ひっそりと群生

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【慰愛の詩】感想

【乙女18禁】



2019年08月09日発売
サキュレント』様 ※リンク先公式HP(18禁)
慰愛の詩】(PC)(18禁) ※リンク先DLsite.com(18禁)
以下感想です。








どんなに美しい存在でも、それはきっと酷いもので、関わってはいけないものだった。



『――「僕はきみがいないと、あの尊い世界に触れられないんだ」

 田無ちさ子は、高校卒業を機会に就職し、職場に近いアパートで独り暮らしを始める。
 そこで幼少期に入院した際に出会った少年・輿水令二と再会する。
 彼は見目麗しい大学生の青年となっていた。
 部屋が隣同士なこともあり以前のように仲を縮めていく二人。やがて恋人同士のようになり肉体関係まで持ってしまう。

 しかし同時期に砂原伊佐治という男が、令二と非常に親しい仲だということを知る……。』
(公式より引用)



お話は選択肢は無しで、きっと2時間程で読み終わると思います。
ですが、どうしても文章の端々から孤独を感じ、細切れにしか読む事が出来ませんでした。
なんでしょう…ただひたすらに孤独でした、身体繋がり心繋がらずというか、心繋がり身体繋がらずというか…主人公がひたすらに孤独な世界を駆け抜けてとても苦しくなりました。
私自信はこんなにも、ちさ子さんほど孤独では無い…きっと、おそらく無いであろうはずなのに、文章の端々から孤独を突き付けられいつもにも増して読むスピードが遅くなりました。


3人の立場も分かるのに、言ってる事も分かるのに、誰一人噛み合わない所が凄く辛かったです。
「BLの間に割り込む女」このキャッチフレーズは間違いないと思います、あの二人の間に割り込みながらも、でも手に入れる事は出来ないのですね。
彼女と彼らがその後どうなるかは分かりませんが…このどうしようもない関係が清算される事が一番良い事なのだろうなと思います。
清算される保証は無いのですが…



『システム、演出』
NScripter製。
NScripterでの作品は久しぶりだったのですが、やっぱり使いやすいです。
使いやすいコンフィグ、読みやすい履歴、ボイスリピートモード。
欲しい機能は全て揃っており、快適な操作でした。
UIを担当された方のコメントも読みましたが、見栄えに悩まれたとの事で。
試行錯誤沢山あったと思いますが、とても素晴らしい使いやすさでした、有難うございます。


『音楽』
全5曲のオリジナル。
全てピアノで統一されていて、どの曲も本当に美しいです。
特に同タイトルである「慰愛の詩」は悲しくも繊細な旋律がまさにこの作品そのものを表している様でとても好きです。
声に関しても、正直昨今の商業やアニメ関係での新人の方よりも好みの声質の方ばかりでした。
同人サークル様によっては本当に商業での新人の方と比べても演技力に差は無いと思います(レジェンド級の方とは流石にちょっと比べるのが難しいのですが…)。
聞いてて全く不快になるポイントはありませんでした、令ニの神秘的でありながらもどこか危うい演技、伊佐治の飄々としながらも周りの空気を感じ取れる繊細な演技、特にちさ子の最後の慟哭は胸が苦しくなりました。
最高の演技を有難うございました!


『絵』
イラストはタイトル画面のみ。
本編は文章と背景と音楽のみで進行します。
イラストはありませんが、背景から主人公が住んでいる場所の大学や工業地帯が並び、明るい場所というよりも灰色で少しどこか物寂しい街の雰囲気が彼女と彼らを取り巻く世界観に凄くマッチしていました。


『物語』
本当に…
こちらのライター様は寂しさをどことなく感じている、感じた事のある人間の心に真を叩きつける文章を書かれます、辛いけど好きです。
孤独を理解し、孤独に寄り添いながらも、正しい部分や突き付けないで欲しい部分をバシバシと突き付けて来ます。
辛いですが、それでもどこか突き放す事はしないから…辛くも他人事ではなく、ダメージを受けながらもどうしても感情移入してしまいました。
ちさ子さん…


『好みのポイント』
やっぱり文章ですね。
立ち絵もCGも無いのにここまで読みやすい文章は素晴らしいです。
自分の読みやすい文章という部分に凄く符合しているのだと思います。
どこまでも噛み合わない3人の心象が丁寧に描かれて辛さで読むスピードは遅かったのですが、その読みやすさで最後まで到達する事が出来ました、素晴らしい文章を有難うございます。





