ひっそりと群生

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【僕らのノベルゲーム】感想

【男性主人公全年齢】



2020年08月08日配信
九州壇氏のノベル工房』様 ※リンク先公式HP
僕らのノベルゲーム】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








彼女を現実にする為に――。
創作×情熱×友情×恋×…衝突=青春!



『主人公、樋口新平は創作を愛する高校2年生。
 彼が所属する文芸部は部員が5人しかおらず、廃部の危機にあった。
 そんなある日。
 同じく文芸部員であるタツが、こんなことを言い出した。
 「今度の文化祭、皆でノベルゲームを作らないか?」
 その日から、文芸部の慌ただしい毎日が始まった。
 ゲーム制作を通して深まっていく5人の絆。
 時に激しくぶつかり合う創作への情熱。
 そして、ひそかに変わっていくそれぞれへの思い……。

 夏の終わりに、彼らは何を見るのか。
 そして、彼らのノベルゲームは無事に完成するのか。』
(公式より引用)



プレイ時間は約3時間30分くらい。
分岐無し。


主人公が所属する文芸部員のタツの提案で文化祭で、ラリー形式の合作ノベルゲームを作る事になった主人公達5人。
絵を頼んだり、お互いの考えをすり合わせたり、ラリーの場所を借りたり、素材を集めたり。
合作による困難がありながらもなんとか進め、5人の絆は深まって行きます。
絆が深まり怖いもの無しに見えた5人…しかし、創作はそんなに甘いものではなく。
創作と、そして合作における壁が立ちふさがります。
始まり、深まり、変わり、そして終わり。
起承転結どの要素も綺麗な流れに乗った展開で、だからこそ移り変わるそれぞれの心情が手にとるように分かってしまい。
誰が正しいか、何が正しいかは分からない、でもそれぞれには間違いなく正義がある事を痛感し。
共同制作の楽しさと、そして同時に難しさを痛烈に感じました。


フリーノベルーゲームの用語や説明、そして今のフリゲ創作者が抱えている問題などが随所で提示され。
創作の普遍的部分から今現在のフリゲノベル事情、そして「好きを貫く」という趣味がある人ならどこかで出会うかもしれない困難な部分まで、「好きな事」に対する様々な想いが作中に渦巻いていて非常に読み応えがありました。



『システム、演出』
ティラノ製。
ティラノの基本性能とクイックセーブ、クイックロード有り。
ノベルゲームの専門用語が出ると文字色が変わりクリックで解説を読めるTIPS機能もあって、初心者に優しい仕様でした。
TIPS機能はクリックしそこなって飛ばしたとしても履歴でも反映されていて有り難かったです。


『音楽』
クリア後音楽鑑賞モード有り。
どの曲も場面場面に合っているのと、下記でも書きますが、ある意味でとても良い素材曲選別だったと思います。


『絵』
本作は背景と音楽が非常に「同人やフリゲのノベルゲームで見かける素材サイト様のもの」だったのが作風もあり逆に良かったです。
ノベルゲームを作るノベルゲームとして、これ以上に無いくらいにピッタリな選別だったと思います。
その中で人物はオリジナルだったのも大変良く。
ポーズは変わりませんが表情がコロコロと変わり、立ち絵が小さく震えたりアップになったり、人物の動きに関してかなり細やかでした。
CGも欲しい!と思った箇所には必ず挿入され、痒い所に手が届く魅せ方でした。


『物語』
創作に友情に悩みに起承転結に、綺麗に共同創作物の良さが詰まっていました。
ワイワイ楽しく共同創作!から始まりますが、共同創作による壁とそれぞれ変化していく心情が創作に与える影響。
一緒に作り上げる事の難しさ。
予定調和的な物語で、起こってしまう出来事というのはどこかでほんのりと分かるのですが、それでも立ち塞がる困難な状況にはその状況が来る事を察していても、その時の全員の心境が重苦しく重なり伝わり胸が痛くなり。
それと同時に、登場人物達それぞれの難があるように見える主張や考えも分かってしまい。
後半問題を起こしがちなそれぞれのキャラ達に苛立ちを感じながらも、誰一人責める事は出来ず。
皆主張がある愛おしい人物ばかりで。
…まさに青春創作作品でした。


『好みのポイント』
遥先輩の何でも出来そうで実際に出来るのだけれど、踏み込むポイントをわきまえてる感好きです。
強キャラみたいな佇まいで。
けれど、「人間の心を変える事だけは出来ない」としっかりとわきまえてる姿が好きでした。
あと、本作を全部プレイするとメインヒロインが「人間じゃない女の子」だなと凄く思いました。
「一人の少女の為に頑張る」、その「一人の少女」をヒロインと定義するなら…
本作のヒロインは間違いなく「彼女」でした。
創作物として最高のヒロインだったと思います。





