ひっそりと群生

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【女装お嬢様への異常な愛情】感想

【男性向け18禁】



2013年08月12日発売
夜のひつじ』様 ※リンク先公式HP(18禁)
女装お嬢様への異常な愛情】(PC)(18禁) ※リンク先DLsite.com(18禁)
以下感想です。








騙し騙され、裏切り裏切られる世界で、揺るぎない二人は出会った。



『主人公・レナートは女装して異母妹の身代わりに人質となり、
 “レナータ”として領主の館で囚われの日々を過ごす。

 護衛の兵士のいたずらに耐え、媚薬の酩酊と恐怖をかわし、
 男子として目的を遂げることができるのか?
 それとも……身代わりと女装を暴かれて
 「可愛い男の子」としての扱いを受けてしまうのか?

 その鍵はきっとお付きのメイドが握っているでしょう。

 マルチエンドで送る、ちょっとアブない妄想男子向け
 ドラマティック女装ストーリー!』
(公式より引用)



夜のひつじさん作品7作品目プレイ。
こちらは再プレイになります。
プレイ時間はゆっくり読んで約4時間30分くらい。
分岐有り、EDは2つ。
攻略はリードミーに記載されています。


今回は夜のひつじさん初めての…そしておそらく沢山の作品がある中で今の所唯一の史実をモチーフにした作品になります。
ベネ◯エラの物語。
主人公のレナータ(レナート)とフェルナンダ以外出てくる殆どの人名が検索した所、史実に名を連ねていました。
実際の史実の流れを組みながら、レナータとフェルナンダの小さな二人の物語は展開します。
女装をさせられ、とある政治家の娘の身代わりになり人質として連れて来られたレナート、連れて来られた先でレナータのお世話をするフェルナンダ。


夜のひつじさんはいつも「二人だけの世界」に見えるようなミクロな世界を作られますが、今作は歴史や革命、そして主人公達二人以外の人間の思惑も重なり世界は広く大きな存在として彼らの背後に、肩に伸し掛かります。
けれど、大きな歴史の流れを組む中でも彼と彼女はとてもちっぽけな存在で…決して大人達に適う事はなく、歴史の中に名を連ねる大きな存在達の小さな駒としてしか存在出来ず。
彼や彼女が仕える存在は巨大で…どんなに思想を主張をしても決して歴史の一端には触れられない弱さというものがそこにはありました。
だからこそ、史実をモチーフにしながらも彼と彼女では歴史を動かす事は無く、動かす事は出来ず。
大きな歴史の波に飲み込まれ、史実の中で彼と彼女だけはフィクションを貫き続けていました。
そんな小さな存在だからこそ、お互いを知り、時が進むにつれてかけがえのない存在となり、身を寄せ合い…
夜のひつじさんにしては世界観は大きく有りながらも、特有の「二人だけの世界」という部分はブレる事は無く。
史実を下地にしながらも夜のひつじさんの持ち味は存分に生かされ、とても独自の作品になっていました。


ちなみに、女装系作品であり、バッドの方では主人公も掘られるのと、ハッピーの方に行けばエピローグで主人公の女装が解かれるので、主人公が掘られるのが苦手だったり、女装を解いてのエロシーンが苦手だったりする方はお気をつけ下さい。
話の流れの中で違和感は全く無いのですが、ここだけは一応。



『システム、演出』
吉里吉里製。
システムではプレイ中不便に思う所は無し。
ただ、プレイ中の見た目では変わりませんが今回起動する度にウィンドウモードの大きさが若干変わっていて、個人的にスクショを撮る際に大きさが毎回変わったのが若干不便でした。
プレイに支障は無いのですが、画像収集する際には少し困りました。


