ひっそりと群生

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【Summer!】感想

【男性主人公全年齢】



2019年08月12日発売
SEAWEST』様 ※リンク先公式HP
Summer!】(PC) ※リンク先BOOTH
以下感想です。








言葉の通じない疎外感の中に感じた一筋の通じ合ったもの、そしてすれ違ったもの。



『ことばは通じないのに、もっと話していたかった。

 風変わりな幼馴染と異国の少女と共に過ごす、
 甘くて苦いひと夏の事件――
 と、その後。』
(公式より引用)



選択肢無し。
サークル様の前作「春の日に道が続く」の続編らしいです。
自分は前作未読で、「Summer!」単品でも読めると公式でありましたが…
幼馴染の小真が過去に馬太郎という少年に扮していた時の事などはおそらく前作での一件らしく、正直いくつかの要素では置いてけぼりをくらいました。
未プレイでも「知らない要素が多い事での異国感の置いてけぼり」を更に強く感じる事が出来ますが、一応前作プレイを推奨します。


今作ですが、言葉が通じない人物との交流というかなりの意欲作でした。
大元が英語版とかでないノベルゲームでここまでキャラボイスで日本語以外(というかドイツ語)を聞いたのは初めてで。
地の文でも表記されず、リアルに「何を言ってるのか分からない」という状況を楽しめます。
最初は言葉が通じず戸惑い、ドイツ語で会話し合える小真とハンナに疎外感を感じますが、後半とある場面から同じ日本人である小真とは分かり合えない距離を感じ、そして言葉が通じないドイツ人であるハンナとは距離が縮まり、最後の瞬間にほんの少しだけハンナと通じ合えたような達成感を感じたり。
途中で出てくる大学生達の複雑な関係や、モンペオッサンなど、「言葉が通じても何一つ通じ合え無い存在」などの描き方も上手く、「人間は一筋縄ではいかない」事を痛感する作品でした。


プレイ時間3時間くらいの中で、英語も出来ない自分は更に作中人物達との疎外感も感じましたが、主人公よりも更に「英語が分からない」という上級ランクの異文化交流を味わえて新鮮でした…本当に、英語すらも分かりませんでした、世界は難しい…


一応注意なのですが、最初に「ボイスをオンに」の注意書きがある上で、初っ端から嬌声で始まるので、そこはご注意を。
最初いきなり背後注意の爆撃を食らうのでイヤホンを推奨します…



『システム、演出』
吉里吉里製。
自分でセーブは出来ず章毎にオートセーブのみですが、かなり細かく章が途切れるのでそんなに苦ではなかったです。
ただ、「言葉」をコンセプトにしていて、地の文が無い箇所でも音声が入っていたりするのが多いので、出来れば履歴でボイスリピート機能があれば良いなと思いました。
普通に文章を読んでいるとどうしても声を飛ばしてしまう癖があり…ボイスリピート機能でもう一度聞きたい!となった箇所が何箇所もありました。
2周目からの日本語翻訳機能は大変有り難かったです!(…英語にも付けて欲しかったです(笑))


『音楽』
選曲はとても良かったです、最後、灯台のシーンでかかる曲が好きです。
フルボイスですが演技は中の中かな…
下手…とは言いませんが、同人ゲーム感をやっぱり感じます。
でも、全く日本語を話せないドイツ語キャラというのは本当に、凄く新鮮でした。
商業でもあまり見かけないので、「理解出来ない」事が凄く楽しかったです。


『絵』
かなり目力が強いイラストですが綺麗です。
男女問わず名前のあるキャラには立ち絵があり、洋服の差分や欲しい時に欲しいCGがあります。


『物語』
言葉が通じない事での疎外感というか…そういうのも強く感じる中で、主人公のカッコ悪さが凄く強調されていた作品だと感じました。
とにかく一個一個の行動が裏目に出る出る。
言葉が通じない中で一生懸命何かをしようとすればするほど、失敗をするので共感性羞恥の方には大変辛いかもしれません。
でもその中でも一生懸命で正義を重んじる所はあったり…凄く人間臭い主人公だと思います。
前作の「春の日に道が続く」を未プレイなので、宮下さんや小真との関係が微妙に分からず…
しかも、「春の日に道が続く3」に続く事が確定しているEDなので、この「Summer!」だけだと最初の関係から謎で始まり、最後は煮え切らないEDを迎えます。
「春の日に道が続く」に触れないといけないと感じたのと、主人公、小真、ハンナが凄く気になるので「春の日に道が続く3」を読める日を待っています。


