ひっそりと群生

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【藹々鬼譚】感想

【女性主人公全年齢】



2022年08月31日配信
『千景』様
藹々鬼譚】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








人と鬼と神の世界。



『もしも人里で、鬼の角を持つ赤子が生まれたら
 唐櫃へ体を納め、千年樹の根元へ置いて奉げなければならない。

 それは神意によってえらばれた、森と婚姻する子どもである。』
(公式より引用)



プレイ時間は約2時間15分くらい。
分岐有り。


7歳になった主人公の少女は神子として鬼の住む山に捧げられ、六(むつ)という名を与えられる。
山で出会う縁(えにし)と菫青(きんせい)という鬼と、自分と同じように山に捧げられた伽羅(きゃら)という女性。
六は14歳になるまで共に3人と山で暮らし、それから神に捧げられる事になるらしいが…
鬼の行く末、山の歴史、人の歴史、それらが絡み合い、それまで行われてきたしきたりは姿を変えて行く。
古の日本の一部を切り取ったような、和風絵巻"鬼"譚。



『システム、演出』
ティラノ製。
メッセージスピード変更不可。
ノベルゲームとしてはメッセージスピードの変更不可は使い辛さがありましたが、作風が絵巻物を捲るかのように進む為、雰囲気としてはスピードが遅くても情緒を感じ取る事が出来、良かったと思います。
そして下記の『絵』の項目で語りますが、一枚絵進行型で、その画の力に驚かされました。


『音楽』
和を中心としたBGMも作品世界に合っていて素晴らしいのですが、何よりも無音の時にながれるSEの使い方が非常に良かったです。
水の音、風鈴の音、雪を踏みしめる足音…どれもがその時の季節を表し、音だけで四季折々を感じ取れました。
後半、一つの章で六と縁の台詞に声が入るのですが、それまでで感じ取れた二人の性格が本当にそのまま声質に現れていて。
どちらのお声もピッタリで話し方も想像通りで驚きました。
特に六は序盤からなんとなく感じ取れていた彼女のひた隠してきた彼女の感情や性格を声で更に知る事が出来、「六ならこういう話し方をするだろうな…」ととても納得する事が出来、とても良かったです。


『絵』
凄い、圧巻、圧倒される、そんな言葉では語れないほどの迫力がありました。
立ち絵は無く一枚絵のみで進行ですが、その枚数の多さと一枚一枚の手の込みようが半端では無く。
墨絵、浮世絵、そういう絵柄が好きな方には間違いなく刺さります、その手のタイプの造形が深い方に絶対に手にとって頂きたいです。
白と黒、そしてほんの少しの色彩で彩られるは山奥の人の世とは異なる場所。
人も、獣も、住処も、木々も、そしてそれ以外も、恐ろしいほどの描写力でした。
言葉では表現出来ないのですが、人物が生きているように描かれ、作品の奥の奥まで見渡せるような質感をしており、絵が変わる度に魅了されました。


『物語』
神に縋る人と、神と共に歩む鬼、そして捧げられた神子。
神子…という言葉でありながら同時に生贄の物語ではありますが、人が神の所業を畏れると同時に神の世もまた時代の中で全盛期のような状態では無く。
「物事には必ず終わりがある」その「終わりの時」を描いた物語でした。
まさに諸行無常
時代が進み鬼や妖怪が人々から完全に架空の存在に成ろうとしている時代の移り変わり。
そんな時代で一つの「終わり」を迎える鬼と神子と山の世界。
文章もまた三人称形式で文学的や伝承を語るかのような文体で。
音から、絵から、文から、絶対に崩れないような強固な作風が作られた上で、その強固さから語られる「神と鬼の終わり」「一つの文化の崩壊」という作風と物語の真逆さ、水と油のような作りが非常に面白く。
そしてそれが重なり一つの作品としてしっかりと昇華されている所に巧みさを感じました。
現代で慣れ親しんだ文章では無いので読み辛さは確かにありますが、今作はこの文体でないと表現出来なかったと思うので、とても作品に合った文体でした。


