ひっそりと群生

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【雨上がりのあの場所で】感想

【男性向け全年齢】



2021年02月06日発売
EIME』様 ※リンク先公式HP
雨上がりのあの場所で】(PC) ※リンク先DLsite.com
以下感想です。








君と一緒に「美しいもの」を見たくて。



『全ての物語は、美しいモノたちとともに。
 ある朝、ひとりの美しき少女が梅雨とともに訪れる。
 それは涼に贈られた、雨景色からの便りであった――
 これは、『美しいモノたち』に魅せられた、ひとりの少年の物語。

 ありとあらゆる『美しいモノ』を求める主人公とその仲間たちが織りなす、学園恋愛ADV。
 選択肢によって変化していくストーリー、そしてその結末。
 笑いあり、涙あり、そして切ない雨の物語です。』
(公式より引用)



プレイ時間は約12時間15分くらい。
分岐有り。
攻略は公式に有り。


両親の出張で一人暮らし、同級生の幼馴染の女の子、先輩女子に後輩女子、気の合う友人に新しく発足された部活に入部。
記憶喪失に不思議な少女との出会い。
もう、これでもかと言うほどの「お約束」が散りばめられた作品でした。
しかし、お約束だからこそ、面白く、王道は面白いからこそ王道を貫き続けるという事を見事に体現していました。
とにかく友人達との団欒が楽しく、先輩が発足させた部活、「非電源ゲーム研究会」で遊ぶ姿が見ていて生き生きとしていて。
部活で楽しむ姿を見るのが面白く、共通ルートが楽しくて楽しくて仕方ありませんでした。


他ルートをクリア後に最終ルートという構成を取っている為、最終的に主人公の失った記憶を探るという部分に帰結しますが、それぞれのヒロインのルートで知っていくヒロイン達の共通ルートで見せる姿とは別の側面も非常に良く。
恋愛ゲームらしく想い合っていく過程でドキドキしたり、個別ルートでは疑問に感じた部分も最後にはしっかりと納得出来る作りになっており。
システム、絵、音楽、話、全ての水準が高く、高い水準の中で懐かしいコンシューマのギャルゲーを思い出す要素が満載で、王道大好きな自分にはツボを沢山突かれる作品でした。



『システム、演出』
吉里吉里製。
しばらくスキップが遅い分岐作に触れて居たのでスキップの速さが本当に有り難かったです。
右クリック時のコンフィグ画面のが作品らしく「雨」を印象付けていて、デザインが大変好きでした。
選択肢の分岐も優しい作りで、一箇所でセーブを取れば即分岐出来る仕様になっているのが初心者向けでユーザーフレンドリーでした。


『音楽』
全曲オリジナル、サントラもご購入させて頂きました。
さり気にサントラのジャケットを見てビックリしました。
OPの「Hydrangea」は雨の降る雲の隙間から光が差し込み世界を美しく照らしているような曲で、始まりにとても合っていました。
BGMでは「花弁散る」「ペトリコール」「美しきモノたち」「在りし日の景色」が好きです。
ピアノ曲が好きでとても惹かれました。
EDの「天気雨」は雨が止んだ後の静けさを感じ、こちらも作品の終わりにマッチしていました。
OPEDどちらもギターの旋律が好きです。
クリア後に音楽鑑賞モードが無いのが残念でした。


『絵』
ギャルゲーというよりは少女漫画チックな絵柄と塗りでちょっとギャルゲーとしては異彩を放っていたと思います。
一言で言うなら綺麗、まさに美しいもの。
今作が「美しいもの」が好きで「美しいもの」を目指す主人公の話だったので、この絵柄が更にその美しさを引き立てていました。
立ち絵も表情、ポーズ豊かな上、足先からしっかり書き込まれてあり、キャラが遠くに行ったらちゃんと遠近法が作用し、そしてミニキャラも所々で可愛く、見せ方でも飽きが無い所が良かったです。
もう少し見たかったと思ったのは陽花や心太の私服があれば良かったなと。
あとは本当に絵が綺麗なのとミニキャラ絵が可愛いのでCG鑑賞モードが欲しかったです。
音楽鑑賞もCG鑑賞もクリア後にゲーム内で見るのはまた別格の良さがあるので。


