ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【痴者の夢】感想

【乙女18禁】



2020年12月30日発売
サキュレント』様 ※リンク先公式HP(18禁)
痴者の夢】(PC)(18禁) ※リンク先DLsite.com(18禁)
以下感想です。








無知の知
知り過ぎて聡すぎて周りと距離が出来てしまった者同士が出会い、惹かれ、寄り添う。



『人は悪行だと思えば続けられない。しかし善行だと錯覚すれば――。

 母子家庭で友達のいないぼっち少女・高村のどか。
 ある日彼女は、地元でも有名な豪邸に一人で暮らしている三十路の独身男・一条正宗と親しくなる。
 今年の夏休みはひとりぼっちはいや。おじさんと過ごしたい!
 と思って家に押し掛けると、おじさんは家に泊める代償に、お尻の穴を見せることを要求してくる。
 おじさんは、実は超変態のアナルマニアだったのだ!
 ののの純潔はどうなる!』
(公式より引用)



プレイ時間は約3時間15分くらい。
選択肢無し、一本道。


サキュレント様の作品は4作目プレイになります。
アナルプレイ×乙女ゲーという乙女ゲーで類を見ないジャンルでありながらも、そこは流石のサキュレントさん。
エロのプレイは確かに乙女ゲーとしてはニッチ寄りですが、尊大な態度を取り、饒舌で利己的に見え自意識過剰に振る舞いながらもどこか可愛げのある三十路のおじさんを女子校生(あえて校生書き)が懐柔していく流れ、女性が男性を落とす姿はまさに乙女ゲーム
間違いなく「偏屈おじさんを攻略する」という一部の女性が大好きでツボに刺さりまくる作品だったと思います。


いつもサキュレント様の作品は読み進める毎に「うがー!」や「あぁぁあぁぁ」と胸が締め付けられる事が多いのですが、今作は主人公達の周りを取り囲む状況は地獄のような箇所がありつつも、主人公のののや、おじさんである正宗が完全に負の属性に包まれておらず、とても爽やかに読み進む事が出来て。
親の顔色ばかりを見て暮らし、その親から必要とされず友人も居ない主人公のののが同じく豪邸に暮らしながらも孤独に生きる正宗と出会う。
こういう孤独と孤独が出会うお話が個人的にとてもグッと来るので乗っけからとても引き込まれました。
二人とも家族関係や孤独の部分では闇が垣間見えますが、ののは自分を受け入れてくれる相手には超ポジティブだったり、おじさんは語彙力豊富に言葉を紡ぎながらも「そういう言葉を日常では使わない…」というような言葉をマシンガンのように放つのでどこか面白可笑しく、全体的に背景が暗くありながらもコミカルな空気が溢れていて。
二人は非常識な関係を築きますが、根底に二人共どこか常識があるのが見え隠れして、その常識と非常識のアンバランスな空気が楽しく。
辛い場面も多々ありますが、所々のズレた感覚と例えなどで笑いを誘い、二人がお互いを想い合い二人を包む空気は優しく暖かかったです。


最後のおじさんの決断も含め、おじさんの大事だと思ったものを守り抜いて生きていこうとする姿がとても良く。
「二人の世界」でEDを迎えますが、決して世間から外れた「二人の世界」では無く。
むしろ今まで世間から爪弾きにされていた二人が出会った事で世間の中で生きていく事を選び、世間と関わりを持つようになり。
孤独×孤独はもう孤独ではないという姿を体現したような、そんな「二人の世界」で締められ非常に前向きな終わりを迎え、大手を振って二人を祝福出来る、そんなラストでした。



『システム、演出』
NScripter製。
NScripter様々、流石、必要な機能完備。
IUも使いやすく毎回最高です。
ただ、後半の雨のシーンから一部雨が終わりシーンが切り替わっても雨の音が鳴り続ける所だけは気になりました。
セーブ&ロードで一応は雨の音を消せましたが、DL版などで修正されていると良いです。


