ひっそりと群生

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【死と月は寄りそって眠る】感想

【男性主人公全年齢】



2021年08月29日配信
gawa』様 ※リンク先公式HP
死と月は寄りそって眠る】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








人は考える葦。



『奴隷を生贄として「喰わせる」事でなりたっている村、【テネブレ】。
 そこに住み、代々「喰わせる」役目をおっている一族の老人:モルスは、奴隷に問いかける。
 ――なぜ生きている。なにをしたくて生きている。
 ――なぜ、死にたくない。
 生涯抱いている疑問に答えられる者がおらず、このまま人生を終わらせようとしていた時、ついに答えられる奴隷に出会う。

 「わたしは――――」

 これは、『奴隷殺し』と『元奴隷』の『生死を求め続ける』お話。』
(公式より引用)



プレイ時間は約50分くらい。
分岐無し。


自分の裕福な生まれに疑問を持つ事無く惰性で人生を消費する国民。
不幸な生い立ちに抗う事無く当然のように受け入れながら全てを諦めている奴隷。
地に落ちたような人間達を見つめ、嫌悪しながらも主人公のモルスは「人が生きる意味」を常に追い求め、他者に問答をする事を諦めなかった。
そんな彼は初めて自分の問答に真正面から向き合う少女に出会う。
生贄を捧げ続ける事に全ての人生を費やしてきた老人と聡明な奴隷の少女に出会いは果たして「人が生きる意味」に辿り付けるのか。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
所々で挿入される他者から見た情報や日記のような本を捲る描写で、主人公と少女しか居ない物語を上手く補完していたと思います。


『音楽』
BGMはフリー素材。
全曲どこか昔の西洋の曲のような、どこかヨーロッパ方面の懐かしさがある選曲が世界観に合っていました。
特にEDの歌唱曲は有名素材サイト様の曲なのですが、お伽噺のEDのようで作品の締めに相応しい曲でした。


『絵』
人物画、背景、オリジナル。
どちらも味がありました。
人物画は基本主人公と少女でこの二人の立ち絵も表情などとても良いのですが、所々で出てくる脇役の人物画もまた「私腹を肥やした国民」や「自分の人生を諦めた奴隷」の雰囲気がしっかりと出ていて良く。
特に主人公が屋敷に入った人々を倒す描写と背景の「樹」には圧倒されました。
EDロールで「樹」を中心に時代が経っていく描写は映画のEDロールのようでした。
絵によって昔話のような雰囲気が強く出ていたと思います。


『物語』
「人は何のために生まれ、何のために生きるのか」。
話の地盤にはかなり難しく哲学的な部分が強くあったり、生贄や死の表現など残酷描写が多いのですが、全体的に絵本のような雰囲気で難しさや悲惨さが緩和されていたと思います。
主人公と少女の間で交わされる問答と穏やかな二人の生活、そして導き出される結論。
仄暗い世界観ではありますが、絵や物語の進行がどことなく「本の中のお話」のようで。
残酷だけれど人が語り継いでいくような絵本のような作風になっていました。


『好みのポイント』
主人公の「生」に対しての結論と、少女の「生」に対しての結論の対比が好きです。
個人的には少女の方が自分の思想には近いのですが、今作は両方揃って一つの結論だと思っています。
ラストを含めて「人間の末路」の描き方もまた童話のようで好きでした。





以下ネタバレ含めての感想です





かなり難しい哲学的な主人公の思想から始まるのですが、少女と出会ってから心を動かされ「彼女の為に生きる」になっていく姿がとても「人間」をしていて好きでした。
それまでは自分の「生贄を捧げる」という立場と家族も居ない孤独から「人間の境遇と親交を持っていないからこそ「生」が分からず、問答し続けている」という状態が少女と共に生きるようになって自分の中での問答が緩和されていく姿がこう…「生」に対しての疑問は言葉としての問答も解決の一つでは確かにあるけれど、日常の中で言語化出来ない物として感覚として知っていくというのが現れていて。
言葉として知って行くのでは無く、生活の中で主人公が理解し変わっていく姿の描き方がとても上手かったです。


最終的な結論も良く、主人公は「「生」とは語り継ぐ事、「死」とは託す事」という結論を導き出し、自分も「「生」とは自分の存在や生きた証や何かを後世に託す事、だから繁殖という行為がある」と思っている所があるので主人公の結論に同意しつつ、けれど少女の「「生」や「死」とはそれぞれの人間に答えがあり、全く違うものである」という結論もまた個人主義が好ましい自分としてはとても同意出来て、どちらの意見も納得できる物で自分の死生観に近い結論でした。
ただ、面白かったのは主人公は「自分が「生」と「死」について語りたいから生かした」「そして少女との交流でその答えを得た」として人生に幕を閉じるのですが、少女は「元々独特な価値観は確かに持っていたけれど、それは聡明さから来る物であり、主人公が「生と死の問答」を求めたからそれに対応した」という部分なんですよね。
主人公が「この少女は「生と死」を語れる、彼女は知っている」と思い彼女を手元に置いたのに対し、彼女が「知っていた」のでは無く、主人公に「適応した」という所。
正直他の奴隷も主人公が問答した時に各々の「適応」をしたのですが、そこに聡明さが無く主人公に見初められず、たまたま彼女が聡明で主人公が求めている物に「適応」出来た…ようは他の奴隷と同じ事をしているのだけれど、「たまたま彼女が聡明で主人公と波長が合った」というのが面白いなーと。
「生と死」に関して、彼女は「答え」なんて持ってなくて、たまたま主人公と語り合えるくらいに聡明だった…「主人公と同じ頭脳を持っていた」という事。