『物語』
主人公が「美しいもの」が好きで「美しいもの」を求めるお話ですが、それぞれのルートで「美しい」と感じる物が違い「それぞれの良さをルート毎に感じていた」所が良かったです。
作中で引用されるとある有名な詩の通り、「みんなそれぞれに良さがある」というのを貫き、「そのそれぞれの良さは沢山あり、愛したものにより世界の見え方が変わり、美しいの基準もまた変わる」という「美しい」というものは普遍的でありながらも「時と場合が揃った時に美しさが際立つ」というもので、ある種の一貫性がありながらも各ルートでヒロインの美しさに心を寄せていく主人公が印象的でした。
何故「美しいもの」を主人公が好むようになったのかも後半しっかりと明らかになり、最後まで「美しく」締めていたと思います。


『好みのポイント』
王道のギャルゲーの友人キャラ大好き党としては、心太、心太に好きを捧げたいです。
いや、もう、本当に良い奴で良い奴で。
途中そっけなくなったりしますが、ちゃんと理由があったり、最後には主人公を支えてくれたり。
というか、おそらく心太が居ないと分からなかったり解決しなかった部分がごまんとあって。
本当に影のMVPです。
「美しいもの」の中に「美しい友情」というのも絶対にあり、それは間違いなく心太との関係だと思います。
心太は「BのLじゃねー」とか言いそうですが、「美しい友情」「かけがえのない友人」は心太、君にあると思います。





以下ネタバレ含めての感想です





痒いところに手が届く、正に王道のギャルゲー。
どのポイントもこれよ、これ、これが欲しかった!と言わんばかりに欲しい要素が揃っていました。
一部苦手だったのは若干の露骨な下ネタシーンくらいかな?
作風が凄く綺麗だったのと全年齢だった為、少しだけ一部の下ネタシーンは合わないなぁと思った部分がありました。
あとは「かすみルート」にあたる最終ルートで四章と最終章が小分けにされ、一度タイトル画面に戻されますが、戻される事で興が削がれた所があるので、アイキャッチで章が変わったみたいな演出を挟んで連続プレイで良かったんじゃないかな?とは思いました。
その辺りの部分以外は本当に丁寧に纏まっていたと思います。