『音楽』
BGMはあとがきでもあるようにバックグラウンドミュージックで音楽だけ前に出ない所が良かったです。
「弓と竪琴」が静かで良く、「エミール」が和風でおじさんらしく好きです。
「祈るよりほかわたくしに」はピアノ曲好きにはグッと来ました。
そして声、声が本当に、凄く、良き。
サキュレントさんは声に妥協がないサークル様だと思いますが、今回も最高で。
のの役の星鹿さんは歌唱CDは持っていますが演技を聞くのは初という(お名前を見て、昔イベントでCDにサインを頂いた事を思い出したり)。
演技も大変良く、星鹿さんの可愛らしくもたどたどしくどこかアホっぽく庇護欲を掻き立てられる話し方がののに凄く合っていました。
そして、個人的に青島さん、本当に凄くて。
作中で「あと、声が好き……かな? なんか、がーって喋るのに、嫌な感じしなくて、いい……と思う」とののに言われていますが本当にコレ。
「どこかで聞いた事あるなー」と思ってて、色々調べて「あ、このお方は知ってるな」と納得しました。
うん、私の世代にはドンピシャ当てはまるほど聞いた事のある有名な方では?
サキュレントさん裏や同人で有名な方は沢山いらっしゃいましたが、こう…ここまで有名な方を起用されるのは初めてなのでは?と思ったり。
実力派の方なのは納得で、まず声での説得力が凄い。
このお声で語る言葉、全て大正義、「えぇ、そうですね」と頷くしか出来なくなるほどの説得力で。
おじさんの捲し立てるような難しい言葉を多様するマシンガントークをスラスラと言った上で、屁理屈的な言葉であっても何故か納得してしまうというそのお声と演技力、流石でございました。
納得した後、履歴を見て「いや、いやいやいや、それは屁理屈」と何度なった事か。
その上で自意識過剰に振る舞いながらもどこか繊細な部分もしっかりと演じられていて、演技力で圧倒されました。
最初は「おじさんにしては声良っ!!?」から始まりましたが、中盤以降はおじさんは青島さんだから演じられるややこしさ、繊細さを持ったキャラだったと強く言えます、素晴らしい演技でした。
星鹿さんのキャストコメントが青島さんのお声についてばかりで「私か?」と思いましたが、自分と同じか少し下の世代の方でしたら青島さんはレジェンド級ですからね…声優業的にもそういう反応になりますよね…と凄く納得してしまいました。


『絵』
うさ城さんの乙女ゲーム、初めてプレイしました。
というか、おそらく乙女ゲームでは初参加なのでは?
他サークル様の男性向けでお見かけしていましたが、乙女ゲームでもお見かけする事になるとは。
この可愛らしい絵柄で乙女ゲーでアナルというギャップ、大変良きです。
ののも可愛ければおじさんも可愛く。
二人の背景のほの暗さは文章のコミカルな部分もですが、うさ城さんの絵柄でも緩和されていた部分があると思います。
多分等身高めの絵柄だったらもっとシリアスになっていてEDの爽やかさは薄れていただろうなと。
可愛らしいぷに絵だったからこその温かみがあって良かったです。
立ち絵も豊富でCGもアナルにブレない信念を感じました、ののの*最高です。
背景もオリジナルで、特におじさんの家の庭の書き込みとかが好きです。
お金持ちで、でも物がなく、でも清潔感に溢れている豪邸を随所から感じる事が出来ました。


『物語』
文章、本当に毎回読みやすくてウットリします。
メッセージウィンドウに入る中でしっかりと言いたい事が伝えられていてスッと入って来ます。
ののの繊細さも、おじさんの繊細さも伝わって、同時に生きにくさも伝わって。
この二人が世間から外れて生きて来た理由が何となく分かってしまって、だから辛い。
でも、二人はお互いに出会えて本当に幸せだったんだなぁと強く思います。
あの雨の日に二人が出会えていて良かった、今後も世間とそれなりに繋がって、お金もあるし「二人の世界」で生きていく姿を応援したくなる、そんな二人でした。


