ひっそりと群生

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【フィルム・ラプンツェル】感想

【男性主人公15禁】



2020年08月25日配信
丹綿樫』様 ※リンク先公式HP
フィルム・ラプンツェル】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








信仰と、信仰を失った人間二人の傷の舐め合いと、その結末。



『彼女を信仰することに決め、彼女のために十字を切った。
 郊外の公立大に通う二回生の祭里は、あるとき見知らぬ山道の存在に気付く。
 その先にあったのは忘れ去られた廃工場。
 そして――天使のように真っ白な少女と、カラスのように真っ黒な男が居た。
 少女に惹かれた祭里は、秘密の逢瀬を重ねていく。』
(公式より引用)



プレイ時間は約2時間30分くらい。
丹綿樫様の作品は『点鬼簿行路』『ヘクソカズラ』(※リンク先感想)と続き3作目プレイ。
選択肢はありますが一本道でED分岐は無し。
ED後に最初からプレイすると選択肢があり、選択によってエピローグに進みます。


主人公の祭里が真っ白な少女、天音と出会う事で始まる交流と悲劇、そして、真っ黒な天音の兄の伊織との結末。
とにかく祭里が芋以下の、道端の小石以下の自己評価の低さで鬱屈としており、祭里の見ている世界と廃工場が合わさりどこか梅雨時の雨が降る前のような…ねっとりと肌に纏わり付くような重苦しさが常に漂っていました。
祭里は鬱屈とした感情だけでなく、どこか精神面でも危うさを抱えているのが隅々から感じ、廃工場で出会う白い少女と黒い少年という世界から切り離されたような存在も合わさり、どことなく現実ではない空気もあって。
「信仰」対象になった少女と、少女を信仰する祭里。
少女を既に信仰していた兄。
3人の偶然と運命が絡まり合いながら様々な反応を起こし徐々に絡まった糸が解けなくなるほど複雑化していく流れが非常に陰鬱ながらも心に残りました。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能は有り。
シーンが変わる際にアイキャッチがいくつか入るのですが、そのアイキャッチが画面全体に文章がズラッと並んでいたり、キャラクター個人の心情だったり。
ポップに見えるアイキャッチもありますがそのポップさの中で文章からは負が滲み出て逆に恐ろしく感じたりしました。
あと、所々の演出が舞台調というか古い映画調というかそういう雰囲気があり。
この作者様の作品では前々作からですが、幕間で昭和レトロのような空気がありました。


『音楽』
ピアノ曲が多いです。
フリー素材ですが、祭里の暗く気怠げな雰囲気や天音と廃工場から感じる不思議な空気に合っていたと思います。


『絵』
主人公の祭里、白い少女の天音、黒い兄の伊織、祭里のバイト先の同僚で同じ大学の少女の小絢に立ち絵有り。
絵は丁寧で綺麗です。
祭里の薄暗い雰囲気が長身ながらも猫背で居る所や表情から察せられ、天音のアルビノの見た目からの神秘性もありながら、けれど男性を惑わす娼婦のような…でも普通の少女のような。
そんな不思議な雰囲気が綺麗に表現されていました。
伊織の粗暴そうに見える中でどこか繊細な少年っぽさもしっかりと感じ。
小絢の明るくどこまでも普通の善良一般女子な所も絵柄から強く感じました。
CGは3箇所あり。
ラストに表示される兄妹のCGがどことなく現実からかけ離れていて好きです。


『物語』
公式で注意書きがある通りNLとBLの描写があるのですが、そのNLからBLへの流れ方があまりにも自然で恐れ慄きました。
あの流れだと二人はあの関係になるしかない、と納得するしかなく。
そういう性別での壁を全く感じない所にある種の無償の愛を感じて、とても宗教的だと思いました。
盲目的に「信仰」する姿と「信仰」を失った際に負ってしまった物理的な後遺症と精神的な傷で世界が自然に崩壊していく姿が見てて痛々しくも3人の歪んだ関係性が更に浮き彫りになり、失ってもなお囚われる姿が冗談抜きで「信仰」で…どこか新興宗教的でした。


『好みのポイント』
祭里の鬱屈とした感情を描いた地の文が本当に良く、自己評価の低い人間の感情の描き方がリアルでした。
どんな人間に対してもこう思ってしまう事が分かる、というような内面で。
自分に価値は無いと蔑み、自分と誰も関わってほしくなくて人が苦手で、でも本当は人と上手に接したいと人一倍思っていて、疎みながらも近付きたくて。
そんな二律背反な気持ちがとても丁寧に描かれていました。
話としては祭里と天音の交流は二人が淡々と会話していくタイプが好きだったので凄く好みでした。