『音楽』
音楽は夜のひつじさんには欠かせないmadetakeさん。
今作は日常ものではなくある意味で優雅な上流階級ものだったので、音楽が荘厳でした。
今までの日常ものではピアノ曲が多い中でハープの音が使われたり、今まで日常系では聞かないような楽器の音が聞こえてきてとても優雅な曲が多かったです。
声は全員とても良かったです。
レナータ(レナート)は「義妹ホールと妹ホールド」で千穂を「純情セックスフレンド」未弥を演じていらっしゃった涼風さん。
ずっとハスキーなお声で少年声が合いそうだなーと思っていたので、涼風さんのハスキーボイスの良い所が発揮されまくる少年声を堪能できて幸せでした。
フェルナンダは「幼馴染と十年、夏」で枝梨を演じられた紫乃さん。
今回は落ち着きに落ち着いたお声だったので枝梨の時とは違う印象を受けましたが、嬌声は可愛らしく、流石でした。
夜のひつじさん初で今作唯一の男性ボイスだった神崎さんは他のBL同人ゲーで声をお聞きしていましたが…やっぱりお上手で…
エスがエロに参加する事は無いのですが、エロに参加しないのに圧倒的な存在感を放っていました。
とても威厳がある演技で…「逆らったらマズイ…」という史実の人物のカリスマを見事に演じられていたと思います。


『絵』
今作のイラストレーターさんは夜のひつじさんでは初参加かと。
立ち絵は可愛らしいのですが一部CGで身体の構図…というか腕の長さなどに?と感じる所が少しありました。
ですが、欲しい時には欲しいCGが入り、シチュエーションなどはとても良かったです。


『物語』
主人公の女装物を史実を絡めてここまで丁寧に描いた作品もそうそうに無いと思います。
史実で女装していた人物というのも居るので全年齢の方ではありそうですが、エロゲでしかも同人エロゲではあまり見かけないタイプ。
義父の理想を追い求めながらも、圧倒的な思想を持つ大きな存在と大きな歴史の前に自分の小ささを知り主人公が屈したり、自分の思想の小ささを感じていく姿は見てて痛々しく。
主人公は今作の主人公ではありますが、歴史の中心人物になる事は無いという事実をしっかりと見せつけていました。
この大きな歴史の流れで名を連ねる事が出来るのはほんの一握りで、その上で自分の理想を叶えられるのもほんの一握りだと。
だからこそ、主人公が例え小さな世界ででも、小さな世界で出会った大事な人だけでも守ろうとする姿には胸を打たれました。
女装物で、女装物特有の「正体がバレるかも!?」というドキドキも今作の世界観もあり独特な不安が一緒にあって。
どんどん二人は惹かれながらも「男性に性を踏み躙られ嫌悪しているフェルナンダに自分が男性であるという事を知られたら嫌われてしまう…」という彼らが置かれた境遇によって独自の「バレたらマズイ!!?」を形作っていて、日常系の女装物では味わえない秘匿感がありました。


『好みのポイント』
女装物特有の女性的な主人公と、どこか男前で主人公を身を挺して守ろうとする騎士系ヒロイン…そんな二人が見ていて楽しかったです。
選択肢によってはどこまでも女性的で有り続ける主人公ですが、ちゃんと男の部分もあり、逆の選択肢を辿ると男の部分が強く現れ、しっかりとヒロインを守ろうとする姿を見れるので、一粒で二度美味しい展開を見れました。
歴史はとても詳しくないのですが、詳しくない自分でも楽しめました。
物語を盛り上げるスパイス…でもありながら、主人公の考えに大きく関わるものでもあり…絶妙なさじ加減で史実が仕様されていて。
丁寧に情勢を語りながらも最終的にはレナータとフェルナンダの二人の物語でもあり。
フィクションに盛り込む歴史の使い方がとてもお上手だったと思います。
この辺りの歴史に詳しい方にもR18の要素さえ合えば是非プレイして頂きたいなと思いました。





以下ネタバレ含めての感想です





女性的で義父の思想に頼った選択肢を選ぶとバッド、男性的で自分の思想を貫く選択肢を選ぶとグッドに行くのが面白かったです。
レナートがマヌエラを裏切るのは自分が有利になる為に当然としても、なんだかんだパエスが「自分の意思を持った存在」の方を気にかけるというのが、彼の人間性が出ていて良いなと。


