ひっそりと群生

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【ハルカの国 明治越冬編】感想

【女性主人公全年齢】



2018年12月15日発売
スタジオ・おま~じゅ』様 ※リンク先公式HP
ハルカの国 明治越冬編】(PC) ※リンク先BOOTH
以下感想です。








賢狼ハルカとの出会い。
抗わず、逆らわず、自然の中で生き、冬を越す。



『剣が好きだった。
 剣があれば、寂しくなんてなかった。
 強さは、私のものだった。

 明治4年

 狐の化けであるユキカゼは、新政府に仕えながらも剣の腕を磨いていた。
 そこに東北の狼、ハルカの噂が届く。
 関東無敵と謳われるハルカに、ユキカゼは修羅を燃やした。
 ついに嫉妬の業火に耐えきれず、ハルカ討伐へと旅立つ。

 ハルカが住まう国、奥羽の山里には、冬がそこまで迫っていることも知らずに――。

 北国の圧倒的な冬の下。
 尽きることのない風雪のなかで描かれる、ハルカとユキカゼ、出会いの物語。
 「明治越冬編」』
(公式より引用)



プレイ時間は約3時間15分くらい。
選択肢は無し。
前作未プレイでも推奨。


国シリーズは『みすずの国』『キリンの国』『雪子の国』と続いて4作目。
「みずすの国」にて最初の方でご登場され、「雪子の国」にて雅子さんの過去に少しお名前が上がったハルカ様の物語。


本作も他作に違わず自然が目の前に現れたかのような物語でした。
目の前に間違いなく雪が見えました。
手を伸ばしたら雪の中に手が埋もれてしまいそうな、息を吸い込めば肺が白い空気で満たされそうな。
人々の営みが、ハルカ様とユキカゼの掛け合いが本当に目の前で繰り広げられているような、そんな素晴らしい情景描写でした。


昔から続く自然に抗わない人間の生き方が辛くも儚く、そして逞しく描かれていて。
人間の元来の生き様を隅々から感じました。
時代は移り変わる、けれど、間違いなくそこには明治の東北の冬が存在し、家族が存在しました。
人の一生に触れるかのような、とても充実した時間を過ごす事が出来ました。
今後も楽しみに追って行きたいと思います。



『システム、演出』
Unity製。
基本機能有り。
駆がスキップ、自がオート、栞がセーブ、開がロード、調がコンフィグ。
と、若干メッセージウィンドウの文字に困惑しましたが、慣れたら大丈夫でした。
前作同様20分程度で区切られキリが良く、今作ではアイキャッチもクリックで直ぐに飛ばせるので使い勝手が良くなっていました。
ロードした後も前の履歴が残っているのも有り難かったです。
ただ、アイキャッチ後に即セーブを取るとロードした際にアイキャッチが入るのでアイキャッチ後の一文を読んで次に送ってからセーブ推奨なのと、履歴を開いた際、長い文章は後半が途切れているのが若干残念でした。


『音楽』
素朴で牧歌的で…けれど盛り上がる所はしっかりと盛り上がり。
数々の場面と合わさり心が震えました。
曲を単品で聞ける時を楽しみにしています。


『絵』
一箇所でしか使われない立ち絵の多さ、毎回凄いです。
この場面の為にある!という立ち絵ばかりでした。
一枚絵も一クリックで飛ばすのは勿体ないほどの書き込み。
森も、人も、書き込みが素晴らしく、一枚絵が出る度にしばらく眺めていました。
立ち絵でもですが人の表情が本当に生き生きとしていて。
作者様のツイッターで「「みすず」までは絵を描いた事が無くアイ○スの見様見真似だった」とあり「嘘でしょう!!?」と。
現代の絵柄に頼らず、まるで昔から描かれている絵本や浮世絵のような絵柄で。
時代を選ばない絵柄、毎回見る度に素晴らしいです、自然な表情を描かれていてとても好きです。


『物語』
歴史、民族、郷土、描かれる全てから作者様の学を感じます。
文章も読みやすい中で、情景描写の表現力の多さに驚きました。
冬も雪も風も、短い文章の中で鮮やかに彩られ、情景が生きているかのようでした。
ハルカ様もユキカゼも他の人々も、台詞が発せられる度に声が聞こえてくるかのよう。
田舎で方言で語る際の空気感も完璧で、まさに「生きて」いました。
ある所で「「いただきます」は近代の文化で昔は家長が合図を出していた」と聞き、本作でも「いただきます」描写が無く、佐一の合図で全員が食事を摂り出した所に聞いた事が本当だった事と、文化と歴史の紐付きを感じました。
そして、人が自然を受け入れ生きていく姿に結末を分かっていながらも堪えられませんでした。