『好みのポイント』
「言葉の壁を感じる」同人ゲームでは中々に見られない意欲作だと思います。
商業でもあまり見かけなかったり…(最近だと「ことのはアムリラート」がそういう要素なのかな…?未プレイなのでなんともですが)
言葉は全く分かりませんでしたがドイツ語を堪能する事が出来ました。
こういう独自の方向で挑戦する作品好きです。





以下ネタバレ含めての感想です





全年齢ですが初っ端からぶっちゃけおそらく「致している」シーンから始まります。
どうも明るげな関係ではない彼女、宮下さんとのそういうシーンから始まり、ハンナのポストカードから過去回想、過去回想の中でも小真を意識しまくり、大学生との交流も下世話なノリを感じるので全年齢ですがかなりドギマギした空気を感じながら進みました。
最初のインパクトやラストの宮下さんとの一件があるからか、どうも性の空気が纏わり付く作品にも感じ、パッケージなどから「異文化交流」「徐々に打ち解けていく関係」「スッキリサッパリした夏」などを予想していたので予想に反した空気でかなり驚きました。
上記でも書きましたが妙に負けず嫌いだったり、モンペ親父との一件でコチラに否がなくともどうにかなぁなぁで解決しようとしたり、野球で小真に打ち負かされたり、子供が二度目に溺れていく時に自己解決よりも周りにだけ解決を求めようとしたりなどなど、おそらく狙って描かれている主人公のカッコ悪さもあり、若干好き嫌いが分かれそうな雰囲気の作品ではあります。


「春の日に道が続く」での馬太郎がどういう存在なのか、未読なので分からないのですが、主人公がいつも背中を追いかけていて憧れるような行動を取っていた「少年」なのはなんとなく感じ、そんな憧れの存在が女性になり「助けられないから見捨てる」という憧れられない行動を取って失望する、距離を置く、同じ言葉を話せても理解出来ない存在になるという所が凄くリアルでした。
逆に、正しさや優しさを重んじて行動するハンナには最初はモンペ親子との余計ややこしくなっていくゴタゴタから良い印象を抱けない中で、夜の波に流される一件から最後の最後でハンナと心の交流が出来たようにも感じ、凄く清々しい気持ちにもなりました。
大学生達も言葉で話せるのに浮気の要素を持っていたり、モンペ親も最後に謝るけれども話していた時には全く理解し合えず、溺れる少年も彼が話せば全て解決する中で小学生らしく中々にクソガキで…同じ日本人でも「ままならなさ」が描かれていてそういう意味での異文化、異次元さを感じ大変良かったです。


言葉が通じても何を思っているのか分からない、言葉が通じなくても今思っている事が分かる。
そんな3人のどこか歪な空気を残した夏の一時。
正直、宮下さんとの始まりや小真に対して感じている女の要素、誰と誰が付き合うなどが必ず絡んだ大学生との交流、最後に親に言われる「異性との旅」への叱責など妙に性の雰囲気が漂う中で、ハンナとの交流だけは全くその空気が無く、彼女との交流だけが何の欲も下心も無い清冽な空間だったと思いました。
言葉が通じないからこその純粋さだったのかなぁと思います。


…というか、主人公が出てくる女性という女性殆どに下心や劣情を向けるので、そういう意味では若干の気持ち悪さも感じたり。
その中で言葉が通じないという壁があるハンナをある意味で女性扱いしない、壁により出来ない所がまたなんともダメさがあり人間味があったなぁと思います。
正直、二度目に溺れた子供を助けに行く描写が無ければ主人公の印象は気持ち悪いままで終わったので、一応正義感があった所と、最後にハンナと心を通わせられたのは良い流れだったなと思います。


ドイツに向かった主人公が小真とハンナに何を伝えるのか。
2周目で翻訳されたから分かるハンナと無意識に交わした「来年再会の約束」…これがきっとハンナの語る「約束」だったのだと思います。
その「約束」を破った主人公には何が待っているのか。
きっと次回で語られる時を待っています。