいじゃないですか…
これは、私の価値観の問題なのですが、私は毒親を絶対に許せないタイプの価値観があって。
作中で浪榎は母を許しましたが、その部分に凄くモヤッとしてしまいました。
親は、どんな事があっても子供に当たってはいけないし、子供をないがしろにしてはいけないです、そこだけは絶対に譲れません。
浪榎は母を許したとしても、私はあの母親を許せないのです。
しかも、「もし、新しい父親に捨てられてもまた同じ事をしてしまうかも…」って…
え…それ、反省してないじゃん…としか正直思えませんでした。


だからこそ、浪榎の自殺願望の「死ぬ」という願いと、葦阿君が本当の殺人鬼で殺人衝動が抑えられず、最初の浪榎を「殺す」という願いが…
全ての物事が良い方向に進んで、もう悩みも無くなったとしても、その二つの衝動が消える事無く同時に叶ってしまうEDが見たかった…という気持ちがあります。


勿論、メインのEDは卒業EDがGOODで、正史で、正しいEDだとは思っています。
ただ、ゲームという無限の分岐の可能性を秘めている媒体だからこそ、二人の抱える「死」を正当化するEDも見てみたかったです。


色々とラストについて思った事を書きましたが、ラストのメインEDは正史として、物語としては凄く正しいEDだと思う事。
そして、なによりも浪榎の卑屈さは共感できる部分が多すぎて、身につまされる思いでした。
「自分の必要性」「世界から見た自分の立ち位置」「死への憧憬」その全てが完璧とは言えないけれど分かってしまい…


ただ、彼女と違ったのは、恋愛で逃避する事は特に無く、独りで居る事に孤独は感じず、このゲームをプレイしているようにノベルゲーマーとして、一人で黙々と何かを読む事が楽しく、苦を感じたり辛さを感じる事が無かった点だと思っています。
この趣味が無ければ、もしかしたら浪榎は私のもう一つの可能性だったのかもしれない…と思うと彼女の恋愛に逃避する姿を否定は出来ませんでした。
浪榎の思想への共感と、そしてとにかく、葦阿君の存在感が凄まじい作品でした。
私は、上記でも書きましたが、葦阿君のように全てを受け入れ、その時に欲しい言葉を正しくくれる存在が居たら、依存してしまうと思います。
…例え彼が殺人鬼でも……。


だからこそ、浪榎の最後の選択は上記の解釈違いの感想を抜きにしても、全てを乗り越え自立した人間の輝かしい姿にも見えました。
浪榎の陰鬱な気持ちや常に「死」を感じさせる暗めの空気の中で、最後には自立に向かう光を帯びた物語の姿は、きっと読んだ人に希望を与えるともまた思いました。
(まぁ若干個人的に闇が好きな部分もあるので、上記に書いた通り「実は本当に殺人鬼で主人公が最初の約束通り死ぬED」もとても見たかったですが…それは心の中の妄想でそっと胸に秘めておきます)
葦阿君の話ばかりになりましたが友人の亜美の友達で居た理由の闇もまた好きです。
皆、弱いから寄り添い合うんだなと。


タイトルの説明はあとがきでもしっかりとは無かったのですが、「(葦阿君)の愛からの鎖」なのかな?コレが直球な気がしますが「(葦阿君との出)逢いからの鎖」とも感じています。
「愛」から二人の関係が縛られる鎖と、出逢いによって絡められる鎖、そのどちらにも感じました。


「おまけ」でSS紹介があるのですがクリックしてもあらすじだけで物語が特に無く…
今はまだ未実装なのかな?
実装後のSS、楽しみにしています!!