バッドではパエスの元に付かず、フェルナンダよりも義父の理想のみを信じ続け…その先で結局、義父にもマヌエラにも信じてもらえておらず裏切られるというのが見ていてエグかったです。
義父の為に頑張ったのに、義父には既に息子が生まれていて自分はもうお役御免で…マヌエラは自分だけでなくフェルナンダも送り込んでいて本当は二人共刺客で…二人共刺客なのだけれどどちらもマヌエラにとっては取るに足らない、いつ切り捨ててもいいくらいの存在として思われていて。
義父とマヌエラ、史実の人間がどちらも主人公とフェルナンダに対して小粒ほども思いを寄せて居なかったという所が…主人公が義父やマヌエラを慕っていて、彼らの思想を貫く選択肢を選び続けていた分、エグいなぁと。
最後の最後、男の娘として犯されるシーンも、そのシチュエーション自体よりも「愛して」と叫ぶ主人公の心境の方に頭を抱えました。
ただの凌辱じゃなく心の凌辱で…見てて痛々しかったです。
勿論、今まで精通すらした事なく、孤児院にいた時に大人の男の性に弄ばれる少女達を見ていた事で性行為に対しては知っているけれど、犠牲になる少女達を見て自分の男性としての性にどこか嫌悪感を持っていて…性の醜い部分を見て詳しいけれどある意味で正しい性には疎いようなレナートが、自分の精通を男性との性行為で迎えてしまうシーンはすんごい背徳感はありました。
背徳感エロが好きな人にはたまらないシーンだと思います。
その後のフェルナンダの「正しく女性で性を開放出来なかったから私が…」というお清めエッチも含めて完璧。
「初めての性を男性で迎えてしまう男の娘」ってエロいですよね…完璧か?完璧だと思います…
まぁ…パエスに寝返らないのもあり、二人は飼い殺されバッドEDなのですが…背徳的なエロさで言うならコチラが上手だなと思います、流石でございました。


グッドはどこまでも男性を貫き、義父やマヌエラなど全ての他人の思想を振り切りフェルナンダを、唯一の人を守る為にパエスに寝返るとグッドに行きます。
エスも予定通りだし、主人公が自分の意思を剥き出しにした事に満足気だし、気分を損ねる事も無く良い流れだと。
バッドから行くと分かるのですが、マヌエラはフェルナンダも送り込んでいて、フェルナンダはほぼ最初の方からレナートの女装の方にも気付いていて、フェルナンダもまた刺客であった事が分かります。
なので最初のほうで女装がバレないかヒヤヒヤしてはいたけれど、実はフェルナンダにもそしてパエスにもバレていたという…ある意味では今作の女装は道化状態なんですよね。
女装物での「バレるかものドキドキ」は確かに味わえますが、「バレてから一波乱起こる!」というのは無いので、そういうシチュエーションが好きな人にとってはちょっと今作は興冷めな所があるかもです。
まぁそういうシチュを差っ引いても話自体は面白いので問題は無いとは思いますが。
正しく自分の性別を明かし、そしてお互いの素性を明かし、結ばれる二人。
バッドがエグかった分、かなりスッキリとしたシーンが続くので安心して見れました。
義父もマヌエラも…最初から主人公達の事は駒としか見ていなかったのだから、パエス側に付いて裏切った所で心も痛みませんし。
それ以上に、こんなにも疑心暗鬼に溢れたような世界で本当に信頼し合える人に出会えた事が素晴らしい事だと。
グッドの方のエロシーンも…精通すら迎えてないレナートがフェルナンダの手ほどきにより精通するシーンはとてもニヤニヤしました。
バッドの方の無理矢理の性の開放といい、フェルナンダに対してずっと自分の性に申し訳無さを持っていた部分といい、夜のひつじさんは「少年の性への葛藤」への描き方が上手すぎます…
「幼馴染と十年、夏」や「純情セックスフレンド」もでしたが、絶対心の中に未精通の少年を飼っていらっしゃると思います。
(化粧にもお詳しいので少女も絶対に飼ってると思います。)
フェルナンダがその境遇もありおそらく大人の男の性に振り回されてきたというのも察して…そんな中で本当に好きになった人の精通から何から全てを貰えるというのは凄く嬉しいだろうなぁと。
肌の色の表現など、今作は時代もあり主人公からは無いですが、様々な要素で人種差別的な空気も沢山感じられて…フェルナンダがいかにこの屋敷では酷い境遇だったかも察し…
レナートは孤児院育ちだったけど自分を引き取ってくれる人が居たからと、フェルナンダは生まれた時や幼い頃には母が居たからと…それぞれがそれぞれの身を案じ、寄り添う姿は本当に見ていて健気で。
(そしておそらくフェルナンダの母も歴史に名を残す人物であると思います。)
例え大きな世界を裏切ってでも、一人の大切な人を守り通す事が出来たグッドEDはとても夜のひつじさんらしく、良かったです。
エピローグでは女装を解いた姿でエロシーンがありますが…まぁそれでもレナートは可愛らしいので「女装解いた姿はアウト!!」な方でも受け入れやすいと思います。
何よりも二人が幸せなのでOKです!!