以下ネタバレ含めての感想です





主人公が既にフリーノベルゲーム創作者である…という所から始まり。
自分の趣味を明かしていない中、友人タツの提案で文芸部がノベルゲームを作るのですが…
一度作った事がありノベルゲームに対する熱意がある主人公と、「面白そうだから」という話題の部分だけで提案したタツ
この二人の出発地点の熱意の差を最初からひしひしと感じ、非常に二人の考え方の違いが興味深かったです。
主人公は自分の趣味が文化祭で発揮出来る!と他のメンバーの見えていない所で熱意に燃えます。
しかし、主人公の趣味を知らない他のメンバーがその熱意を知る事は無く。
メンバーはそれぞれの自分の基準の責任感で文化祭での出し物を作ろうとして行きます。
まず、最初の段階、この時点で本当は既に大きな壁が出来ていると感じました。
ノベルゲームに対する熱意が、明らかに主人公と他のメンバーで違うのです。
世の中で作られている共同創作、それは商業から離れれば離れるほどお互いの熱意によって成り立っている関係だと思います。
パートナーと同じ熱意、だからこそ共同創作は作り進める事が出来る。
商業はそこに金銭面が出るから作り進める事が出来る。
けれど彼らは高校の文芸部、金銭は絶対に発生しない。
彼らの創作を繋ぎ止める物があるとするなら熱意しか無い。
そんな中で、スタート地点で熱意が明らかに違うからそれはもう大変。
鬼瓦くんとの会話などで分かるように、主人公とタツ、そして他のメンバーの間には実は最初から見えない、気付かない大きな壁が出来てしまいます。


一緒に創作を進める事で絆が深まり、一度は同じくらいの熱意になったように見えた5人。
けれど絆が深まり距離が近付いてしまったからこそ、相手の事が今まで以上に良く見えてしまい巻き起こる問題。
主人公と美央の過去が絡まり、とても関係が近付き、タツはその関係にどうしようもない動揺を抱いてしまいます。
問題は創作にまで影響を及ぼし…とうとう創作出来なくなったタツ
主人公はタツを問い詰めます、「出来ないなら早く言えと言った」「自分から言い出したのに」。
確かに主人公の視点で今までを見ていたり、傍から見ればタツは無責任な奴だと思います。
鬼瓦くんの件でも、今までの行動も、悪い奴では無いのですが、とても無責任な行動が多かったです。
ファミレスでの彼の開き直りっぷりには自分も苛立ちを覚えました。
けれど、だからと言って、じゃあどうすればタツは許してもらえたのか?というのも同時に行き当たり。
「創作とは創れない時は創れない物」と自分は常日頃から思っています。
様々な人が創作物の延期関係で物申すのをお見かけしますが、「どんなに絞っても言葉をぶつけても、創れない時は創れない」のです。
人間の心情が創作以外の部分で揺れ動いた時に、「創れ」と言って動かすのはほぼ不可能、それこそ暖簾に腕押しだと思います(中には創作以外で揺れ動いた心を更に創作にぶつける方もいらっしゃいますが、あれはまた別の才能なので…)。
主人公は正論を吐きます、けれど人間は正論を言われれば言われるほど腹が立つ生き物。
タツはどんな言葉にも反論出来ず、とうとう創作意欲を失います。
今まで見えない所にあった「主人公と周りの創作意欲の壁」が見える形で出てきてしまう。
「どうして自分だけが頑張るのか?」「どうして周りは自分と同じくらいに熱意を持ってくれないんだ」と、自分の熱意だけが他よりも高い事を最悪な場面で言葉で突き付けてしまう。
主人公が自分の言い過ぎた言葉や、タツの創作意欲の消滅、そして周りとの差に気付き振り返った時には時既に遅しに。
この、はじめからプレイヤーがある程度見えていた創作意欲の差が徐々に積み上げてきた絆と、他のメンバーの創作意欲の瓦解と共に提示される瞬間は凄く上手いと思いました。
世の中で一人、情熱だけでから回ってる人間を上手く表現していたなと。
別に主人公の情熱が悪いわけではない、けれど、ようやく主人公と同じくらいの位置に来た周りの情熱を自分の情熱を楯にして崩す事は無かった…と。
共同創作とは…金銭が発生しない以上、全員がある程度同じ熱意の元に居ないと成り立たない。
もしくは一人熱意に溢れた人が居て、その人に圧倒的リーダーシップが無いと成り立たない。
主人公は悲しいかな今まで個人制作だった所や過去、そして部員達への対応をみる限りそれは持ち合わせていません。
様々な部分が重なり、せっかく纏まっていたものが一気に崩壊していく姿は非常に胸が痛くなりました。


