ひっそりと群生

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【魔女魔少魔法魔】感想

【男性主人公15禁】



2020年08月03日発売
羊おじさん倶楽部』様 ※リンク先公式HP(18禁)
魔女魔少魔法魔】(PC)(15禁) ※リンク先DLsite.com(15禁)
以下感想です。








僕らの願いは、生は、きっと醜い。
醜いながらに願い生きていく。



『僕はそうではない。僕には幸せになる才能がない
 突如として現れた魔法少女を自称する彼女は、僕と一緒に魔法相談部なんて部活を始めて――
 のら猫と間違えて友達の猫を殺しちゃった、と一人目の相談者。
 いじめられてる友達の不幸が続きますように、と二人目の相談者。
 轢き逃げしちゃったお父さんの殺し方を教えて、と三人目の相談者。
 かくいう僕は、誰にも聞こえない囁き声で
 世界中で僕だけを幸福にできない魔法なんて、きっと心底陳腐でくだらないものだろう、と。
 上等じゃん、なら本当に何も変わらないのか私と試してみようよ』
(公式より引用)



選択肢無し。
プレイ時間は約3時間くらい。


羊おじさん倶楽部様の作品は7作目。
主人公、佐鳥はゲームセンターでカツアゲをされていた所、自らを魔法少女と名乗るのろいちゃんという少女に出会う。
「佐鳥が想像し彼女が願う事で魔法が使える」という言葉の通り、のろいちゃんの荒唐無稽な魔法により佐鳥はカツアゲから開放され、それ以降、のろいちゃんは佐鳥の想像を叶える為、佐鳥の側に居る…だけではなく魔法相談部を始めて。
相談にやって来るのは自分の事しか考えていないクズ人間ばかり!
それでも、願いは正しく有り。
佐鳥は解決の為に想像し、のろいちゃんは願っていく。


とにかく、登場人物達が皆クズばかり。
人間の善性?んなもんねぇよ、と邪悪人間ファッションショーのようにご登場なされる人物達に呆れを通り越して清々しい気持ちになりました。
クズを「実は良い所もあって…」と中途半端な善性を仄めかしながら描かれる事は全く無く、クズをクズと、邪悪を邪悪のまま描き皆自分の為にしか生きていないのをしっかりと描いているからこそ、どんなにクズが登場しても決してモヤモヤしませんでした。
中途半端さが無く、徹底され尽くされた悪性。
主人公もサブも脇役も皆、邪悪です。
けれど、これが人間だとも思いますし、何一つ間違いではないと思いました。


美しさなんてものはなく、あるのはただ、自分の為だけに生きる人間の身勝手さだけ。
誰かの為を願っても結局は自分の為にしか願えない人間。
それでも願いだけは真っ直ぐあり、願いが叶えばそこで発生した業は業として返ってくる。
我田引水、因果応報、様々な人間の負の部分がこれでもかと描かれました。


そんな風に一見すると読んでいる時に胸くそ悪くなりそうに見えながらも、のろいちゃんの独特な性格と常識を覆す魔法パワー、クソ野郎達であるからこその物事を深く考えて無く倫理観カッスカスで最早笑える言動。
クソ野郎にのろいちゃんが加わる事で独特の軽快な掛け合いと軽いノリが発生し、ダウナーながらも非常にシュールでポップなテンションに仕上がっていて読みながら気持ちが沈む事が無いという絶妙な相乗効果を生み出していました。


「ダウナー系シュール・デス・コメディ」のジャンルに相応しく、そして最後まで善性を一切描かずに悪性を描き続け、最後には悪性を肯定し切った事が個人的に素晴らしかったです。
羊おじさん倶楽部さんの描かれる人間の鬱や邪悪は肌に合うと再度確認する一作でした。



『システム、演出』
吉里吉里製。
欲しい機能は全部ありました。
他作ではスタートボタンやセーブロードボタンなどが若干分かりにくかったのですが、今作ではカーソルを合わせると何がどのボタンかが表記されるようになり、見やすくなっていました。


『音楽』
聞いてるだけで不安になってくる曲は流石です。
タイトル画面の「魔胞」と「魔願」が印象深かったです。
今回はジムノペディ無し!でした。


『絵』
背景はこう…今までの作品を追っていると「おっ」と思う背景が多々有り。
同一世界なのでしょうか?
そして、のろいちゃん可愛いよのろいちゃん。
今までの羊おじさん倶楽部様は話方面は大変魅力的で、こう、同人としては有りですが、絵の方面では若干…というのが正直な所でしたが、今作はかなり絵にも力が入っていました。
立ち絵は3人にのみ有り。
ポーズは一つですが表情が変わって楽しかったです。
他の人物は影絵。
のろいちゃんと主人公が作中以前、過去に関わった事がある人物にのみ立ち絵有り、という感じでしょうか。
CGも重要な箇所に有り。
かなり良かったのでCG鑑賞モードも欲しかったです。
のろいちゃんの登場CGとラストのCGの構図が一緒なのが最高に好きでした。