以下各キャラルート毎の感想や各キャラへの感想。。


『結葵 ルート』
最初に辿ったルートでしたが、かすみルート以外を行くと「何故彼女だけこんなEDなのか?」と思うほどにあまり何も解決していないように見えたルート。
かすみルートに行くと凄まじく納得しました、これは、このルートでは何も解決されない。
かすみルートで言われていましたが、告白した時期がピッタリと合い、上記で語ったようにまさに結葵に対しての「時と場合が揃った時に美しさが際立つ」道に進んだ場合がこの「結葵ルート」でした。
そういう時と場合が揃い結葵と結ばれる。
けれど、結葵は本作の諸悪の根源であり、「かすみルート」へ行くと分かりますがとにかく醜い。
何となくプレイヤーは途中で「結葵は何か隠している」や「結葵は本当の幼馴染では無いのでは?」と察するのですが正にその通りで、かすみを見捨てた存在になります。
確かに小学生の彼女には出来る事は無かったでしょうが、かすみの存在を隠蔽し、自分に数回話しかけてくれた主人公が記憶を失った事で幼馴染の座を作り上げ記憶を一部作り上げ、自分の思うように事を進め、自分の罪に向き合わなかった少女。
自己保身のヤンデレになるその姿は本作の「美しいもの」とは対極を行く「醜いもの」。
「結葵ルート」途中のヤンデレ化の時点で「うわぁ…」でしたが、「かすみルート」の真相を知り更に「うわぁ…」でした。
作品内の全ヘイトが彼女に向かうように出来ており、彼女を好ましく思うのはほぼ不可能かと。
ですが「美しいもの」をモチーフにする際に「醜いもの」を描くのもまた大事で、言ってしまえばその犠牲になったとも言えます。
正直彼女にだけヘイトが向かいのでかなり可愛そうに感じる所もあり、全ルートで各々に「醜いもの」の部分があれば納得出来ますが、本当に彼女だけが「醜い」ので、ちょっと無碍にされすぎじゃないかな?とも思っています。
かすみと対になるヒロインなのでそうならざるを得ないのですが、彼女はその性質からどう足掻いても主人公と正しい恋愛関係は築け無さそうで見ていて辛いです。
「結葵ルート」の話に戻しますが、「結葵ルート」だと結局何も真実は明らかにならず、彼女の「醜さ」は変わらない為、いつどこでヤンデレ化するか分からないみたいな終わりを迎えて円満ハッピーにはなれないという。
彼女の本質を知っていると「そりゃそうだよね」としか言えないのですが、何とも不憫というか。
「真実を明かさない事で陥る不幸」それも今までの罪に対しての罰だとも思うので自業自得だとは思いますが、初回ではあまりにハッピーに見えないEDで驚きました。
メタい話ですが、高感度を上げない選択肢を選んでいたり、高感度が同じだった場合に「結葵ルート」に行くという情報を見て、完全ハッピーのEDには成り得ないけれど、「時と場合が揃う事」は結葵が多く、真相は闇の中に行く道が多いんだなぁと思いました。
彼女の闇の深さと影響力(ヤンデレパワー)をなんとなく感じます。


『美澪 ルート』
先輩可愛い格好良いよ先輩。
普段は硬い言葉遣いなのに感情が高ぶると女性言葉になるの、最高。
先輩の美しさはその「強さ」にあり、強い女性好きな自分にとってはもう、好きの自乗でした。
ってか「美澪ルート」は最後の除霊で「私が全て引き受ける」とか言っちゃうの、完全にヒロインが主人公でヒーローが先輩なんだよなぁ。
あまりにカッコ良すぎて震えました。
「結葵ルート」でもヤンデレ化した結葵に対し「痴れ者」と強気で言っちゃうし、どこまで格好良いのか。
そんな格好良い先輩だけど恋愛になるとドギマギするのがまた可愛い。
「両親の政略結婚を反対させる為、恋人のフリからスタート」というこれもまた王道の展開からスタートですが、徐々に本当の好きになっていくのはお約束であり、そこがまた最高という。
ラーメン頼んだらラーメン出てきたレベルで欲しい物がお出しされて大満足でした。
「美澪ルート」ではかすみによって影響を受けた他の悪霊を祓う話で、かすみに関しては特に触れられませんでしたが、先輩の霊能力は本物である事が明らかになり、最終ルートでかすみが見える内の一人として一緒に行動を共にしてくれる流れが生まれていたのが良かったです。


『陽花 ルート』
小っさ可愛い勤労系後輩、この属性に弱い、弱いんです、自分。
両親を失っており、一生懸命働き妹を養っているお姉ちゃん。
彼女の為に何か出来る事は無いか?という所からスタートし、徐々に彼女に惹かれていく流れが好き過ぎました。
本作が「美しいもの」を求め「美しいもの」は「みんなちがってみんないい」が主題なら、個人的に陽花の美しさが一番グッと来ました。
どんな時でも明るく、元気に、嫌味のない笑顔でお客様に接する。
妹の為、お姉ちゃんだから頑張れる。
働いている時のCGが可愛くも本当に「美しく」て。
「あぁ、こりゃあ惚れちゃうのも分かるなぁ」とグッと来てしまいました。
主人公が「陽花を手伝いたいと思ったのは陽花を助けたいというよりも、バイトが沢山入る事で明るく元気な陽花の笑顔を見れなくなるのが嫌だと思ったから」という事に気付くシーンで凄く「分かる」と頷いてしまいました。
こんな明るく元気で可愛い子が側に居たら、その姿が見えなくなるのは絶対に辛い。
そういう何気ない当たり前だと思っていた物に「美しさ」を感じ引き込まれていく過程が凄く好きだったのと、「好き」を確認はしてもあまり恋人っぽい関係にならず最後まで先輩後輩っぽさがあったのが凄まじく好みの関係で。
妹とも和解し、「主人公の恋人」ではなく、最後まで「良いお姉ちゃん」で終わったのが凄く好きでした。
「陽花ルート」、ヒロインの陽花含めて自分の好きが詰まっていたルートでした。
スピンオフで恋人イチャラブとか一番見たいのは陽花です!