『好みのポイント』
風、水、光、闇。
そして出される食事の味ですらも感じ取れるような全ての描写に惚れ惚れでした。
序盤の山で新たな日々を暮らす日常描写も、中盤からの怒涛の展開も、そして終盤の終わりに向けての静かな日々も、どれも美しくきらびやかで。
まさに、和、粋、雅、日本の良さが詰まったような作り込みでした。
そういう雰囲気以外で言うなら…ネタバレになる為ここでは軽めに語りますが、主人公の六が序盤から「何を考えているのか分からない」という箇所が多かったのですが、過去が発覚した瞬間に今までのイメージが覆った所がとても良かったです。
彼女の心の底にある「人間」らしい部分に非常に惹かれました。





以下ネタバレ含めての感想です





序盤、主人公側の感覚で進めていたので、縁や菫青の鬼がいつか主人公に害をなすのでは?と不安がまじり、同じ境遇の伽羅に対しても「明るいけれど17歳でまだ居るというのはどういう…?」などと周りの人物に対して不安視していたのですが、話が進むにつれて、菫青は体が大きく性格は硬めで怖い雰囲気がありながらも真面目で優しく、伽羅は本当に六の事を気遣ってくれるお姉さん的存在で優しい事を悟り。
縁は前半は「飄々としてて掴み所が無くいつ主人公を取って食うような真似をしてもおかしくない」と思っていましたが、後半、二人で住む辺りになって単に彼が1000年近く生きながらも少年のままで幼く、孤独を嫌う寂しがりやでそれを隠す為に飄々としている事が分かり。
更には「鬼には負の感情が無い」と明かされて、「永遠の寂しがり屋の少年」だと分かった瞬間にイメージが完全に書き換えられた所があります。


そして主人公のイメージもまた覆り。
三人称視点で進み、彼女が台詞を発する事が殆ど無い為、ずっと「無口で、でも所々で肝の座った子だな…」と思っていましたが…過去が判明した辺りで一気に「恐ろしい」という印象に変わりました。
淡々と、ただ淡々と、自分の神子としての、生贄としての役割を受け入れながらも決して住んでいた場所への恨みを絶やす事無く。
静かに静かに恨みを重ねていた事が判明し…正直、鬼よりも恐ろしく。
作品内では最終的に鬼の方が純粋であり、人の方に澄んだ善もあれば当然、淀みきった悪もあると描かれているのですが、主人公もまたそんな人間の例に漏れず。
作中で個人的に一番怖かったのはその主人公の内情を知った時でした。
淡々としながらも決して故郷の人間を許しては居なかったんだなぁ…と。
後半のボイスが付いた際に、縁が本当に少年のような語り口調で、主人公が逆に淡々と静かで全てを悟ったような語り口調で二人の真逆さがよく現れていて。
これが序盤から声有りだったら、中盤の性格での印象の反転を感じ取れなかったと思うので、あの最後の選択肢の場所のみにボイスがあったのが非常に効果的だったと思います。


最後の選択によって未来は分かれますが、個人的には霊木の終わりが好きです。
やっぱりなんだかんだ縁と共にあって欲しいので。
もう片方の人の世に降りつつも人の手によって殺され、生贄を捧げなかった事で起こる村への天災は縁が必死に食い止めるという終わりはある種の救われなさを感じますがこちらはこちらで人の業を感じて好きです。
本当は縁と共に末永く山で暮らして欲しいのですが、本作がおそらく「諸行無常」が題材の一つにありそうなので、それは叶わないんでしょうね。
1000年近く生きた縁はどう足掻いてもその長き世に終わりを迎え、鬼は終わりを迎えるというのが変えられない運命なのだろうなと思います。


古から残る絵巻物のような作品で、まさに奇譚、鬼譚の名に相応しい鬼と人の物語でした。
春夏秋冬、山の中で巡る季節を肌で感じながら、一つの文化の終わりを見届ける事が出来、寂しくも面白かったです。