『物語』
ボランティア部、またの名を魔法相談部に訪れる人間の相談を聞き、彼らの悩みを解決して行くオムニバス方式。
その中で彼らの本当の望みに触れ、深層心理に触れ。
皆一筋縄ではいかない、自分ですら気付いていない邪悪さがあり、大変人間していて好きでした。
最初に言った相談がそのまま解決する事は無く、事態は二転三転して。
彼らや彼らの関係者の邪悪な行いは業となって返ってきて、
「魔法」と言う名でありながらもご都合主義は全く起こらない。
まるで世界の真理のように最悪ながらも正しく型に嵌って行く結末に心を奪われました。


『好みのポイント』
佐鳥とのろいちゃんの会話の軽快なテンポが大好きでした!
出会った時からツーカーの仲、世界からズレた二人の絶妙な間とコミカルに繰り広げられるボケとツッコミがとても好きで。
ボーイミーツガール(鬱)がとにかく最高でした。
最初から最後まで良い奴なんて全く登場せず、上記でも語りましたが悪性が大前提で全肯定していたのが見ていてダウナーな爽やかさがあり。
こういう肯定の仕方は人を絶対に選ぶけれど、同人でしか中々に表現出来ず同人らしく、ボーイミーツガール物としても、ダウナー作品としても非常に好みでした。





以下ネタバレ含めての感想です





人間は、絶対的に邪悪な所はある生き物。
「◯害者は仕事をしていないのに保証されていておかしくない?その分の保証を他の所に回せば良いのに」
「老◯は年金食いつぶすだけじゃない?こんなに老◯が増えても良い事は無い、年金減らせば良いのに」
「正直、自分よりも弱い存在は皆消えれば良いのに、そうすれば世界はもっと上手く回るのに」
…決して表立っては言いませんが一度は考えた事があると思います「自分よりも弱い人間の消滅」という物を。
無い?それが無い事は立派ですね、でも、心の中の事なんて証明する方法は無いですが。
邪悪な部分がない人間、素晴らしいですが、それはそれで逆に怖いです。
思った事がある人は倫理的にマズいし、自分の立場が悪くなるから言わないだけ。
それを言っていたら自分が弱い立場になった時に自分が守ってもらえなくなるから言わないだけ。
ほら、全部自分の為。
自分以外の人間が不幸になれば相対的に自分が幸福になるから、皆不幸にな~れっ☆
……でも、そんな風に思っている自分こそが本当は嫌いで、そんな自分こそが世界にとって不必要だと思っていて。
自分の消滅こそが世界にとっての本当の救いなのだから自分が世界から綺麗に消えてよ、お願いだから。


そんな、人道を考えず効率重視に考えてしまう自分の邪悪さを肯定しつつ、自分の邪悪さを知っているからこそ自分という存在が嫌いで。
そこを割り切ってせめて表向きだけでは…と、誰かの為にと頑張るけれど、根本の感性?空気を読む力?そういうものが普通の人とあまりにもかけ離れているから結局はどんな行動を取っても人を不快にさせる行動しか出来ず。
誰かの為と思った行動は全部裏目に出て人を不快にさせて。
あぁ、やっぱり自分は世界にとって要らないんだなと再確認させられて。


そういう自分の邪悪を自覚しているからこその生き辛さという物をこれでもかと描かれていてビックリしました。
佐鳥の「人の為に生きられなさ」も、のろいちゃんの「自分は居なくなった方が世界が上手く回る」という気持ちも、分かる、分かってしまう、辛い。
けれど本作はそういうダウナーで鬱で、一般人からは「暗くて気持ち悪い」の一言で切り捨てられ、避けられるような状態や考えを全く否定せず全肯定した上で、「人間そういう存在だから仕方ない、それを自覚して生きようぜ、生きても良いんだぜ」と結論付けて終わった所が個人的にスッキリしたというか、安心したというか。
少なくとも自分にとっては救いでした。
「自分以外の人間が不幸になれば相対的に自分が幸福になるから、皆不幸にな~れっ☆」という願いが肯定されて、佐鳥とのろいちゃんの最後の想像と願いとしてダウナーながらも明るく締め括られ。
最後まで生きにくい人間の思考が貶される事無く、否定される事無く、正当な物として物語の結末に用意されたのがとても嬉しくて。
「こんなクソ野郎な自分でも生きていて良いんだな…」と、ダウナーな人間の、邪悪さを自覚しつつその邪悪に嫌悪していて自分が嫌いな人間の鬼のように生き辛く面倒な真理にピッタリと当て嵌まるような救いで。
表の作品ではありがちな「そういう悪い所を変えて行こうぜ☆」みたいな方向に進めないでくれて本当に嬉しかったです。
「生きにくい人間は生きにくいまま、最悪の願いを抱えてても良いんだよ、どうせ人には見えないんだから」
「結局人間は自分の為にしか生きられない、だから願いはどんな物でも等しく願いである。周りの不幸を願い自分の幸福度を上げて行こう!」
まさにポガティブ。
一種の救いであり、肯定であり、自分のような人間には「こういう存在に目を向け肯定してくれた」というだけで本当に有り難い作品でした。