『かすみ ルート』
真相ルート、全ての謎が明かされる。
今まで他ルートで?と思っていた部分が全て明らかになるルート。
かすみは最後の最後まで生存か死者かどっちかな?と思っていましたが…死者の方でしたか。
都合の良い奇跡はかすみの幽霊が見れる以外は起こらない所が良いなとも思います。
かすみ、本当に「美しい」女性でした。
主人公が「美しいもの」に惹かれるようになったのは、かすみとの交流と、そしてかすみに「雨上がりの美しい秘密の場所を見せたい」という想いがずっとあったからなんですね。
タイトルの「雨上がりのあの場所で」ってそういう事か、と。
自分を見捨てた結葵ですらも許すと言った姿は美しく、気高く。
結葵とは対極に居るなーと思います。
被害者であるかすみが許すと言った以上、結葵は誰にも咎められなくなる。
主人公ですらもう断罪は出来ない、結葵と主人公は生者なので彼らが生きるその後を考えるとかすみの許しは最も理にはかなっていて、でもそういう理屈を差し置いてきっとかすみは純粋に許したと思うので、かすみは本当に崇高な人だなと。
しかしこのルート、確かに「かすみルート」ではありますが、かすみが死者である以上、主人公と今後結ばれる事は無く。
結葵の件も含めて「結葵の改心ルート」だったとは思います。
結葵が自分の罪に唯一向き合い考え改める。
このルートでようやく結葵と主人公は初めて正しい友人、幼馴染の関係になれたのだなと。
そして同時に、結葵とは友人や幼馴染の関係以上には決してなり得ない事も伝わるので結葵にとってはエグさがありますが…それもまた自業自得なので、それを含めて背負って生きて行かないと行けないんだなぁとも思いました。
かすみの一件は本当に悲劇的ですし、ご都合主義も起こらず切ないEDでしたが、ツボを突く要素はかなり揃っているルートではありました。
かすみはずっと、自分の事を「おねえちゃん」と呼ばせていましたが、主人公の小学生時代に実際に出会った時に既に作中同様高校生くらいの年齢だったので、主人公との実際の年の差がかなりあって驚き。
霊になった事で成長した姿になる事は無いけど本当におねえちゃんで。
出会った時はおねショタで大変美味しいのに加え、こういうヒロインの年齢が止まっていて主人公の年齢が上がり、ヒロインの年齢に追い付き身長を追い越すみたいな展開が大好きなので、おねショタ+年齢追い付きの好き要素が絡まり大変滾りました。
切なさはある上でしっかりとギャルゲ的萌えポイントも突いてくる要素が揃っていて、隙が無いお話でした。



主人公が記憶喪失な事もあり、過去をある程度の予想を組み立てながら進めましたが、ルート毎に提示される真相で予想出来る通りに真相が明かされ、変な引っ掛けも無く真っ直ぐな流れが非常に良かったです。
「美しいもの」は時と場合によって感じるものが変わる、「みんなちがってみんないい」を貫き、「雨上がりのあの場所」の「美しい景色」をかすみとようやく共有出来た事で主人公の「美しいもの」への信念や生き方が最後まで貫かれ、そしてようやく願いが叶いとても良かったです。
王道の「美しさ」を感じる、そんな一作でした。