『好みのポイント』
ハルカ様の、賢く、理で、気高く、懐が広く、けれどお茶目な所が大好きです。
ユキカゼの受け売りを話して大滑りするハルカ様が好きでした。
全ての要素が揃い、まさに賢狼。
格好良く孤高で、そして同時にどこか寂しげな人で…とても魅力的でした。
今後ユキカゼと共に時代を歩むかと思いますが、人よりも長い歴史を生きる彼女を見守って行きたいです。





以下ネタバレ含めての感想です





ユキカゼの猪突猛進な所とか、負けず嫌いな所とか、それが利点でもあり欠点でもあり。
見ていて良い所も確かに多いですが、「それは無いでしょう…」となる部分も多く。
しかし、そんな彼女をハルカ様がちゃんと理を詰めて説教してくれたからこそ爽快感があり、同時にユキカゼの猪突猛進さでモヤモヤしていた部分も解消され、ハルカ様の説教はプレイヤーのユキカゼの許容にも繋がり、非常に上手いなと。
ハルカ様が最初にユキカゼに語る事は納得する事しか無く、ユキカゼがグッと受け入れる度にプレイヤーである自分もなるほど…と深く頷きました。
出会いでユキカゼの全てを知り、ユキカゼを出し抜き、ユキカゼに圧倒的正しさを突き詰めた時点でハルカ様の頭の良さが最初から分かるというのも非常に良く、こんなお姿を見せられたらハルカ様とお呼びするしかありませんでした。


そんなハルカ様でも生き物であり、自然には敵わず。
過去に冬に翻弄されていて、孤独な冬籠りはひたすらに恐ろしく。
ユキカゼを刀で上手く手懐けながら自分の冬に突き合わせていく姿に、「あぁ、やっぱりハルカ様も冬籠りで一人は辛いのか…」と感じ。
ユキカゼは確かに最初は上手く使われ、後半は自分の性格や信念に乗っ取りハルカ様と冬を共にし、「自分が居ない方が上手く冬を越せたのでは?」とは言いますが、ハルカ様は間違いなく会話をする事で、将棋を指す事で、一人では無い事でユキカゼに救われていたのだなと、そう思いました。
ユキカゼの周りからかけられていた「呪い」もハルカ様との交流で徐々に緩和されて行ってるように見え。
剣を拠り所にしている以上、完全に過去の「呪い」が解けてはいませんが冬籠りでの料理や裁縫で剣以外の自信は付いていて、ハルカ様の存在もまたユキカゼにとっての救いだったのだろうなと。


自然や人々の営みの描き方も本当に上手く。
冬が訪れ、時の流れが遅く感じるほどの静けさと何も無さに怯え。
逃げ出し、巨大な自然の恐ろしさを知り。
巨大な自然を二人共に乗り越え、徐々に訪れた冬に正月を迎え。
季節の節に行事を行うのは、気持ちの切り替えをする為。
例え自然に変わりは無くても正月を節目に冬の恐ろしさが減っていく…
気持ちによって自然の受け止め方が変わっていく描写は本当に秀逸でした。


カサネの件も。
この時代の寒村で働けない老人がどういう立ち位置で、何を行うのが自然の摂理に沿っているか?と言われたら彼らの選択は決して間違いではなく。
…今の時代が自然に反し過ぎているだけで、本当は働けない生き物は自然に還るのがこの世の摂理。
だからカサネがどうなるかも分かっていた、分かっていたのに…
別に事故で急に亡くなるとか、病気で劇的に亡くなるとかではなく自然界に沿った死の流れだと言うのに…
人生六十年、明治でしっかり生きた人間の死がとても綺麗で、最後、家族から離れる際のCGが恐ろしいほどに響き。
余生の中、幼い日を思い出すかのようにソリを楽しみ、若き日の姿でハルカ様の腕の中で死を迎えたカサネが本当に美しかったです。


「殺してくれて有難う」なんて…現代ではあまり考えられない事ですが、きっと昔は身近な事で。
カサネを幼少期から見ていたはずのハルカ様に辛い仕事をさせて「もうしわけない」けれど「ありがとう」という気持ちを大人は抱え。
例え大人が割り切っても子供のウメは割り切る事は出来なくて。
そういう所も「心」だなと思いました。


ハルカ様は最後まで涙を流す事はありませんでした。
彼女はいつか涙を流すのでしょうか?
その涙はユキカゼのように「国の涙」なのでしょうか?
それはまだ分かりません。
けれど、いつか、ユキカゼの語った「心」をハルカ様ご自身が納得される形で知る時が来ると良いなと…そんな風に思いました。


全六話の一話目ですが、一話目の時点で本当に素晴らしく。
後半は想いが堪えられず溢れて画面が見えなくなりました。
素晴らしかった、本当に素晴らしかったです。
次回は「明治決別編」、また再びユキカゼとハルカ様の物語に触れて行きたいと思います。