そういう作品の方向としても非常に好きな中、物語としても佐鳥とのろいちゃんの関係が非常に好きで好きで。
作中で最も奇行に走るのろいちゃんが実は佐鳥の幸せを純粋に願っているという一番人間が出来ている存在で。
作中、主人公ですら相手を貶める為にわざとカツアゲをされているというスタートから始まる異色のクズ野郎ばかりの中、のろいちゃんだけは事故による不幸があって、自分の死を願っても尚、気にかけていた…おそらく一目惚れだった佐鳥の幸せだけは願っているような子で。
なんかなー、佐鳥ものろいちゃんも、自分が嫌いな寂しい二人が出会ったんですよね。
こういうボーイミーツガール物に弱いんですよ、自分。
のろいちゃんが佐鳥の幸せを願ったからこそ繋がりが生まれてしまい、縁が出来てしまい。
普通だったら接点が無いまま、一人寂しく足を失い死に向かっていくはずだったのろいちゃん。
でも、願いにより責任が生まれ、佐鳥はのろいちゃんを探し出し。
誰にも忘れ去られ消えていく…では済まされなくなったのろいちゃん。
死にたいという願いも佐鳥に拒否され。
さぁ、どうしよう。佐鳥と共に生きるしかなくなったぞ、のろいちゃん。
魔法を得た反動で本当なら世界から忘れ去られてそっと消えるはずだったのに…
魔法を願わなかったら最初の願い通り死ねたかもしれないのに…これも願いの責任だね、諦めよう。
でも、のろいちゃんの身体や佐鳥の根本的な性格からこれ以上自分達が幸福に成り得る事は無くて。
なら、「周りを不幸にして自分達が相対的に幸せになる道」を願おうぜ!!
佐鳥が想像し、のろいちゃんが願い、物語は幕を閉じる。
「この世を地獄にしたくて」
…あーもう、好き。
人間性のクソさ駄目さ性悪さで繋がる男女良すぎる!!
そしてまさにキャッチコピー通り、嘘偽り無く、「この世の地獄」を願い続ける二人がね、作品に偽り無し!でした。
最後までこのダウナーさ、ポップな暗さを貫き続けた所大好きです。


「さようつ。」も一応ボーイミーツガール物ではありましたが…
水夜は特に主人公の事を見ておらず、別の物を見ていたのでこう、好みのボーイミーツガールでは無かったんですよね。
沙希はまぁ、アレですし…
今回はのろいちゃんは佐鳥を佐鳥は最終的にのろいちゃんだけを見つめて、二人で世界が完結し、最高に好みの二人でした。
世界なんか知るか!でお互いしか見てない男女好き過ぎます!!


生徒会長が面白い人でありますが若干空気で終わったのが残念ではありますが…
面白い思想していたので彼でも一つお話が欲しかった所。
「魔法」関係でも謎は残りますね。
そういうモノだと思うので個人的には気にならなかったです。
でも、サークル様の作品を追っていると「きそわり」と何か関わりがあるのかな?とは思いました。
「魔法」とか「魔女」とか、背景が一緒なのもあって繋がりがありそう。
その辺りは今後のサークル様の作品を楽しみにしています!
あと、のろいちゃんは本名いのりで佐鳥は…悟りから来てるのかな?
この推測が当たりなら祈りと悟りって良い名前の対だなーと。


ダウナー、ネガティブ、鬱、闇、病み、そういう部分を「それは悪い事~」と一切否定しないその姿勢にひたすら救われました。
本当にプレイして良かったです。
善性や倫理で生きてる人間には凄まじく合わない作品だとは思いますが、自分のような人間にとっては最高に合致したお話でした。
何が正しいかなんて個人の主観でしか無いんですよね…
「願いは正しく願いとしてしか存在しない」本人が正しいと思っている願いはそれは正しいのでしょう。
そして願う事は自由である。
自分と似たような所で苦しんでいるタイプの人にプレイして、ある種の救いになって欲しい、そんな風に思える作品でした。
作風的に大きく広まって欲しくは無いですが、一部の人に届いて欲しいです。