「好きなものが嫌いになる」、主人公はこの一件からフリゲノベル制作を辞めようとします。
諦めて、捨てて、楽になろうと。
けれど、鬼瓦くんの絵を見た瞬間に、その想いは吹き飛ぶ。
今までずっと自分の想像の中の存在だったエレナを諦められない、と再び創作に打ち込み…
主人公は確かにリーダーシップが凄くはありませんでした。
熱意が一人だけ有りすぎて空回りしました。
けれど、その熱意だけは本物で。
自分は、コミュ障らしく人間関係で好きだった人がダメになる事は多いタイプなのですが、大きなジャンルの趣味関係で好きだった物が嫌いになる事は実は無くて。
だから主人公の好きなものに対する「諦められない!」という気持ちが凄く分かりました(そういう意味では主人公の熱意に一番近かったのはサブキャラの鬼瓦くんだとも思ったり)。
創作者は創作を、趣味人は趣味を、魂の部分で自分の生き方と結びついている限り諦められない。
そして主人公は創作者らしく、エレナをこの世界に生み出します。


格好良いなぁと思いました。
主人公は間違いなく創作者だったからです。
他キャラと…タツと熱意に差があって当然だったとこの時に思いました。
どんな目に合いながらも創作を諦められない姿は他人と比べるのはおかしいのかもしれないけれど、きっと誰よりも本当に魂に創作が、エレナが結び付いていて。
自分も好きなものに対して魂で繋がりたいと強く思いました。


フリゲや創作に対する負の方面、アンチテーゼ的な主張もまた良くて。
途中の実況動画の胸糞感は本当に…
自分は正直ノベルゲームの実況動画に良い印象があまり無く。
勿論しっかりと実況されていらっしゃる方も居ると思うので全員とも言いませんが、途中でキャラの名前を自己流に変えたり変な所でツッコんだり興を削がれる事が多いと思っていて。
心無い実況者の心無いタイトルと実況に、創作上のシーンだと分かりつつも吐き気を覚え。
現実にこういう事を創作者の方が受けていると思うと、義憤ですが苛立ちがどうしてもありました。
あのシーンがフリゲで表現された事、昨今の実況事情もあり創作者の問題の一つとして描かれていて非常に良かったと思います。
ゲーム配信サイトの感想欄で「実況で見ました」みたいなコメントもあってこう…良い感じに皮肉にもなっているなぁと。
そして、木下。
本作で唯一良い奴な部分が全く無く過去でも現在でもクソ野郎だったのですが、「創作は意味がないもの」と主張する…創作に対するアンチテーゼキャラとしては一貫していて好きでした。
確かに、創作に対して意味を見出だせない人間も世の中には居る。
そういう主張の人間からの悪意と、例え悪意に塗れ強い存在に否定されても自分の「好き」は守り通して良い。
屋上のシーンでの戦いは非常に創作とは別の方向で熱かったです。
実際、創作の価値に対する解答は興味無い人間にとっては意味の無い物ですが、この世で創作物が好きな人の間では高値で取引されている、美術品に価値がある事…それが答えのような気がします。
まぁ、創作を無意味という主張があっても、それでも誰かの「好き」を物理的に踏み躙って良い事にはならないし、理不尽な言いがかりで暴力を奮った事は許される事ではないので、木下にはしっかりと職員会議にかけられて欲しいとは思います。


最後になりますが、エレナ。
主人公をここまで突き動かした空想上の少女。
正直、本作のヒロインはエレナだと思っています。
恋愛的に結ばれるヒロインは美央だとは思うのですが、「主人公が作中最もその人の為に行動した相手」をヒロインとするなら間違いなくエレナだったと。
昔から主人公の中に居た少女。
主人公はずっと、広義の意味でエレナに恋して居たのだと思います。
彼女を創作で解き放った事で、一気に創作意欲が消沈する姿もまた…
今作は彼女を形作り、彼女を現実に解き放つ物語でした。
木下に殴られ続ける場面でも、エレナの物語があって屋上に来てくれた生徒に助けられたり。
最初から最後まで何もかもがエレナに支えられていて。
エレナ…貴女がヒロインだ…


ラストは大人になって過去の事として話すのもまたどこか哀愁があって。
青春は一度きりしかない、あの頃の青春を思い出す…誰かと何かを成す事は、苦しみを伴うけれど楽しい事だ!
昨今のフリゲ、ノベルゲーム事情や普遍的な共同創作が綺麗に纏まった上で、物語も分かりやすく、登場人物達全員にしっかりとした主張と感情と人格のあるとても良い創作系作品でした。