ひっそりと群生

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【腐った果実 ‐Rotten Fruit-】感想

【男性主人公全年齢】



2021年08月21日配信
『旭』様
腐った果実 ‐Rotten Fruit-】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








腐った果実と愛を啄む。



『ある集落で暮らす黒い男が、寂れた河川敷で、白い少女と出会います。』
(公式より引用)



プレイ時間は約45分くらい。
分岐有り、最後の選択でラスト手前の展開が少し変化します。


退廃的で淀んでいて薄暗い、そんな場所。
「美しい」という言葉とはかけ離れたそんな場所の片隅の河原で一人の黒い青年が真っ白な少女と出会います。
キラキラと美しく、世界の白さ全てで形作られたかのような少女。
そんな少女と少女から放たれる甘い、甘い香りに青年は惹かれ彼女と交流を重ねます。
河原から動く事を拒み、断片的な言葉のみを話す少女。
少女はどこか日に日に変化していき、言葉は増え。
そして甘い香りはさらに増し、青年を翻弄して行き。
青年と少女の間にあるのは愛なのか、執着なのか、本能なのか、それとも…
全体を包む倦怠感、謎多き青年と少女の間から形作られる独自の退廃的でありながらもどこか耽美な空気感によって描かれる独自性の高いダウナーなボーイミーツガール作品でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り、スキップの既読未読判定は無し。
所々のノイズ後に描かれる夢がとても幸福に満ちていて、現実の状況と相まってとても良い効果を出していました。


『音楽』
メインBGM…おそらくタイトルとEDに使用されるBGMはさっぽろももこさん。
未プレイですが「さよならを教えて」のBGMと「ピエタ 幸せの青い鳥」の主題歌「幸福ノ原理」はお聞きした事があり、とても好きです。
ピアノから始まり徐々に電子音が入ってきてリズムが不安定になりノイズ音が曲を脅かす、そんな曲調が作品の雰囲気にマッチしていて、キャラクターと世界の全貌が全く分からない不安と恐怖をしっかりと包み込む曲でした。
気持ちが不安定になるような曲調を作られるのが本当にお上手で、聞いていて怖さと共に力が抜けるような心地良さも感じていました。


『絵』
白い少女に立ち絵、所々に黒い青年と少女の一枚絵が挟まります。
「夢」で挟まる一枚絵が本当に幸せそうで、少女はとても可愛らしく。
だからこそ現実の少女の状況にどこか苦しさを覚え。
日に日に変わっていく少女の立ち絵の細かさはや装飾品など見ていて丁寧さを感じました。
「夢」での道を歩く青年と少女の一枚絵が本当に好きです。
背景もまた工場や廃墟などが効果的に使われ、淀んだ空気を引き出していました。


『物語』
少女と出会い、毎日のルーティンをこなし、一日が終わり、また少女に会いに行く。
その繰り返しの話ですが、青年と少女の交流が淡々としながらも絶対に離れられない、そんな深い所で繋がった「何か」を感じさせ。
所々で挟まる果物や少女の匂いの描写が印象的で、むせ返りそうになりました。
謎多い人物と世界観で進みますが、ラストにしっかりと謎の回収があり。
不安定な作風でありながらも物語の筋道はしっかりと通っていた為、辻褄の合う構成で読了感はスッキリとしていました。


『好みのポイント』
青年は真っ白い少女に出会いとても惹かれるのですが、確実に少女の「キラキラした白さ」と「甘い匂い」に惹かれた一目惚れの状態で。
けれど、容姿や匂いなどに惹かれながらもそこに性愛は一切入っておらず。
かと言って、一目惚れの為、親愛でも無く。
「何の愛や欲」かは分からないけれど確実に「何らかの愛や欲」を持って接している事が伝わり、その絶妙な執着のラインの描き方がとても上手かったです。
最後に明かされる真相に「あぁ、そこに惚れ込んだのか…」と納得出来る作りも相まって、作風から溢れ出るダウナーさがラストで更に強化され、そこが好きでした。





以下ネタバレ含めての感想です





青年の件は結構初期から分かっていたというか、彼の本能とルーティンからなんとなく猫かカラスを連想していました。
しかし、少女の方が分からず。
人形?かと言って体の変化の件は?と思っていましたが、まさか既に…とは…
過去、生きている時に青年である「彼」に出会ってはいましたが、その時には見向きもされず。
けれど死後になってようやく一度だけ窓から見えた「彼」に見向きされるという、その部分がとても残酷で。
「彼」がカラスである以上、そうですよね、生者である「彼女」には興味が無く、死者になった「彼女」にしか興味が無いですよね…ととても納得しました。
「彼女」から香る「甘い匂い」、それはおそらく腐敗臭で。
人間にとっては鼻を塞ぎたくなる匂いですが、動物にとってはきっと甘美な匂いなのだろうなと。
日に日に増していた「彼」が感じていた「甘い匂い」。
これを人間の嗅覚で考えると、かなり恐ろしい匂いだろうなと、想像だけで顔をしかめそうになります。


それでも、死んで腐敗したからこそ、二人は出会えましたし、「彼女」の境遇から死んだからこそ開放されたと思うと、やるせなさと同時に唯一の救いがコレしか無かったのだろうなとも思います。
「彼」の居る街の状況を見るに、おそらく人間からみてもかなり治安が良く無さそうですし、警察は居るみたいですが、虐待を救えるほど行政が発達してなさそうで。
なので、「彼女」は人間としての人生は確かに救いとは程遠かったのだと思いますが、死後、ようやく憧れていた「彼」に出会う事が出来、最後の最後で片方のEDでは目だけでも自由に空を飛べたのだと思うのと、もう片方のEDでは憧れていた「彼」と共に天に昇る事が出来たのではないかな?と思います。
EDの「彼女の元に行く」方では「彼」は警察官視点では死んでるか不明っぽいですが、おそらく、叩き落された際に死んでそうなので…
生きてたら生きたまま「彼女」と燃やされるのですが、それは嫌だなぁという願いがありなるべくあの時点で死んでて欲しいと思いつつ。
生きててもあの選択をした時点で「彼女」と共に居る事が本望だったと思いますし、なにより警察官に怪我をさせてるのでどう足掻いても保健所送りな事を考えると、保健所よりも彼女と共に逝く方が良いとは思ってます。


…とEDを肯定していますが、本当は「夢」のように「彼」と「彼女」は一緒に笑いながら道を歩いていて欲しかったです!
欲しかったのですが…「彼」は生きてる「彼女」には興味がありませんし、「彼女」を気にかける状況は「彼女」が腐敗し外に捨てられない限り訪れませんし。
最後の「彼」の種族による真相で明らかになる「「彼」が「彼女」に執着していた理由は彼女に食欲を向けて居たから」という性欲でも親愛でも無く、「食欲」という動物の本能が一種の愛情として描かれている以上、「彼」と「彼女」の関係は捕食者と被食者の関係でないと成り立たない以上、二人が手を取り合い歩き合うなんて無理の二乗なんですよね…
だからこそタイトルが「腐った果実」で、上手いなぁと思いました。


黒い青年と白い少女という最高の組み合わせの男女。
ダウナーで仄暗い作品の中で唯一光る真っ白な少女。
けれどその少女は実は世界の中で最も死に向かい腐っていて。
でもそんな少女が青年の中では最も美しくて。
甘い匂いが徐々に腐敗臭に変わるような、そんな空気感をしっかりと作品内から感じ取れる一作でした。