『好みのポイント』
おじさんの懐柔、乙女ゲーなのでここが萌えポイントだと思っています。
おじさんが最初は同情とか気まぐれとかでののに関わるのに、徐々にののの繊細さに触れて、境遇に触れて、心を寄せていく姿が大変可愛く。
ツンデレ偏屈おじさんを落とすゲーム」として間違いなく上位に来ます。
最高のツンデレおじさん萌えを有難うございました。





以下ネタバレ含めての感想です





あー、ののもおじさんも良い人だ!良い人過ぎるよぅ!!
ののは分かりやすく自己評価が低い子ですが、おじさんも自意識過剰で尊大に見えながらも、それは成長と共に纏ってきた鎧であり、幼少期から培うべき自己評価部分はダダっ低い事が丸見えで。
おじさんのそういう地味に根源の自己評価が低い部分がめちゃくちゃ好ポイントでした。
尊大に振る舞いながらも「他人が苦しむ姿を見る事を苦しむ」くらいには「善人」で。
ののの件だってアナルや肉体関係をサックリ割り切ればもっと楽なのに「一度受け入れた相手を切り離せない」くらいには「善人」で。
ののの境遇を知れば知るほどに涙を流してしまうくらいには「善人」で。
金も持ってるし、中出しして孕ませてしまったとしても金さえ渡して放り出す事も出来るのに、ののの将来や身体を心配するほどには「善人」で。
ののが本当に困ってどうしようもない時には遠回しにでも手を差し伸べるくらいには「善人」で。
確かに初見の見た目はダメ人間なのに、決してクズでは無く。
おじさんの事を知れば知るほど「めっちゃ良い人」になっていくのが良く、そういう側面を徐々に知っていく事がおじさんの可愛らしさを引き立てて行ったなと思います。


ののちゃん、本当に、あの雨の日に出会ったのがおじさんで良かったなと。
自分の悪性すらも認識してないクズ男に出会ってたら心と初体験を奪われた挙げ句に「一度寝ただけで彼氏面すんな」とか「お前とは身体だけの関係だから」と捨てられる道まっしぐらだったと思うと…善人に拾われて良かった、本当に良かった。
おじさんは「彼氏面すんな」みたいな事を一回も言わずに「彼氏」という単語で言い淀み渋るくらいには「善人」で本当に良かった。
でも、その「クズ男に捕まる道」を辿ってしまったのがののちゃんのお母さんだと思うとなんとも言えないというか。
言い方はアレですが、「善人」とか経済力がある人と結ばれるのは本当に大事だなぁと強く思いました。
おじさんにとって雨の日の出会いは何気なかったのかもしれないし、ののと出会わなくても経済力もあるので生きては行けたとは思いますが、孤独からは解き放たれなかったでしょうし、なにより纏ってきた見栄の鎧からは解き放たれず、延々と上辺だけの自意識過剰で生きて行ったのだと思います。


ののも聡く「善人」で。
作中でアホっぽく見えますが、おじさんの難しい言葉には付いて行けてるので決して地頭が悪い訳では無く。
母親の機敏を感じ取れて、その時の機嫌によってその後の行動を察せるくらいには聡く。
友人と思っていた子から裏切られても決して逆恨みしない良い子で。
おじさんも言っていますが、難しい本が読めたりする所からも見てインプットはめちゃくちゃ上手い子なんだろうなと。
ただ、アウトプットする際に色々考えてしまい上手く纏まらず言動が幼くなる為、同年代の子からは不快に見られて避けられてしまう傾向にあるという。
性についての事もありますが、「本当は知っているけれど知らないフリをして無知を装う」為、無知だと判断した子からは馬鹿にされ、そういう装いを察した子からは遠巻きにされる、みたいな。
知り過ぎているが故に下手に行動する事を恐れ、その恐れが悪い方へ悪い方へ進んでしまう子という印象。
でもそれって知っているからこそ自分の悪い部分で相手を傷付けないようにと「他人を気遣った結果」で、「善人」である証拠で。
もっとアホだったら、もっと自分の悪い部分を知らなかったら、もっと聡く無かったら、そういう難しい事を考えずにグイグイと行き人と普通に交流が出来るのに、出来ない。
そんな聡いからこそ、痴者になるしか出来ない姿が凄く鮮明で。
そしてそれはおじさんも同じで。
聡いからこそ他人と距離を置き、孤独を貫いていて。
だから二人は惹かれ合うのが凄く納得出来て。
聡い者同士、「善人」同士で緩やかに理解して行く姿が凄く微笑ましく暖かでした。