以下ネタバレ含めての感想です





結局、天音は危うい側ではありますが、基本は普通の…普通でありたかった女の子だったんだなぁ…と。
見た目はアルビノで普通からかけ離れていて、過去も壮絶ですがそれでも普通のファッションが好きな女の子で。
そんな普通でありたかった女の子を2人の男が「信仰」し「盲信」してしまったから天音は耐えられなくなって。
まぁ、危うさがある中で普通でありたいなら、そりゃあ壊れちゃいますよね…
天音のあの結末は2人の男の重い感情がある以上仕方ない結果だと思います。
3人共どこか繊細過ぎて「自分さえ居なくなれば事が上手く運ぶ」と思っていて。
でも「信仰」を向けられている天音が消えて事が上手く運ぶ事は無く。
天音が居なくなる事で正しく狂信者二人は狂っていく。


傷の舐め合いが発生し、BL要素になった際には驚きながらもあまりのナチュラルな展開で更に驚きました。
伊織は今まで誰か(天音)の為にしか生きて来なかった人生の為に天音の代わりを求めるだろうし、祭里は伊織から天音をどことなく感じたいと思うだろうし。
惹かれている訳ではない、けれど天音を知っているのはもうお互いしか居らず、お互いに天音の幻影を間に挟みながら求め合う。
この道に行ってしまうのは凄く分かります。


それでも、祭里はなんだかんだ偶然廃工場に訪れた部外者だったのだなと思うのは最後に小絢と結ばれた事ですね。
小絢という見た目も人生も普通の少女と結ばれ、祭里は普通の道に戻って行く。
祭里が本当にエゲツないなーと思うのは、自分の価値をゴミのように感じ「人に迷惑を掛ける、接したくない」と思いながらも二人の兄妹の人生に介入し二人共破滅に追いやってる所ですね。
多分、兄妹は祭里に合わなければ二人の世界で終結していたのに、祭里が来た事で別の世界を知ってしまった。
そして別の世界では生きられない存在だった。
二人の世界でも限界はあるのでどこかで終わりを迎えるとしても、少なくとも今じゃ無かったのだろうな…と。
祭里は兄妹の人生を早めながらも自分は普通の人生のレールに乗るのがとんでもなくエゲツなく、そして自分では自己評価ゴミクズで物理的に耳が聞こえなかったり「鏡」が語りかけるほどに精神状態が危うくても、結局は天音や伊織のように自ら死を選ぶほどの自己評価の低さでは無く。
そんな中途半端さがとてつもなくズルさとリアルさを兼ね備えていました。
天音が見た目が独特で兄との関係を持っておりどこか淫靡な空気を纏いながらも明るく。
けれど彼女も自己評価が低く最後には迷惑をかけたくないからと死を選んだのと。
伊織も見た目が黒く言動が粗暴で荒々しく見えながらも繊細な事がわかり、そして彼もまた自己評価が低く最後には祭里が小絢と普通の道を歩む事を察し自死を選ぶ所を見ると、本当に精神的に危うかったのは天音と伊織であり。
祭里も確かに辛いのだろうけど、どこまでも「本物」には成れない感じがして非常にこう…中途半端に感じました(ファッションメンヘラとも言うのかも…)。
中途半端な存在が「本物」に触れてしまい、「本物」の二人が崩壊した話にも見えて。
最終的に小絢と結ばれますが、中途半端だった危うさが二人が亡くなる事で本物になった感が強く。
最後のエピローグ、天音と話していますが…どうなんでしょう。
あれは妄想なのか、死後なのか。
謎ですが、祭里も一線を越えた感じがします。
自己評価が低く自己嫌悪しながらも人を求めたり、小絢の過去の男を気にしたり。
ネトネトしている精神が気持ち悪くも非常に人間的でどこか親密に感じ、祭里という主人公の独特さが溢れていたと思います。


今回、15禁作品で、天音と伊織、祭里と伊織、祭里と小絢、それぞれの肉体関係がボカして描かれていますが、一番エロさを感じたのは天音と伊織でした。
兄妹補正もありますが、それ以上にこう、文章から危うさも感じて。
ヘクソカズラ」の弓弦と五十鈴の二人にも直接的では無いにしても危うさを感じたのですが…
作者様は兄妹の危うい関係がお好きなのでしょうか?
とてもこだわりを感じました。
あと、舞台上の危ういエロさというか。
軽く言ってしまえば微エロにこだわりがあると思いました。


常に雨が振り続いて身体を濡らし服が肌に付いているような、蒸した空気が肌に纏わり付いているようなそんな地味に動き辛い気持ちの悪さがあり、生き辛さを感じる作品でした。
「信仰」は幸福になる為にするものなのに、不幸になっていく姿に本末転倒さもあって。
けれど、生き辛い中でも最後には人の道に進めたのは良かった…のかな?
最後に出る兄妹のCGが外れた道から正しい道を見続け「お前はその道を行くのか…」と目で訴えてるようにも見えますが…
祭里は今後、兄妹の事を忘れる事は無く、精神的危うさを抱えながらそれでも人を捨てられず人の道を進むのでしょう。
兄妹の道を塞いだ業を背負いながら、それでも、だからこそあの兄妹が居た事を忘れる事無く生き続けて欲しいと思いました。