女装物×歴史(史実)×エロゲという色んな要素を盛りに盛った本作でしたが、随所から溢れる夜のひつじさんらしさは変わらず、大変楽しませて頂きました。


『犠牲は、時として――
 "なぜ自分に降りかからず、隣人に降りかかったのか"
 という形で表れるんだ。』


『「物言わぬ者の弁を勝手に語ることは許されない。己が論の正しさのために使うなどもってのほか」』
『そうだ――確かにそれは許されない。
 死者の声を実際に聞くことのできる人間は存在しない。
 死者の声として語った瞬間に、それは驕りに落ちる。
 すべて嘘になってしまう。』


『「ある面では誰しも正しく、ある面では誰しも間違っています。それは当たり前のことです。残されるのは信じて殉じる強度だけでしょう」』


『「美しいものは誰のものでもありませんが、美しいものにつけた傷は自分だけのものになりうるからです」』


『人は知性や論そのものにはなかなか屈服しない。
 知性や論を肉として備えた魂がそこにあることに屈服するのだ。』


『「人が天使を真似ようとすると必ず獣になってしまうのです」』


『「人に強制することのできない善は、力なき正義と同じです」』


『きたなさを隠そうとする者は、さらけ出す者よりいっそうきたなくなる。
 あいつは汚い、そう喋る口が最もきたないからだ。
 汚いものを見つけてしまう目が最もきたないからだ。』


『「正義に対して、悪や別の正義が立てば争いになる。だが悪に対して別の悪が立てば手を結ぶことを考える」』
『「正義である、というだけで強要できる犠牲が多すぎるからだ」』


などなど、今作も夜のひつじさんらしさと同時に、歴史の、そして争いの中にあるからこそ出てくる言葉がとても胸を突きました。
最後に語られますが、結局、パエスも駒の一部だったという所に、歴史を動かすからこそ、歴史に名を連ねているからこそ駒でしか成りえないという部分も描かれ、人は誰しも自由ではないのだと同時に、レナートとフェルナンダのように、歴史に名を連ねないからこそ手に入る幸福もあって…
ちっぽけな人間はちっぽけな事しか成せないけれど、その中で得る大切な人や幸せもある…そんな風に感じる大きな歴史の波の中の小さな「二人の世界」でした。


次回、夜のひつじさん作品は「妹「お姉ちゃんクソビッチなんで私にしませんか」」を再プレイ予定です。
一気に方向性や毛色が変わりますが…きっと、根底は変わらないと思うのと、そういう所が夜のひつじさんらしいなと思います。