主人公の「「生と死」を問答出来る人間に会いたい」というのは要約すると「自分と同じレベルの頭脳を持っている人間に会いたい」という意味で。
本作はわりと主人公は国民に対して「最初から持っているのに考えない人間の堕落した姿」みたいに見下して見ていますが、主人公もまた人食いの樹…「アニマの樹」を操れて大きな館を持ち強いという「持っている側」なんですよね。
だから主人公の奴隷に対しての行動も「持っている者の特権」を行使しており、外側から見るとわりと「国民と同じ事してるなー」と思った部分があるというか。
少女を手に入れてから更に「少女以外はどうでも良い」みたいな選民思想を見せるので、「堕落して考える事をやめたけれど自分の中で完結している国民」よりも「自分の知識欲の為に他者を巻き込む主人公」はかなりエグめの無自覚な選民思想してるなーと思った部分があり、そういう主人公の「持っているけれど気付かない無自覚さ」もまたどこか残酷童話というか、語り継がれる物語の深層の部分が垣間見えて面白かったです。


まぁ主人公も主人公で「アニマの樹」を繁栄させないといけない一族として孤独に居たので、ある部分では「人間らしい当たり前は持たざる側」であり、「自分が持っている側」に気付かない人生だったとは思うのですが、「アニマの樹」の真相を知っているからこそ繁栄を辞める事も出来たんですよね…
でもそこをしなかったのは自分の特権をある意味で捨てられなかったというか、自分の知識欲を捨てられなかったというか、他者の人生を巻き込む選択をしている時点で「かなり自分本位で生きているな」と思う部分はありました。
だからこそ最後に主人公が痴呆の症状が出て、「アニマの樹」に食べられる選択をしたEDはある意味で因果が巡ったというか、巡り巡って自身の選択とはいえ一応は今までの清算が来たなという感じで、これもまた童話のように幕を閉じて良かったです。
少女もまた主人公と同じ様に「アニマの樹」に身を捧げ、最後EDロールを見る限り人類は「アニマの樹」に食われ、一度森は死ぬけれど再び蘇り、「アニマの樹」があった樹の幹には主人公と少女の姿が綺麗に残ったままだった…という。
主人公と少女の生死は不明ですが、こういう腐りきった人類が一旦滅ぶようなED好きなのと、これもまた童話チックでとても好きでした。
死(モルス)と月(ルナ)がラストに寄り添い眠る姿でタイトルを回収した所にもまた童話の美しさがありました。


少女は最後、主人公の死を見届け「アニマの樹」の真相を引き継いでも決して「アニマの樹」に生贄を捧げなかった所が個人的にとても好みで。
主人公は「そういう家庭」で育ち疑う事無く生贄を捧げ続けて来たけれど、少女はそこに一つの疑いがあったというか…「別に樹が繁栄しなくても良い」という選択を選んだのがまた主人公とは違う存在である事を強く印象付けたのと、そういう「人を犠牲にしない」という選択にもまた少女の聡明さを感じ。
この辺りで「主人公は自分の知識欲を満たせる同じレベルの頭脳を持った存在を探し少女を見つけたけれど、少女は実は主人公よりも高い頭脳を持っていた」という感じが出ていた気がします、主人公よりも聡明だからこそ少女は主人公の求める「答え」を引き出せましたし、最後に「「生と死」には人間の数だけ答えがある」という単純で当たり前で、ある意味では思考の放棄なのだけれど、哲学を追い求め続けた人間では出したくない結論、出すのが難しい結論に辿り着いていたような気がします。


青年×少女や老人×少女という組み合わせが大好きで、立場の違う二人が「家族」として親交を深め、お互いが唯一無二の存在になっていく姿も見ていてニヤニヤ出来ましたし、哲学的な問答や、最後の終わり方、そして何より「少女が主人公が求める「生と死」を持っていた」のでは無く、「少女は主人公に買い取られ主人公に「生と死」を聞かれたからこそ問答に答えた」「貴方が居たから私があり貴方が居たから「生と死」について考えた」「貴方が居て貴方が聞いたから貴方が求める問いに答えた」「貴方が私に人間としての生活を「家族」をくれたから貴方の問答に答え続けた」、そういう「最初からあったと思っていたモノが実は後から備わったモノだった」のような「因果が逆」みたいな状況がとても大好きなので、主人公の少女への印象や認識と、少女から主人公への印象や認識が実は最初は微妙に噛み合っていないけれど、互いの気付かぬ所で後からガッチリと噛み合い徐々にお互いを大事にし合う…そんな関係が見ていてとても大好きでした。


根底がかなり哲学的で難しい話ではあるので、自分の感想が「それは違うのでは?」と言われる事は承知の上なのですが、自分なりに主人公と少女の関係、そして「生と死」について考える事が出来、楽しかったです。