アナルプレイも単なるインパクト重視になって居なかったのは流石。
最初はドン引かせる為にアナルプレイを言い訳にしたけれど、それをののがあっさりと承諾し。
そのアナルプレイは言い訳では無く実はおじさんの真の性癖で、なんだかんだ自分に正直に生きているおじさんは性癖には抗えない姿が最高で。
「自分に正直に生きる」という部分は決して変えなかった所がおじさんらしく、そこもまた可愛い人でした。
正直に生きた結果が「他人には当たりたくない」「一度受け入れたののが苦しむ姿を見たくない」とかだからおじさんの「善性」も本物だなぁと。
最後は「自分に正直に生きる」結果として、小説家としての自分の成功や夢よりもののと共に生きる事を選んだ姿が男らしくて格好良く。
途中で「女性」に抱く感情の話が出てきますが、ののの「女性」を完全に受け入れた結果、今までプー太郎でダメ人間をやってきた姿から脱却し一人の女性を守り通す「男」になったのが垣間見えて。
最後の後ろを振り返るCGがめちゃくちゃ格好良かったです。
あそこで本当に自分で自分を評価出来、自意識過剰の鎧を脱ぎ捨て正しい自己評価を得て、「格好良い男」になったんだろうなぁ、おじさん。
幾重にも意味を含むタイトルで一番は「主人公であり幼く見えるののの夢」だと思いますが、おじさんの「実際は自己評価が低かったりする認めたく無い本当の自分に気付かないフリをし、見栄の鎧を纏いながら進まない小説を描いてるかのように振る舞い、小説家になる夢に向かっているような姿」もまた「痴者の夢」だったのかなと思ったり。


最後には母親はまぁアレでしたが、ののは正しく幸せになれる人と一緒に居る事が出来ましたし。
孤独と孤独が出会い孤独では無くなり「二人の世界」を築くお話ではありますが、それでも世間との関係は途切れず。
ののは学校には通うし、おじさんは小説を書くしで「二人の世界」でありながらも世間からは離れなかった選択がまた良いなぁと思いました。
おじさんがののを受け入れた事で世間と繋がろうとした結果、正しい自己評価を持った上で完全に小説家になる夢を叶えている所も最高、もう「痴者の夢」じゃないんだなぁと。
完全に「二人の世界」に逃げ込むのも好きですが、「自分を好きではない、自分に関わらない人間はどうでも良いけど、一応それっぽくは繋がっておこう」みたいな世間との繋がり方も好きなのでラストは超絶にドツボでした。


前作の「ドブ川に散りぬ初恋の」も好きではありますがED的に見るなら「あぁぁあぁぁ…」となったタイプで、「今後も二人で幸せに!」とは中々に言えない二人だったので、今作で大手を振って「幸せに!超お幸せに!!」と言える二人で安心しました。
「善人」が正しく「善人」と結ばれて幸せになる、王道ですがやっぱり好きです!
ののは分かりやすく作中嫉妬しますが、おじさんもののちゃんののちゃんと同じ年くらいの男が近寄ったらめちゃくちゃ嫉妬しそうですよね!そこも含めて最高!!
ののとおじさんお幸せに!出来れば結婚式も見たい!!そう思えるほどの二人でした。





(そういえば、偏屈×マシンガントーク×おじさんの三点セットで某法廷コメディドラマの主人公を思い出したり。あの作品も暗い内容を扱いつつもキャラのコミカルさで明るくなっていた部分があったり、癖の強い主人公と真っ白い助手(?)ヒロインのコンビが好きだったので、こういう偏屈男性と純粋女性のカプやコンビが大好きだと再確認しました、性癖に刺さる良いカプを見れました、最高でした。)