以下ネタバレ含めての感想です





純愛と性愛を分けられる事はこんなにも苦しい事なのかと。
伊佐治との純愛を、伊佐治に捧げる詩を生み出す為に。
その詩は俗世にまみれた愛で表現したいが為にちさ子と付き合う令二。
この始まりの時点で既にちさ子に勝ち目は無いんですよね…
「他の誰かの為に他の誰かが必要」な時点で必要とされる「誰か」とはその人で無くても良いんですから…
たまたま、ちさ子が幼少期あの病院で出会った異性で性愛を向けられる存在だった、ただそれだけ。
しかも何が怖いかって、令二自信はちさ子の事も伊佐治の事も違う方向性の愛だけれども同じ量の愛だと本人は思ってて大事だと思ってる所。
そりゃあ愛は沢山あって、同じ量の愛を二人に向ける事はあるとは思いますが、それは「どちらかが優先されない」場合の話ですよ…
令二は完全に伊佐治の事を優先している時点で同等の愛、博愛では無いです。
その愛には確実に優劣があり、そして誰かの愛の為に誰かの愛を利用している、しかも無自覚に。
ちさ子さん本当に…嫌な男に引っかかったなぁ。
そして令ニ、嫌な男なのに描写が美し過ぎる…
正直外側から見てどんなに美しくても関わりたくない男ですよ令ニ。
だってやってる事クズなんだもん。
ある意味でちさ子さんがあまりにも純粋過ぎてこんな事になってしまったとも思います。
ある程度知ってしまうと令ニのような男性には「関わらんとこ…」となるので。
その純粋さにつけ込み踏みにじる…
綺麗な薔薇には棘がある…どころかその薔薇には毒まであった始末。


もう本当に!本っ当に!
シナリオライターの山野さんはクズ男を書くのが上手すぎます!(褒め言葉)
私の中でクズ男を書くのが上手な人二大巨塔は山野さんと宮藤○九郎さんなのですが、宮○官九郎さんのクズ男は「くっそwww」となる中、山野さんのクズ男は「ヒエッ(どんなにイケメンでも関わらんとこう)」となります。
どちらも基本的には常識があり、世間一般から見えてる部分は普通な上でクズ男だからとても好きです。
常識無い方法性だったら単純に苦手なキャラになるので…
どちらのクズ男も大変お上手なのですが、ベクトルが違うクズ男で…
どちらのクズ男も物語的に大変好きです(関わりたくは無いですが)。


「自分の大事な人の事を自分よりも知っていて人生全てをほぼ共にした幼馴染的存在の同性の友人」が正直自分にも居たので他人事には見えない部分がありちさ子さんに妙に感情移入した所もありました。
自分の場合は大事な人が別に純愛性愛を令ニのように器用に分けずに接してくれたのでそんなに大事にはなりませんでしたが、「知らない事」で悩むのは辛いですよね…分かります。
(ただ、自分の場合は「選ばれた側」でもあったので、ある意味その同性の友人に申し訳無さがありました…申し訳無さもあるけれどもどこか優越感もある。選ばれた側の伊佐治さんはこんな気持ちだったのかもしれない…)


そんな風に他人事とは思えない部分、孤独を浮き彫りにするような描写、そして何より読みやすい文章で物語自体は短い中、グイグイ心が侵食されていきました。
絵は作中には無い中でこんなにも読みやすい物語は凄いと思います。
文章、本当に好きです、次回作のプレイも必ず楽しませて頂きます!


超個人的に、ちさ子さんと伊佐治さんが微妙になる流れも期待したので、そこに関しては描かれる事は無いんだなーとは少し思いました。
でもあとがきでifの可能性で3Pとも言われてるので、何らかのイザコザが起こるかもですね…読者の妄想力が試されますね!
令ニと縁を切るのがベストエンドな気はしますが、とことん拗れに拗れて後戻りできない関係になるのもまた見たい気持ちはあります。
あと、単純に、男性としては伊佐治さんの方がいい男だとも思います。
隠すべき所は隠してくれて、裏はあるかもしれませんがちゃんと一人の人間として接してはくれそうなので。